『An unexpected excuse』
〜百合奈編〜
｢俺が好きな人は……｣
そこまで言うと、恭也は何だか言いづらそうな表情になる。
事情知っているのであろうか、美由希達も少し困った表情になる。
｢恭也さん……｣
そこに、恭也を呼ぶ声がする。
それはとても小さくて、儚い感じの声だった。
｢百合奈っ！？ どうしてここに！？｣
その人物を見た恭也がその名前を叫ぶ。
｢何だか桜が恭也さんに会いたいようでしたので｣
小さく微笑みながら、百合奈は答える。
その腕の中には、一人の赤ん坊が抱かれていた。
｢そう……か｣
恭也はそう言って百合奈に近づき、桜の頭を撫でる。
傍から見れば立派な夫婦に見えない事もない。
｢百合奈さん、お体のほうは大丈夫なんですか？｣
そんな百合奈に、美由希がたずねる。
｢はい、フィリス先生も順調に回復しているとおっしゃっていましたので｣
｢それは良かった｣
百合奈の言葉に、恭也は嬉しそうに微笑む。
｢あの〜、高町先輩……そちらの方は？｣
そこに、一人のFCの少女が百合奈の事について恭也に尋ねる。
｢私、高町 百合奈と申します｣
それに、百合奈本人が丁重に答える。
｢えっと、高町先輩のお姉さんか何かですか？｣
同じ高町性なので、女子生徒は更に尋ねる。
｢さぁ、どうでしょう｣
ちょっと意地悪そうな目で、百合奈は恭也を見る。
まるで、貴女が答えてと目で語っているようである。
｢観念したら、恭ちゃん？｣
その隣で、美由希も苦笑しながら恭也に言う。
晶もレンも同じように笑っている。
｢しかし、百合奈に迷惑が……｣
｢構いませんよ｣
恭也の言葉をさえぎって、百合奈が答える。
その目はとても穏やかであった。
その眼を見て、恭也は頷く。
｢この人は俺の大事な……妻だ｣
その言葉に、忍と那美、FCの少女達が固まる。
美由希達は知っていたのか、対して驚いていない。
そして、恭也は起こりうるであろう反応を察して、百合奈を抱き寄せる。
｢あのっ、恭也さん？｣
突然の恭也の行動に、百合奈は顔を赤くして尋ねる。
｢百合奈、少しの間耳を塞いでいた方がいい｣
百合奈は顔を傾げるが、言われたとおり耳を塞ぐ。
片方は恭也の胸に押し当てているので、片方の手で耳を塞ぐ。
そして、次の瞬間……
｢｢｢｢｢つっ、妻あぁぁぁぁぁぁっ！！！！！！？｣｣｣｣｣
忍と那美、FCの少女達の絶叫が響く。
｢こういうことだったんですね｣
一通り絶叫が静まったところで、百合奈は恭也に言う。
｢ああ、こんな大声を聞いたら、桜がおきてしまうだろう？｣
恭也は苦笑して、百合奈に言う。
片方の手で桜の頭を撫でながら……
｢ちょ、ちょ高町君！！ 妻ってどういうこと！！？ この内縁の妻の忍ちゃんを差し置いて！！｣
｢誰が、誰の内縁の妻だ。 俺の妻は百合奈ただ一人だ｣
忍の言葉に呆れながら恭也は言い返す。
｢あっ！！｣
その時、一人のFCの少女が百合奈を指差しながら何かを思い出したかのように言葉を発する。
｢もしかして、去年卒業間際に中退した君影先輩ですか？｣
その言葉に、皆が驚く。
｢もしかして、ではなくて、それは私ですよ｣
FCの少女に、百合奈は静かに答える。
｢確か体が弱いから辞められたと聞いたんですけど……｣
｢そうですね、その時は確かにそういった理由で辞めたんですよ｣
｢じゃあ……｣
｢すまないが、そこまでにしてもらいたい｣
FCの少女が更に何かをいうとする前に、恭也がそれを制する。
｢ここから先は込み入った事情だ、余り人に話せるようなことではない｣
真剣な眼をして、恭也はFCの少女に言う。
｢はっ、はい……｣
その恭也の眼を見て、FCの少女達は諦めたかのように戻っていく。
｢先程の人たちは、一体何のために集まっていたんですか？｣
ぞろぞろと皆がいなくなったところで、百合奈が尋ねる。
｢恭也の好きな人を聞いていたの｣
｢そうなんですか？｣
忍の答えを聞き、百合奈は恭也に尋ねる。
｢まぁ……そんなところです｣
苦笑して、恭也は答える。
｢先輩に迷惑がかかるといけないので言いづらかったんですが……｣
｢百合奈、です｣
恭也の言葉に、百合名が静かに、だけど強い声で言い返す。
｢あっ……｣
言いたい事が判ったのだろう、恭也は失言とばかりに表情をしかめる。
｢酷い人ですね、貴方は……愛する妻のことを先輩などと呼ぶんですから｣
ちょっとばかり、怒っていますという顔をして恭也に言う百合奈。
｢すいません……癖、なもので｣
｢癖で、済ませるおつもりですか？｣
｢怒ったみたいですね……｣
ばつが悪そうな顔をする恭也。
｢怒りました……ですから、質問に答えてください｣
｢なんでしょう？｣
真剣な目で、恭也は百合奈を見る。
｢貴方はこれから、ずっと私を支えていてくれますか？｣
儚い笑みで、百合奈は言う。
その笑みは、恭也にとって痛いほど見覚えがある笑み……
自分を呪われた子という百合奈を……まるで象徴するかのような、あの儚い笑み。
そして、自分が百合奈を呪いの淵から救うと決めた時に見た、最後の儚い笑み。
だから、自分が言う言葉はあの時と同じだ。
｢それは勿論……俺は生涯をかけて、百合奈の傍でいると誓う｣
百合奈の前に膝をつき、恭也は中世の騎士のように誓いを立てる。
｢勿論、桜だってずっと一緒だ｣
百合奈の腕の中で眠る赤子……恭也と百合奈の、愛の結晶。
｢はい、でしたら……私達を、ずっと見つめ続けてくださいね｣
先程とは違う、心からの安らぎに満ちた笑み。
それは、恭也が護りたかった……護った、愛するものの笑み。
｢お二人とも、盛り上がっちゃってるのは良いんだけどね……｣
そこに、忍の声が響く。
｢私達の事、忘れてない？｣
苦笑を含んだ笑い声で、忍は言う。
｢そんな事は……｣
少し顔を赤くして百合奈が言う。
｢忍、百合奈をいじめるな｣
｢いじめてなんかいないわよー、失礼しちゃうわね」
恭也の言葉に、忍は頬を膨らませる。
｢それにしても、桜ちゃん可愛いですね｣
美由希が、百合奈の腕の中で眠っている桜の頭を撫でながら言う。
｢百合奈さんそっくりで、どこに恭ちゃんの遺伝子があるのかわかんないね｣
｢ほぅ、美由希……お前はよっぽど今夜頑張りたいみたいだな｣
恭也の言葉を聞いた瞬間、美由希の顔から血の気が引く。
｢頑張るのは百合奈さんとだけにしてほしいなぁ……とか思ったり｣
美由希の言葉の後、百合奈の顔が一気に赤くなる。
｢美由希！！！｣
｢あはははは、じゃ、私戻るね〜〜〜｣
乾いた笑みを浮かべながら、美由希は教室へと走って行った。
｢美由希ちゃんも行っちゃったし、私たちも教室へもどろっか｣
忍の言葉に、3人は頷く。
｢あっ、でも恭也は百合奈さんと一緒にね｣
｢よろしいのですか？｣
恭也ではなくて、百合奈がたずねる。
｢ええ、どうせ恭也はいまさら授業を休んだって何も変わらないしね｣
悪戯っ子の笑みを浮かべて、忍は言い校舎へと戻っていった。
｢はぁ……全くあいつは｣
｢ふふふ、いい人ですね｣
溜息をつく恭也に、百合奈は小さく笑いながら言う。
｢では、行きましょうか……｣
｢はい、恭也さん｣
二人して微笑みあって、歩き出す。
｢百合奈……愛してる｣
そう言って、触れるだけのまるで羽のようなキスを。
｢私も、愛してます｣
少し顔を赤くして、百合奈は微笑む。
それはあなただけの、微笑み……
2人は寄り添いあうようにして、歩いていった。
あとがき
百合奈編、終了。
フィーア「またもや新ジャンル、Canvas〜セピア色のモチーフ〜からね」
このゲームは結構好きだったんだよなぁ、何で今まで書かなかったのか結構不思議なくらい。
フィーア「あなた、百合奈は飽きることなくクリアしてたもんね」
二桁はやったかな。
フィーア「随分愛着があるみたいね」
雰囲気が好きだったんだな、きっと。
フィーア「で、これは甘いのかほのぼのなのかどっち？」
自分的にはほのぼのをめざしてたんだけどねぇ……
フィーア「で、資料にって借りた本は使わなかったじゃない」
花言葉の本だな、確かに……
フィーア「次回に続ける伏線？」
いや、実際の本が伏線にはならないと思うんだが……とりあえず、何かのSSには生かそうとは思ってるけど。
フィーア「じゃあ、早くそれを書こうね〜〜」
鬼だ……鬼がいる……
フィーア「へぇぇぇ……誰が鬼だってぇぇぇぇ？」
ひぃぃぃぃぃぃぃっ！！！
フィーア「では皆さん、また次回で……ほら、あんたはこっち」
ヘルプ！ ヘルプミィィィィィ！！！！！
響き渡る絶叫をBGMに……
Canvas〜セピア色のモチーフ〜から、百合奈の登場〜。
美姫 「新ジャンルね」
みたいだね。次は、鷺ノ宮 藍とか。
美姫 「お兄さま、って」
そうそう。
「お兄さま」
「藍！？ どうしたんだ」
突如、現われた女性に恭也は驚いたような声を出す。
そんな藍へと、ＦＣたちの視線が集まる中、誰かが藍びの紹介を恭也へと頼む。
それを受け、恭也が紹介するよりも早く、藍自身が口を開く。
「私、高町藍と申します。お兄さまの…」
「高町先輩の妹さんですか？」
「何処の学校に行ってるの？」
藍に興味がある者もいるだろうが、それでも、殆どの者が将を射んとすれば…、といった下心を抱きつつ、口々に質問をしてくる。
そんな中、藍は自分へと飛んでくる質問に、にっこりと笑みを浮かべて、一同を静かにさせると、ゆっくりと口を開く。
「妹ではなく、妻です。ねえ、お兄さま」
後半は恭也へと視線を転じながら、笑みを湛えたまま恭也へと言う。
その笑みに、言い知れぬものを感じつつ、恭也はやや引き攣った顔で頷くと、少し困ったように藍へと言う。
「いい加減、そのお兄さまは何とかならないか…」
「すいません。まだ、あまり慣れなくて。それでは、改めまして、あなた」
「ああ、何だ」
「こちらの方たちとは、どういったご関係なのですか」
笑みを見せつつも、先程とお穴滋養に言い知れぬものを感じさせる藍に少し気圧されつつ、恭也が事情を説明すべく、その口を開く。
とか、っていうのはどうよ？
美姫 「どうって聞かれても、アンタが書いてどうするのよ！」
……おお！ まさに正論。
美姫 「お願いだから、これ以上はジャンルを増やさないでよ」
そ、それは分かってるって。安心しろ。
美姫 「本当に〜」
あ、ああ。
っと、そ、それにしても、美由希の切り返しが上手かったな。
美姫 「……はぁ〜。まあ、良いけどね。そうよね、本当に、美由希がああも上手に切り返すなんてね」
日々、成長してるんだな、うんうん。
美姫 「成長してるのね〜」
さて、次は誰が出てくるのか楽しみにしつつ…。
美姫 「今回はこの辺で〜」