「ねぇ恭也、やっぱり受ける気ないの?」

テーブルに肘を立てて、頬杖をしているアルストロメリアが尋ねる。

「王国の騎士団参加の件なら受けないと前にも言った筈だが?」

その向かい側に座っている恭也は目を閉じながら答える。

「勿体無いと思うわ、だって恭也の実力なら今の騎士団長でも軽く倒せると思うのに」

心底勿体無いと言った風に、アルストロメリアは言う。

「型にはまるのは好きではないし、元よりガラでもないだろう?」

少し苦笑して、恭也が言う。

「私が王位についたら絶対に恭也をスカウトするわよ?」

意味深な笑みを浮かべ、アルストロメリアは恭也に向かって言う。

「女王自らの推薦とは、周りが黙っていないぞ?」

「そんなの、黙らせるに決まってるじゃない」

恭也の問いに、何を今更といった感じでアルストロメリアは答える。

「俺は、お前が王位を継承した時の事を思うと周りの家臣が不憫でならないのだが?」

「あー、それは……どうだろうね」

言葉を詰まらせて、そこら辺に視線を泳がせるアルストロメリア。

アルストロメリアは王位継承の資格を持ちながらも、破滅を倒す救世主としての資格も持っていた。

ゆえに、現在の王は仮の王であり、アルストロメリアが帰還すればアルストロメリアが王位につく事になっている。

「賢人会議に進められて王位を継承したのは良いが、血筋に捕われすぎたな」

目の前にいる女性、アルストロメリアは王族らしからぬ性格だった。

慎ましく、御しとやか……そんなものは何処にもない。

活発で、少しがさつな面を持つ女性である。

さらには筆不精で、書類の整理も苦手と言う重大な欠点もある。

「恭也ってば、こんな可愛い女性捕まえてそれはないんじゃない?」

少し頬を膨らませて、アルストロメリアは言う。

「悪い、そんなつもりは無かったんだがな……」

少し頭を下げて、恭也は申し訳なさそうに言った。

「じゃぁさ、これからデートしてよ」

「は?」

行き成りのアルストロメリアの言葉に、恭也は思わず聞き返す。

「だから、悪い、って思ってるならこれからデートしてよ」

とびっきりの笑顔で、アルストロメリアはそんな事を言う。

「俺なんかとデートしてもつまらんだろう?」

「それを決めるのは私よ」

強引に恭也の腕を取って、アルストロメリアは立ち上がる。

「ほらほら、時間は有限なんだから」

「はぁ……やれやれ」

少し疲れた顔をして、恭也は立ち上がる。

「では参りましょうか、お姫様?」

「うむ、よきにはからえ」

まるで家臣のように頭を下げて言う恭也に向かって、アルストロメリアは満足げに頷き、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

黒と白の些細な休日

 

 

 

 

 

 

 

アルストロメリアに連れられて、恭也は街へとくりだしていた。

今はとある大きな街で滞在している途中なのだ。

食料の買い置きや、消耗品の調達などやることは多い。

そんな中で、恭也達は街をあてもなく歩く。

「う〜ん、この小物とかどう?」

店の店頭に並んでいる小物などを見て、アルストロメリアが恭也に尋ねる。

「いいとは思うが、いかせん俺はそのようなことには疎いからな……」

苦笑しながら、恭也は答える。

「直感でいいのよ、これが私に似合うか、似合わないか」

「そうか、ならば言おう」

アルストロメリアの言葉に、恭也が口を開く。

「趣味には合わんな」

「なっ、なんですってぇぇっ!!!」

恭也の言葉に、怒り心頭で掴みかかるアルストロメリア。

「花柄だぞ? お前には花と言うイメージがわかんのだが」

少し笑いつつ、恭也は言う。

「そっ、そりゃぁ私だって合わないかもしれないと思ったけど、そこはお世辞でも似合うって言う所でしょうがっ!」

そのアルストロメリアの言葉に、恭也は再度肩を竦める。

「直感で言えと言ったのはアルストロメリアの方だぞ? それに嘘は良くない」

至極当然と言った感じに、恭也は言う。

「はぁ……恭也に聞いた私が間違いだったのかしら……」

恭也から手を離し、アルストロメリアは言う。

「さり気なく馬鹿にされた気がするが?」

「してないわよ」

やれやれと言った感じに、アルストロメリアが答える。

「まぁ、多少は悪かったと思う」

少し申し訳なさそうに恭也は言った。

それでも表情は少し笑っているが……

「じゃそれ恭也の奢りね〜〜」

とたんに、アルストロメリアは表情を一転させて、店の店主にそれを渡す。

「…………嵌められた」

からかっていると思っていたが、まさか自分の方がからかわれていようとは。

そう思い、苦笑しつつ恭也はお金を払った。

「ほら、アルストロメリア」

代金と引き換えに袋に入った商品を受け取り、それをアルストロメリアに渡す。

「ありがと、恭也」

はにかむ様に微笑んで、アルストロメリアはそれを受け取った。

「さて、次はどうしますかなお姫様?」

恭しく頭を下げながら尋ねる恭也に、アルストロメリアは小さく笑った。

「少し疲れたから、どこかお店にでも入ってゆっくりしたいわね」

「仰せのままに」

動作の一つ一つが絵になる二人のやり取りに、周りにいた人達は無意識に、彼らを見ていた。

それから、恭也がいい店があると言い、二人はその店へと向かった。

 

 

 

その日、オルタラとイムニティは日用品の買出しの為に街に来ていた。

「全く、何故私達がこんなことを……」

ぶつぶつと文句を言いながら歩くイムニティ。

「イムニティ、少しは黙ってください。 気が散ります」

その横を淡々とした風にオルタラが歩く。

「私に指図しないでオルタラ……なんであなたと一緒なのかしら……」

「それに関しては全く同じ意見ですが、うるさいので黙ってください」

お互い、軽く殺気を撒き散らしながら歩き、そして言い合う。

ルビナスとロベリアも、ミュリエルに言われて買い物に出かけている。

当然、あの二人も何かと文句を言っていたが……主にロベリアが。

そして、オルタラが付き合っていられないと言った感じで前を見て……足を止める。

「オルタラ、どうかしたの?」

急に立ち止まったオルタラに、イムニティは訝しげな態度で尋ねる。

「イムニティ……緊急の用事が入りました」

言って、オルタラは急に走り出して行った。

「一体、どうしたのかしら……っ」

首を傾げながらオルタラの走っていった方を見て、イムニティにもオルタラが走って行った理由が判った。

少し言ったところにある喫茶店の窓際に、恭也とアルストロメリアが座っていたのだ。

「あの二人……人の苦労も知らないでのん気にお茶なんて……」

沸々と、イムニティから黒いオーラが溢れる。

周りにいた人達はその黒いオーラに驚く。

そして、イムニティはそんな事を気にせず、喫茶店へと走り出した。

 

 

 

恭也とアルストロメリアは、喫茶店の中でそんな事を知らずにくつろいでいた。

「ん〜、流石に恭也お勧めのお店ね、珈琲も美味しいわ」

一口飲んで、アルストロメリアが言う。

「喜んでもらえたのなら何よりだ」

言って、恭也も自分の珈琲を飲む。

「雰囲気も落ち着いてるし、でも恭也がこういうお店を知ってたのは意外かな」

「あぁ、昨日偶々街を歩いていると見つけたんだ」

言って、恭也は外を見る。

見るが……

「なぁ、アルストロメリア」

「どうしたの、恭也?」

何処か、先ほどと違う感じの恭也にアルストロメリアは首を傾げる。

そんなアルストロメリアに、恭也は指で外を指す。

それにつられ、アルストロメリアが窓の外を見ると……

「………………結構、やばい?」

引きつった笑みを浮かべ、アルストロメリアは言う。

「………………たぶん、な」

恭也も、珍しく引きつった笑みを浮かべ答えた。

窓の外には窓越しでも判るくらい殺気を放ち、黒いオーラを撒き散らすオルタラとイムニティがいた。

そして二人はずかずかと喫茶店の中に入り、戦々恐々とした店員を無視し、恭也達のテーブルの前へとやってくる。

「なにやら楽しそうな事をしていますね……恭也さん、アルストロメリア」

「ホントよねぇ……私達が旅の買出しをしてるって言うのに……」

絶対零度の笑みを浮かべながら、オルタラとイムニティが二人に向かって言う。

殺気を二人にピンポイントで放ち、尚且つ黒いオーラを店の中に撒き散らす二人。

先ほどまで穏やかだった喫茶店の中は、一瞬にしてある意味修羅場へと変貌した。

「ふっ、二人が買出しなのは順番であって……」

しもどろになりながら、アルストロメリアが事情を説明しようとする。

「そっ、それにその殺気と黒いオーラを静めろ……周りの人も驚いているぞ」

恭也も、少し慌てながら言う。

「……いいでしょう、ですけどじっくりと話は聞かせてもらいますね」

言って、オルタラとイムニティは殺気を霧散させ、黒いオーラも消える。

そして、空いている席に座る。

4人用のテーブルに、二人が正面を向いて座っていたから、残りの2つの椅子に二人が座る。

そして、そこにかなり恐怖心を抱きながら店員が水とおしぼりを持ってくる。

「ごっ、ご注文は……」

「珈琲で」

「私も珈琲よ」

注文を受け取り、そそくさと店員は厨房へと戻って行った。

「で、お二人はここで何をしていたんですか?」

少し睨みをきかせながら、オルタラは恭也に尋ねる。

「いや、見たとおりだが……」

なぜオルタラが不機嫌なのかが全然判らない恭也は、少し落ち着いて答える。

オルタラもイムニティも、少なからず恭也に好意を抱いている為、こんな場面を見せられて怒っているのだが……

自分に向けられている好意に気付かない恭也がわかるはずもない。

他人の気持ちには機敏だが、こと自分の事となる鈍感である。

「喫茶店で二人仲良く珈琲を飲んでただけ、とでもいうのかしら?」

「えっ、えぇそうよ」

こちらは何故二人が怒っているのか、多少は判っているアルストロメリア。

ゆえに、まだ少し落ち着けないのであろう……

「私達が買い出しに行ってるって言うのに、随分ね」

何処か皮肉気に、イムニティが言う。

「先ほどアルストロメリアが言ったが、それはオルタラとイムニティの番であって俺達の所為ではないと思うが?」

「そっ、それでもよっ!!」

恭也に正論を言われ、イムニティは少し声を荒げる。

「まぁ、確かに出かけていたことについては謝ろう……お前達も、ロベリア達も忙しいだろうしな」

珈琲を一口飲んで、恭也が言う。

「それにしても、恭也がたとえ仲間でも女性をこういう場所に連れてくるのは意外ね」

店員が持ってきた珈琲を受け取り、イムニティが恭也に言う。

「いや、アルストロメリアが俺とデートをしようと言い出したからな」

恭也のその言葉に、イムニティとオルタラの二人は固まった。

「俺と一緒ではつまらないといったのだが、アルストロメリアがそれでも良いと言ったのでな……どうした、二人とも?」

恭也の言葉を聞いて固まっている二人に、不思議そうに尋ねる恭也。

「アルストロメリア……」

「覚悟は、出来てるんでしょうねぇ……」

地獄からの響きのような声を出すオルタラとイムニティに、アルストロメリアは冷や汗をかく。

「ほら、デートって言うのは方便で、実際は唯の買い物……」

「それを世間一般にはデートと呼ぶんですっ!!!」

「ごめんなさ〜〜〜いっ!!!!」

オルタラの叫びを聞いて、アルストロメリアは謝りながら店を出て行った。

「待ちなさいっ、アルストロメリアっ!!!」

「逃げられると思ってるのっ!!!」

少し遅れて、オルタラとイムニティもアルストロメリアを追いかけてゆく。

転移すれば早いのだが、頭に血の上っている二人にはそんな考えは浮かばなかった。

「俺は、何か悪い事を言ったか……」

かえってくるはずのない質問をして、恭也は珈琲を飲み干した。

「すまない、会計を頼む」

かなり参っている店員に恭也はそう言い、お金を渡して店を出て行った。

勿論、恭也達がこの店のブラックリストに載ったのは言うまでもない……

ちなみに、その日の夜にアルストロメリアはオルタラとイムニティによって捕縛された。

二人がアルストロメリアに説教(?)をしているときに、なぜかルビナスとロベリア、ミュリエルもいた事を追記しておく。

その後、アルストロメリアは恭也と二人っきりにはさせてもらえなかったという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

今回はほのぼのなお話〜〜〜

フィーア「結構要望があったわね、アルストロメリア」

確かにね、かなり人気があるんだなぁと思ったね。

フィーア「それで今回の短編ね」

殆どオリジナルになってるけどね。

フィーア「赤白デート? にアルストロメリアとミュリエルはないのって言う意見もあったぐらいだしね」

まぁ機会があればね、書くかもしれないけど。

フィーア「でも、これってほのぼのよりドタバタじゃないの?」

最後の方は結構そんな感じだなぁ……

フィーア「それに、これってまだルビナスとロベリアが赤と白の主になってない時よね」

そうじゃないと一緒に旅なんて出来ないだろう。

フィーア「それもそうね」

というわけで、今回はオリジナルアルストロメリアのお話でした。

フィーア「ではでは〜〜〜」





アルストロメリア、結構、面白そうなキャラになってましたね〜。
美姫 「王族とは少し違う感じね」
でも、クレアから連想するとすんなりと収まるけどな。
美姫 「確かにね。この時代の物語ってのも、本当に面白いわよね」
うんうん、アハトさんには感謝だよ。
美姫 「アハトさん、ありがとうございました〜」
ございました〜。
美姫 「って事で、次はミュリエルのかしら」
えっ!?
美姫 「違うの?」
いや、俺に聞かれても……。
美姫 「まあ、何にせよ楽しみだわ」
うんうん。それは確かに。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。



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