「な…んだって……」

その日、破滅の軍の駐屯地にいたロベリアは、ある一つの報告を聞き、持っていたコップを落とした。

「冗談も休み休みに言いなよっ!!」

そして、すぐさま怒りを露にして報告を持ってきた男の首を掴む。

「あいつが、なんだって!!?」

「ロベリアッ、どうしたのっ!!?」

その騒ぎを聞きつけてか、イムニティが駆け寄ってくる。

そして、ロベリアが掴んでいる男を何とか放す。

「ロベリア、一体何があったの!?」

落ち着かせるように、イムニティがたずねる。

「どうしたもあるかい!! こいつがっ!」

一区切りして、ロベリアは先ほど聞いた報告を叫んだ。

 

「こいつが、恭也が死んだって言ったんだぞ!!!」

 

叫びの後、一斉に辺りが静まり返った。

「どういう……こと……?」

信じられないと言った風に、イムニティは男を見る。

「はいっ、定時の時間になっても不破様がお越しになられないので、不審に思い不破様の自室に行きまして、こんなものが」

男はそう言いつつ、懐から紙をだす。

それは、一通の手紙だった。

奪い取るように、ロベリアはそれを受け取り中を見る。

「…………こいつはっ」

手紙の内容は、恭也との一騎打ちを所望する……ルビナスからの手紙だった。

「それを見つけた後、その場所に使い魔を放ったところ…これが」

男の後ろから別の男がやってきて、手に持ったものをロベリア達の前に差し出す。

それは、恭也が使っていた飛針、鋼糸などの暗器だった。

「これだけじゃ、死んだとは判らないだろ!!」

忌々しげに、ロベリアは叫ぶ。

「イムニティッ!! お前からも……」

そう言ってイムニティを見たロベリアは、驚く。

イムニティが、体を抱きしめるように震えて、蹲っているのだ。

「嘘…よ……嘘よ……」

カタカタと、歯を鳴らしながらイムニティが呟く。

「恭也の…恭也の魔力を、感じ取れない……っ」

涙を流し、イムニティは叫んだ。

声にならない悲鳴が、彼女から発せられる。

それは、ロベリアも同じだった。

友を、愛していた者を、一瞬にして奪われた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりの終幕

 

 

 

 

 

 

 

その後、恭也の悲報を聞いた者たちの指揮は上がった。

恭也の弔い合戦の様相を示し始めたのだ。

それほど、恭也は皆の中心、皆の支えだった。

恭也はきっと自分の復讐などは望まない人物であると言う事は、皆判っていた。

それでも、この感情は……理性で抑えられるものではない。

破滅の猛反が、これより始まった。

しかし、恭也を失った事は、あまりにも痛手だった。

破滅軍は次々に敗走……大勢は、ほぼ決まりかけていた。

 

 

「次が、最後の戦いになりそうだね」

ダークプリズンを持ったまま、ロベリアが側に控えているイムニティに言う。

「えぇ、もう破滅の負けは決定的だけれど……オルタラとルビナスさえ倒せれば」

「あぁ、どうにでもなる」

イムニティの言葉に、ロベリアは続けるように言う。

「イムニティ、少しの間…行きたいところがあるんだけど、良いかい?」

ロベリアにしては珍しく、謙虚な物言いでイムニティに尋ねる。

「珍しいわね、あなたがそんなに謙虚に聞いてくるなんて」

それをイムニティも感じたのか、少々笑いながら言い返す。

「良いだろっ」

フンっと、そっぽを向くロベリア。

その顔は少々赤い。

「別に構わないわよ」

苦笑しつつ、イムニティはうなずく。

「すまない、あと私一人で行きたいんだ」

イムニティの言葉の後、ロベリアはもう一言付け足す。

「ロベリア……正気?」

今は王国との戦いの真っ最中なのである。

そんな中、破滅の中心人物でもあるロベリアが単独で動くなど。

「あぁ、私は正気だよ……でも、今から行く所は…一人で、行きたいんだ」

遠い眼をして、でもどこか哀しさをたたえて……ロベリアは言う。

その瞳に、イムニティは理解した。

ロベリアが、どこに行きたいのかを……

「……判ったわ。 私の分も、報告お願いするわ」

そう言って、イムニティは歩いていく。

「すまないね、イムニティ」

歩いて行ったイムニティにそう呟き、ロベリアは転移呪文を唱えた。

 

 

数瞬の後、ロベリアは一人荒野に立っていた。

どこまでも続く荒野……果てしなく広がる、朱い空。

目線を動かせば果てしなく広がる荒野と地平線……ではない。

いくつもの、それこそ百以上はありそうな……十字架が目に飛び込んでくる。

ロベリアはその十字架の中を歩いていき……ある、一つの前で止まる。

十字架に名前などは何も書かれていない。

ただ真っ黒な、十字架である。

「恭也……」

その十字架を愛しそうに撫でながら、ロベリアはその名を呟いた。

ここは、恭也と、ロベリアとイムニティの3人しか知らない場所。

ホワイトパーカスの一番端の方にある、誰も近寄る事のない荒野である。

そして、ここにある無数の十字架は、全て恭也が立てたものであった。

彼が殺してきた者、彼が助けられなかった者、彼を護り死んで逝った者……

その全てが、ここに埋葬されているのだ。

ここは、恭也にとって……自責と、信念が交わる場所でもある。

恭也にとって、ここほど特別な土地はない。

だからこそ、ロベリアとイムニティはこの地に恭也の墓を立てた。

だけど、その十字架に恭也の名前は入れなかった。

きっと、生きているという思いが……消えないから。

「恭也、もうそろそろ決着がつくよ……」

まるで、そこに恭也がいるかのように、ロベリアは話しかける。

「破滅としての負けは決定的だけど、お互い赤と白のマスターとしての戦いなら……私は必ず勝つ」

手を握り締め、ロベリアは言う。

「だけど……だけどっ」

十字架にもたれかかるように、ロベリアは崩れ落ちる。

「お前のいない世界に…どれだけの価値があるって言うんだい……」

涙を流しながら、ロベリアは言い続ける。

「恭也のいない新しい世界に、私は何の興味のないっ……恭也がいないなら、世界なんてどうなってもいい!」

いつもは気丈に振舞うロベリアの、女の部分が曝け出される。

それほどまでに、ロベリアは恭也の事を愛していた。

ロベリアの全てであったのだ、恭也と言う存在は。

 

「ロベリア……」

それを、十字架の物陰からイムニティが見ていた。

一人で行きたい、といってもやはり心配になってこっそりとついてきていたのだ。

「恭也、今の私達を見て……貴方ならどう言うのかしらね」

自嘲気味に、イムニティは呟く。

復讐などは望まない恭也、でも復讐に走ってしまった自分達。

「さぞ、怒っているのかしら」

十字架に背中を預け、その場に座り込むイムニティ。

イムニティと言う少女にとっても、恭也の存在は大きかった。

恭也は、イムニティと言う少女をありのままに見ていた。

書の精だとか、そんな事を関係なしに、恭也はイムニティと言う一人の少女を見ていた。

それがイムニティには何より嬉しかったことだった。

そんな風に、接してきた者達は殆どいなかった。

イムニティとて、最初から全てに絶望して、破滅を起こそうと考えていたわけではない。

何百年、何万年の長い月日が……彼女にその想いを抱かせたのだ。

だからこそ、イムニティも泣き崩れた。

心に開いた空白は、もう何を持ってしても埋めることなど出来はしない。

「許さない……絶対に」

ギュッと、手を握り締めながらイムニティは呟く。

「オルタラ……ルビナスッ」

まるで呪詛のように、その名を呼ぶ。

「私達から、私から……愛しい恭也を奪った貴女達を、決して許しはしない」

朱い空をキッと睨みつけ、イムニティは呟いた。

 

 

 

この後、赤の主であるルビナスと白の主であるロベリアの戦いが行われた。

書に残る結果は、両者死亡―――――

しかし、彼女達は再び目覚める事になる。

千年後の、救世主戦争で…………

再び、その男と巡り会うために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第23弾〜〜〜

フィーア「今回は千年前の救世主戦争終結の直前ね」

ロベリアとイムニティの内面を書こうと必死になって見ました。

フィーア「話的には、千年越しの、決着の途中にある千年前に恭也が千年後に跳ばされた直後の話ね」

まぁこの部分はすっ飛ばしてたからなぁ……

フィーア「確かにね、次はいきなり千年後の話ばかりだったし」

テンさんが、跳ばされた直後の恭也を書いてくれたから、ボクは直後のロベリア達を書いてみたかったんだよ」

フィーア「エリスちゃんに感謝ね」

そこは、テンさんに感謝の間違いじゃないのか……

フィーア「そういえば、あんた雑記に送ったネタどうするの?」

あぁ、あれは感想か何か来たら考えようかなぁと思ってる。

フィーア「お姉様は書いてっていってたわよ? だから書け」

ひでぇ、命令かよぅ。

フィーア「当然、お姉様の意見は何よりも尊重されるものだって言ったでしょ」

いや、ボクにも色々やることあるから。

フィーア「いつか書かせるわよ、絶対に」

感想がきたらね……

フィーア「ではでは〜〜〜」





既に俺たちの意思はないのか!?
美姫 「ない」
…………。
……。
既に俺たちの意思はないのか!?
美姫 「ないわよ」
…………。
……。
既に俺たちの意思は……。
美姫 「しつこい」
ぐげぇっ!
美姫 「んー、今回はちょっとしんみりね」
た、確かにな。ロベリアとイムニティの女としての部分、普段は表に出さない弱さ。
美姫 「後に再会すると知ってても、しんみり」
いやー、いいお話だった。
美姫 「本当よね」
アハトさん、今回もありがとうございました。
美姫 「フィーア、ありがとね〜」



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