『壊れかけの剣士たち』




     〜第02話〜






これは『An unexpected excuse 〜沖田総詩編〜』に繋がるお話です。
原作がお好きな方はおススメいたしません。
それでもよろしければどうぞ





前回のお話

突然愛津女学園に留学を言い渡された恭也。
仕方ないので来てみると、刀を持ったお嬢様たちに追われる始末。
果てさてどうなる事やら……。




「新選組十番隊組長、原田 紗乃!貴様の首、貰い受けるぅっ!!」

「まいったなあ、あまり争い事はしたくないんだが。だが死にたくもないしなあ」

「それがイヤなら、お前もその剣でかかって来い!行くぜーーーーっ!!」

自分の身の丈ほどある十文字槍を振り回して原田と名乗った少女は襲い掛かってきた。
近くの教室の窓を粉々にしながら……。

「やるじゃないか!」

「いや、何もしていないんだが……。それよりも扱い方が…」

「いいんだよ、振り回してこその槍なんだから!」

そう言いながら連続で槍を突く紗乃であった。

「(中々鋭く速い突きだ…)」

その突きを後ろに下がりながら避け、冷静に状況を判断する恭也であった。
だがそこは教室。
すぐに教室の隅に追い詰められる。

「とどめだーーーっ!」

紗乃は槍を振り回し、遠心力を利用して振り下ろしてくる。
だが、その状況に全く動揺していない恭也の姿があった。

「残念ですが、こういう空間では俺の方に分があります」

まあ教室は机やらなんやら障害物が多い。
そういう中での戦闘鍛錬は普段からしているのだから。
すぐ近くの机を倒し接近してくる紗乃のスピードが一瞬だが緩まる。
その瞬間に教室の後ろのドアから出ようと思ったとき

「紗乃、ここに居たか!……って、あーーっ!
窓が粉々になってるじゃないか!学園の備品が!」

教室の前のドアから入ってきた土方がその惨状に声を上げる。

「それでしたら……」

「あいつがやりました」

紗乃は自分が割った事を恭也に擦り付けた。
そんな紗乃の言葉に

「き、貴様……!ただでさえ学園の運営資金が厳しいのに!許さん!!」

「あの俺ではないのですけど…」

まあ頭に血が上っている人にそんな事言っても効果ないのはわかりきっているので

「(とりあえず逃げよう)」

と思い教室から飛び出し、廊下を駆け出す恭也であった。




しばらく走っていると、廊下の先にダンダラ羽織を着た小柄な生徒が立っていた。

「新選組八番隊組長、藤堂 芹栖!ここより先へは行かせません!」

「また新選組ですか……」

「やあぁーーっ!!」

藤堂という女の子はもの凄い勢いで突きを繰り出してきた。

「(ほう、いい突きだ)」

紙一重でかわしながら、勝手に品評ばかりしてる恭也であった。
かわしてから恭也と芹栖は至近距離でにらみ合う。
まあ芹栖が一方的に睨みつけてるだけなのだが……。

「…………」

「…………」

お互いに無言でいる事、数分。

「そ、そんなに見つめないでください……」

「……はい?」

芹栖は一歩下がって顔を赤くしながらモジモジし始めた。

「(見つめたわけではないんだが…。それに最初は睨みつけてなかったか…。
だが今は顔を赤くしているしどういう事だ?)」

色々考えた恭也だがこの場でじっとしてるとまた追っ手が来ると思い、
先を急ぐため芹栖に声を掛けた。

「あの藤堂さんと仰いましたか?出来る事なら通していただきたいのですが…。
駄目なら無理にでも押し通らないといけないのですが」

そう言うと

「むっ、無理やりに押し倒すっ!?」

「ぶっ!!いっ、いえ押し通りたいと……」

「そそそ、そんなのダメです。無理にだなんて良くないです!
もちろん時にはちょっと強引にしてほしい時もあるかもしれませんけど、
でも初めての時はその……(//>ω<//)」

芹栖は剣先で床にのの字を書きながら、顔を真っ赤にして語りかけてきた。

「(新選組って……大丈夫なんだろうか……)」

なんだかわけが分からなくなってきた恭也。
そこに教室から追いついてきた土方が大声をあげた。

「こらあ芹栖ーーっ!なにをストロベリっているか!!
早くその男をつかまえろーーーーーーっ!!!」

「そうです、そうしてまずは優しく抱きしめて…あっ、余り強くしては……(//∇//) 」

一体どこまでいってるのだ、芹栖よ……。

「いい加減目を覚まさんかっ!!」

「ハッ!?副長!そうでした、覚悟してください不逞生徒さん!!」

「いや、ですから俺は……」

「やあぁーーっ!!」

「(まいったな、倒すのは難しくないが女の子に刀を向けたくはないし。
だが刃物を向けてきたのだからそれだけの覚悟があるのだし……でもなぁ)」

避けながら考えていると

"パアンッ!"

その時、背後からピストルの発砲音が聞こえた。
撃たれた弾丸は

"パーーーーンッ!"

芹栖の目の前で弾けた。

「……え、何ですかこれ?ふあっ……ふぁっくしょん!コ、コショウ!?」

「あっははは、あち特性のコショウ弾やき!さあ今のうちにはよう逃げるんや!w」

そう言って現れたのは討学派を纏めていた坂本であった。

「あなたは先ほどの……討学派にいた…」

「あちがここを押さえている間に行くぜよ!あとで名前教えてな!」

「はい、すいませんがよろしくお願いします」

「おのれ、待て……はっくしょ!ええい、誰かこのコショウをなんとかしろーーーっ!」

とりあえず自己紹介なんてしてる場合ではないということで、廊下を駆ける恭也。
土方の叫び声が聞こえるが、振り向く事はなかった。




「ここは屋上だな?」

学園中を逃げ回っても全く息を切らしていない恭也であった。
まあ8時間もぶっ通しで動けるのだからスタミナ的には問題はなかった。
まあ精神的には辛いみたいだが……。

「冷静に考えてみると、一番逃げ場のないところだよな。しかも誰かが上がってきてるし…」

そう言うと背後の屋上の扉が開かれた。

"ビュゴオッ!!"

扉が開いた瞬間突きが繰り出されてきた。
その攻撃も一応かわす恭也であった。

「……………」

「いい突きだ」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「何か返してくれると嬉しいんだが…」

「……めんどい……」

「……そうか、すまない」

目の前の小柄な(なのはよりも少し高いくらい)少女は棒読み気味に言う。
恭也は少女のある一点が気になっていた。
少女が被っている帽子がなんだが妙に生々しいというか……。

「その帽子は友達か?生きてるように見えるのだが?」

「……生きてないよ、みきぽんは……。…ねえ?」

みきぽんと呼ばれた帽子はコクリと……頷いたように見えた恭也は

「そうか。変な事言って悪かったな」

そう言うと少女の頭を撫でる恭也であった。
突然撫でられた少女は驚いていたが、恭也の手の気持ち良さに任せてしばらくそうされていた。
しばらくして恭也は口を開いた。

「出来る事なら通しては貰えないだろうか」

恭也の手の感触に名残を惜しみながらその手から離れ、首をプルプル横に振って、両手で×印をつくる。

「……新選組三番隊組長、斉藤 初音……。お命、ちょーだい」

「いや命はあげたくないな」

「じゃあ捕まえる(もっかい撫でさせる)」

紹介を終えると間合いを一気に詰め、剣を振るってきた。
それを全てかわし、屋上を走り回る恭也にぴったり後ろについてくる初音であった。

「(ほお、付いて来るとは)」

「……かくご」

そう言って再び剣を振るってくる初音。
またそれを全てかわす恭也。
そんなイタチゴッコを繰り返していると、

「こちらです。さあ、お急ぎになって……失礼しますね」

初音の剣を弾いた女子生徒は、恭也の手をそっと握るとそのまま校舎内に走り出した。

「助けていただきありがとうございます。しかしまだ斉藤さんは付いて来てますが」

「承知しています。彼女は追撃戦のエキスパート。……ですがわたくしも
"逃げの心"を会得しているものですわ」

「(逃げの心、つまり撤退のスペシャリストか)」

恭也は彼女を見ながらそう考えていた。
戦いにおいて敵を倒すのはもちろんだが、撤退の機を見定めるのも難しいのだ。
撤退は敗北者のように思われがちだが、戦況をよく見て初めて出来るものなのである。
しかも彼女はただ逃げているわけでもなさそうなのだ。

「申し遅れました、わたくし桂 心と申します。さあ、今はお急ぎを。
彼女、初音さんには致命的な弱点がありますから!」

凄く綺麗な笑顔で心は言うと、恭也の手を取ったまま校内をめちゃくちゃに走り出した。



「新選組三番隊組長、斉藤初音の弱点。……それは重度の方向音痴ということですわ」

してやったり顔の心であった。
それを聞いた恭也は

「(美由希のドジとどっちがひどいだろう)」

とあんまりな事を考えていたとかいなかったとか……。
一方振り回されていた初音はというと

「……ここ、どこ?」

まわり一面、木ばかりのところに突っ立っていた。
どんなルートを通ったのやら……。



「ありがとうございます、桂さん」

とりあえず一息入れられる状態になったので、足を止めお礼を述べる恭也であった。
ぎこちないながらの笑顔を心に向ける恭也。
その笑顔に当てられ顔を赤くした心であった。

「申し訳ありませんが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「あっ失礼しました。自分は高町恭也と言います」

初めてこの学園の生徒に自己紹介する恭也であった。
まあ誰も話を聞いてくれないし、襲い掛かられれば自己紹介なんて無意味だろうし……。

「本日からこちらに短期留学するという事で学園長に会いに来たのですけど……」

「聞き及んでおります。共学化する為のテスト生がいらっしゃるという事は。
本来共学化するであろう佐都間の生徒ではなく外部からの生徒をテスト生にしたいという
佐学派の方々の無茶なご意見でお出でになられたのですね」

「一応そう聞いてます」

「わたくしたちのゴタゴタに巻き込んでしまい、誠に申し訳ございません」

「いえ……慣れてますから……」

女性とのゴタゴタ(面倒事)には何かとつき合わされている恭也なのであった。

「しかしなぜ俺がテスト生であると信じてくれるのですか?」

そうなのである。
ここは女学園であり、佐都間学園の生徒たちも覗きやら何やらしてしまうほどの。
まあその覗きがどの度合いのものかはわからんが……。
そのような学園に突然男がいれば不法侵入と考えるのが普通であろう。
その疑問に心は答える。

「本日テスト生の殿方がこの学園に来るというのは元々知っていたのです。そして佐都間学園の制服と違えば自ずと…」

「もしかしたらテスト生に成りすました不審者かもしれませんよ?」

そんな恭也のセリフにクスッと笑う心であった。

「普通の不審者ならわたくしたちのやってる事を見たら、逃げ出してます。それに……」

「?」

「貴方様はわたくしの目を見て話をして下さいました。それで十分ですわ。
それにわたくし、これでも人を見る目は確かですから」

そんな心の言葉に器の大きさを感じる恭也であった。

「何から何までありがとうございます、桂さん」

「心で結構ですよ……。」

「しかし初対面の方をいきなり名前でというのは失礼では?」

「心と名前を呼ばれる方が嬉しいですから///」

「わかりました。ありがとうございます、心さん」

「はい、恭也様///」

そんなほのぼのとした会話をしている時、恭也は人の気配を察知した。

「12〜3人ほどこちらに近づいてきてますね」

「わかるのですか!?」

「一応俺も剣術はしてますので。流派については秘密ということで」

心は新選組ほどでは無いにしても剣術の腕前も相当なものだが、気配の察知などは出来ない。
というかこの学園でそんな事が出来るモノがいるかも微妙なのだ。
それを聞いただけで心は、恭也の腕前がとてつもないものだと理解した。

「わたくしの手伝いはいらなかったかもしれませんね」

自嘲気味に言う心であったが、恭也はすぐ否定した。

「そんな事はありません。心さんに手を引いていただいたお陰で余計な戦いは避けられ
こうやってのんびりした時間を心さんと過ごせたのですから」

恭也は笑顔を心に向け、本当に感謝していると述べた。
そんな言葉に心は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「そう言っていただけるとわたくしも嬉しいですわ」

そう言い心は刀を構える。

「では恭也様。ここはわたくしが受け持ちますから今はお逃げを。……また後ほどお逢いいたしましょ」

「すいませんが、行かせて頂きます。心さん、お気をつけて!」

そう言い残し心と別れる恭也であった。
心は恭也が走り去った廊下を見つめながら誓うのであった。

「必ずお守りしてみせますわ……恭也様///」




恭也は逃げ続ける。
次の場所では一体どんな人に出逢うのか。
というかこの騒ぎはどこまで続くのか!?




<終わり>



女の子が相手だけに刀を抜けない恭也。
美姫 「故に手段としては逃げの一手しかないみたいね」
しかし、初めての場所では思うように逃げれないみたいだな。
美姫 「転入初日から大変ね〜」
しみじみと言う事か? まあ、確かに大変そうなのは否定できないが。
美姫 「逃げる先で次々と新しい人物と出会っているというのも面白いわね」
だな。次は誰が出てくるのか楽しみだし。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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