「………美影」

「なんだい」

「奴ら、お前見た瞬間奇声を上げだしてたぞ」

「気の弱い奴らだねえ」

「自分で内臓取り出す奴らも居たぞ」

「胸焼けじゃないのかい?」

「………………喉掻き毟って死んでるぞ、コレ」

「何処かに祭っている神様の崇りじゃないのかい?」

「あの肉の塊、体の内側と外側が入れ替わってるぞ」

「邪神でも崇拝してたんじゃないのかい」

「………………お前が原因だろ」

「さ〜てね〜、取り敢えずあたしゃ知らないよ」

「………………………先ずその気迫を抑えろ、その状態で町を歩いたら間違い無く碌な事にならん」

「おや?なんでそんなことが分かるんだい?」

「………………………」

「ハイハイ、抑えればいいんだろ?」

「分かったのならいい、………………………何をしている」

「喰ってる」

「何を………」

「コレを」



周りに散乱している物を指差す美影。



「………………」

「お前も喰うかい?」

「誰が喰うか!それ以前に、そんな物は食べ物ではない!」

「喰ってる奴も居るよ?」

「俺は脳に障害を負った医学生ではない!」

「声は似てるよ?」

「そのネタは止めろ!!」











              舞台開幕






時は恭也と美影が出会う前まで遡る。





日本某所―――





山に囲まれたある場所に、大きな武家屋敷が建てられていた。



「………………………」



その屋敷のある部屋の中。

一抹の明かりも無い部屋に、着物を着込んだ老人が一人静かに椅子に座っていた。

見たところ、齢六、七十といったところだろうか。

しかしその体からはまるで衰えを知らぬかの覇気が溢れ出ていた。

更によく見れば着ている服に隠されてはいるが、隠しようも無い筋肉がその上からでもはっきりと分かった。

その体は岩を連想させるかの様に、屈強な体付き。

まさに覇者の風格を漂わせていた。



「総領様」



すると何処からとも無く声が発せられた。

気が付けば音も無く老人の傍に男が現れていた。



「例の件についてご報告が………」



どうやら男は老人の部下のようだ。

片膝をつき、頭を伏せ、仕事の報告をする為に口火を切った。

その男に対し、総領と呼ばれた老人は。



「………………………」



相変わらずの風格を漂わせ、無言のまま先を促した。



「どうやらあの一族、生き残りが居たようです」

「………………」

「それともう一つ」



先程とは打って変わって何処か躊躇いを感じさせた。




「………………」

「――――――」

「………………何だ」



何やら言う事に躊躇いを見せる男にイラつき、声を掛ける。



「”アレ”が生きている様です」

「!!」



ガタッ



暗闇の中椅子から立ち上がり、動揺する気配が伝わる。



「如何言うことだ、あの時死亡を確認したのではなかったのか………!?」



暗闇の中、老人の怒気が波紋の様に響き渡る。

そこには先程まで覇者の風格を漂わせていた人物とは同じには見えなかった。

漂う空気に気品は無く、あるのは何処か怯え、恐れた空気しかなかった。



「それが………、どうやらうまく隠蔽されていたようで………。
 第一、”あの時”では判別すら出来ぬ状況でして………」

「言い訳はいらん!何としてでも殺せ、”アレ”は存在してはならぬものだ!」


老人は身に迫る恐怖を打ち払うように命令を下した。



「―――承知致しました、直ぐ手配を………」


頭を垂れたまま、老人の態度に違和感を抱く事も無く男は命を受けた。

すると、男はまた音も無く気配も無く消えた。



「………………………」



男が去った今、部屋にはまた老人一人となった。

老人は去って行った男に目もくれることなく、取り乱した己を静めた。

ただ先程までの雰囲気は無かった。

あるのは覇者とはかけ離れた、いわば敗者。

そんな老人は一人、うわ言の様に呟く。



「忌々しい、アイツも何故あんな物を………………」



すると突然。



バンッ



「オイ、オヤジ!」



響くような音を立てて開かれた戸と主に一人の女が声を荒げて入ってきた。



「………夏織か」



大きな音を響かせて入ってきた娘に目を向けて言った。

腰まで伸ばした血で染めた様な髪、出るトコが出た魅力的な身体。

自分と同じ色の着物を着込み、胸元をだらしなく肌蹴けさして、さらしで巻かれた肌。

その肩に蝶の文様が描かれた羽織を着ていた。

老人をオヤジと呼ぶ女性、老人の娘の夏織は鬼灯の様に紅い瞳を爛々として入って来た。



「何のようだ………」

「何とぼけていやがる、聞いたぞ………」



夏織は愉悦に顔を歪めていた。


「アイツが生きて「ならん!!」………」



話を遮られた夏織は眉を顰めた。

その自分の父親に殺気を込めた視線と共に訳を尋ねた。



「………何でだよ」

「お前が望むなら金もやろう、男も女もやろう、権力もやろう。
 だが!奴だけはならん!」

「………………」

「………………」



夏織は凄まじい量の殺気怒気狂気を叩きつける。

常人であれば一秒でも耐えることなんて出来ないほどだった。

しかし、老人の表情は変わる事は無く気迫は衰える事は無かった。

それどころか逆に威圧までして来た。



「………………………」

「………………………」



互いの気がぶつかり、辺りの空気が歪むような錯覚を受ける。

暫しの間睨み合いは続き、その部屋は異界と化した。



「………………………」

「…………………チッ」



だがソレも唐突に終りを告げた。

夏織は老人の意見が変わらないと見てその場を退いた。

しかし夏織は諦めてはいなかった。

入って来た戸をまた蹴り破りながら仰々しく去って行った

――――――その目にただならぬ気配を宿して。



「………………………」



暫く夏織の気配が遠ざかるのを待つ老人。

気配では探知出来ない距離まで離れたか―――



「―――ハァッ………………」



放っていた気迫を霧散させ、溜め息ついた。

次いで娘の様に苦言を零した。



「我侭娘め………」



声には有り余る苦労が詰まっていた。



「………………おい」



再び、老人は暗闇に向かって声を掛けた。



「―――は」



すると時間は掛かったがまた声が返ってきた。



「”アレ”の周囲とその関係を調べ上げろ、徹底的にだ」

「………承知致しました」



暗闇から聞こえる声とやり取りを済ます。

そのやり取りを終え、更に溜め息を吐く。



「………………何故こうもうまく事が運ばんのだ」







………………………





先程の某所とは離れた場所。

そこはどこか都会の裏路地か、それなりの道幅はあるが周りに林立する建物に光を遮られていた。



ドガッ



「あンの糞ジジイが!」



夏織は近くの壁を蹴りながら悪態を吐いた。

その際に周りに立っていた建物の壁に足型の穴があいた。



「クソックソックソックソックソが!!」



ガッガッガッガッガッ



何度も壁を蹴る夏織。

その所為でその建物の壁は穴だらけになり、見るも無残な姿だった。



「ハァッハァッハァッハァッハァッハァ」



それで落ち着いたのか、息を整えながら夏織は状況を分析した。



「しかし、これからどうする………」



オヤジから恭也の居場所聞き損ねたな、と呟く夏織。



「恭也の場所も分からない建物の修理費も馬鹿にならない、と如何しようも無いねえ」

「………………美影か」



何時の間にか夏織の傍に女性、美影が立っていた。

そしてそれに違和感を感じたのか、夏織は眉間に皴を寄せ、美影に尋ねた。



「なんでお前がここに居るんだ?」

「いや何、恭也のことを教えてやろうと思ったが既に知ってたみたいだね」

「だが肝心の恭也の居場所が分からねぇんだよ」

「ふむ………、いい子にしてたお前にお姉さんがヒントを上げようじゃないか」

「(………お姉さん?)なんだ」

「あの”大妖”のこと知ってるかい?」

「”大妖”………ああ、ざからの事か」

「おや?知ってるのかい」

「ああ、よく会いに行ってる。
 中々いいヤツでな、馬が合うんだよ」

「(これはこれは………)そうだ、そのざからに会って聞いてみな」

「聞くって………、アイツ知ってるのか?!恭也のこと!」

「どうやら知らなかったみたいだね」

「いや、でもまさかアイツが………、そうかアリガトな」

「おや?お前が礼を言う何て、明日世界が終わるかな」

「………殴るぞ」



そう言いながら夏織は美影の顔をめがけて拳を振り上げた。

そして夏織の拳が美影の顔を捉えて―――





グシャッ





音を立てて美影の頭が吹き飛んだ。



ビチャビチャ



頭の破片が音を立てて当たりに飛び散った。



―――おいおい気を付けておくれよ。
   この体はお前の力に耐えれる程強くないんだから―――



確かに美影の頭は吹き飛んだ筈なのに、何処からか声が聞こえてくる。



グチュグチャッ



すると音を立てながら美影の頭が、まるでビデオテープの逆再生の様に再生していった。

その様子を顔を顰めながら見ていた夏織。



「………………」

「やれやれ、折角の美貌を台無しにしないでおくれよ」



そう言いながら元に戻った顔を摩る美影。



「………………化け物め」

「酷い言い様だねえ」

「事実だろ」

「やれやれ、力に満足して精神の鍛錬がお前たちは未熟だねえ。
 自分より上であればすぐ畏れる。
 そんなんだから発狂するんだよ」

「?、発狂?」

「そうさ、少しだけ”私”を元に戻したんだ姿を見ただけで発狂するんだよ?
 精神の未熟を否めないよ………」



ヤレヤレ、と肩を竦める美影。



「………………………」



その様子を夏織は呆れて見ていた。



「なんだい?その目は」

「お前………つくづく化け物だな」

「失礼だねえ、少しは年上を敬うような態度は取れないのかい」

「………そんな状態で普段街中闊歩してんじゃないだろうな」

「それはそれで面白そうだけど、でも大した面白みは無いだろうねえ」

「面白み?」

「私には願い、と言うか目的みたいなのがあってね、強いて言うならその為の暇つぶしだよ」

「暇つぶし?」

「そうさ。
 まあ、暇だったし。
 どんな反応を示すかが見たいものがあるね」

「人が死ぬのにか?」

「ソレもまた一興だろう?お前達も似たようなことをするしね。
 まあ、それでも大した暇つぶしにはなんないんだがね………。
 昔なら出会い頭に自分の心臓を取り出して呪言を呟きながら求婚してきた輩も居たけど。
 いまじゃあ、ねえ………」

「どんなんだよ………。
 てかそれでどうしたんだお前」

「まあ目的の為の準備があったから時間はそんなに割いてやれなかったけど、そこそこに愛して犯してやったよ」

「………じゃあ、お前が目的は―――」

「それは内緒だね」

「………………」



質問を遮るように答えられ、夏織は会話をそれで打ち切って美影に背を向け歩いていた。



「おやおや?何処へ行くんだい」

「ざからに会いに行く」

「そうかい、なら気を付けてお行き」

「お前がそんな言葉を言う時点でまともじゃないな」

「酷い言い様だねえ、………ああ言い忘れてた」

「あ?」



まだ何か用か?言わんばかりの視線を振り向きながら向ける夏織。

しかし、夏織の振り向いた先には美影は居なかった。



                ――――――今の私は「美影」じゃなくて「御影」だよ………――――――



辺りに反響して聞こえる声に眉を顰めながら言った。



「………………やっぱ、正真正銘の”バケモノ”だな」



一人ごちながら歩いて行った。





















                ――――――コレで大体の役者が揃ったと言うわけだ――――――



                ――――――楽しみだ。嗚呼楽しみだ、楽しみだねえ――――――
 


               ――――――剣の神よ………剣の王よ………剣の鬼よ………――――――



         ――――――この歪み狂い、正しく定められた運命のなかで何を起こしてくれるんだい?――――――














to be continue




あとがき

友人A「やっぱり幼女だろ。あの暖かく乳臭く柔らかいが、肌もう………」
友人B「いや、やっぱり熟女だな。特に未亡人がイイ。旦那に先立たれ火照った身体を慎ましく押さえてるのを俺が………」
なに朝っぱらから阿呆な話してんだお前ら。
友人A「いやBから借りたゲームやってたんだが、いまいちでな」
友人B「コイツはどうやらロリコンでな、お前は如何なんだ」
そこで何故に俺に振る。
友人B「同士を増やす為に協力してくれ」
アホか。
友人A「そんなことよりお前だったらドッチだ」
俺は美味しければイイかな。
友人A・B「「………………」」
何だよお前ら。
友人A「………なんつーかお前」
友人B「俺たちより遥かに危ないな………」
何故に!?



どうも友人たちに性癖で危ない言われた堕神刹那です。
友人たちより遥かに平和だと思うのですが………。
ま、ソレはさて置き。
前回と比べ加筆修正しましたが、何処か分かった人います?
自分は全く分かりません(キッパリ)
修正前のは全然文が足りなかったり、表現が全然だったり。
かなり手を加えました。

今回出てきた美影ですが、何が違うか、ってまあ文字が違いますが決して誤字ではありません。
まあ、気付いてる人も居ると思いますが美影と言えばあの人です。
じゃなんでこんなことに成っているかと言うと、それは秘密で。
因みに今回出てきた美影と、前回の美影。
時間軸が違いますが、ある種別人です。
バラしますけど、所謂分身みたいなものだと感じてもらえばいいと思います。

冒頭のネタですけど分かる人いますよね?自分はアレ好きなんですよ。
寧ろその製作会社のゲームが結構好きなんですよ。

しっかし夏織の資料全く無いなあ、穏やかな性格のもありますけど自分の中ではコレに決定しました。

では、今回はこの辺で、次回また読んで下されば幸いです。またお会いしましょう、さようなら。





うーん、恭也だけじゃなく夏織の傍にも美影が。
美姫 「色々と謎が増えたわね」
だな。美影の目的は何なんだろう。
他にも怪しげな会話がされていたりするし。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る