1
「そこのあなた、お待ちなさい!!」
「えっ」
わたし事、佐伯千鶴は生まれて十五年、人様から怨まれる事も無ければ怨む事も無い平凡な人生を送っていたはずなのに突然ある女性に呼び止められたのだ。
しかも、このリリアン女学園ではかなり有名人の女性に・・・
「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン!!」
突然の出来事で緊張してしまったわたしは、素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
「ごきげんよう・・・」
少しだけだが、眉を引きつらせながら瞳子さまはわたしに近づいてきたのだ。
「ごっごきげんよう瞳子さま、わたし何か粗相しましたでしょうか!!」
「そうね・・・タイが曲がっているわよ」
そう言うと瞳子さまは、わたしのタイを直し始めたのだ。
「知っていて、わたしのお姉さまもこうやって祥子さまにタイを直していただいていたのよ」
「お姉さま・・・えっ、紅薔薇さまがですか!!」
「ええ、そうよ・・・まぁスキンシップみたいな感じね」
そう言いながらもわたしのタイを弄っている瞳子さまは楽しそうにしていたのだ。
「これで良いわね」
最後にキュッと結び目を締め直すと腰に手を当てわたしを観察し始めていた。
「あ・・・あの、瞳子さま」
緊張気味に話しかけようとした所『決めたわ』っと小声で囁くと。
「あなた、お名前は?お姉さまはいて?」
と、続けざまに質問を浴びせ始めたのだ。
「はっはい、一年桜組出席番号十六番、佐伯千鶴です。お姉さまは、いませんが・・・」
パニックになりながらも何とか答えると、瞳子さまの口元が少しゆるめた・・・と言うかニヤッとしたのだが、その時の千鶴には気付く筈もなかった。
「そうなの・・・いないのね」
「あの〜それが何か・・・」
質問の答えを頂こうと思い、千鶴は瞳子さまの表情を伺っていた所。
「千鶴、わたしが言った『宣言』って知っていて?」
「えっ!!えっ!!えっ!!」
千鶴は瞳子さまの言った『宣言』の質問より自分に対して『千鶴』と姉が妹に対して呼ぶ時に使う言い方に戸惑っていたのだ。
なにぶん千鶴を含む一年生は、この春ようやくリリアン高等部に入学したばかりの生徒達である、一年生の大半は中等部を卒業する前から高等部のお姉さま方を高貴な目で見ていたしスール制にも期待していたのだ。
勿論その中に千鶴も含まれているのだが・・・
しかも、千鶴の事を始めて『千鶴』と言ったお姉さまが、全生徒の憧れの存在『山百合会』のしかも紅薔薇のつぼみである松平瞳子さまなのだから尚更パニックになっていった。
おろおろし始めた千鶴に瞳子さまは、「はぁ〜」と溜め息をつきもう一度『宣言』について質問した。
「とにかく落ち着きなさい」
「はっはい!!」
わたしは目を瞑ると、何度か深呼吸をして瞳子さまの言っていた『宣言』を思い出していた。
「どう、思い出して?」
「はい、リリアンかわら版が、わたし達中等部の方にも入って来ましたので存じておりますが」
そうなのだ、『リリアンかわら版』と言うのは高等部中心でのみ購読されている新聞なのだが今年に限って何故だか千鶴たち中等部の方にも流れてきたのだ。
これは新聞部部長である山口真美さまが独自に中等部に流したと言う噂まであった程で、見出しのタイトル自体がとても衝撃的な内容で当時の千鶴たち三年生は、どなたが紅薔薇のつぼみさまにお声がかかるかと話題になった程だったのだ。
勿論その頃の千鶴も一般生徒たちと同じで学年主席である『深山佐々江(ふかやまささえ)さん』や生徒会長である『香月美弥(こうげつみや)さん』が選ばれると話していた一人であった。
「それが何か・・・」
「ここまで話してまだ理解していないの?」
「はぁ・・・」
わたしが本当に何の事だか理解してない事に瞳子さまが気が付くと、「参ったわ・・・ここまで鈍いなんて・・・」と私に何とか聞こえるくらいの声で囁いたのだ。
「あの・・・鈍いって?」
「千鶴、一度だけ言うから『しっかり』聞くように」
しっかりの所を強調して言うと、瞳子さまはわたしの目を見てはっきりと言ったのだ。
「わたしのスールになりなさい」
と・・・
こうして何事もなくリリアン高等部の生活を楽しく無難に謳歌しようとしていたはずの、佐伯千鶴の慌ただしい一週間が始まったのだ。
さぁ、とうとう第三章 第一話始まりました。
皆さんもお気付きだと思われますが、瞳子と千鶴の出会いがある二人を思い浮かべるシチュだと言う事です。
これは卯月が意図して作ったので楽しんで(思わずニヤッっとして)いただければOKです。
さて、第二章はまたもうちょっと待って下さいね〜(汗
では、ごきげんよう♪
遂にちーちゃんが……。
さらに、このシチュは(ニヤリ)
美姫 「はい、はい。一人でニヤニヤしないの」
ほっとけ!
美姫 「いよいよ始まる第三章。ちーちゃんと瞳子ちゃんがどうやって姉妹となるのか!」
物凄く期待しつつ、次回を待ちましょう。
美姫 「卯月さん、ありがとうございます」
ございまーす!
美姫 「続きを楽しみに待ちつつ、では、ごきげんよう」
ではでは!