――クロイシア連邦軍第2遊撃隊所属・アイゼンバウト級3番艦イブリースブリッジ。

「目標、フェイズアウトしていきます」

 オペレーターの報告に、指揮官であるライドシュナイトは面白そうに口元を歪めた。

「中々に素早い対応じゃないか。どうやら、あれの指揮官はかなり優秀なようだ」

「感心してる場合じゃありませんよ。急いでわたしたちも逃げないとあれに巻き込まれます」

 暢気に構えている上司に向かって、傍らに控えていた少女が悲鳴を上げる。

「ふむ。それは困るな。よし、あの艦のフェイズアウト先を特定しろ。我々も後を追うぞ」

「正気ですか!?

「ああ。何か問題でもあるのか?」

「先方はあれを攻撃と判断したでしょう。今遭遇すれば、確実に戦闘になりますよ」

「そうなる前に詫びを入れるんだ。何、真心込めて謝れば冗談で済ませてくれるさ」

 真顔でそう言った途端、ライドの脳天を少女の拳が直撃した。

「寝言は寝てから言ってください。どこの世界に至近で重力崩壊を起こされて冗談で済ませてくれる人がいるんですか!?

「いや、IPKOに勤めているわたしの知り合いは至近でグレネード弾を炸裂させても笑って許してくれたんだが」

 殴られた頭を摩りつつ、ライドはぼそりとそんなことを言う。

 後で毒物と形容するのも生易しい青褐色の物体を賞味させられたことは億尾にも出さない。

「座標照合。G04783と出ました」

「カウントダウン開始します」

 オペレーターの報告を聞きつつ、少女は最後通告とばかりにライドを見る。

「別に構わないさ。彼女達の戦力評価も今回の依頼内容には含まれているのだから」

「依頼って、またそんな公私混同を」

「クルーの承諾は得ている。問題はないさ」

 呆れたように溜息を吐く少女に、この男はいけしゃあしゃあと言ってのける。

「軍人が部隊ぐるみでアルバイトしてるなんて上層部に知られれば軍法会議ものだってこと、本気で分かってます?」

 痛くなってきた頭を押さえつつ、少女は無駄だと分かっていることをそれでも一応ぼやいてみる。

「アッハッハッハ。さあ、戦闘だ。わたしも出るぞ〜」

 ブリッジに哄笑が響く中、もはや誰もそれを止めようとはしない。

 あるいは慣れてしまったのだろう。それぞれの顔には苦笑やら冷や汗やらが浮かんでいる。

 そんな中、少女は一人、先方の艦へと想いを馳せていた。

 ……確かに、そこにいる。

 会いたい。けれど、あの人にとってのわたしはきっと、もう……。

 そのとき、少女の中で何かが動いた。

 ――それは誘惑。

 ひどく危険で甘い、悪魔の囁きだった。

 ―――――――

  第10話 遭遇、超重力インパクト!

 ―――――――

 幾つもの光が宙を貫き、ミサイルが爆発を引き起こす。

 そこはティナにとって3度目の戦場だった。

 敵の数が多いうちはなるべく散開しないように。こちらが各個撃破されかねないからな。

 出撃前にディアーナから言われたことを思い出し、彼女は考える。

 ――向こうは旧式のAGXシリーズばかり12機。

 それに対してこちらはシェリーとクレアが新型に乗り換えている。

 機体のスペックや整備状況、それに彼女たちの実力も合わせて考えると勝てない数ではない。

 そう判断すると、ティナは右の掌をこちらに向かってきた敵の一機へと向けた。

 そこにエネルギーが集束し、立て続けに3発の光弾が放たれる。

 光弾は狙い違わずその敵、灰色のアサルトウォーカーに吸い込まれて爆発した。

 それに慌てた何機かが回避行動を取るが、そんな見え透いた動きでは彼女から逃れられない。

 続けて2機のキャノンウォーカーが光に貫かれて爆発した。

 瞬く間に3機を落とされ、たちまち逃げ腰になる連邦のパイロットたち。

 しかし、敵は彼女だけではない。

 隊列の乱れたところを狙ってクレアの駆るFFX103Eエメラルディアがマシンキャノンを連射し、同時に突撃したシェリーのFFX103Sサファイアクラウドがバスタードソードの一刀で逃げ遅れた一機を胴体部から上下に切断した。

 突撃をかわした2機もそれぞれ左脚部と頭部をマシンキャノンに撃ち抜かれて戦線を離脱している。

 本来なら、この時点で連邦側が撤退して戦闘が終わっているはずだった。

 先方に未だ隙はなく、このまま続けても一方的に殲滅されてしまう可能性が高いからだ。

 実はそう判断させることこそがシェリーたちの狙いだった。

 彼女たちの技量は高く、経験も豊富ではあったが、決して争いを好んでいるわけではない。

 先方が撤退してくれればそれだけ殺さずに済むとそう考えていたのだ。

 しかし、敵は一隻とはいえ戦艦クラスだ。

 まだ余剰戦力があると考えて、それも投入されれば事はそう簡単では済まないだろう。

『――レーダーに新たな機影!数3。機種不明。攻撃、来ます!』

 案の定、上方から打ち下ろされたビームにシェリーは小さく舌打ちする。

 時を同じくして、艦を守っていたファミリア達の前にも敵が姿を現していた。

 その数5機。

 前衛に仕掛けてきた部隊とは違い、こちらはすべて新型のAGX009・アルヴァトロスだ。

 データの照合を行ったレイラはその事実に驚き、小さく声を上げてしまった。

 というのもこの機体、公式発表ではまだロールアウトされていないはずなのだ。

 ――予定よりも早く完成した、ということなのでしょうね。

 上方を受け取ったファミリアは以前見る機会のあったアルヴァトロスのカタログスペックを思い出して苦い顔をする。

 アルヴァトロスはAGX007に代わる次期主力量産期として解発された機体だ。

 各所に最新の技術を使われ、その性能はあらゆる面でウォーカーシリーズを上回っている。

 それが5機。

 新型を優先して与えられているということはパイロットもそれなりの実力者ということだ。

 ――しかし。

 ファミリアが自ら設計したこのVTX03PTR・ルビームーンには及ばない。

『――テレキネシスリンク、フルコンタクト。ファンネル、射出します』

 見方機への合図も兼ねてそう声に出す。

 刹那、彼女の意思を受けてルビームーンの真紅の機体から7つのパーツが分離した。

 それらは増幅された念動波に乗ってそれぞれ別々の方向から敵機へと襲い掛かる。

 狙われたほうは堪らず回避行動に移るが、それを許すほどファミリアの詰めは甘くなかった。

 思いもよらない方向からの攻撃に、たちまち2機が貫かれて爆発する。

 その横では別の1機がリアスの操るDFT101RG・ローランドガンナーの放った大出力ビームキャノンに半身を蒸発させられて爆散した。

「オールレンジ攻撃に、艦砲並のビーム砲を持つ機体。1艦の戦力としては過剰だな」

「戦いを楽しむのは結構ですが、わたしの目的も忘れないでくださいよ」

 楽しげに笑みを浮かべるライドに、仮設シートに腰掛けた少女が後ろからそう釘を刺す。

「分かっているさ。では、そろそろ行くとしようか」

 軽く頷いてアームレーターを握り直すと、男は赤い愛機を加速させた。

「な、速い!?

 いきなり突っ込んできた赤いアルヴァトロスに、ファミリアは慌ててファンネルを呼び戻す。

 が、その敵は他の機体とは明らかに一線を劃した動きでそれらを悉く回避してのけた。

「とっさに包囲網を構築する技量は称賛に値するな。しかし、わたしには利かんよ」

「くっ!」

 ファンネルの制御を一時放棄し、ファミリアはルビームーンの右手にビームソードを握る。

 しかし、その刃が振り下ろされる前にライドは脇を通り抜けてアルフィスへと向かった。

 無論、すれ違い様にシールドを突き入れてルビームーンの追撃を牽制することも忘れない。

「行かせるかっ!」

 そこへビームキャノンを連射モードで放ちつつ、リアスが艦の前に立ち塞がる。

「向かってくる気概は買うが、その機体は砲戦用だろう。使い所を誤ったな」

 ビームキャノンの砲身を蹴り上げ、引き戻したシールドでコックピット上部を突く。

「うわっ!?

 バランスを崩したリアスの機体を逆の脚で蹴り飛ばすと、ライドはいよいよ対空砲火を突破しに掛かった。

 アルテミス級の火力は並の戦艦の比ではない。

 それでも通常のアルヴァトロスの3倍近い速さで動き回るライドの機体には掠りもしない。

 艦のEフィールドの傘に隠れつつ、弾幕射撃に加わっていたフィリスも懸命に応戦した。

 意外に正確なその射撃は何度か敵機の脇を掠め、幾ばくかの時を稼ぎ出すことに成功する。

 だが、必死の健闘も虚しく、ついにアルヴァトロスゼロは甲板へと降り立った。




 ―――機体解説。

・ナンバー006

名称:EST―X01・アルフィニー パイロット:ティナクリスフィード

兵装:ハンドランチャー×2 エーテリオンダガー×2 リフレクターウォール

解説:

先史文明末期に開発された万能可変外郭ES―UNITがティナクリスフィードの生態データを取り込んで完成した姿。彼女にとっての第2の体であり、ESU開発者であるアルフィニーシンクレアの魂を現世に繋ぐ器でもある。

ティナはこれを彼女との絆として機体にアルフィニーの名をつけた。

・ナンバー007

名称:FFX103E・エメラルディア パイロット:クレアローレンス

兵装:マシンキャノン 集束ビームライフル ビームソード×2 リストバルカン×2

解説:先史文明復興計画ヴァルキリープロジェクトの一環として解発された3機のジュエルズフォースのうちの一機。

小惑星から採掘される複合金属体プラネタリウムにエメラルドを混合した特殊合金を装甲材に、同金属の複合繊維をフレームに採用した画期的な機体で、その性能は既存機を大きく凌駕している。

・ナンバー008

名称:FFX103S・サファイアクラウド パイロット:シェリーアンダーソン

兵装:プラネタリウム製バスタードソード クラウドセイバー クラウドストリームアタック リストバルカン×2 ハンドストームランチャー×2 ビームブレストキャノン

解説:先史文明復興計画ヴァルキリープロジェクトの一環として解発された3機のジュエルズフォースのうちの1機。

装甲材にプラネタリウムサファイア、フレームに同金属複合繊維を採用したエメラルディアの姉妹機で、こちらは動力部にクラウドシステム(粒子変異装置)を搭載している。

本機はクラウドシステムとその応用理論の試験機であり、それ故に特殊な兵装を多く装備している。

・ナンバー009

名称:AGX009・アルヴァトロス パイロット:クロイシア連邦軍兵士

兵装:ビームブレード ビームライフル 90oアサルトキャノン 腕部速射砲×2

解説:AGX007に代わる次期主力量産期として解発されたクロイシア連邦軍の新型フォースフィギュア。

装甲材にアルマニウム合金、フレームに衝撃拡散型複合繊維を採用したことで高い耐弾性能を実現した初の機体で、その装甲は90oアサルトマシンガンの弾を通さない。また対ビームコーティングを施されたシールドは一般的なビームライフルを7度防ぐことが可能。




 ―――あとがき。

龍一「久しぶりの天上戦記です」

ティナ「ほぼ一ヶ月ぶりくらいになるかしら」

龍一「うう、戦闘描写が思ったように進まないんだ。スランプかな」

ティナ「またえらく局地的なスランプね」

龍一「日常風景とかは普通に書けるんだ。でも、戦闘が……」

ティナ「次回もまた戦闘なんでしょ?」

龍一「うっ、あ、頭が痛い」

ティナ「強化人間じゃあるまいし、ほら、ちゃんとしなさい」

龍一「分かったよ。では、今回はこのあたりで」

ティナ「失礼します」

 




うぅ、自分も戦闘シーンは苦手だから、その悩みがよく分かります。
美姫 「でも、アンタよりもかなり上手よね」
う、うぅぅぅ(大涙)
うわぁぁぁん。
美姫 「ありゃ、図星をつき過ぎたかしら。
     えっと……、まあ良いわ。フォローするのもしんどいし。
     そんな訳で、次回も非常に楽しみにしてますね〜」



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