「なんだ、生きていたのか」



「第一声がそれか」



「なに、お前のことだから後追いでもするかと思ったのだがな」



「………………………」



「音に聞こえた御神がこの様とはな」



「”鬼”や”虎”と言われようが、所詮は人だったみたいだ………………」



「そうだな、だが、だからこそ人は鬼も、修羅をも殺す事が出来る」



「あぁ、………………………」



「どうした」



「後追いするかと聞いたよな………………」



「あぁ」



「”人”なら考えなくもないことだが………………………」











………………………。









「生憎、俺は”人”でも無いし、あの人たちにそれ程の思い入れはない」







背後に燃え逝く御神を背に、一振りの剣はそう言った。

















                            孤剣追想

        













(………随分と懐かしい夢を見たな)



布団から出た部屋の主、恭也はそんな事を考えながら身支度をしていた。



「恭ちゃん、準備できたよ〜」



そう言いながら眼鏡をかけた三つ編みの少女、美由希が入って来た。

彼女は恭也の義理の妹ながら剣術の弟子でもあるのだ。



「よし、いくぞ」



恭也はそう言い手に何時も鍛錬に使う道具を持って家を出た。




















「………はああぁぁぁぁ!」
 


ぎぃん!



まだ朝日の昇り切っていない森で、剣戟の音が響く。



「………ふうぅぅぅぅ…………」



美由希は闇の中から襲い掛かってくる、刃の先を睨みながら息を整えた。

その闇から一人の男が現れた。

息を切らしている美由希に対し、刃を繰り出している闇から現れた男、恭也は微塵も息を切らしてはいなかった。












恭也はゆっくりと二刀を納刀し、右手を添えて腰溜めに構た。

それはまるで、虎が今にも獲物に襲い掛からんと爪を研いでるかの様だ。




対する美由希は左の小太刀の切っ先を相手に向け突き出し、右の小太刀を引き身体を絞り、槍投げの構えを取る。

それはまるで、鳥が羽ばたくかのような印象を与えた。








                 ――――――御神流奥義之壱 虎切――――――



                 ――――――御神流奥義之参 射抜――――――








恭也の刈り取らんとする横薙の刃。

美由希の穿ち射抜かんとする突き。



ギィンッ!



それぞれがぶつかり合い火花を散らし、辺りを一時照らした。

だがそれだけに留まる事は無かった。



ヒュウッ!



虎切、射抜は共に単発ではなく、派生してこそ効果を生み出す業なのだ。

初太刀が防がれたならば其処から派生し、止めを刺す。





                 ――――――御神流奥義之弐 虎乱――――――



                 ――――――御神流奥義之肆 雷徹――――――





恭也は続いて左の小太刀を抜刀して、左右乱刃を放つ。

対し美由希はそれを片方の刃で二刀が重なるように受けて防ぐ。

さらにもう片方の刃を重ねて内部に衝撃を与える”徹”の威力を二乗にし、相手に伝える。

恭也はそれに耐え切れず、小太刀から手を離してしまい、動きを止めてしまう。



(――――――今だ!)



美由希は両小太刀を手放した。

瞬間美由希の世界がモノクロに染まる。

音を置き去りにして美由希は恭也に貫手を放つ。



「――――――が、甘い」



そう言って恭也は右手を引いた。

すると美由希の足に絡まっていた鋼糸が美由希の足を引き、体制を崩す。

そこに恭也は当身を食らわし、美由希を地面に倒す。

そして―――――――――



「――――――ッ!」

「――――――詰みだ」



ホルスターに納めていた小刀を抜き、美由希の喉下に突き付ける。























「相手に気を足られすぎだ、鋼糸に気付かないようではまだまだだな」

「………だね、相手によってそれで足を取られるし」

「分かっている様なら良い、だが自分より相手のほうが体術に優れていると知っていて挑むの愚者のすることだ」

「うーん、やっぱりダメかなあ」

「それでも挑むなら飛針を投げるといい」

「バラけて投げたほうが良いよね」

「近接の時ならそれでいいが、少し離れてる時は状況に合せて投げ方を変えろ」

「そっか」

「………まだいけるな?」

「うん」



”講義”を終え、剣を抜き、構える。

再び森の中で剣戟が響く。


























「――――――よし、今日はここまで」

「――――――はぁはぁ、あ、ありがとうございました」



美由希は木にもたれて息を整えていた。



「体を冷やすな」



そう言い恭也は上着を美由希に投げた。



「あ、ありがとう、恭ちゃん」

「俺は道具の回収に行くから体を冷やすなよ」

「ご、ごめん、私が―――」

「いいから、体を冷やさずに休んで待ってろ」

「―――うん」



そう言い、恭也は森へ入っていった。





























恭也は飛針は鋼糸などを回収しながら先程の鍛錬風景を思い返していた。



「………………」



以前に比べ疾さの増した己が弟子の太刀筋を思い出した。

弟子、美由希は気付いてはいないだろうが、先程の鍛錬で美由希の放った一撃。



「………………………」



あの一撃はまさに最強と謳われた御神の正統伝承者、御神静馬の太刀そのものだった。

記憶の果てにある、まだ御神が在りし頃、御神宗家で一度だけ覗いた静馬の鍛錬風景に在った剣閃と全く同じ質の物。

防ぐ事も、逸らす事も、ましてや躱す事の出来なかった太刀は確実に恭也を切り裂いていた。

今でもその箇所はもとより黒い鍛錬着を、更に黒く染めていた。

更なる戦闘技能への欲求の高さ。

あれは強さに為る。

決して傲慢に為らず、己を見つめている。














だが、足りない。

それでは明らかに足りない。

もし、美由希がその事に気付き、それで満足するというのなら、絶望の崖に突き落とし其処から這い上がる迄の力を付けさせよう。

かの最強と謳われた御神静馬ですら死んだのだ、それで満足させるものか………………。

何れはかの御神静馬すらも越えさせてみせる、魅せてやる………………………。

誰の物でもない、俺が手掛けた”剣”を………………………。











「(………………………だが、もうそろそろ、か)」



恭也は未だに服を染める箇所に手を当てた。

暫しその姿勢を保った後、恭也は道具の回収に当たった。




「…………………この辺でいいだろう」



そう言った恭也は道具の回収を終えても戻らず、しかも美由希から離れたところに来ていた。



「…………………態々一人になったんだ、出て来い」



誰もいない空間に向かって言い放つ恭也。





「気付いていたとは流石だな」





返された声と同時に男が姿を現した。



「………”龍”」

「そうだ、まさかあの時滅ぼしたと思っていた御神の生き残りが居るとわな」



恭也は静かに小太刀に手を伸ばす。



「おっと、動くなよ」



男はそう言って手に握った何かを見せた。



「一歩でも動けばお前の大事な弟子が木っ端微塵だぜ?」



ニヤニヤ笑いながらそう言う男。



「………………………」



暫く時を置いて恭也は小太刀から手を離した。



「ヘヘヘ、お利口さんじゃないか」



そういって男は懐から銃を取り出した。



「じゃあな………」



そう言って男は引き金を絞った、筈だった。



「………?」



感触が無い事に訝し気に思い、恭也から視線を離し自分の手を見てみた。

すると、



「な………っ!」



銃を持っていたはずの手、それが肘から先ごと無くなっていた。



「なっ、テメェ!」



そう言い視線を戻すと恭也は男に背を向け逆立ちながら帰って行っていた。



「ま、待ち………」



”逆立ちながら”?

違う、世界が逆立ちしてる?

いや、俺が逆立ちしているんだ。

?、何故俺が逆立ちしているんだ?

いやそもそも、何で自分の足が………………。




男の意識は其処で途切れた。
















胴体を二分にし、血の噴水を吹きながら倒れていく男の死体を背に向け恭也は足を進める。



(………………”龍”)



どうやら居場所がバレたようだ。

隠し通してきた心算だが、チャリティーコンサートの時で公になったようだ。



(しかし………………)



更に広がる前に潰せば拡大は収まるだろう。

恐らく、何所かに情報拠点のような場所がある筈だ。

そこを潰せば或いは………。

場所はアイツから近々連絡が来るだろう。



「………………牙を剥いたんだ、対価は払ってもらうか」



誰とも無く恭也は呟き、歪んだ唇は狂気を滲ませていた。

そして何事も無かったかのように顔を無表情に戻し、美由希の下へと足を勧めた。





























「――――――よし、そろそろ時間だ、帰るぞ」

「うん」





美由希と共に帰りながら恭也は考えていた。



「(そろそろ、期日だな)」



そして恭也は直感した。








――――――定められた、運命の日が。








終わりと始まりの日が近づいてきた。












もう、戻る事は出来ないだろう。








もう、平和な日々には戻れない。


















to be continue







あとがき


あまりにも出来が酷すぎる為改装する事になった、我が初にして長年考えてきた長編。
不出来な真似は見せれません!
直正「とか言いつつ、精度を上げる代わりに執筆速度は凄まじく酷いがな」
そこは言わないでくれ!
直正「事実だろ」
だってしょうがないんだもん!
直正「ヤローがもん!とか使うなキモい」
しかし、切羽詰ると急に書く気が沸くこの俺、しかもネタも一緒に。
直正「凄まじく自爆体質だな」
テスト中とか凄く頭が回ったしな。
直正「後で聞いた話だがお前、解答用紙の裏に祝詞書いてたらしいじゃねぇか」
あ、その事に関して怒ってたりする?
直正「当たらずも遠からずだな」
へ?
直正「お前祝詞書き終えたらすぐ消してんじゃねぇか、ヤルなら最後までヤレ!」
スマン!見られたらっ、とか思って。
直正「誰にも見せる心算なんか端からねえだろうが!」
ダイジョブ!いざと言う時は直ぐ思いつくから。
直正「………オチが見えたな」
ふ、不吉な事を言うな!
直正「まぁソレは流すが、定期連絡とかは別に無いだろ?」
そうだな、敢えて言うなら受験生になったからまともに書けないだけだな。
直正「大丈夫かよ」
多分………。
直正「ま、先のことは先の事だ、今は今」
では、今回はこの辺で、次回また読んで下されば幸いです。またお会いしましょう、さようなら。
直正「感想まってま〜す」



恭也が結構、物騒な事を言ってなかったか。
美姫 「確かにね」
一体、どうなっていくんだろうか。
美姫 「うーん、今後の展開が気になるわね」
ああ。気になる次回はこの後すぐ!
美姫 「それでは、また後でね〜」



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