とらハ・ろわいあ〜る
知佳と那美、フィリスと美由希がそれぞれ対戦しているころ、勝手に副賞扱いされていた恭也は体育館に向かっていた。どうせ誰かと対決するのなら、歩き回るよりどこかで誰かが来るまで待機していたほうが得策だと考えたからだ。
しかし、恭也は途中で体育館内にすでに先客がいることに気づいた。
(この気配は……ノエルか?だが、いつものノエルの気配とは若干違った印象を受ける……)
恭也が体育館に入り、あたりを見渡すと確かにノエルがいた。
「恭也様……」
「やっぱりノエルか。なんだかいつもと気配が違うかと思ったが、気のせいだったか」
「いえ、おそらくは自動人形としての力を大幅に制限したため、わずかに気配の印象が変わったのだと思われます。そのため、一般的な人間程度の力しか今はありません」
「そうか、そういえばリスティさんがルール説明のときに言っていたな」
「はい」
「まあいいか。それよりノエルの武器は何だった?」
「はい、私のリュックには『バスケットボール』が入っていました。ですから私は体育館に来たのです」
ノエルの答えを聞いて恭也は納得したかのようにうなずいた。
「俺の武器はこれのようだ」
そう言って恭也が取り出したのは『野球盤』だった。
「ちなみにノエルは野球のルールとか知っているのか?」
「はい、忍お嬢様が入力されたデータの中にはそういった類のものも入っております」
「そうか……しかし困ったことに俺のほうはそういった知識はほとんどないんだ」
「それでしたら、こちらのバスケットボールでフリースロー対決などというのはどうでしょう?」
「それなら俺もやり方はわかる。ノエルがそれでいいのならそれで勝負しよう」
「はい、私は構いません」
恭也対ノエルの勝負内容はフリースロー対決に決まったようだ。
一方、美術室での人生ゲーム対決はようやく中盤に差し掛かっていた。
「え〜っと、姉に酒代としてお金をたかられる。80000円払う」
「……真雪さんなら本当にやりそうですね」
ちょうど放送室の真雪は、恭也とノエルの対決を見ていたため、幸いなことに那美がぼそりとつぶやいた言葉は真雪の耳には届かなかった。
「次はわたしですね……6か。1、2……6。姉に一日中しごかれ、右足を骨折する。入院費として50000円払い、一回休み……う〜、薫ちゃん、ひどいよ〜」
「あはは……那美ちゃん、本当の薫さんはそんなことしないから大丈夫だよ」
「そうだといいですけど……」
美由希とフィリスの勝負も続いていた。
いつものドジっぷりからは想像がつかないほどの集中力で次々と二人はジェンガを抜いてさらに上へ積み上げている。
全ては勝利、すなわち恭也との旅行のため、その目標が二人の集中力を限界以上に押し上げている。
その集中力が一方にとってはあだとなったのだが……
明暗がくっきり分かれたのは、フィリスが付け根のほうからそっと一本抜いて一番上に置いた直後だった。
もうすでにジェンガはスタート時の1.5倍以上の高さになり、いつ崩れてもおかしくない状況だった。
「フィリス先生、なかなかやりますね……」
「美由希さんこそ……」
「うんうん、二人ともやるねえ」
「そんなことないですよ」
「そうですよ、わたしなんてまだまだです」
お互い謙遜し合ったあと、一緒になって笑う。
三人ともいい笑顔であった。
「「…………三人?」」
「ん?なに?」
「うわぁ!!し、忍さん!?」
「忍さん、いつの間にぃ?」
……ガラガラガッシャン
「……」
「……」
「……」
勝負の決着はあっけなく着いた。
ジェンガが崩れ、呆然とする三人の中、最初に立ち直ったのは忍の介入により勝ちを得た形となったフィリスだった。
「これで、わたしの勝ちですね」
「ちょ、ちょっと待って!今のは無しにしてよ!」
「駄目ですよ。ねえ、忍さん?」
「うん、一発勝負なんだから、もちろん美由希ちゃんの負けだよ」
「だ、だってだって」
「美由希ちゃん、あんまりしつこいと恭也に話しちゃうよ」
「え?な、なにを?」
「美由希ちゃんはゲームに夢中で普通に入ってきた私の気配に全く気づきませんでした、ってね。それ聞いたら恭也どうするかなあ」
きっかり三秒間、それを聞かされた後の恭也の行動を想像したあと、美由希の顔から血の気が引いていき、
「わたしの負けでいいですから、このことは恭ちゃんには言わないでください」
真っ青な顔で敗北宣言をした。
教室に真雪の声が響く。
「よし、そこまでだな。敗者は放送室まで来ること。以上!」
それを聞き、美由希はとぼとぼと歩いて出て行った。
高町美由希、フィリス・矢沢との『ジェンガ』対決にて敗れる。
【残り11人】
残された二人はそれを見送ったあと、対峙する。
「忍さん、さっきはありがとうございます。ただ、わたしは勝負の手を抜くつもりはありませんからね」
(そうです、ここで手を抜いて負けでもしたら、元も子もありませんからね。でも、美由希ちゃんに勝ったと思ったら、次は忍さんだし、わたしもついてませんねえ……)
「わかってるよ、そんなつもりで加勢したわけではないし」
(結局、美由希ちゃんが恭也と過ごした歴史が長いわけだし、そういった意味でも強敵を脱落させれたのは大きいね。正直、美由希ちゃんと比べたらフィリス先生を倒すほうが楽そうだしね)
「ところで、忍さんの武器はなんですか?」
「私の武器はこれ、オセロ。先生の武器はそのジェンガ?」
(一応ツイスターのことは黙ってたほうがいいかな)
「うん、まあ、そうですよ……」
「ジェンガはさっきやったばかりみたいだし、よかったらオセロで勝負しない?」
「あ、はい、いいですよ」
こうして、フィリスと忍のオセロ対決が始まった。
「いい試合だった、ノエル」
「はい、恭也様」
ノエル対恭也のフリースロー対決はようやく決着が着いた。
能力が制限されているにも関わらず、正確なスローを続けるノエル、それに負けず劣らず正確なスローを放ち続ける恭也。永遠に続くかと思われたこの勝負も35本目にノエルが外したことで決着が着いた。
「やはり能力を制限したせいか」
「はい、この体の状態だと、これ以上正確にスローを続けることは不可能なようです。ただ元の状態でも恭也様に勝てるかどうかは分かりませんが」
「元の状態ならノエルは楽勝できるのではないのか?」
「いえ、いくら忍お嬢様が現代科学の力を総結集して私を強化しましても恭也様以上にすることはかないません」
「それは俺が余りに人間離れしているということか……」
「はい、忍お嬢様は今でも時々恭也様が、もしかすると人外の生物かもしれないと疑っておられます」
「覚えてろよ、忍……」
その後、真雪からの放送があり、ノエルは放送室に戻っていった。
ノエル、恭也との『フリースロー』対決にて敗れる。
【残り10人】
「あきら〜」
「ん?」
調理室で休んでいた晶が、自分を呼ぶ声に顔を上げると、子供バージョンの久遠が入り口のところにいた。
「おお、キツネじゃん……そういえばお前も参加してるんだよな?」
「うん、あきら、久遠としょうぶする?」
「ああ、いいぜ。で、何でするんだ?俺の武器はこのダーツなんだけど」
「これ、久遠の武器〜」
そう言って久遠が振り回していたのは、どこか見覚えがある小太刀だった。
「そ、それって師匠の……」
まさかとは思いつつも、このゲームの主催者二人のことを思い出し、どこか心の奥で納得する晶だった。
久遠のほうはすでにやる気十分で、楽しそうに自分のリュックからもう一本の小太刀を取り出して、その一本を晶のほうへ差し出してきた。
「はい、あきらの」
「え…あ、ああ……」
(仕方ない、ここは腹を決めて……師匠、二人の甘い温泉旅行のために小太刀をお借りします!)
「じゃあ久遠、場所はこの調理室全体、制限時間なし電撃なしの一本勝負でいいか?」
「うん、久遠、がんばる」
「じゃあ……勝負!!!」
次は晶と久遠の対決ですか。
美姫 「しかし、雷撃なしというあたり、晶もちゃっかりしてるわね」
いや、雷撃ありにしたら、久遠に勝てないだろう…。
美姫 「そんな事やってみないと分からないじゃない」
んな馬鹿な。
美姫 「馬鹿って言うな!」
ぐがぁ!べ、別に美姫の事を言った訳では……。
美姫 「え、そうなの!?」
あ、ああ。ガク。
美姫 「……あ、あはははは。それじゃあまた次回〜」