「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

雄叫びと共に、凄まじい剣戟が響き渡る。

片方は真っ黒な服装に身を包み、もう片方は緑色の服装に身を包んでいた。

見れば、黒い服装に身を包んでいるのは男で、緑色の服装に身を包んでいるのは女だった。

「疾っ!!!」

一旦距離を置き、男は手から何か針のようなものを数本、女に向かって投げる。

「せいやぁっ!!」

しかし、女はそれを剣の切っ先から光を放ち、消滅させる。

「はぁ…はぁ……」

男は息を荒げながらも、目の前の女から視線を外さない。

しかし、男は笑った。

「まさか、本来の体に戻り召喚器を全力で振るえば……ここまで差が出るとは思わなかった」

自虐的な笑みを浮かべ、男は言った。

まだまだ、俺も鍛錬が足りないな……と。

「謙遜はしなくても良いわ……私だって、あなたの力を甘く見ていたのだから」

女の方も、見くびっていたといって謝る。

「しかし、そろそろ俺も逝かないとな……」

息を整え、男は言う。

「ねぇ、今からでも遅くはないわ……考え直すことはできないの?」

懇願するように、女は言う。

「………………否」

静かに、男は言う。

「今更……今更、助かる道など選ぶわけにはいかない……」

自分に言い聞かせるように、男は言い続ける。

「こんな俺を慕ってくれた人達、こんな俺の為に命を投げ出してくれた人達……その全ての人達の想いを、裏切る事はできない」

右手の小太刀を女に向かって突き出しながら男は言った。

「―――っ!!」

女は、男の名前を叫んだ。

涙を流しながらも、叫んだ。

「ロベリアもイムニティもなのはちゃんも、皆私達が保護したわ……だからっ」

「くどいぞ、―――」

いまだ言い続けようとする女の言葉を遮るように、男は言った。

「あの3人が、お前達に保護されているのなら安心だ……悪いようにはしないだろう」

「えぇ……それは、勿論よ」

男の女に対する信頼が、その言葉からは読み取れた。

だから、女も……その信頼を裏切るような行為はしたくはなかった。

「俺は、もう良いと、思ってしまった……ロベリアもイムニティもなのはも、自分の幸せを見つけることができる」

いつまでも、俺が付き添っていて良いはずがない。

「いずれ、それぞれの道を歩む時に……俺のような者がいると、邪魔になるだけだ」

「本気で言ってるの、―――っ!!!」

男の言葉に、女は怒りを露にして叫ぶ。

「あの3人も……勿論私だって、あなたと共にいたいのよっ!!!?」

涙を流しながらも、女は叫ぶ。

「それなのに、あなたはその想いをも否定するのっ!!?」

それは、心の底から湧き上がってくる言葉達。

伝えたい、伝えないといけない、彼の崩れそうな心を支え続けてあげたい。

それが、女の思いだった。

「私達は確かに、千年前から敵になってしまった……でも、私は……っ!!」

「そこまでにしておけ、―――」

またも、女の言葉を遮るように男は言った。

「もはや、言葉は不要……語りかけるには、こちらの方が相応しいだろう」

男は両の腕の小太刀を、翳す。

それにつられるように、女も持っていた金色の刀身の剣を翳す。

「もはや破滅の敗北は必然、だが……俺はまだ折れるわけにはいかん」

目を瞑り、男は言う。

「俺のこの心を砕いて見せろ……そうすれば、このくだらない戦いも終わる」

言って、眼を見開く。

「破滅の将が一人、堕ち鴉の不破 恭也……」

「救世主候補、ルビナス・フローリアス……」

 

 

「「参るっ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

想いを剣にのせ

 

 

 

 

 

 

 

叫びと共に、二人は相手に向かって一気に走る。

あまりの踏み込みに、二人が最初にいた地面に小さな凹みができるほどだ。

そして、二人はお互いの間合いに入った瞬間剣を振るい、ぶつけ合う。

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

お互いがお互いを、斬り伏せようと押し合う。

二人の中間で、武器同士が摩擦しあい、火花が飛び散る。

「ふっ!」

そして、恭也が気合を込めて、一呼吸をして走り出す。

ルビナスは、それを追いかけるように恭也の後ろを走っていく。

「はぁっ!」

そのルビナスに向かって、恭也は前から何度か飛針を投げつける。

しかし、ルビナスにとってそんな攻撃、よけるなど造作もなかった。

「かかったな」

ニヤリと、恭也が笑う。

次の瞬間、ルビナスを囲うように鋼糸が張り巡らされる。

「縛糸……逃れる事叶わぬと思え」

言って、恭也は鋼糸を纏め上げていた手を一気に引っ張る。

鋼糸は鋭い……恭也の腕なら、容易く人の肉を切り裂く事ができる。

その鋼糸が、幾重にもルビナスに襲い掛かる。

「恭也っ、私を甘く見ないでっ」

言って、ルビナスが突如3人に分身する。

「せいやぁぁぁっ!!」

「はいやぁぁぁっ!!」

そのうち二人が、まるで弾丸のように鋼糸に向かって……爆裂する。

爆風により、鋼糸に歪みが出来上がる。

そして、その間からルビナスはいとも簡単に抜け出した。

「ふっ、そんな事は判っていたさっ」

言って、恭也はルビナスが飛び出してきた所に走っていく。

「お前の召喚器、エルダーアークの能力は、戦ってきた中でよく理解している」

言葉と共に、恭也は小太刀を振るう。

それをルビナスは受け止めようとして……

「なっ」

斬戟がまるでルビナスの剣をすり抜けたかのように……ルビナス自身に襲い掛かる。

ルビナスは咄嗟に身を引くが、服が切り裂かれる。

お腹の所に、縦一文字の斬り後が出来上がった。

「まさか、あの状態からかわすとはな……」

心底、驚いたように恭也は言う。

恭也自身、絶対にあの“貫”は当てる自信があった。

完璧に、捉えたと思っていた。

だが……

「かわされた……その動きに、敬服する」

言って、恭也は小太刀を鞘に戻し、抜刀の構えに入る。

普通は、こんな事はしない。

こんな事をしては、相手に自分が今から何をするのか知らせているようなものだ。

御神流の特色のひとつに、発動する技の多様性があげられるが、これでは多様性もあったものではない。

だけど、今はこれに賭ける。

相手は常人が逆立ちしても敵わない相手だ。

至高の錬金術師にして、世界の根源から力を汲み取る召喚器を持つ……救世主候補。

そして感じる、微々たる物だが……赤の加護の力を感じる。

それに対して、恭也はルビナスからすれば一般人と大差はない。

力の差は十倍、二十倍はあると考えても良い。

その恭也が今までルビナス達を足止めできていたのは、やはりルビナス達の迷いが、剣に現れていたからであろう。

だが、今のルビナスは違う。

明確な目的を、剣に込めている。

恭也を、救うと言う想いを……剣に込めている。

だからこそ、強い。

護る事を誓ったものは、いつだって強かった。

それは恭也の体験談といっても良い。

自分自身も、ロベリアやイムニティ、なのはを護る時はいつもより力が出ていたと思うことがある。

誰かを護る者と戦った時は、相手が強く感じた事だってある。

だからこそ、今のルビナスは強い。

それに、今の恭也にとって……護る者は、いない。

護りたかったもの達は、全員向こうで保護された。

これから新しく、幸せな人生を送っていくはずだ。

だから、肩の荷が降りた。

もはや、思い残す事はない。

握る柄に、力を込める。

「ルビナス……次で、決める」

言って、恭也は息を整えた。

ルビナスにも、恭也が何を繰り出すかは判っていた。

恭也が最も得意とし、必殺として振るわれ続けた……無類の技。

御神流奥義之睦 薙旋。

高速の四連抜刀により、相手を完全に切り捨てる。

ルビナス自身、身を持って味わった事もある。

その威力も、凄さもみんなわかっている。

「ねぇ、恭也……私はね、あなたのことが好きだった」

突然の告白。

でも、恭也は気を乱さない。

「私達が敵として別つ前から、ずっと好きだったわ…そして、貴方が敵として現れる度に、胸が張り裂けそうだった」

旨の内を、ルビナスは語り続ける。

「貴方を好きにならなければ、なんて馬鹿な事を考えた事もあった……でも」

揺ぎ無い強さを秘めた瞳で、ルビナスは恭也を見る。

「ここで、終わらせるわ……私は、貴方を……連れ出してみせる」

その、暗き牢獄の中から……孤独という、冷たい雨の中から。

「エルストラスメリン……我は賢者の石の秘蹟なり……万物の根源たる長に命ず……」

言葉と共に、ルビナスが2体、3体と分身していく。

(エルダーアーク…これが最後……だから、私に力を貸してっ)

そのルビナスの想いに答えるかのように、エルダーアークが光り輝き始める。

「……爆ぜよっ!!」

ルビナスの叫びと共に、恭也のいた場所が炸裂する。

その爆炎と爆風の中、恭也は走り出す。

御神流奥義之歩法 神速。

色彩感覚を捨て去る事で爆発的に知覚感覚を上昇させ、あたかも周囲が止まっているかのように振舞う事ができる御神流の奥義。

モノクロの空間の中を、ゼリーを掻き分けるかのように、恭也は進んでいく。

1回4秒が恭也の限界である。

ゆえに、爆風から恭也が抜け出した瞬間、同時に神速の世界からも抜け出る。

しかし、恭也は抜け出した瞬間、もう一度神速の世界に入り込む。

神速の2重掛けからヒントを得て掴んだ、神業的呼吸。

それが、断続的に神速を使い続けること。

神速から神速に移る瞬間を、零にする。

完成された御神の剣士ですら、なしえなかった境地に、恭也は立っていた。

断続的に神速を使って間合いを詰める恭也。

その速さは、ルビナスにも追えてはいなかった。

いや、知覚はできている……だが、体それについてこないのだ。

「ぃけぇっ!!」

視界の端に恭也を捉え、ルビナスはその3歩前に光をレーザーのように撃ちだす。

「ぐっ!!」

光速で迫ったそのレーザーに、恭也は身を翻す。

いくら神速の世界にいても、光速の速さは早々見切れるものではない。

一瞬、動きが遅くなる。

「はいやぁぁっ!!」

その隙を、ルビナスは逃さない。

衝撃波を無数に、ばら撒くように、打ち放つ。

いたる方向から襲い掛かる衝撃波に、恭也はバックステップをして下がらざるをえなかった。

そして、小太刀は抜かずに、何とかかわしていく。

「恭也ぁっ!!!」

衝撃波を全てかわしきった先に、ルビナスが走りこんでいた。

その剣は、炎に包まれている。

「おぉぉぉぉぉっ!!!」

臆さず、恭也は吼える。

引き絞った弦を、引き放つように……小太刀を、抜刀する!!

 

―――――――御神流(みかみりゅう) 奥義之睦(おうぎのろく) 薙旋(なぎつむじ)―――――――

 

衝撃が一気に爆発するかのように、恭也は小太刀をルビナス目掛けてはなった。

一撃目とニ撃目は、ルビナスの剣に防がれる。

しかし、三撃目がルビナスの召喚器を砕ききる。

そして、四撃目がルビナスの体に吸い込まれた瞬間……

「幻影だとっ!!!?」

恭也の小太刀は、今までの抵抗を一気になくして、空を切る。

そして……

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

召喚器 エルダーアークを構え、ルビナスが恭也につっこむ。

そしてそのまま剣を振るい……

「づぁぁぁぁっ!!!」

気合と共に、恭也の小太刀を粉砕した……

「ハァ、ハァ……」

息をかなり荒げながら、ルビナスは恭也の首元にエルダーアークをつける。

そのエルダーアークの刀身には、無数の皹が入っていた。

「…………俺の、負けか」

観念したように、恭也は目を瞑ってそう言った。

柄の少し上から完璧に叩き折られた小太刀を一目見て、それを地面に置く。

「恭也……私の、勝ちよ」

何とか息を整え、ルビナスは恭也に言った。

「そのようだな……やはり、護る者があるやつは、強い」

まるで自分自身に言い聞かせるかのように、恭也はそう言う。

でも、その笑顔に陰りはなかった。

「どこか、心が晴れ晴れしている……負けたというのにな」

苦笑しつつ、恭也はルビナスを見た。

「恭也……恭也ぁ」

エルダーアークから手を離し、ルビナスは恭也に抱きつく。

やっと、やっと……貴方を捕まえた。

それが、ルビナスの想いだった。

地に落ちたエルダーアークが、光となって消えていく。

それは、役目を果たして、満足げに消えていくかのようだった。

恭也に抱きつきながら、ルビナスは涙を流す。

「もう、離さないわ……これからずっと、あなたの心を支え続けたいの……」

抱きしめる腕に力を込め、ルビナスは言った。

「ルビナス……こんな俺でも、誰かに必要とされるのだろうか……」

「勿論よ……私も、ロベリア達も……貴方を必要としているし、ずっと側にいてもらいたいの」

正面から恭也を見つめ、ルビナスは恭也に言い返す。

「恭也……」

そして、ルビナスは恭也にキスをした。

恭也も、何故かそれは拒まなかった。

数瞬の後、ルビナスは恭也から唇を離す。

「ふっ、護りたいモノが……また、増えたな」

笑いながら、恭也はルビナスに言う。

「あら、私は護られてばかりじゃないわよ……私だって、貴方を護るわ」

ルビナスも笑って恭也に言って、そのまま押し倒す形で横になった。

「恭也……」

そして、もう一度キスをしようとして……

「ルビナスッ!!!」

ルビナスと恭也の隣に、赤い剣が突き刺さる。

「ロッ、ロベリアッ!!?」

ルビナスが、驚いてそちらを見ると、そこにはロベリアが確かに立っていた。

いや、ロベリアだけではない。

その後ろに、イムニティとなのはもいた。

「任せておけと言うから任してみれば……」

「ルビナスさん、なにをやってたのかなぁ?」

黒いオーラを沸々と湧き上がらせながら、イムニティとなのはが言う。

「これは、その……なんていうか……」

顔を少々赤くしながら、何とか言い訳をしようとするルビナス。

「ルビナス、ハッキリと言っておくぞ」

ルビナスを思いっきり指差しながら、ロベリアは言う。

「恭也は、私のものだ」

それはもう、キッパリと。

その言葉に、ルビナスはおろかなのはもイムニティも固まる。

「ロベリア、今の言葉は聞き捨てならないわね」

「そうだよ、おにいちゃんは私のだもん」

「三人とも戯言はそこまでにしておきなさい、恭也は私のものよ」

上からルビナス、なのは、イムニティの順番である。

「いや、俺は誰かのものになった覚えはないのだが……」

恭也がそう言って抗議をするが、四人は一向に話しを聞かない。

そして、言い合いが始まる。

ちなみに、今恭也はルビナスに押し倒された形なのだ。

つまり……

「恭也っ!!」

「なっ、なんだ?」

突然名前を呼ばれ、恭也は前を見る。

その瞬間、ルビナスによってキスをされた。

された瞬間、恭也は一気に目を見開く。

「「「あぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」」」

それを見たロベリア、なのは、イムニティが叫ぶ。

「んっ……これで判ったかしら?」

恭也から唇を離し、ルビナスは勝ち誇った笑みを浮かべながら3人に言う。

「良い度胸だ……ルビナス」

「本当だね……」

「忌々しいぐらいね」

顔は笑っているが、心は笑っていない3人の笑顔。

「ダークプリズン」

「アストライア」

ロベリアとなのはが、冷たい声で己が召喚器を呼び出す。

イムニティも、魔術書を広げる。

「くたばれ、ルビナス!!」

「おにいちゃんとの未来の為に、消えてもらうよっ!」

「戻ってこれないように、異空間に転送してあげるわっ!!」

叫びと共に、3人がルビナスに襲い掛かる。

「そうはいくものですかっ!」

叫び、ルビナスは恭也を抱き上げて走り出した。

 

 

戦いは終わらない。

戦争と言う戦いが終わっても、乙女達の恋の戦いに、終わりはない。

その分、恭也が苦労する事は周知の事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第16弾〜〜〜

フィーア「今回はルビナスメインだったわね」

うん、ルビナスはメインでまだ書いた事なかったなぁと思ってね。

フィーア「一様、なのはも出てたわね」

まぁね。

フィーア「それにしても、ルビナス他のキャラよりおいしくない?」

色々とやってきたから、こう言う展開もありかなぁと思って。

フィーア「しかも、最後だけ思いっきりギャグだし」

あぁ言うオチがあっても良いじゃないか。

フィーア「そういえば、ルビナスが本来の体にもどったって言う事を言ってたわね」

うん、あれはロベリアを捕縛してから、ルビナスが錬金術の力で体を入れ替えたんだよ。

フィーア「じゃあロベリアの体は?」

新しくルビナスが作ったホムンクルスの体。

フィーア「でも、このまま言ったら恭也となのはだけ年取って死ぬんじゃないの?」

そこはまた何とか考えるだろう……たぶん。

フィーア「適当ねぇ……」

うぅ、そういわないでくれよ。

フィーア「で、次はどうするの?」

堕ち鴉では、なのはとの日常かなぁ……

フィーア「なのは、人気あるものねぇ……」

吸血鬼達は20%で、お姉様達も20%ほどかな。

フィーア「つまりは、全然できてないってことね」

…………テヘ?

フィーア「気味の悪い事するなぁぁぁぁぁっ!!!」

ぶべらっ!!

フィーア「やれやれ……ではでは〜〜〜」





いやいや、人も恐れる鴉にも弱いものがあったと。
美姫 「その弱いものが女性というのもね〜」
まあ、恭也らしいかな。
こういうノリは好きだぞ。
美姫 「はいはい、アンタの意見は自動的に却下されるのよ」
あ、あんまりだ。
美姫 「今回はルビナス編ね」
うんうん。中々美味しい所を持っていった感じだな。
美姫 「これも恋する乙女の力よね」
さて、次回がどんなお話が待っているのかな。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
ではでは。



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