カーン カーン カーン カーン

 

教会のチャペルの鐘の音が鳴り響く。

厳粛な雰囲気の教会の中……一番前に立つ神父の前には一組の男女がいた。

そう、この男女……男性は高町 恭也とフィリス・矢沢……今日からはフィリス・高町となる女性である。

いつもは真っ黒な服しか着ない恭也が真っ白なタキシードを着て。

フィリスは純白のウエディングドレスにその身を包んで。

「汝、高町 恭也はこの女性を妻とし、神の教えのもとに、病めるときも健やかなるときも、その命ある限りこれを支え、敬い、慰め、愛し続ける事を誓いますか?」

「はい、誓います」

神父の言葉に、恭也は自分に言い聞かせるように、それでいて高らかに宣言するように言う。

「汝、フィリス・矢沢はこの男性を夫とし、神の教えのもとに、病めるときも健やかなるときも、その命ある限りこれを支え、敬い、慰め、愛し続ける事を誓いますか?」

「はい、誓います」

フィリスも、自分自身に言い聞かせるように、それでいてこれからの未来に期待をしながら答える。

「では、誓いの口付けを」

神父の言葉の後、恭也はフィリスの顔を覆っていたヴェールをあげて、フィリスを見つめる。

「フィリス…」

「恭也…」

そして、二人の顔はどんどんと近づいていき……

「んっ・・・」

二人は誓いの口付けをした。

その瞬間、来ていた人たち全てから大きな拍手が響き渡る。

「神のもとに集いし人々を証人とし、二人は神聖なる結婚に同意し、お互いの忠誠を誓いました。 神の名のもとに、二人が夫婦である事を、ここに宣言します」

そう言って、神父は未来へと歩いてゆく二人に微笑む。

「さぁ、未来へ向かって進んでいってください」

その言葉の後、二人は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

新しいスタート

 

 

 

 

 

これは、私が書いた【戦え乙女達】の半年後のお話です。

恭也は怪我のために、もう御神流を振るう事が出来ません。

このお話はかなりオリジナルな要素も含まれていますので、ご注意を。

ではでは〜〜

 

 

 

 

それは、恭也の退院を暫くに控えたとある日……

「そろそろ退院ですね……」

ここは海鳴大病院にある一つの病室。

恭也が入院している部屋である。

ちなみに、桃子さん命名【二人のラブラヴ逢瀬のお部屋】らしい……

それを聞いたときの恭也は顔を真っ赤にして叫び、フィリスも恭也以上に顔を真っ赤にして沈黙していた。

そんな部屋の中で、フィリスは恭也に言う。

「ああ、これもフィリスのお陰だ……感謝する」

自分の膝を見ながら、恭也は答える。

あの時に砕いたこの膝は、最早治る確立などゼロにも等しいものだった。

恭也自身もそのつもりでいたのだが、フィリスが必死になって治療を施し、治る可能性を探し続けた。

そして、恭也自身もそのフィリスの努力を理解し、血の滲むようなリハビリに耐え抜いた。

その結果、恭也はあと少しで退院というところまで来ていた。

それでも、暫くは松葉杖を使っての生活だが。

「いいえ、それよりも恭也が必死にリハビリをしたからですよ」

「いやいやフィリスの……」

「恭也の……」

そこまで言って、二人は苦笑する。

「二人で頑張ったから、治ったんだよな……」

「はい、恭也……」

頷いて、二人はお互いを抱きしめあう。

そして、軽くキスを……

「そろそろ休憩時間も終わるからいくわね」

「ああ、頑張ってくれ」

フィリスはそう言って部屋を出て行った。

「あと少しでここともお別れか……」

ベッドになんとなく寝転がり、恭也は呟く。

(それまでには……何とか伝えたいな)

ふと横の机の引き出しの中に入っているものを思う。

(まさかリスティさんにあそこまで散々からかわれるとは思わなかったが……)

その中にあるのは……昔、恭也が失踪する前に買っておいたフィリスに渡す為の、婚約指輪。

女々しいと思われるかもしれないが、失踪中恭也はこれを肌身離さずもっていた。

なんとなく、フィリスと繋がっている、そんな気を持たせたからだ。

で、それをリスティが目敏く見つけ問いただされたのだ。

本人はフィリスに言わないといっていたが、どうにも信用できなかった。

だが、いまだにフィリスがそれを聞いてこないと言う事は黙っていると言うことなのだろう。

(フィリスには一番迷惑をかけたからな……どうにか恩を返したいし、これからもずっと一緒にいて欲しい)

それは、純粋に本心から恭也が思う言葉。

(だが、どうやって渡せばいいんだ……こういうことは経験などないからな……)

そうである。

恭也にとっての悩みの種は、まさにこれなのだ。

タイミングをつかめない、と言った方がいい。

(かといって、相談する相手もいないしな……いや、いても早々相談できるもんじゃない……)

頭に浮かんでくるのは桃子を初めとした年長者だが……恭也は確信していた。

言ったら最後、100%からかわれる……と。

(それに、これは俺がどうにかしないといけない問題だ……他人に助力を求めるのは筋違いだろうな)

起き上がり、恭也は松葉杖を持つ。

そして、引き出しの中から指輪を取り出し、ポケットに入れる。

「気晴らしに屋上にでも行くか……」

そう呟いて、恭也は屋上へとつたないが歩いていった。

 

 

海に面しているため、海鳴大病院の屋上には海風がよく吹き込んでる。

「ここは……本当にいい眺めだな」

恭也は入院して以来、たびたび気晴らしにここへ訪れていた事があった。

そして、恭也は屋上のサッシに腕をついて凭れ、今までのことを思い出す。

(忘れもしないあの日……俺は皆を……フィリスを捨てて逃げたんだな)

自傷的な笑みを浮かべ、恭也は海を見つめる。

あの日、恭也は恐くなったのだ。

守れなくなる事に……自分が、弱くなってしまう事に……

(自分は強くなって皆を守らなければいけない……ある意味、そんな脅迫概念に突き動かされてやってきた。 それが苦痛だと思う事も、破綻しているということも気付かないまま走り続けてきた……)

ぎゅっと手を握り締める恭也。

(その結果が……【斜陽の剣士】と言う俺……だから、こんな俺だから……結局、何を守るべきかも定まらなかったんだ)

あの日から、恭也は当てもなく彷徨い、生きてきた。

それはそうだろう。

今までの確固たる自分と言う足場が、崩れ去った事に等しいほどの消失感。

自分の考え、行動の全てが間違いだったとも思える焦燥感。

それら全ての苦痛から逃げるために、恭也は裏社会へとその身を落とした。

好きだったフィリスにも、守りたかった皆にも背を向けて……

(こんな俺が……フィリスに……フィリスを好きでいる資格などあるのだろうか?)

この問いは、あの日……フィリスと1年ぶりに再会したあの日にも、フィリス自身に尋ねた問い……

こんな自分でも、あなたは愛してくれますか……と。

自分でも卑怯な言い回しだったと、恭也は思っている。

(フィリスは心の強い人だ……俺なんかよりも、何倍も……何倍も)

ふと、恭也の頭にまたよからぬ考えが浮かび上がってくるのを、恭也自身が判っていた。

「リスティさんが言っていたな……フィリスは気丈そうに見えて、本当は弱いと……俺が支えてやれと……」

それは、帰ってきたあの日に、リスティに一発殴られてから言われた言葉。

リスティは泣きながら、恭也の胸倉を掴んで言った。

その時のリスティの目は姉のもので……母のもので。

(だから……償いたいからと言う気持ちでこれをフィリスに渡すことは出来ないし、してはいけない……)

償いは、後悔していると言った感情を相手に持たせる事が多い。

そんな気持ちでフィリスにこれを渡すことは、恭也自身が許せるものではなかった。

心のどこかで、フィリスは絶対に自分を拒まないと思うところもあった。

今までの行為を思えば、それは至極当然の考えだが、それは相手の好意につけ込んだただの悪意だ。

「悩んでも仕方がないな……いずれ言わなければならない話だ」

そう言って、恭也が振り向くと……

「フィリス……?」

フィリスが、その髪を海風に揺らしながら立っていた。

心なしか、息も荒いように見える。

「恭也ぁっ!!」

そして、フィリスは突然恭也に抱きつく。

「フィリス!!?」

突然のフィリスの行為に、恭也は驚く。

「もうっ、心配したじゃないですかっ……病室に行ったら恭也がいなくて、何だかとっても悪い予感がしたんですよ……」

そう言って、恭也に縋り付くフィリス。

「もしかしたら、また恭也が私を置いていったんじゃないかって……信じてたのに、そんな嫌な考えが浮かんできて……」

気付いたら、フィリスは走っていた。

まるで、不安を拭い去るように……

「すまない、フィリス……」

恭也は、フィリスの体を強く抱きしめて、謝る。

「こんな俺を、愛してくれてありがとう……」

「恭…也……?」

その恭也の言葉に、フィリスは違和感を覚える。

まるで、別れ話を持ちかけたときのような……

「俺はあの日……皆を、あなたを捨てて逃げました……このことに、変わりはない」

フィリスの体を抱きしめながら、恭也は語りだす。

「あなたを愛すれば愛するほど、自分のやっている事の意味を考えました……人を助けるあなたの側に、人殺しの自分がいる。 それは、かなりの苦痛を俺に与えてくれました」

たとえ守るためとはいえ、恭也は何人もの人間を殺してきた。

龍という、一族を皆殺しにした組織にも復讐を誓い、それを果たした。

「だけど、そのことであなたを恨むなんていうことはないし、嫌いにもなりませんでした……むしろ、自分がとてつもなく、穢い人間に思えたんです」

そう考え日々を過ごしていく内に、その思いはついに爆発したのだ。

「そして、守りたかったあなたに寂しい想いをさせ、あまつさえ苦しめてしまった……」

フィリスの元に返ってきて以来、それが恭也の心に問いかけていた。

「こんな俺が言う事は、信用に値しないかもしれませんし、馬鹿な事をと言われても仕方がないと思います……けど」

そこで、恭也はフィリスの肩を掴んで、向かい合う。

「言わせてください……フィリス、俺はあなたを愛している……この命尽きるまで、この俺が死に逝くその時まで」

言って、恭也は持っていた指輪を、フィリスの左手の薬指にはめる。

それを見たフィリスは、涙を溢れさせる。

「あなたが拒んでも、俺は何も言いません……それに、これは俺の心からの本心です。 同情とか、償いとか……そんなのは関係ない」

強く、恭也は自分自身に言い聞かせるように言う。

「恭也ぁっ!!」

恭也の名を呼んで、フィリスは恭也に思いっきり抱きつく。

そして、熱い……恋人から、一歩進んだ夫婦のキスを。

 

 

「そのっ……指輪の事は、リスティから聞いてました」

恭也の病室に戻ってきて、フィリスは恭也にそういった。

どうやら、リスティはやっぱりフィリスには言っていたらしい。

「でもリスティが黙っておいた方が良いって言ったんで、ずっと待ってたんですよ?」

恭也に凭れ抱えるようにすわり、フィリスは言う。

「面目ない……どうも渡すタイミングと言うものがわからなくてな。 後、自分の気持ちにもきちんとカタをつけていなかったからな」

頬を指でかきながら、恭也は言う。

「でも、やっと答えが出た……俺は純粋にフィリスを愛しているし、その事に見返りを求めているわけでもない。 ただ、人を愛する事が、こんなにも難しい事とは思わなかった」

「それは私だって同じよ、恭也に何か見返りを求めて好意を寄せてるわけじゃないもの……純粋に好きで、お互いが一緒にいるときが嬉しくて」

笑いあって、二人は語る。

「退院したら、真っ先に矢沢さんのところに言ってくるよ、正式に……フィリスとの結婚を申し込みに行く」

力強く、恭也はそう宣言するかのように言う。

「じゃあ、私は桃子さんのところに行こうかしら、恭也をくださいって」

フィリスは、少し笑いながら言う。

「断られても大丈夫だ、俺はもうフィリスだけのものだし、それ以外の人のものになるつもりはない」

フィリスの頭を撫でながら、恭也は言う。

「随分と遠回りして待たせてしまったが……俺はもう、フィリスの側を離れないよ」

「離れて行っても、追いかけちゃいますよ?」

そのフィリスの言葉に、恭也は苦笑するのだった。

 

 

そして、数日後恭也は無事退院して、その足でフィリスの父である矢沢医師の元を訪れた。

正式に、フィリスとの結婚を申し込みにだ。

恭也自身、フィリスを捨てていったと言う前科があるので、すんなりいかないだろうと考えていたが……

「フィリスの事を、よろしく頼むよ」

と、二つ返事で了承されたのだ。

その時に矢沢夫妻の表情を、恭也は眼に焼き付けた。

娘の幸せを願う、親の表情だったのだ。

だからこそ恭也は、フィリスの事を必ず幸せにすると矢沢夫妻の前で己が剣に誓った。

その頃、フィリスは翠屋に来ていた。

恭也とのことを、桃子に報告に来たのだ。

フィリスは桃子に、自分の気持ちはあの日から……恭也の恋人になったその時から変わっていないことを話した。

そして、これからずっと幸せになっていく事も、一緒に約束した。

それを聞いた桃子は微笑んで、「おめでとう」と、笑いながら祝福してくれた。

そして次の日に、二人揃ってさざなみ寮に来ていた。

リスティと、一番フィリスの事を心配していただろう耕介や愛、真雪に報告するためだ。

そして、恭也がフィリスとの結婚の話をし終えたとき、真雪に一発殴られた。

フィリスは真雪に言いかかろうとしたが、それをリスティがとめた。

恭也も、その真雪の拳を避けるつもりなどなかった。

これは受けて当然の痛みで、それだけ真雪がフィリスの事を心配していたと言う証なのだから……

真雪は最後に、恭也にこういった。

「絶対に幸せになる事。 これが守れないようじゃフィリスとの結婚は許さんからな」

真剣な真雪の言葉に、恭也は力強く頷いた。

それから少し慌しい日々が続いた。

思い立ったが吉日とでも言わんばかりに桃子が式場の予約やらなんやらを一挙にやってしまったのだ。

真雪たちは参加者への知らせなどをやっており、実に2週間の内に全てが整ってしまったのだ。

そして、結婚式当日は凄まじい人だかりになった……

 

 

「恭ちゃん〜〜〜!! フィリス先生〜〜〜!! おめでとう〜〜〜!!!」

教会から腕を組んで歩いてくる二人に、美由希がまず叫ぶ。

「フィリス〜〜〜、とりあえず綺麗だぞ〜〜〜〜」

リスティはリスティで煙草片手にフィリスにそんなことを言う。

それを聞いたフィリスは顔を少し赤くしながら、歩く。

「フィリス、そろそろ良いんじゃないか?」

「そうね」

恭也の言葉に頷き、フィリスは前を向く。

「皆さん……今日は来てくれて、本当にありがとうございます!」

笑顔で、フィリスはそう言ってブーケを投げた。

「貰うよぉっ!!」

「渡しませんよ!!」

「おれんだっ!!!」

「うちのやぁっ!!!」

そして、それをとろうと皆が腕を伸ばした。

「フィリス、幸せになろうな」

「はい! 恭也!!」

そんな中、恭也とフィリスは、再び熱い口付けを交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

斜陽番外編終了!!

フィーア「恭也とフィリスの結婚を描いたお話ね」

一つの節目みたいなものだからね、これは。

フィーア「よく結婚は人生の墓場なんて聞くけどあんたがどうなのよ?」

僕的には良い事だと思うよ、本当にお互いが好きだったら尚のことね。

フィーア「ふぅ〜ん、そんなもんかな」

そんなものです。

フィーア「で、これから本編のフィーアたちの話に移るのね」

おう、シリアスなバトルものだ。

フィーア「じゃあ、ちょっとだけ予告!!」

 

 

「私はL-C09……覚えているかしら、L-C05……いいえ、フィーア?」

突如として現れたフィーアの妹を名乗る少女。

「思い出すのよ……あの日々を……地獄のような、血と硝煙の世界を!!」

少女の言葉に恐怖し、フィーアは高町家から逃げ出すように出て行く。

「思い出したよ……私の本当の姿も……この羽の、本当の意味もっ!!」

フィーアは戦う……大好きな両親の為に……なによりも、自分自身の為に……

「こんな平和な時代に、私達みたいな兵器は必要ないんだよっ!!!」

守るべきための戦いのその果てに……何が待っているのか……

次回 斜陽シリーズ第6弾!! 戦姉妹(ヴァルキュリア)

「もし生まれ変われるなら……その時はまた、お父さんとお母さんの子供がいいなぁ……」

 

 

ってな、感じ。

フィーア「まぁた新キャラ?」

重要なキャラクターだぞ、ホントに。

フィーア「じゃあ、さっさとかこうねぇ」

ヤー!

フィーア「ではでは〜〜〜」




番外編、恭也のプロポーズ。
美姫 「ずっと待っていたフィリスも健気よね」
うんうん。
美姫 「さて、本編は何やら起こりそうだけど」
そっちもそっちで楽しみだな。
美姫 「一体、本編では何が待ち構えているのか」
そちらも楽しみにしつつ、今回はこの辺で〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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