それは、もう真夜中といってもいいくらいの時間。

辺りには虫の鳴き声すら聞こえない……そんな時間。

大きめの岩が点在する渓谷のような場所。

「……………………」

そこに、フローリア学園の学園長であるミュリエル・シアフィールドはいた。

ただ目を瞑り、口を閉ざしながら、立っているだけだった。

いや、誰かを待っているのであろう……

時折目を開けては周囲を見渡し、また目を閉じている。

幾度繰り返しただろうか……ここに来てどれくらい時間がたったであろうか……

ただ何をするでもなく、ミュリエルは立ち続ける。

そこに、足音が聞こえてきた。

その足音は、段々とミュリエルの方へと近づいていた。

足音を聞いて、ミュリエルは目を開けてその音のほうを見る。

「待たせたな……」

全身黒一色の服を着た青年が、闇からでてくる。

その腰には二本の小太刀が差してあった。

「いえ」

短く、ミュリエルは答える。

「しかし、久しぶりだな……正確に時間を読み取れば2、3年ぶりだが……実際は千年もたっているからな」

苦笑しながら、青年は言う。

「そうですね……私は次元断層を超えてきましたが、あなたはどうやってこの時代に?」

ミュリエルも、珍しく頬を緩め、青年に尋ねる。

「…………ルビナスと、オルタラにな」

言いづらそうに、青年は答えた。

「なるほど、あの二人に……」

その青年の表情から感情を読み取ったのか、ミュリエルは申し訳なさそうに言う。

「ところで、私になにか用があるのではないですか?」

腕を組み、ミュリエルは青年に尋ねる。

「あぁ…今の救世主候補たちについて……な」

青年の言葉に、ミュリエルは予想していたかのように、ため息をついた。

「彼らは…まだ知らないんだな……救世主と言うのがどういう存在で、どれだけ惨めなものかを」

空を見上げながら、青年は言う。

「民衆の願望と勝手な思い込みによって生み出された今日の救世主像……愚か、としか言いようがない」

「確かに、あの救世主戦争から千年たったこのアヴァターでは、全てを救う者として、崇められています」

恭也の言葉に、ミュリエルは続けるように言う。

「しかし、王家の者ですら偽りの救世主像を信じているとはな……アルストロメリアも、さぞ無念だろう」

遥か遠い昔の友人に想いをはせ、青年は言う。

微かな月明かりが……青年とミュリエルを照らす。

千年を超えた邂逅……今この時……前回の救世主戦争の主要人物であった二人が、出会った。

赤き魔法使いミュリエル・シアフィールドと黒き刃…不破 恭也が……

 

 

 

 

 

 

 

赤と黒の邂逅

 

 

 

 

 

 

 

「恭也……私は、もう2度とあのような事を起こしたくはありません」

それは、同じ救世主候補だった二人が……殺しあった事……

「だから、偽りの救世主を生み出さない為に……この学園を作りました」

「なるほど、救世主候補の監視……だな」

その言葉に、ミュリエルは驚く。

核心には触れずに話したと思っていたからである。

「そう驚く事ではあるまい……例えば回答が100あるとして、その中から今のお前の言葉を聞いて俺なりの答えを導き出しただけだ」

苦笑しながら、恭也は言う。

「で、ミュリエル……もし救世主が誕生したならば、お前はどうするんだ?」

射るような視線が、ミュリエルに突き刺さる。

「赤の救世主なら、俺は倒さなければならない……だが白の救世主なら、俺は全力で護り通す」

白へと身を堕とした恭也だから、赤の救世主誕生は阻止しなければならなかった。

「どちらでも、私は救世主となった者を私の全霊を持って……排除します」

風が、二人の間を吹き抜ける。

「ならば、場合によっては味方……に、なるのかな」

「いいえ……破滅は必ず倒さなければなりませんので」

恭也の問いに、ミュリエルは哀しそうに答える。

「そうか……やはり俺達は『赤』と『白』に分かれてしまった時点で、手を取り合うことなど出来なくなった、と言うわけか」

憂いを帯びたその言葉に……ミュリエルは恭也を見る。

ミュリエルから見て、恭也はいつも危な気だった。

身体の問題ではない……心の問題なのだ。

薄氷の上を刃付きの靴で歩いているような、そんな危なさが恭也からは感じ取れていた。

脆く、何かの拍子に壊れてしまいそうな……そんな感じがしていた。

それは今になっても変わってはいなかった……いや、むしろ1000年前よりも脆くなっているといっていい。

恭也の心が瓦解した時、それはロベリアやイムニティにも影響を及ぼすであろう事は簡単に予測できた。

だけど、ミュリエル個人の感情では……そんな事をしたくはない。

友と、そう呼び合えるぐらいの付き合いだったと、思っている。

短い時間の中でも信頼関係を築き、ともに戦ってきた仲間だから…そんな危険さを持つ恭也の心配をしてしまう。

たとえそれが……今わの敵だったとしても……

「恭也……あなたはもし、破滅がロベリアやイムニティに危害を加えるようなことになったら、どうしますか?」

「決まっている、俺はあの二人を護るために破滅を屠る」

ミュリエルの言葉に、間髪いれず恭也は答えた。

それは、恭也の中では考えるまでもないことだからである。

恭也は破滅の味方ではない……ロベリアとイムニティの味方なのだ。

だからこそ、今は破滅に加担しているし、こうして救世主候補達とも戦っている。

だが、もし破滅がロベリアとイムニティの害になるならば、恭也は迷わず破滅を屠る。

あくまでも、恭也の戦いはロベリアとイムニティのためのものであって、断じて破滅のための戦いではない。

それが、恭也の言葉の端々から読み取れた。

「ミュリエル……」

刹那、恭也がミュリエルに向かって何かを投げつける。

しかし、ミュリエルは驚きもせずに、その飛んできた何かを一瞬にして燃やし尽くす。

「高速詠唱に簡易の魔法なら一瞬にして繰り出せる技術……衰えてはいないようだな」

「貴方こそ、内心焦りましたよ……動きが、更に速くなっていますね」

お互い苦笑しあい、言い合う。

先ほど恭也は一瞬にして飛針をミュリエル目掛けて投げつけていたのだ。

それをミュリエルは魔法で燃やし尽くしたのだ。

もっとも、ミュリエルの唱えた魔法は中位の魔法で、リリィですらこんな速さで詠唱はまだできていない。

「時間があれば、お前ともまた戦いたいものだな」

「冗談を……今の貴方を相手にして勝てる見込みはないわ……私にはもう召喚器はないのだから」

ミュリエルの召喚器、ライテウスは娘のリリィに受け継がれている。

千年前において、二人は何度か戦いはしたが恭也はあまり勝ててはいない。

召喚器による身体能力の向上、さらには召喚器のサポートによる高位魔法の詠唱短縮など、様々な点において召喚器から受けていた恩恵は多い。

だからミュリエルは恭也に勝てていたのだ。

召喚器なしで戦えば、恭也はきっと誰よりも強いはずであると、ミュリエルは思っている。

「ふっ、謙遜だな……遠距離ならお前に分があるだろうに」

口元に小さく笑みをたたえて、恭也は言う。

魔法使いの役目は補助のほかに大きな役目がある。

大火力を持って敵が近づく前に葬り去る砲台の役目である。

後衛の魔法使いは、前衛が時間を稼ぐ間に、大魔法を敵に向かって放つ。

恭也達も、例に漏れずそんな戦術を取っていたこともある。

しかし、ほとんど恭也とロベリア、ルビナスの3人でかたがついていたのだが……

「いえ…遠距離のみ、というのであればわかりませんが……近距離で貴方に勝てる事など万に一つもありませんし」

冷静にその時の事を考えて、ミュリエルは答えた。

「では、そろそろ俺は戻ろう……あまり一人でどこかに行っていると、ロベリアとイムニティが心配するからな」

先ほどの憂いを帯びた表情はもうどこにもなく、ただ小さく……苦笑していた。

「そうですか……次にあう時は、私達の戦いの時かもしれませんね」

瞳に強い力を宿し、ミュリエルは恭也に言う。

「そうでない事を祈るが……それでも、その時が来ればまたお前達との戦いだ」

「えぇ……千年前と、同じように……」

再び、二人の間に風が吹き抜ける。

千年前の救世主戦争の時と同じように……再び戦う事になるかもしれない。

そんな思いが、二人の脳裏によぎる。

しかし、ミュリエルはそんな考えを頭から捨て去るかのように、軽く頭を振った。

嫌な考えであると、ミュリエル自身が思ったからだ。

だが、恭也は違う。

その時が来れば、全力でミュリエルと合間見えるだろう。

それでも殺しはしない。 嘗てとはいえ、昔の仲間なのだ。

強い者と戦い、高みを目指す……それが恭也の根底にはある。

完成された剣士へと、一歩ずつ近づくために……

「さらばだ、ミュリエル」

言って、恭也はミュリエルに背を向け……闇へと歩き出す。

「恭也っ」

その恭也に向かって、ミュリエルは叫ぶ。

「聞いても無駄だとは思います……ですが、聞きたい事があります」

歩みを止めない恭也に向かって、ミュリエルは言い続ける。

「あなたは、赤に戻ってくるつもりはないのですか!」

ピタと、恭也の歩みが止まる。

「あの日、オルタラにも言ったが……」

振り向かず、恭也は言い出す。

「俺は、あの二人の側を離れることはない」

その言葉には、揺ぎ無い信念のようなものが篭っているように、ミュリエルには聞こえた。

「そうです…か……」

予想はしていた……予想はしていたが……

実際に聞くとなると、衝撃は大きいものであった。

そして、恭也は闇の中へと姿を消して行った。

それを、ミュリエルは暫く見つめ続けた。

「恭也……ルビナスは、あなたがこれ以上戦うことを望んではいないのですよ……」

小さく、ミュリエルが呟く。

それは、千年前の戦いにおいて……ルビナスが最後に呟いた、切実な願いだった……

だけど、その願いは叶わない……

平和な時代にと、そう願って恭也を別次元へと跳ばそうとしたルビナスとリコ。

だが、恭也は奇しくも帰ってきてしまった……この、アヴァターに。

それも、あの時から千年後という……ルビナスがもっとも危惧した、時代に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

今回はミュリエルとのお話〜〜

フィーア「前回のアルストロメリアに続いてミュリエルね」

まぁ、ミュリエルも結構要望が多かったからね。

フィーア「でも、今回はゲームの時間軸なのね」

千年前の話でも良かったんだけど、どうも思いつかなくて。

フィーア「これは破滅の中の朱の続きみたいね」

話的にはその辺り、時間的に言うならゼロの遺跡の戦いの前かな。

フィーア「でも、今回もまた短いわね」

う〜む、どうも話が続かなかった……

フィーア「やれやれ、でもそろそろアンケート結果のSSも書かないとね」

ロベリアが圧倒的に有利だけどね。

フィーア「その次がリコよね」

まぁ、2位にも少しはいい目を見てもらおうかな。

フィーア「また首を絞める発言ね」

ふふふふ、それはどうかな……

フィーア「何意味深な笑みを浮かべてるのよ」

まぁ、アンケート結果のSSをお楽しみに、ってところかな。

フィーア「はいはい、期待しないで待ってるわ」

ではでは〜〜〜




深夜の密会〜。
美姫 「その実、その言葉のように甘いものじゃないわね」
敵としていつか合間見える事を前提としたような会話。
美姫 「既に信念をしっかりと持っている恭也と」
未だに迷っている感じのするミュリエル。
美姫 「何か良いわね〜」
うんうん。アハトさ、、ありがと〜。
美姫 「次も待ってるわね〜」
ではでは。



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