『壊れかけの剣士たち』




     〜第03話〜






これは『An unexpected excuse 〜沖田総詩編〜』に繋がるお話です。
原作がお好きな方はおススメいたしません。
それでもよろしければどうぞ





前回のお話

新選組に逢っては襲われる恭也。
討学派の生徒に助けられ、また逃げ続ける。
果てさて次はどんな災難が待ってるやら……。




「とりあえず外に出たが……ここでも新選組がいるんだろうなあ……」

半ば諦めが付いている恭也であった。
その時、恭也に背後から話かける生徒がいた。

「にーさん、折角女の園に侵入したんだからもっと頑張らないと」

「いや侵入したわけではないんですけど……」

振り返るとグランドにまたもやダンダラ羽織を着た女子生徒。

「……新選組の方ですね…」

もはやどうでも良くなりつつある恭也であった。

「うーん、もうちょっとイキの良いリアクションが欲しかったけどいいか」

女子生徒はくるっと一回転すると、見栄を切るようなポーズを決めた。
そして新選組恒例の自己紹介が始まった。

「新選組二番隊組長、永倉 やち!愛津女学園に忍び寄る不逞の影を討つために、
参上つかまつったぁ!」

「早く学園長室に行くか」

もう関わりあいたくないと露骨に態度に出す恭也。
自己紹介を聞かずに行ってしまおうかとも考えていた。

「おぉーい見てよあたしのこと!?せっかく雅に決めたのにシツレーだね!」

そう言うとやちは腰を落とし、刀に手をやった。
その構えをみた恭也は興味をそそられた。

「……抜刀術ですか」

軽い笑みを浮かべ恭也は言った。
恭也も抜刀は得意な方である為、やちの抜刀がどれほどのものなのか見てみたくなったのだ。

「ご名答。さあ、にーさんも抜きなさいな。それであたしの"龍飛剣"を防げるかは疑問だけどね?」

技の名を聞いたときすぐに恭也は流派に気づいた。

「抜刀術で"龍飛剣"という事は本当無念流の使い手ですか」

「すごいね!大当たりだよ、にーさん!」

「あまり技の名前を出さないほうがいいですよ?俺みたいに知っている者がいた場合、
対策も立てられやすいですから」

「じゃあ、ためしちゃお!」

そう言うとやちは一直線に恭也に向かって駆け出した。
恭也はどうやってやり過ごそうか考えていると、巨大な何かが恭也とやちの間に割って入った。
そして、そこには初音と同じくらいの背丈の女子生徒が立っていた。
とても大きい刀を手にして。

「(あれは斬馬刀か)」

「……岡田のいおりん、かあ。討学派の皆さんは全力でそのにーさんを守る気みたいだねぇ」

「……行け。お前には焼きそばパン三つの価値がある」

恭也の価値はこの少女、岡田 伊織にとってやきそばパン三つをはかりにかけてようやく同等らしい。

「まぁた坂本先輩に食べ物につられたの?でもこっちもそのにーさんを逃がすわけには行かないよ」

「……………」

伊織はその巨大な刀を構えた。

「(ほぉ、あの体であれを使いこなすのか)」

この状況でもまた勝手に品評を始める恭也。
というかこういうやり取りの間に学園長室に向かえば良いのに……。

「……行かないのか?それなら別に構わないが、ちゃんとかわせよ?」

巨大な刀を振り回す伊織に、やちは応戦する。
チャンバラを始めた二人を尻目に、とりあえずその場所を離れる恭也であった。




「ここなら大丈夫か?」

恭也は周りのゴタゴタに巻き込まれないように逃げているうちに校舎の裏側に来てしまった。

「ほぉ、学園の裏側はこんな森になっているのだな」

そんな呑気な事を言っていると一羽のハトが降りてきた。
凄い顔をしたハトだ。

顔に漢字の "谷"と書いているような顔だった。
普通の人間なら気持ち悪がるだろうが恭也は見てくれ云々では動揺しない。

「すまんな、今は何も持っていないんだ」

あまりにも恭也らしいと言えば恭也らしい対応だった。
ハトは恭也の言ってる事を理解したのかその場を飛び立ってしまった。

「さてこれからどうやって学園長室に向かうかだが……。どうしたものか……」

そんな時であった。

「もしもーし、ちょっとよろしいですかぁ?」

声を掛けられた方に顔を向けるとダンダラ羽織を着た女子生徒が立っていた。

「……新選組の方ですよね?」

「はい〜」

のんびりした笑顔で返事を返す少女であった。

「そういうあなたは侵入者さんですか?」

「いえ、何度もみなさんに説明させてもらおうとしているんですけども……。
一応今日からこちらに短期留学する事になってて」

「あ〜、テスト留学の生徒さんですね〜」

「はい、そのはずだったのですが……」

「あはははは、どうせ土方さん…ポニーテールの変な人が訳も聞かずに襲い掛かってきたんですね〜」

少女はケラケラ笑いながら状況を理解した。

「いや、変だったかどうかはわかりませんが……」

「まあ気にしたらだめですよ。あの人 "男ならとりあえず斬る!" みたいな人ですから〜」

「にゃ〜(そうそう)」

「あははは、ていうか百合やろうですからね〜」

「……そうなんですか」

「はい〜」

世の中には色々な人がいるのだと、この時恭也は再認識するのであった。
そんな事を考えながら恭也は少女の一点が気になった。

「……………」

「ん、どうかしました?」

「可愛い猫ですね」

「はい!ゲンちゃんって言うんですよ〜」

「にゃ〜(よろしく)」

女子生徒の頭の上に載っているゲンちゃんを自分の懐に抱き、自然に頭を撫でる恭也であった。

「ゲンちゃんもダンダラ羽織を着ているということは……」

「はい〜、ゲンちゃんも新選組の一員なんですよ〜」

「にゃ〜(うん)」

しばらくゲンちゃんを撫でながらこれからのことについて恭也は考え始めた。

「それにしても、どうやって学園長室に行けばいいやら」

このままノコノコと学園に戻れば、また襲われるのは必至。
どうしたもんかと恭也が悩んでいると

「だったらボクが一緒に行きましょうか?」

「えっ?」

「ボクこれでも新選組の組長ですから、大丈夫だと思いますよ?ゲンちゃんもいますし」

「にゃ〜(まかせて)」

「しかし、ご迷惑では……?それに他の佐学派の生徒たちが……」

「う〜ん、確かにボクたちは新選組ですから仕事はしなくちゃいけないんですけど〜。
めんどくさいですからね〜」

「にゃ〜にゃ〜(うんうん)」

「……いいんですか、それで?」

「それに貴方は悪い人ではないと思いますし」

「にゃ〜(そうそう)」

「たしかに来ていただけるならありがたいですけど」

「決まりですね〜」

「でわお言葉に甘えさせていただきます」

「気にしなくてもいいですよ〜」

「いえ、こんないかにも怪しそうな奴に気を使っていただいて」

「う〜ん、怪しくはないと思いますけどね〜」

そんな会話をしていると、建物からバスケットボールくらいの不明な物体がこちらに浮いてやってきた。

「おや、そんなトコで何ヤッテるんでっか?」

その物体を見た恭也は

「(こ、これは!?まさかアイツが作ったんじゃないだろうな!?)」

などと思ったらしい。


後にそのアイツ呼ばわりされた友人は

「そんな程度の低いもの作るわけないでしょ!!」

と文句を言ったとか言ってないとか。


気を取り直し、その物体の事を少女に聞くと

「気にしたらダメですよ〜。ボクたちは何も見なかったことにしましょう」

そんな身も蓋もない事を言う少女であった。

「……いいんですか?」

「はい〜」

「なに〜、オトコやないか〜!おんドリャ〜、ワイのぱらだいすを荒らしにキタンやないやろな!?」

「?」

「……………」

意味もわからず首を傾げる恭也であったが、少女は何かに気づいたようである。

「ところでカンリュウサイ、何やってたんですか〜」

笑顔で聞く少女。
カンリュウサイと呼ばれた物体は嬉々として答えるのであった。

「オー、それがキイてくださいな。今フロばで局長ハンがフロに入るためにキガえをしとったんヤ。
あいかわらずいい体シテマんナ〜、局長ハンは!」

その局長の裸体があまりにも素晴らしかったのかペラペラとしゃべり続けるカンリュウサイ。
少女は笑顔のまま刀を抜き放ち

「やっぱり何と言ってもあのち…ぷヴぇげラっ!!」

"ちーん"

どこかで鐘がなるような音がするが気にしない事にした恭也。
足元にはカンリュウサイだったものが真っ二つになっていた。

「……見事ですね」

「はい〜」

綺麗な一太刀であった。
斬ると決めても、無意識に手加減することもあるのだろうがカンリュウサイに対しては
手加減など微塵も感じられない一太刀であった。

「遅くなってしまいましたね〜。行きましょう」

「はい」

「そうだ、自己紹介してませんでした。ボクは新選組一番隊組長、沖田 総詩です。
ちなみにゲンちゃんは新選組六番隊組長なんですよ〜」

「そうなんですか、自分は今回テスト生として編入してきた高町 恭也といいます」

簡単な自己紹介をして、学園に戻ろうと思ったとき何かが現れた。

「ヒドイやないですか!総詩はん!!」

そこには真っ二つにされたはずのカンリュウサイの姿が!
恭也は足元を再度確認すると真っ二つにされたカンリュウサイがそこにあった。

「どういうことだ?」

「ん?スペアにキマッテルやないか。まあサッキノもワテってことや。
まあゲームでいえば一機シんだゆうやつヤナ」

あまりゲームをやらない恭也はどういう意味かわからなかったが、一機倒しても無駄だと理解した。
そんなこんなで学園へ向かう恭也たちであった。




「……やっと校門まで来れましたね…」

「さすがに大変でしたね〜」

「にゃ〜(つかれた)」

原因としては恭也が総詩と一緒にいた事にあった。
新選組の総詩と一緒だという事で、討学派の生徒は恭也が捕まったものだと思い込んでしまったのだ。
そうなれば恭也を取り返すという大義の元、皆が襲い掛かったのだ。
状況が違っても討学派の女子生徒たちも頭に血が上っては話を聞くはずも無く……。
仕方ないのでぐるぐる色々なところを回りながらなんとか到着したのである。

「(*´Д`)=3ハァ・・・ 」

恭也は突然ため息をついた。

「ん?」

総詩はなぜため息をついたのかわからず、確認しようと思ったとき

「そこまでだ」

という声が聞こえた。
一難去ってまた一難とはよく言ったものである。
新選組の面々が校舎前に勢ぞろいしていたのである。

「もう逃がさないよ〜、にーさん」

「覚悟してください」

恭也は新選組に取り囲まれた。
総詩が恭也と一緒にいるのを確認した土方は

「おお、さすがは総詩。不逞な輩をしっかり捕まえたか!」

「そんなんじゃないんですけどね〜」

「何度も言わせて貰ってますが、決してやましい理由でこの校舎に入ったのではないのです」

「ふん、この期に及んでまたか。最後くらい、己の刀で戦おうという気概はないのか」

「そやそや、ツイデに局長はんのキガエをのぞキおってからに!」

一緒にいたはずのカンリュウサイがいつの間にか土方の傍に移動していた。
そしてあろう事か自分のやった事を人に擦り付けるカンリュウサイであった。

「なに〜〜〜!!もう絶対生かしておかん!!!!」

「「「(*´Д`)=3ハァ・・・ 」」」

恭也、総詩、ゲンちゃんの三人は同時にため息をついた。

「どうしても話を聞いて欲しくば我ら新選組を倒してみろ」

「しかし……」

「ふん、情けない。これだけ言ってもまだ刀を抜けないとは」

抜いた後、傷を負わせてしまった時の事を考えると中々抜けない恭也であった。

「こんな情けない奴を育てた親の顔を見たいものだ」

その言葉が放たれたとき、周囲の温度が下がったような感覚を受ける新選組の面々であった。
その原因が青年の殺気だと気づくのに時間は掛からなかった。

「俺に対する事ならばいくら言っていただいても構いません。だが……」

恭也から感じる殺気はどんどん強くなっていき

「家族に対する悪口は決して許さん!!」

ついに殺気を全開した恭也であった。
殺気を開放した恭也はこの学園に来て初めて八影を抜き、小太刀を構えた。
恭也の殺気に当てられ、嫌な汗を掻く新選組の面々。
小太刀を向けられていない総詩とゲンちゃんにさえ冷や汗が流れるくらいだ。

「ちょイまち〜な!ナンでワイまで狙わレてるンや」

先ほど罪を擦り付けした所為だと気づいていないカンリュウサイ。
まあ一機くらい減ってもいいだろう。

「いいわけあるか〜〜い!」

そんな事言ってるカンリュウサイの事はお構いなしに殺気を放ち続ける恭也。

「今まではお前たちを傷つけまいと考えていたが、必要がなくなった」

そう言うといよいよ恭也が動き出そうとした瞬間

「トシちゃ〜〜〜んっ、ソウちゃ〜〜〜んっ」

なんとも場違いな半泣きの声が鳴り響いた。
その声の後、総詩に泣きつく女子学生が現れた。

「うえ〜〜ん、あの体重計こわれてる〜〜。針がどんどん右に進んでくの〜〜」

あまりにも緊張感のない言葉に恭也は殺気を緩め八影を鞘に納めた。

「そうなんですか〜。だったら今度針を左にずらしておきますね〜。
近藤さん、お団子食べます?」

「食べるw」

さっきまで体重計で泣いてたのにいいのかと思う恭也であった。
近藤と呼ばれた少女は先ほどの事はもう忘れたようだ。

「う〜〜〜ん、やっぱりお団子はあんこだよね〜〜」

幸せそうに団子を食べる姿に新選組の面々も毒気を抜かれた。

「モグモグ、んごく。は〜〜、おいしかった〜〜。ところでそこの男の子はだ〜れ〜?」

「……そうでした!近藤さん、この男は!!」

恭也の事をよく見た近藤は

「待ってトシちゃん。もしかして彼、今まで一度も刀を抜かったんじゃないの?」

「ええ、そうです」

「もし本気で掛かってくるのでしたら俺は容赦しません。本当の命のやり取りをする事になります」

恭也は再度八影に手を掛けたが、近藤と呼ばれた女子生徒は恭也に歩み寄った。

「近藤さん!!」

「大丈夫よトシちゃん、彼はわたし達に危害を加えたいわけでは無いから」

そう言うと改めて自己紹介を始める。

「色々ご迷惑をかけてごめんなさい。……新選組局長、近藤 イサミと申します」

イサミは会釈して、柔らかく微笑む。
その微笑みを見た恭也は八影から手を放し挨拶を返すのであった。

「ご丁寧にありがとうございます。風芽丘学園から来ました、高町 恭也です」

「えっ?……もしかして今日からウチに試験的に編入するっていう方ですか!?」

「ああ、そういやそんな話あったねぇ。へぇ、よく見ると中々良い男じゃない」

「確かに、あたしらと同じくらいの年とはおもえねぇくらいの落ち着きようだな」

「……けっこうイケてる……」

「(なんだか褒められてる。俺くらいの男なんてたくさんいるだろうに。
何だかんだ言っても優しい人たちなのだな)」

自分の容姿に絶対の自信(全く逆の意味)を持っている恭也であった。
彼女たちの言葉は今まで男と余り接した事が無いので基準が分からないのだろうと
思っているのだ。

「全く人騒がせな……。それならそうと、最初から言えば良かったではないか」

「いえ、突然襲い掛かられたもので……」

「ほんと土方さんは人の話を聞きませんね〜」

「にゃ〜(ほんとほんと)」

「……うっ」

自分が事の発端だと認識した土方であった。

「まったくワイはさっきからそうイッテるやおまへんか!」

そんな事を飄々と言うカンリュウサイ。

「これだから副長ハンは……ホげりょ!?」

"ちーん"
土方の手によって、また真っ二つにされカンリュウサイは一機減った。

「うふふ、誤解が解けたところで今度はわたし達の紹介をさせて貰おうかしら?」

「よろしくお願いします」

「我らこそ、この愛津女学園と杏の町を守護する、最強の守り手、愛津を駆け抜ける蒼の狼。
その名は……」

「「「「「「「新選組ッ!」」」」」」」




ようやく追いかけっこが終わり、話を聞いてもらえた恭也。
恭也はこれからどんな学園生活を送るのか。
そしてどれだけカンリュウサイは減っていくのか。
それは次回からのお話。



<終わり>



うーん、小太刀を抜いた時には最早戦闘か、と身構えたけれど。
美姫 「近藤さんの登場によって戦闘は回避できたみたいね」
だな。ついでのように誤解も解けたし。
美姫 「ようやく学園長室に行けるわね」
初っ端からこんな感じだと、転入後も大変そうだな。
美姫 「本当にね。一体、どんな学園生活になるのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」



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