『An unexpected excuse』

    〜紫苑編〜







「俺が好きな人は……」

そこまで言って、恭也は空を見上げる。

何だか懐かしむような表情である。

「恭ちゃん? どうしたの?」

不思議に思った美由希が恭也にたずねる。

「いや……なんでもない」

苦笑して、恭也は答える。

「で、恭也の好きな人は?」

ずい、と恭也に向かって言う忍。

「それは……」

「ぜひ私も聞きたいですわ」

恭也の言葉をさえぎって、一人の少女の声がした。

皆は驚き、そちらの方を向くと……

「しっ、紫苑!!?」

「はい、お久しぶりですね」

驚きの声を上げる恭也に、紫苑と呼ばれた少女は優雅に返す。

「私達もいるのですけど……」

そう言って、2人の少女がその後ろから現れる。

「貴子さん!? 瑞穂さんまで!?」

更に驚きの声を上げる恭也。

「お久しぶりです、恭也さん」

瑞穂、と呼ばれた少女は頭を下げる。

「ところで恭也さん、一体これはなんなんですの?」

じと目で貴子は恭也を見る。

明らかに、不振がっている目である。

「いえ……何といいますか……」

それに対し、言葉を濁す恭也。

「ちょっと恭也、そちらの方々は誰なの?」

少し怒気を含んだ声で忍は恭也に尋ねる。

いきなり出てきたと思えば、恭也に対して妙に馴れ馴れしい。

それに言うのはなんだが、三人ともかなりの美人だ。

それが、忍を少しいらつかせているのだろう。

「申し遅れました、私は恵泉女学院の宮小路 瑞穂といいます」

「同じく、厳島 貴子です」

優雅に、気品溢れる仕種で挨拶をする瑞穂と貴子。

「恵泉って……あの恵泉!!?」

それを聞いた忍が驚きに声を上げる。

「忍さん、恵泉女学院ってどこなんですか?」

聞いたこともない美由希が、同じく聞いたこともないであろう全員を代表して尋ねる。

「恵泉女学院って言ったら、東京にある明治19年から続いている伝統ある学校よ、俗にいうお嬢様学校ね」

「は〜〜、なのちゃんの通ってる聖祥みたいなもんですか」

忍の説明を聞いたレンが感嘆の声を上げる。

「で、その恵泉の学生さんがどうして恭也を知っているのかしら?」

「実は、以前紫苑さまが誘拐されそうになったことがありまして」

「その時、恭也さんに助けていただいたんです」

忍の問いに、瑞穂と貴子が答える。

「恭也、それ本当…って」

恭也にそれを聞こうと忍が振り返るとそこには……

「だから、俺はそんな事はしてないと」

「あら、ではこの女性達の集まりはなんなんですか?」

紫苑が、恭也に言い寄っているところだった。

「俺は紫苑一筋だと、さっきからいってるじゃないか」

紫苑の肩を掴み、恭也は紫苑に言う。

「きょっ、恭也さん……」

「紫苑……」

見詰め合う二人……もう、お互いの目にはお互いしか映っていない。

「ちょっとちょっとちょっと!!!!!」

それを見た忍があわてて二人の間に入って、それを止める。

「恭也!! いきなり何してるのよ!!」

「むっ、別に俺は紫苑と話をしていただけだが……」

「恭ちゃん、今のどこをどう見ればただ話をしていただけに見えるのかな……」

美由希が苦笑しながら言う。

「で、恭也とこの人の関係は? まぁ、聞かなくても判るけど」

「ああ、俺の恋「私、恭也さんの奴隷なんです」……」

「……………………」

紫苑の一言を聞いた瑞穂と貴子以外が、固まる。

 

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!???」」」」」

 

大絶叫が、校庭に響く。

「そっ、それ本当なんですか!!?」

美由希がかなり焦りながら紫苑にたずねる。

「ええ、恭也さんははじめて会ったばかりの私を散々嬲りものにしましたもの」

「おっ、お師匠…………」

レンの目が、信じられないといった感じになる。

「この事をバラされたくなければ、おとなしく言う事を聞け……といって、あられもない姿を写真にまでとられて」

「きょっ、恭ちゃん!! それは駄目だよ!! 人としてもう駄目だよ!!」

美由希が涙目になって恭也に言う。

「落ち着け馬鹿弟子!! 紫苑!! ありもしない事を言わないでください!!」

恭也もかなり狼狽しながら紫苑に言う。

「あら、残念ですわね」

少し笑って、紫苑はいう。

「な、なあ〜んだ……全部嘘だったって訳ね」

「いいえ、大して変わっておりませんわよ」

忍が安堵をついた瞬間、またしても紫苑は爆弾を投下した。

「こっ、今回のも冗談ですよね?」

「以前恭也さんとお会いしたときは腰が立たなくなるまで「紫苑!!」……残念です」

紫苑の言葉をさえぎるように叫ぶ恭也。

そして、本当に残念そうに言う紫苑。

「それで瑞穂さん、今日はどのようなご用件で?」

溜息を吐き、恭也は瑞穂に尋ねる。

「あら、何故瑞穂さんに聞きますの? やはり恭也さんは私の事など……」

「違います!!」

少し悲しそうな表情をする紫苑を見て、恭也は叫ぶ。

「恭也さんも、紫苑さまの悪戯には未だに馴れませんのね」

それを見た貴子が小さく笑う。

「恭也さん、今日は紫苑さんがどうしてもあなたに会いたいというので来たんですよ」

瑞穂も小さく笑って、恭也に言う。

「そうなんですか?」

紫苑を見て、恭也は言う。

「はい……えっと、その……」

歯切れが悪く、どこか言い辛そうな表情を見せる紫苑。

「できちゃいました」

「は?」

小さく呟く紫苑に、恭也はそんな間抜けな声を出す。

「だから、貴方と私の子供が……できちゃいました」

その言葉に、またもや皆が固まる。

「そうか……」

恭也はそう言って、紫苑を抱きしめる。

「これからも、よろしく頼む……紫苑」

「はい……あなた」

二人はそう言って、笑いあう。

そして、どちらからともなく、キスをする。

「あ〜、皆いこ」

それを見た忍が笑いながら全員を教室へと連れて行く。

そして、恭也のポケットに何かを書いた紙を入れる。

「貴子さん、僕達も行きますか」

「ええ、瑞穂さん」

瑞穂と貴子も、手をつないで学校を出て行く。

「恭也さん……私、とっても幸せです」

「俺もだ……紫苑がこの腕の中にいるだけで、こんなにも嬉しい」

二人とも顔を赤くしながら言う。

「あら、皆さんどこかにいかれたみたいですね」

周りを見て、誰もいないことに気づく紫苑。

「そのようですね……では紫苑、母に会わせましょう」

ポケットに入ってた紙を見て、恭也は小さく笑って、紫苑にいう。

「まぁ、もうですか」

苦笑して、紫苑が言う。

「こういうことは、早い方がいいでしょう」

紫苑の手を掴み、恭也は言う。

「愛してる、紫苑」

「私もです」

寄り添うように、二人は歩き出した。

それは、二つの道が一つになっていくような、ある日の物語。

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

An unexpected excuse〜紫苑編〜をおおくりしました。

フィーア「貴方も負けじと新シリーズに手を出したわけね」

処女(オトメ)お姉さま(ボク)に恋してる、オトボクから紫苑編を書いてみたくなってね。

フィーア「でも、結構設定捻じ曲げちゃったのよね」

まぁ、そういうこともあるかと。

フィーア「甘々なのか、ギャグなのかが微妙なところね」

その前に、この原作を知っている人は少ないと思う。

フィーア「で、次回は誰なの?」

う〜ん、同じくオトボクから貴子編でも書こうかと構想中。

フィーア「さっさと仕上げなさいね」

ラジャー。

フィーア「ではでは〜〜〜〜〜」




勿論、原作知ってます。
紫苑。少々意地悪な女の子。
美姫 「因みに、ここに出てきていた瑞穂は、実は男の子なのよね」
そうそう。で、女装をさせられて、女学院へと通うことになる。
美姫 「しかも、そこで全校生徒憧れの的であるエルダー・シスターに選ばれちゃうのよね」
そういう事〜。詳しくは、原作で。
美姫 「にしても、アハトさんも新シリーズで来たわね」
うんうん。まさか、ここまで色んなジャンルで出てくるなんて、当初は予定してなかった…。
美姫 「そうよね〜。しかも、アハトさんまでジャンルを増やしてくれるなんて」
うん、感謝。
美姫 「さて、次は誰が来るのかしらね〜」
楽しみにしてます。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ