「父様、母様……明日少し遠出したいのですがよろしいでしょうか?」

高町家にて夕食を食べている時、フィーアが恭也とフィリスに言う。

「別に構わんが……どこに行くんだ?」

「少し……姉達に、会いに行こうかと」

そのフィーアの答えに、隣にいたノインが驚いた表情をする。

「お姉様、本気?」

少し信じられないといった表情でノインが尋ねる。

「ええ……もう4年も、言葉も交わしていないから……」

何処か寂しそうに、フィーアは言う。

「姉達というと……」

フィーアの言葉に、恭也は思い出す。

フィーアには、姉妹がまだ沢山いたということを昔聞いた。

「そこは遠いところなの?」

「はい、ですけど私は‘飛んで’行きますのですぐです」

つまり、テレポートで行くからそんなに時間はかからないという事だろう。

「そうか……フィーアが行きたいのなら、俺は止めない」

「ちょ、父さん!?」

恭也の言葉が意外だったのか、ノインが叫ぶ。

「フィーア、少なくとも夕飯前には帰って来るんだぞ」

「はい、父様」

恭也の言葉に頷き、フィーアは食器を持って立ち上がる。

そして、食器をシンクにつけると、部屋へと戻って行った。

「父さん、何考えてるのよっ!!?」

ノインが机を軽く叩いて、恭也に言う。

「お姉様を行かせるなんて……」

「ノイン、落ち着け」

少し怒り気味のノインを鎮めるように恭也は言う。

「フィーアは、別に死にに行くわけじゃない……それに、あの娘が昔の自分に自分なりに決着をつけたいのだろう……それを、邪魔は出来ないさ」

「あの娘は、今より幸せになるために行くのよ……私達や、あなたと一緒にね」

恭也とフィリスは慈悲に満ちた表情で言う。

「大丈夫、あの娘は帰ってくるわよ」

ノインを抱きしめて、その頭を撫でながらフィリスは言った。

「うん……母さん」

ノインはそう答え、フィリスに抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

Especial Friend

 

 

 

 

 

これは私が書いた【日常スパイス】の三ヶ月後のお話です。

ノインはフィーアと一緒に恭也とフィリスの子供になっています。

フィーアは前と少し話し方などが変わっています。

これはオリキャラメインですので、あしからず。

ではでは〜〜〜〜

 

 

 

 

 

その日、フィーアはまだ空が朝靄に包まれ、薄い明かりがさすぐらいの時間に起きていた。

「…………行こう」

今フィーアが着ている服は、今まで……恭也達が一度も見たことの無い服だった。

いや、唯一人……この服装に見覚えがある人物がいる。

ノインである……

白い礼服に似た服装で、首からは真っ黒に染められた逆十字架……

腕には16世紀ごろ、キリスト教に回心した罪人が着けていたとされる鈴を引きちぎったようなものをつけている。

そして、まるで穢れを知らない赤子の様な……真っ白の、ベレー帽。

背中にはあの時、ノインと戦った時に使っていた剣と、もう一つの剣が幾重にも布で巻きつけられている。

この服装は、嘗てフィーアが施設にいた頃に着ていた、戦闘服である。

部屋の襖を開け、空を見上げる。

霞掛かった空は、まるで今の自分の心のよう……

決して、いまだに晴れぬ……後ろめたいような、この気持ち。

だが、明けのない夜はないと信じているから……自分もこの心の靄を斬り捨てるために行くのだ。

「……」

無言で、フィーアはフィンを広げる。

そして、フィーアは一瞬にしてその場所から消えていった。

 

「行った……な」

それを、物陰から気配を消した恭也とノインが見ていた。

「そうね……」

恭也の言葉に、ノインは短く返事をする。

「心配するな……フィーアは、必ず帰ってくる」

ノインの頭を撫でながら、恭也は言う。

「帰ってこなかったら……追いかける」

その答えに、恭也は一瞬驚いて、そして苦笑した。

「そうだな、皆で……フィーアを追いかけてやろう」

恭也の言葉を聞いて、ノインは大きく頷いた。

 

 

目を瞑って、一瞬すればもうそこは先ほどいた場所ではなかった。

フィーアは静かに眼を開け、その景色を見た。

目の前にある建物は全て焼け焦げており、原形をとどめているものなどは何一つとて無い。

地面には草一つ生えておらず、完全に不毛の地へと変貌していた。

「ノインの言った通りなのね……」

呟いて、フィーアは歩き出す。

入り口に入ると、すぐさま白骨死体が数体目に入った。

その死体のどれもが白衣を着ており、ネームプレートがついてある。

その全てに黙祷をささげ、フィーアは奥へと歩いていく。

そして、すぐに広い広間のような場所に出た。

上の方にはこの広間を見渡せる観察所のような場所。

そこのガラスも全て粉砕されており、ノインがどれだけ暴れたのかがフィーアにはわかった。

だが、フィーアはそこよりも驚くべきものを見た。

その広場の中央に、7本の剣が突き刺さっていたのだ。

今自分が背中に背負っている剣と同じ……7本の剣。

それはすなわち……

「姉さん達……そして、あの娘達の剣……」

呟いて、フィーアはその剣に近づく。

右から順にL-C01L-C02と続いていた。

だが、おかしな事にL-C04L-C06と柄に彫られた剣の間が、一つ開いているのだ。

まるで、誰かが仕組んだかのようなその空白に、フィーアは背筋に寒いモノが走った。

刹那……一番右端の剣……L-C01の剣が地面から抜き放たれる。

「っ!!!?」

そして、剣はフィーアの後方に飛んで行き、フィーアは咄嗟にそちらを見る。

「驚いた……まさか、生きてたとはね」

そこにいたのは20歳ぐらいの女性だった。-

紫の髪に……漆黒の瞳、そしてその服装は今のフィーアと全く同じもの……

唯一違うところがあるとすれば、その服の腹の部分には大きな穴が開いており、その人物は耳に青く輝くサファイアのピアスをしていた。

「ねえ……さ…ん……?」

搾り出すように、フィーアは尋ねる。

「以外に何に見える……この、愚妹が」

刹那、フィーアのいた場所を衝撃波が通り過ぎる。

フィーアは間一髪フィンを使って上空へと飛び上がってそれを回避した。

「よくもまぁ……この場所に顔が出せたわね、この逃げ出した裏切り者が」

まるで親の敵でも見るような目で、この女性はフィーアに言う。

L-C01姉さん……あの娘からは……死んだって聞いていたのだけど、生きていたのね……」

「あの娘? あぁ、L-C09か……まぁ、あの娘からしたら私は死んでいたのでしょうね」

剣を手首だけでクルクルと回しながら、L-C01は言う。

「あの模擬戦の後、私はL-C02と一緒に施設の最奥の場所……私達が生まれ出た場所に、連れて行かれたわ」

そこは、例えるなら死というものが具現化されたような場所。

何十、何百という夥しいほどの死体と……培養液のような場所に入れられた、数体の少女。

フィンを持つ事が出来た不幸な実験体だけがそこから出て、更なる地獄に挑む場所である。

「私はそこで、L-C02と統合されたわ」

「!!!?」

L-C01の口から出た言葉に、フィーアは驚きの声を上げる。

「この体の中の骨も、吹き飛ばされた腕も、内臓も……L-C02のものよ」

左腕で体を押さえ、右腕を差し出し、LC01は言う。

「あんた達二人に殺された私達は統合と言う更なる地獄を見て、生き返ったわ……つい、数日前のことよ。 傷を塞ぐために培養液の中でずっといたけど、急に培養液の中の濃度がおかしくなり始めた……だから、私は出てきたのよ」

ノインが破壊したコンピューターにより、培養液の濃度がおかしくなり、L-C01は数年ぶりにこの現実へと戻ってきたのだ。

「しかし、よくここまで破壊してくれたわね……お陰で、あんたの場所がわからなかったのよ……でも、あんたの方から来てくれるなんて」

まるで獲物を見つけた獣のように、L-C01の唇がつりあがる。

Elder Prisoner

そして、そのL-C01の言葉の後、L-C01の背中から紫に染まった10枚の羽が現れる。

Elder(エルダー) Prisoner(プリズナー)……それは、最初に生み出されたL-C01を体現したフィン……

この地獄に産み落とされた……最初の、囚人である。

「さぁ、さっさとあなたもimmunityを元の姿に戻しなさい」

剣先をフィーアに向けて、L-C01は言う。

「姉さん、話し合いは出来ないの……?」

縋る様に、フィーアは言う。

その光景は、嘗てフィーアがノインと対峙した時に似ている。

「話し合い? 可笑しなことを言うわね……私達は戦う為だけに作られたのよ……話し合いなんて、無駄な事はしないわ」

はき捨てるように、L-C01は言い切った。

「早くしないと、あんたの眼は擦れた赤色じゃなくて……鮮血に染まった真っ赤な赤色になるわよ」

構えて、言う。

その眼は本気で、後一瞬でもためらおうならば……間違いなく、その剣先はフィーアの眼を突き刺すであろう。

「そうなのね……あの姉さんは、もう消えてしまったのね」

目を閉じて、フィーアは呟く。

そして、次に目をあけた瞬間、その瞳は擦れた赤色をしており、背中のフィンも紫から漆黒の黒へと変わる。

「その姿のあんたと戦うのも随分と久しぶりね……あの時は負けたけど、今回はどうかしら」

「あらゆる病原体を内包したElder Prisonerでは、あらゆる病原体の抗体を持つimmunityを侵せはしない」

「ふん、そんな何年も前の状態な訳無いだろう」

フィーアの言葉を、L-C01は一笑に伏した。

「言っただろう、私はL-C02と統合したと」

言ってL-C01は右腕を前に翳すと、そこに地面に突き刺さっていたもう一本の剣が飛来し、納まる。

L-C02のフィンは……幻想を具現化するIllusion!」

刹那、フィーア目掛けて幾つもの剣が飛来する。

「ッ!!!」

それを間一髪、かわして行くフィーア。

L-C01を見れば、先ほどの紫の10枚の羽ではなく、幻想に揺らめく白い10枚の羽に変わっていた。

それはL-C02が持っていた幻想を糧にするフィン……Illusion(イリュージョン)

「統合の際、ここの科学者はやっぱり頭がイカレテいた様だよ……L-C02HGSたるエッセンスとでも言えばいいか……そんな物の抽出、再適合化を考えたんだからね」

忌々しげに、L-C01は言う。

二人の統合化の際、L-C02をベースにL-C01の能力をL-C02に付け加える予定だったが、L-C02が予想以上に劣化しており、使い物にならなくなっていたのだ。

そこで、科学者達はL-C01の無くなった部分をL-C02で補い、そのHGSの能力を付け加えたのだ。

「お陰で私はさらに人間離れした化け物になったよ……でも、今は感謝してるよ」

パァァァン!! と、壁に亀裂が走る。

「こんなに、強くなったんだからねぇっ!!!」

一瞬にして、L-C01はフィーアに詰め寄る。

「はぁぁぁぁぁっぁっ!!!!」

フィーアの剣と、L-C01の剣がぶつかり合い、鬩ぎ合い、火花が飛び散る。

L-C01はその力でフィーアを剣ごと吹き飛ばす。

吹き飛ばされたフィーアは空中で反転して、何とか正面を見る。

しかし追い討ちをかけるようにL-C01がその不安定な体勢から一気に加速し、フィーアに詰め寄る。

「ブレイクッ!!!」

詰め寄ってくるL-C01目掛けて、フィーアは電撃を放つ。

しかし、L-C01はその電撃を剣で切り伏せる。

「ブレイク・ワン!!」

逆に、L-C01が雷をフィーア目掛けて放つ。

「っぅ!!!!!」

フィーアもL-C01と同じように雷を剣で弾く。

「ブレイク・トゥ!!!」

振りかぶったモーションから、さらに追い討ちをかけるように電撃が飛ぶ。

「ぐぅぅぅっ!!」

その電撃を右足に受けながらも、フィーアは何とか直撃だけはかわす。

「ブレイク・スリー!!!」

しかし、その不安定な体勢では最後の電撃を避ける事は不可能で、フィーアは直撃をした。

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

体中に痛みと痺れが走り回り、フィーアは床を転げ回る。

L-C02の得意技……ブレイク・エモーション……やっぱりあんたは変わらないわね」

言って、L-C01はフィーアへと歩き出す。

ブレイク・エモーションとは剣を振り回す素振りに電撃を放つ素振りを混ぜた攻防一体の技である。

「あの娘はあんたに普段は甘かったけど、こと戦闘になると修羅のようだったわね……あんたの苦手なものを全部知ってるみたいにね」

剣先をフィーアに突きつけ、L-C01は言う。

「戦闘と諜報を兼ね備えるように調整されていたL-C02だから、私達の弱点なんかも調べていたのかもね」

言葉と共に、L-C01の剣が先ほど電撃を受けたフィーアの右足に突き刺さる。

「あぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!」

最早悲鳴に等しい叫びが……部屋に木霊する。

immunityは……戦闘向きじゃないわね……治療用よ。 役立たず」

言って、L-C01はフィーアを蹴り飛ばす。

力なく転がっていき……部屋の壁にぶつかる。

「ごふっ……げほっ」

壁にぶつかった衝撃で口からフィーアは血を吐き出す。

剣が突き刺さった右足からも止め処なく血があふれ出す。

そして、段々とフィーアの意識は朦朧としてきていた。

(父様、母様、ノイン……皆……ごめんなさい……帰れそうにも、ない……です)

心の中で、皆に謝る。

「サヨナラ……愚妹」

遠くで、L-C01が構えているが……フィーアにはもうどうでもよかった。

ただ、何故か死が……怖くなかったのは何故だろうか……

「キエロォォォォッ!!!!」

L-C01が衝撃はフィーア目掛けて撃ち放つ。

触れたものを全て切り刻むかのようなその衝撃波は……フィーアには届かなかった。

「嫌な予感がしたと思ったら……まさかあたってるなんてね」

少し幼いその声に……フィーアも、L-C01も聞き覚えがあった。

L-C09……」

L-C01が、その人物をコードネームで呼んだ。

「今はそんな名前じゃないわ。 今の私はノイン……お姉様の妹よ」

42対のフィンを展開したノインが……そこに立っていた。

「ノイン……だと……」

訝しげに、L-C01はノインを睨む。

「まさか生きてたなんてね……奥に連れて行かれたから、てっきり廃棄処分されたものだと思ってたけど」

ノインはフィーアを守るように立って、L-C01に言う。

「ノイン……どうして……ここに…?」

力なくノインを見て、フィーアは尋ねる。

「お姉様とのリンクが、教えてくれたのよ」

昔、施設で対複数を目的とした戦闘の時に、埋め込まれたリンクシステム。

フィーアとノインは、今でもそのリンクスが繋がっている事がある。

「急に私の思考回線にね、お姉様の悲鳴が割り込んできた……だからよ」

フィーアの質問に答え、ノインは再び目の前……L-C01を見る。

「ふん……だから来たと言うのか、それにしてもお前までそこの愚妹に誑かされていたなんてね」

「違うわ。 私もお姉様と一度戦っているわ……そして、一度死んだのよ」

あの時……漆黒が彩る草原でフィーアとノイン……二人は文字通り殺し合いをしたのだ。

「そこまでしてお前はその愚妹と共に生きる事にしたというわけか……くだらないわ」

「そうね……姉さんみたいな戦闘狂にはくだらないかも知れないけど……私にとっては、素晴らしいものよ」

ノインの言葉を聞いて、L-C01は一笑に伏した。

「私達は何の為に生み出されたのかを忘れたのか?」

「忘れてなどいないわ……でも、もうそんな事を目的とした奴らは皆死んでるわ」

「死んでなどいない……ここに、まだ一人いる」

自分を指差し、L-C01は言った。

「お固くて、旧い考えね……そんなのだから、あの時負けたのよ」

ノインの言葉に、L-C01は剣を強く握り締めた。

「姉さん、あなたは信じられるものを見つけられずにただ強がってばかりいるだけよ……そして、他人に触れられるのを怖がってそんな旧い考えを一人で抱えているのよ」

「黙れぇぇぇぇぇっ!!!!!」

凄まじい形相で、L-C01はノインに詰め寄る。

「お前に……お前達に何がわかるぅっ!!!」

L-C01の振るう剣を、ノインは寸前のところで全てをかわして行く。

「判りっこなんて出来ないわよ!! 姉さんは、触れ合う事を拒絶したじゃない!! 触れ合えば、こんな場所でも掛け替えのない場所になっていたかもしれないのに!!!」

L-C01とノインは攻防を繰り広げながら、言葉を交わす。

Illusionッ!!!」

業を煮やしたL-C01がフィンを展開し、ノインの後方に数十の剣を具現化する。

Phantom!!!」

ノインも己のフィン、Phantomの力を解放する。

42対の羽は10枚の陽炎のような羽へと姿を変え……後方に現れた剣を全て無に還す。

「フィンによって生み出されたものなら、当然熱量があるわ……私のフィン、Phantomならそれらを全て奪いつくせる」

存在するものならば、どれほど微量だろうが熱量というものを持っている……

Phantomは生物の命を触媒として力を増すが、物質の熱量を奪う事も出来るのだ。

「流石に、後期型の最終実験体に、初期型のフィンじゃ相性が悪いわね」

言って、L-C01はフィンを消す。

「観念したの?」

警戒は解かずに、ノインは尋ねる。

この姉は、平然な顔をして人を騙せる……そういう風に、調整されているのだ。

笑顔で、人を刺し殺す事の出来る女なのだ。

「冗談じゃない……あそこまで言われて、私はあんたを許せるほどお人よしじゃないよッ!!」

凄まじい形相でノインを睨み、L-C01は自分の体を抱きしめるように蹲る。

Illusion Prisonerァァァァァッ!!!!!」

叫びと供にL-C01を中心に、凄まじい突風が巻き起こる。

風が吹き止むとそこには……

「なん…なの……その、フィンは……?」

驚愕の表情でノインは尋ねる。

L-C01のフィンは右の五枚は紫に、左の五枚は白に変わっていた。

「フィンとは、思いによって姿を変えることを忘れたか……私のこの心が、このフィンへと私を導いたのだ」

言った直後、ノインの目の前の地面に穴が開く。

「っ……あじなマネをしてくれるじゃない」

内心相当の驚きを隠しながら、ノインは言う。

「この際だからはっきりと言っておくわ、私はね、施設にいた頃からあんたの事をいけ好かないと思ってたわ……その理由が、今やっと判ったのよっ!!!」

全力でフィンを広げ、ノインは叫ぶ。

「お姉様に対するその態度も、そのお堅い考えも全部ねっ!!!」

そして、地面を一気に蹴ってL-C01へと詰め寄る。

「奇遇ね……私もね、あんたの事が嫌いよッ」

ノインの拳を避け、L-C01の拳がノインの腹にきまる。

「ごふっ……」

そのままL-C01は拳をまわす。

「がぁぁぁぁぁっ!!!」

強力な力で腹の中が圧迫されている上体でまるでかき乱すように拳が動いているのだ。

「あんたはいつもいつもL-C05の味方だったわね……そして、私に逆らってばかり」

ノインの腹から拳をはずす。

「いけ好かないのは、お互い様よ」

言葉と共に、L-C01の肘がノインの背中に強烈にきまり、ノインは地面に這い蹲るようになる。

「ノイン…ッ!」

それを見たフィーアは叫ぶが、体に力が入らない。

「次はあんたよ……大丈夫、楽には殺してあげないから……」

狂気の笑みを浮かべ、L-C01は指で何かを模る。

そして、その指を上から下に降ろす様な仕草をする……刹那。

「がッ!!!?」

フィーアの左足に、上空からいきなり剣が現れ、突き刺さる。

刀身だけの……剣とは呼べないものだが……

Illusionの能力よ……普通だったらこれにさらに病原菌でも付属してあげたいけど、あんたには効かないからね」

言って、L-C01はフィーアに近づく。

「さぁ、どうしてくれようか……このまま両手両足を切り刻むのも良いわね……それとも、指を一つ一つ切り落としていくかしら?」

「姉さん……どうして、そこまで私の事を……」

フィーアは悲しそうな表情でL-C01に言う。

「あんたの、その眼が気に入らないのよッ」

フィーアの髪の毛を掴んで、持ち上げる。

「あんたのその人を哀れんだような眼……それが気に入らないのよ」

そう言って、L-C01は掴んでいたフィーアの髪の毛を離す。

「決めたわ……あんたのその目の前で……L-C09を切り刻んで殺してあげるわ」

「なッ!!?」

L-C01の言葉に、フィーアは驚愕の声を上げる。

「動けない事にもどかしさを感じながら見ていると良いわ……あんたの大事な妹の死ぬ瞬間をね」

L-C01はそう言うと、新たにフィーアの両腕に剣を突き刺す。

「ぐぅぅぅぅッ……ノインッ!!!」

痛みをこらえながらフィーアはノインに叫ぶが、ノインは起き上がらない。

その間にL-C01は十字架を作り出し、そこにノインをはり付ける。

「まずは……右腕に……」

L-C01は狂気の笑みを浮かべ、作り出した剣をノインの右腕に突き刺す。

「がぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

その強烈な痛みに、ノインは悲鳴を上げる。

「ノインっ!!!」

その叫びを聞いて、フィーアは声を荒げる。

もどかしい……動けない事が……目の前で大事な妹が目の前で苦しんでいるのを唯見ているだけのことが、もどかしい。

「さぁ、もっと泣き叫ぶのよ……L-C09ッ!!!」

L-C01は立て続けに左腕と左足に剣を突き刺す。

「イヤァっ!! もうやめてぇっ!!!」

涙を流しながらフィーアは叫ぶが、L-C01は止めようとはしない。

L-C01は次々にノインの体へと楔を打ち込むかのごとく剣を突き立てる。

「ハァ……ハァ……」

最早息も絶え絶えのノインに……フィーアはどうする事も出来ない。

「もう飽きちゃったわね……そろそろ最後の一本を打ち込んであげるわ」

L-C01はそう言って、剣を作り出す。

「最後に、頭と心臓……どっちを貫いて欲しいかしら?」

ノインにたずねるが、ノインは答えない……唯、目の前のL-C01を睨み返すだけ。

「じゃあね……出来損ないの愚妹」

言って、L-C01は構える。

(動いてッ! 動いてッ!! 動いて動いて動いて動いて動いて!!!)

唇をかみ締めながら、フィーアは唯その一言だけを考える。

自分はどうなっても構わないから……目の前で苦しんでいる妹を助けるために……この体よ……

 

動いてぇぇぇぇっ!!!!!!!

 

フィーアの叫びと共に、フィーアのフィン:immunityが全開まで広げられる。

それと同時に、凄まじい衝撃波と光が巻き起こった。

「何ぃっ!!?」

突然の出来事に、L-C01も驚いて後ろを見る。

そこを見ると……先ほどまで地面に這い蹲るように貼り付けられていたフィーアがいない。

「ノイン……大丈夫……」

すると、前の方から声がするではないか……

驚いて慌てて前を見ると……そこには血塗れのノインを抱きしめるように立つ……フィーアがいた。

「貴様……いつのまに」

L-C01は睨みつけながらフィーアに言うが、フィーアは答えない。

フィーアは目を瞑って、ノインの剣が突き刺さっていた場所に手を当てる。

するとどうだろうか……見る見るうちに、ノインの傷が全て塞がっていく。

「治癒能力だと……」

その力を見て、L-C01は驚愕の声を上げる。

「姉さん……もう私達の知っているあの頃の姉さんはもういないのね……」

悲しそうに……フィーアは言う。

「だから、私がしてあげられる事は、もう一つだけしかない」

振り向いて、フィーアは目の前のL-C01を見据える。

「姉さんを終わらせてあげる……この地獄の日々から」

フィーアが沿う‘宣言’した瞬間、フィンが光を放つ。

 

Vier

 

小さいが、それでいてはっきりと聞こえるその声にL-C01はあとずさる。

(気圧されていると言うの!?)

フィーアの背中に展開された……純白の天使の様な羽。

それは嘗てフィアッセが見せた事のあるような……フィン。

純白の羽が……舞い落ちていく。

「このフィン……Vier(フィーア)は、姉さんには打ち砕けない」

言葉と共にフィーアの背中のフィンが羽ばたく。

Vier……だとぉ」

L-C01は拳を震わせながら言う。

「そうよ……ここで作られた実験体ではない……父様と母様……そして皆の為に生き続ける私の、新しいフィンよ」

力強く、フィーアは言い切った。

「ふん、幻想ね……そんな甘い考えをしている奴に、私が倒せるものかっ!!!」

フィーアの言葉を斬り捨てるように、L-C01も言い返す。

「倒して見せるわ……私達が生き抜くために……なによりっ、姉さんの為にッ!!!」

叫びと共に、フィーアの掌に剣が飛んでくる。

「やってみるといいわ……出来るものならねぇぇっ!!!!」

走りながらL-C01も手を翳すと、そこに剣が飛んでくる。

 

ギィィィィィィィィンッッッ!!!!!!!

 

お互いの剣と剣が鬩ぎ合い、火花が飛び散る。

しかし、今回はフィーアは力負けしない……むしろ、L-C01を押している。

「だぁぁぁぁぁっ!!!」

そして、フィーアはL-C01を剣ごと吹き飛ばす。

「サンダー・ブレイクっ!!!」

さらに、吹き飛んだL-C01目掛けて電撃を放つ。

「ぐぁぁぁぉぉぁっ!!」

電撃を受けながらも、L-C01はフィーア目掛けて走りだす。

それから、二人は数分間……何合も斬りあいを仕掛ける。

数分間が、まるで数時間に感じるようなそんな時間の中で……二人は極限まで神経を研ぎ澄ましていた。

「せぇぇぇぇっ!!!」

フィーアの剣が、縦一文字にL-C01に向かって振るわれる。

「ちぃっ!!!」

剣を横にして、L-C01は頭上で受け止める。

その重さに耐え切れず、L-C01は膝をつくが、何とか持ちこたえる。

だが、その重さによって刀身を支えていた左掌に剣がくい込み、血が流れる。

「ぐぅっ!!」

その痛みも手伝ってか、L-C01はフィーアを弾き飛ばす。

「まさか愚妹如きにここまで追い詰められるなんてね……」

肩で息をしながら、L-C01は言う。

「姉さん……最後に聞きます……本当に、戦いをやめる気はないのですか?」

縋る様な思いで、フィーアは言う。

施設から出て、2度目となる姉妹同士での戦い……実験のための戦いじゃない、殺しあうための戦いなのだ。

そんな戦いだから、フィーアは出来るだけ戦いたくなどはなかった。

「あるわけ……ないじゃない……こんなにも今、私は充実してるんだから」

笑って、L-C01は言った。

「今とってもいい気分なのよ……こんな気分を、途中で止めるほど私は馬鹿じゃないわ」

笑っていて……その笑い顔は、施設にいた頃L-C01が本当に楽しいと思った時にしか見せない笑みだと……知っているから。

だから……止まらない。 この姉は、もう止まれないのだ。

「なら……ここで終わらせましょう、姉さん」

構えて、静かにフィーアは言った。

これ以上姉に何を言っても聞かないだろう……だったら、この悲しい生から姉を解き放ってあげる事こそ姉を救う事になるのだ。

L-C05……」

L-C01は剣を構えたまま、フィーアを呼ぶ。

「汝自身を知れ、よ」

言って、L-C01は駆け出した。

「姉さぁぁぁぁんッ!!!!」

涙を流しながら、フィーアは叫んで駆け出す。

そして、お互いはフィンを広げたまま超スピードで交差しあった……

「ぐぅぅぅっ!!!」

フィーアは右肩から血が噴出すが、右腕が切り落とされたわけではないので、傷口を押さえながら膝をつく。

L-C05……あなたの新しい名前、聞いてなかったわね」

振り向かずに、L-C01は言う。

「フィーア……です。 リスティ姉様が、つけてくださいました……」

傷口を押さえながら、フィーアは答えた。

「フィーア、か……いい名前ね……大事にするといいわ…そして、生き抜きなさい」

言った瞬間、L-C01は地面にドサリと倒れこんだ。

腹につけられた大きな横一文字の斬り傷……L-C01を中心に大きな血溜りが出来た。

「姉さん、ありがとう……そしてさようなら」

剣を支えにして、フィーアは立ち上がる。

そして自分の肩についた傷口に手を当て、目を瞑る。

刹那、あれほど深かった傷口が塞がりきり、血が止まる。

血が止まったのを確認して、フィーアは最早死んでしまっているL-C01に近づく。

2度目の……姉殺し。

1度目は殺した事に耐え切れず、逃げ出した……忘れようとさえした。

でも、今回は違う……忘れないで、逃げないで受け止めよう……

そして、死んでしまった姉や妹達の分も……行き続けよう。

フィーアは立ち上がって、自分達の剣を広場の中央に突き刺さっている他の剣に並べて突き刺す。

L-C01からL-C09まで……9本の剣が、全て突き刺さった。

(さようなら……私の、姉妹達)

踵を返し、フィーアは寝かせてあったノインを抱きかかえる。

そのまま広場を出ようとした時……

バイバイ、可愛い妹達

その声に、フィーアは驚いて後ろを振り返る。

そこには……7人の、自分の姉妹達が……おぼろげながらも立っていた。

強く生きろ、それだけだ

少し鋭い目が印象的な、褐色の肌の女性。

泣かないようにね、お姉ちゃんっ!

丸眼鏡をした、どこか幼さを残している、少女。

L-C04姉様……L-C08……」

再び涙を流しながら、フィーアはその姉妹の名前を呼ぶ。

L-C09の事を、頼むわね

何処かおっとりしたような仕草の、女性。

もう2度と戻ってくるんじゃないわよっ!!

活発そうで、どこか態度の大きな少女。

L-C03姉様……L-C07……」

そして、また姉妹の名を呼ぶ。

…………バイバイ

寡黙そうで、でも何処か芯の強い瞳をした女性。

おねぇっ、さま……バイバイ

フィーアと同じように涙ぐんでいる、少女。

L-C02姉様……L-C06……」

フィーアがその姉妹の名を呼ぶと、その6人の前に見覚えのある人が現れる。

私達の分まで、生き抜くといいわ……せいぜいあの世から、見物させてもらうからね

L-C01姉様……はい、はいっ!!」

フィーアは涙を流しながら……だけど、笑顔で答えた。

最高の見送りで、フィーアは駆け出して言った。

生きるために……姉達の分も、何よりもこれからの自分の為に!!

   

    


あとがき

 

 

斜陽第9弾 Especial Friend終了!!

フィーア「そして、斜陽シリーズもこれで完結よ!!!」

うぅぅ、長かったなぁ……このシリーズも。

フィーア「スランプ時に書き始めたシリーズにしては良くかけたわね」

まぁね、このフィーアを出してから人気が出始めたからね、このシリーズ。

フィーア「当然よ、なんせフィーアだもの」

ちなみに、タイトルのEspecial Friendは、そのまんま特別な友人って意味です。

フィーア「フィーアにとって姉妹は掛け替えのない友人ってこと?」

家族でもよかったんだけど、やっぱり同じ施設でずっと過ごしてきた血の繋がらない姉妹たちだから友人で。

フィーア「ふ〜ん、そんなもん?」

まぁ、フィーアの中では確実に家族だろうけど、あえて友人で。

フィーア「まぁ、斜陽シリーズも本編9話、番外編3話でお送りしました」

また何処かでフィーアたちに会いましょう!!!

フィーア「ではでは〜〜〜〜」




遂に完結かぁ……。
美姫 「寂しいわね〜」
とりあえず、お疲れさまでした〜。
きっと、フィーアもノインも幸せに暮らして…。
美姫 「そうね」
それでは、これで。
美姫 「本当にお疲れ様でした」



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