「我が師恭慈と同じ技を継ぎし者とはお前の事か?」

それは、寂れた何処かの建物のホールのような場所。

そこに、一人の青年と一人の少女が立っていた。

二人とも全身と顔をローブで覆っており、その表情は見えない。

唯、女性はきつく纏っている所為か、ボディーラインが見て取れた。

「…………お前の言う恭慈さんが、俺の知っている人ならば、YESだ」

黒いフードで顔を隠した青年が、答える。

「見たところかなりの優男っぽいけど……本当にそうなのか?」

半信半疑で少女は訪ねる。

「信じないというならばそれでも構わん……俺は、面倒は嫌いなんだ」

言って、青年は踵を返す。

「まぁ待って、信じないわけじゃないわ……唯の、確認よ」

少女はそう言って、体と顔を覆っていたローブを脱ぎ捨てる。

「噂はかねがね聞いているわ……【斜陽の剣士】さん」

ピタと、青年は足を止める。

「此方もお前の事は聞いている……【堕纏の御神】と、名乗っているそうだな?」

青年は少女と向き合い、言いかえす。

「判り易い二つ名でしょ……我が師恭慈より、お前の事を聞いていた。 だから、戦ってみたかったのよ」

腰の小太刀に手を回し、少女は言う。

「他をあたれ……俺はやらん」

つまらなさそうに、青年は答える。

「あら……【斜陽の剣士】ともあろう者が怖気づいたのかしら?」

あざ笑うように、少女は青年に言う。

「何とでも言え……俺はやらんといった以上やらん」

「なら……やる気にさせてあげる」

ニヤッと笑い、少女は構える。

御神無慟流(みかみむどうりゅう)……」

言って、少女は駆け出す。

 

 

――――――――極死戦刃(きょくしせんじん)――――――――

 

 

慟哭を無に還す……御神無慟流。

死を極めし戦の刃が、青年に振り下ろされる。

御神無限流(みかみむげんりゅう)……」

それを見た青年は一瞬にして己の腰にさしてある小太刀に手を伸ばす。

 

 

――――――――哭死逝剣(こくしせいけん)――――――――

 

 

無限に続く慟哭の死を体現せし、御神無限流。

二つの奥義が、ぶつかり合う。

その際、少女の小太刀は弾き飛び、青年のローブは粉々に切り裂かれた。

「これでもまだ……やる気が起きない?」

挑発するような笑みで、少女は言う。

「…………いいだろう」

青年は小太刀を構えなおし、答える。

「不破 恭也……【斜陽の剣士】、参る」

「ラビ・シャル……【堕纏の御神】、押して通る」

まるで宣言のように高らかにその声は響き、二人は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

斜陽と堕纏

 

 

 

 

 

これは私が書いた【斜陽の剣士】から1年後のお話です。

恭也は裏社会ではかなり有名になっており、美沙斗達も恭也のことを知っています。

これはかなりオリジナルの色が強いです。

そういうのがお嫌いな方にはお勧めできません。

それでもよろしければどうぞ……

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ラビの雄たけびと共に、小太刀が振るわれる。

「ふっ!!!」

それを、恭也は両方の小太刀を交差させて受け止める。

「っ、せいっ!!!」

受け止められた反動でラビは中に浮き、回し蹴りをさらに恭也に喰らわせる。

「ちぃっ!!」

左肩に凄まじい衝撃が走り、恭也は後ろに後退する。

「中々やるじゃない……よくそんな体で戦えるわね」

ラビは徐に恭也の膝を見ながら言う。

「恭慈さんに教わらなかったのか……御神流はいつ、どんな場所で、どんな状態でも戦えるように訓練されているんだ……これしきなら、支障はない」

言って、恭也は構える。

「そう……なら、遠慮なんていらないわね」

ラビはそう言って鋼糸を先ほど弾け飛んでいた小太刀に向かって投げ、引き寄せる。

御神無刀流(みかみむとうりゅう)……」

御神無戒流(みかみむかいりゅう)……」

 

 

――――――――与奪生死(よだつせいし)――――――――

 

 

――――――――爆砕逝紅(ばくさいせいこう)――――――――

 

 

二人は同時に駆け出し、技を放つ。

刀を使わずに、鋼糸と飛針によって相手の生死を与奪する御神無刀流。

全てを無の破壊へと誘う、御神無戒流。

ラビから放たれた鋼糸と飛針が、恭也の小太刀によって全て打ち砕かれる。

御神無尽流(みかみむじんりゅう)っ!!!」

恭也は飛来する飛針と鋼糸を打ち砕いていたため、少しばかりの隙が出来た。

その一瞬を逃さずに、ラビは次の奥義の構えを取る。

 

 

――――――――紅断慟突(こうだんどうとつ)――――――――

 

 

紅の槍と化したラビの小太刀が、一直線に恭也目掛けて放たれる。

「御神流裏・奥義之参……」

しかし、恭也は焦らずに、上体を捻る。

 

 

――――――――射抜――――――――

 

 

恭也の小太刀とラビの小太刀が剣先でぶつかり合い、弾け飛ぶ。

「しゃぁっ!!!」

その一瞬の交差の時、恭也はラビの太腿を横からもう一本の小太刀で突き刺す。

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

その痛みに、ラビは叫び声を上げる。

「射抜・追……何も御神六奥義だけが俺の技ではない」

小太刀を振って付着した血を払い落とす恭也。

「お前は恭慈さんから六奥義だけしか教えてもらっていないようだな……それでよく、御神を名乗る」

「っるさいっ!!」

ラビは言って、立ち上がる。

「無慟流と無限流、無刀流と無戒流、無尽流と無葬流……相反する奥義を放ち続ければ、勝つ事はないが負ける事もない……しかし、それは六奥義に限定すればの話だ」

小太刀を翻し、恭也は言う。

「教えてやろう……この六奥義が何故無類の殺人技になったのかを……それはな‘御神の奥義を極めた者’が振るうからこそ、この技は封じられたのだ……判るか?」

恭也はラビに問うが、ラビは答えない。

「御神流を極めた者が、この奥義を使えばそれこそ欠点同士を補い正しく無類の剣に昇華される……ゆえに、この六奥義は封印されたのだ」

小太刀を鞘に戻し、恭也は言い放った。

「これで判っただろう……お前は御神ではないし、御神にもなれない」

宣言するようなその言葉に、ラビは唇をかみ締める。

「貴様に……貴様に、私の何がわかるというんだ……」

フラフラとしながら、ラビは言う。

「我が師恭慈の為に……私は負けるわけにはいかないんだっ!!!」

叫んで、ラビは神速の領域に入る。

「…………愚かな」

ため息一つついて、恭也も神速の領域に入る。

「まだ判らないか……お前は……」

「五月蠅いっ!!!!」

恭也の言葉を遮って、ラビは叫ぶ。

「あんたを倒さないと、私は捨てられちゃうんだっ!!!!」

その瞬間、恭也の視界からラビが消える。

「我流疾走法 壁添……か」

言った後、恭也の右肩が斬り付けられる。

凄まじい速さだったので、恭也の肩から血が噴出す。

「はぁ……はぁ……」

息を荒げて、ラビは恭也の前に現れる。

「やめておけ、その足で壁添を放ち続ければ、砕けるぞ……」

「あんたを倒せるのなら……砕けても構わないんだよ」

構えて、ラビは答える。

「死に急ぐか……ならば、本気で相手にしないと失礼というもの」

目を閉じて、恭也は構える。

「私は負けない……負けてなんてやるもんかぁっ!!!」

叫びの後、ラビが消え去る。

「……さらばだ」

呟いて、恭也も消える。

神速を超えた領域の中、ラビの小太刀と恭也の小太刀がぶつかり合う。

「ぐぅぅぅぅぅっ!!!!」

痛む足を無視して、ラビは小太刀を振るい続ける。

「はっ、せいっ!!」

そんなラビに対して、恭也は微塵も容赦はせずに、剣閃を繰り出す。

ラビは防戦一方に何とか防いでいくが、徐々に反応が鈍くなる。

「疾ッ!!!」

その鈍くなった隙を見て、恭也は飛針を投げつけ、その飛針を右の小太刀でラビは弾き返す。

(貰ったな……っ!!!)

その一瞬の隙を、恭也は見逃さない。

「御神無刀流……」

 

 

――――――――与奪生死――――――――

 

 

一瞬の交差で……恭也の放った飛針がラビの右掌と左足に突き刺さり、その飛針につけていた鋼糸で、ラビの動きを封じる。

「がふっ!!!!」

一瞬にして速度をとめられた為、ラビは鋼糸に叩きつけられるような形になり、血を吐き出す。

「勝負あり……だな」

小太刀を鞘に戻し、恭也は言う。

「誰かが見つけてくれれば助かるだろう……それに、これを気に裏社会から手を引け……お前では、いずれ死ぬ」

鋼糸の捕らえられたままのラビにそう言って、恭也は歩き出す。

「待てぇぇぇっ!!! 私に、生き恥をかけと言うのか!!!」

「お前は女だろう……女には女の幸せがあるはずだ……それを探せ」

歩みは止めずに、恭也は言った。

「うぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

恭也の言葉を聞いた後、ラビは雄叫びを上げ、鋼糸を切り裂く。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

そのまま恭也向けて走り出す。

そして、ラビの小太刀が恭也に届く一歩手前で……

 

 

――――――――御神流奥義之陸 薙旋――――――――

 

 

神速の抜刀の四連戟が、放たれる。

「がふっ……ごほっ……」

それは、ラビの首と体と、左腕と腰を斬り裂いた……

首筋は深く切り裂かれ、そこから息が漏れ出している。

「……………………」

それを見た恭也は、静かに、手を合わせる。

「死んだ者に対して罪悪感でも感じているのかい?」

そこに、一人の男の声が響く。

「彼女は……御神というものに踊らされた、被害者ですからね……」

目を瞑って、手を合わせたまま恭也は答える。

「これが、あなたの望んだ結果だったんでしょう……恭慈さん」

振り返って、恭也は目の前の男……恭慈を見る。

「さぁ、どうだろうね……望んでいたかどうかは判らないけど、判っていた結末の一つとだけ言っておこう」

とぼける様に、恭慈は答える。

「それに、君が悲しむ事はないよ……弱いものから死んでいく世界さ、ここはね……」

その言葉が、恭也の癪にさわった。

「あなたはっ!!! それが弟子に対する台詞かっ!!!!」

初めて、恭也は恭慈に殺気を向ける。

「彼女はあなたに必死に恩を返そうとしたいたんですよっ!!? それをっ!!!」

「恭也、君は一つ勘違いをしている……」

殺気を全開にして睨む恭也に、恭慈は静かに言う。

「彼女は私が気まぐれで拾って、技を教えていただけに過ぎない……君の言う師弟のような感情は、ないよ」

「恭慈ぃぃっ!!!」

怒りで叫んで、恭也は恭慈に斬りかかる。

「はははははっ、怒るなよ恭也」

刹那、恭也は吹っ飛ぶ。

「私が弟子と認めたのは君だけだよ……だから、這い上がってくるんだ……私のところまでね」

そう言って、恭慈は歩き出す。

「そうそう、そこに転がっているモノは君が処分してくれよ」

恭慈の声だけが……暗いホールに響く。

「くそぉ……くそぉっ!! くそぉっ!!!!!!」

ダンッ!! と、恭也は床を殴りつける。

「うおぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

恭也の叫び声が……虚しく響き渡った……

 

 

恭也が、再び恭慈と出会い戦うのは、これから半年後の事だった……

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

  

斜陽番外編第3弾 斜陽と堕纏終了です。

フィーア「なんだか、劇中の恭也は恭也じゃない気がする」

うぅ、それはボクも思ってた……

フィーア「なんていうか、恭也らしくない台詞ばっかりね」

確かに……

フィーア「で、この半年後が本編な訳ね?」

ああ、とりあえずそうなるね。

フィーア「本編の方などうなのよ?」

う〜ん、考え中……かな。

フィーア「まぁさっさと書くように」

ハイハイサー。

フィーア「ではでは〜〜〜」




外伝第三弾〜。
美姫 「前に言ってたラビのお話ね」
うん。読みたいと言ったら、書いてくれたんだ♪
美姫 「でも、ちょっと可哀想ねラビ」
まあな。
っと、とりあえず、この話の半年後が本編へと繋がると。
美姫 「そうみたいね。じゃあ、次のお話も楽しみに待つとしましょう」
だな。それでは、また〜。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」



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