『An unexpected excuse』

    〜聖編〜






「俺が好きなのは・・・」

「うんうん」

恭也の言葉の後に明らかに恭也の後から声がした。

それを聞いて恭也はすぐに後ろを振り返るが・・・。

「やっ」

姿を見て、恭也は固まる。

「お〜い・・・」

固まる恭也の目の前で手を振る少女。

「せっ、聖さんっ!!?」

恭也は驚きの声をあげる。

「そうだよ、自分の彼女見て固まるのはどうかと思うよ、恭也」

聖と呼ばれた少女はにんまりと笑う。

少女の名は佐藤 聖・・・。

東京にある私立リリアン大学在学の大学生である。

「どうしてここに・・・?」

恭也は驚き以外の感情が出てこない。

普段無口、寡黙、無表情と3拍子そろっている恭也がだ。

「ん〜〜、恭也の両親に会いたかったのと、たまたま3日ほど授業がないんだね、これが」

手を振りながら聖はそう言った。

「ってことで、恭也借りてくね」

そう言って聖は恭也の手を握って、学校を出て行った。

 

 

 

「今の人・・・凄く綺麗だったね・・・」

その場に残されたFCの女の子が呟く。

「恭ちゃん・・・どこであの人に会ったんだろ・・・」

美由希が二人の出て行ったほうを見ながら言う。

「お師匠の友好関係も不思議ですからなぁ・・・」

レンもそれにあわせて言う。

「まぁ、恭也さんが帰って着たら詳しく聞きましょう」

那美がそう言ったので、この場は皆教室へと戻っていった。

 

 

 

「いや〜〜、恭也モテモテだったね」

「ご冗談を・・・」

聖の言葉に恭也はすぐさま言い返す。

今、二人は商店街を歩いていた。

「まず、父さんに報告に行きましょうか・・・」

「そうだね・・・」

恭也の言葉に聖は素直にうなずく。

「でもあのまま言ってくれてもよかったのに」

聖は少し悪戯っぽい顔で言う。

「いえ・・・聖さんに迷惑がかかるといけないので・・・」

恭也は申し訳ないといった表情で言う。

「そんな事ないけどな・・・だって、恭也のする事で迷惑なんて考えたことなんてないよ」

笑いながら、二人は商店街を抜け出て、高台の墓地へとくる。

「父さん・・・」

恭也は士郎の墓前で膝をつき、座る。

「俺・・・好きな人ができたよ・・・この2本の剣で・・・護りたいと思える人が・・・」

恭也は目をつぶり、語りかけるように言う。

「佐藤 聖さんというんだ・・・とてもいい人で・・・俺にはもったいないくらいだ」

苦笑し、目を開ける。

「だが、俺は聖さんを愛している・・・この人を悲しみからも・・・傷つけるものからも、護っていくよ」

そう言って恭也は立ち上がった。

「いいかな・・・」

聖はそう言って恭也と代わって墓前にしゃがむ。

「私・・・二年位前まで・・・人をもう愛さないって・・・思ってた」

聖は呟くように語りだす。

「栞のこともあって・・・絶対に人をあんな風には愛せない・・・誰も愛さないって・・・決めてた」

言葉には・・・聖の思いが・・・込められていた。

「初めて恭也に会ったとき・・・栞や志摩子と会った時みたいな感情にとらわれた・・・」

そう言って目を閉じる。

「初めは軽い気持ちで恭也と会っていたのかも知れない・・・でも・・・段々・・・好きになってた」

聖の独白を、恭也は後で静かに聞いていた。

「もう好きにならない・・・愛さないって決めてたのに・・・大切な物からは一歩退こうって思っていたのに・・・進んでいた」

喋っているうちに、聖の目には涙がたまっていた。

「誰にも渡したくなかった・・・誰にも渡せなかった・・・栞と・・・ううん、栞以上に愛していたから・・・」

そう言って聖は立ち上がり、恭也の方を見る。

「今ここで・・・もう一度言うよ・・・恭也・・・愛してる・・・」

その言葉のあと、恭也は聖を抱き締めていた。

「俺も・・・最初はどこかもの悲しげな表情をする人だなと、思っていました」

抱き締めながら、恭也は語りだす。

「ですが・・・いつのまにか・・・貴女を護りたいという感情が日に日に大きくなっていました・・・」

先ほどの聖の独白に答えるかのように・・・。

「そして・・・それは俺が貴女を愛しているからだという事に・・・気付きました・・・」

抱き締める腕に、力を込める。

「だから・・・俺は貴女を護りたい・・・貴女が悲しみに縛られないように・・・護っていきたいです」

その言葉のあと、聖も恭也を抱き締める腕に力を込める。

「うん・・・絶対、離さないからね?」

顔を上げ、悪戯っぽい顔で言う聖。

「どこかに行く時は絶対一緒でね・・・恭也のいない楽園で過ごすより・・・恭也と一緒に楽園を追われた方が良いから・・・」

涙を流しながらも・・・最高の笑顔で言う聖。

「はい・・・俺も、絶対に貴女を離しません・・・」

そう言って恭也は聖に口づけをする。

「んっ・・・」

お互いがお互いを求め合うかのような抱擁・・・。

風が吹き・・・二人の頬を撫でていく。

「では・・・次は母さんに報告に行きましょうか・・・」

そう言って恭也は聖の顔を見る。

「そうだね・・・結婚のお許しをもらわないとね」

先ほどのまでの雰囲気はどこへいったのか・・・。

カラカラとわらいながら、聖は言う。

「ええ。なら、早く行きましょうか・・・」

そう言って恭也は聖の手を取り、墓地を後にした。

 

 

 

「士郎さん・・・ついに恭也も結婚ですよ・・・」

高町家の居間で・・・桃子は感慨に耽っていた。

家に帰ってきた恭也と聖は桃子に今までの経緯を話し、結婚の承諾を確認したのである。

「うぅ・・・美由希の方が先に相手作っちゃうんじゃないかって心配してたのよねぇ・・・」

本人の目の前で言いたい放題言う桃子。

「でも、盆栽が趣味だとは聞いてたけど実際に見ると驚いた」

今の窓から見える庭の盆栽を見て聖が言う。

「聖さん、これから恭也に若者らしい趣味を教えてあげてね」

そう言って聖の手を握る桃子。

「任せておいてください」

カラカラと、笑いながら言う二人。

「むぅ・・・」

言われていることが的を射ているため、反撃できない恭也・・・。

「ただいまー」

そこに、美由希の声が玄関から響く。

「あっ、お帰り〜〜」

桃子もそれに気付き、声をかける。

「疲れたよ・・・って・・・」

居間に入ってきて、聖の存在を確認して美由希は固まる。

「はははは、恭也と同じ反応だ」

そんな美由希をみて、聖は笑い出す。

「美由希、こちら佐藤 聖さん。あなたのお義姉ちゃんよ」

「えっ?」

その言葉に再び固まる美由希。

「はじめまして・・・でいいのかな。佐藤 聖・・・恭也の彼女だよ」

そう言って聖は美由希に抱きついた。

「きゃっ」

その行為でやっと目を覚ます美由希。

「美由希ちゃん軟らかいねぇ〜〜〜」

リリアン在学時、裕巳によくやっていた行為を美由希にする聖。

「聖さん・・・それはセクハラでは・・・」

恭也も苦笑しながら言う。

「あら、じゃあ恭也にしよっと」

そう言って聖は座っている恭也を後から抱き締める。

「むぅぅ・・・」

その行為で顔を赤くする恭也。

「うわっ、あの恭ちゃんがなすがままにされてる」

美由希がそれを見て心底驚く。

「弟子よ・・・後で覚えておくがいい」

その言葉の後、美由希は「あぅぅぅぅ・・・」とへこんでいた。

「じゃあ、今日は宴会よっ!!」

桃子の声が家に響く。

「フィアッセとアイリーンさん、それから美沙斗さんに松ちゃんも呼んで・・・明日はさざなみ寮の皆さんも呼んでまた宴会を・・・」

「ちょっと待て高町母・・・聖さんにも都合があるんだ。無理をさせるわけにはいくまい」

恭也はそう言って抵抗を試みるが・・・。

「あっ、私なら大丈夫。楽しいの好きだし」

聖のその言葉で宴会は決行された。

一日目はレンと晶の合作料理が高町家の居間の机に並べられた。

それには流石の聖も驚いていたが楽しく一日が過ぎた。

二日目・・・さざなみのジャイアンこと真雪さんと子ジャイアンことリスティの二人に対する質問攻め。

が・・・そこは聖もなかなかだった。

妙に二人とも意気投合し、なぜか恭也ばかりが質問をされていた。

 

 

 

それから2日ほど楽しい時間を過ごし・・・聖が帰る日がきた。

「じゃ・・・また今度ね、恭也」

海鳴駅の改札で聖が見送りに来た恭也に言う。

皆は気を利かせて、二人だけにしてくれたのだ。

「今度は・・・俺が伺います」

「なら、うちの親にも恭也を紹介しよっか」

カラカラと笑いながら言う聖。

「おっと、そろそろ時間だね」

時計を見て聖が呟く。

「あの聖さん・・・」

恭也はポケットから小さい箱を取り出す。

「遅くなりましたが・・・受け取ってください」

その中には・・・小さなフォーチュンリング・・・。

KyouyaSeiと、掘り込まれている。

「ははは、これはつき返せないなぁ・・・」

涙目になりながら、聖は受け取り、自分の左手の薬指にはめる。

「じゃ、これはお返し」

そう言って恭也に口づけをする聖。

「じゃあまたねっ!!」

そう言って聖は電車へと乗り込んだ。

「また・・・必ず会いましょう・・・聖さん」

恭也はしばらくその場所を動かなかった。

 

 

 

そして数年後・・・。

二人は結婚をし・・・幸せに暮らしていた。

「いや〜、人間変わるもんだねぇ・・・」

ここは海鳴にある小さな家・・・。

だけど、愛する二人には素敵な家。

「そうだな、聖」

居間のテーブルに並んで座るのは恭也と聖だ。

「恭也・・・離さないからね・・・」

その言葉は二人を繋ぐ言葉・・・。

二人の未来に・・・幸多からんことを・・・。

 

 

 

 

 

終わり

 

 


あとがき

An unexpected excuse〜聖編〜いかがだったでしょうか?

前回の蓉子編に続いてなのですが・・・。

また聖と恭也の言動と性格が違うかもしれません。

それでも読んでくださった方、ありがとうございました。

次回は・・・蔦子編でも・・・やるとおもうので。

見捨てないで、待っていてください。

ではでは、ごきげんよう。




蓉子編に続き、聖編も頂きました〜!
美姫 「アハトさん、どうもありがとうございます」
聖さまが最高♪
祐巳ちゃんの代わりに美由希に抱きつくなんて。
リリアン以外の場所で、あんな事をやってもセクハラにならないのは、やっぱり聖さまの人徳(?)のおかげですな。
美姫 「浩がやったら、間違いなく犯罪者よね」
うんうん。って、その前にやるか!
美姫 「どうだか」
そこで疑うなよ。
美姫 「はいはい。馬鹿な事言ってないで」
俺が悪いのか?
まあ、良いか。
あの士郎の墓前の聖の台詞……。良いな〜。
美姫 「かなり気に入ってたもんね」
おう!何度も読み直したぞ。
美姫 「浩も見習って、あそこまでとは言わないけど、それなりに書けるようになればねえ」
そんなにしみじみ言うなよ。悲しくなるぞ。
まあ、気を取り直して。
美姫 「はやっ!立ち直りが早すぎるわよ」
はははは。そこが長所♪
美姫 「短所でもあるけどね」
放っておけ!
コホン
さて、次回の蔦子編(?)も楽しみにしてます。
美姫 「浩も志摩子編書かないとね」
だね。
ではでは。




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