注)これは私が書いている『破滅の中の堕ち鴉』シリーズのオリジナル設定の話です。
DUEL SAVIOR本編のどのシナリオにも属していませんので、ご了承を。
オリジナルな展開がお嫌いな方は、どうぞお引き換えしを。
見てからの批判は極力おやめください。
それでもよろしいかたは、どうぞ……
「ねぇ、エンディアナさん」
「なんだ、なのは?」
屋敷の廊下で声をかけられ、エンディアナは振り返って呼びかけたものの名前を呼ぶ。
そこには、エンディアナの言葉通り、なのはが立っていた。
「お願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」
少し遠慮がちに、なのはは尋ねる。
「君主恭也の妹の願いとあらば、できる限り叶えたいと思うが」
そんななのはに、エンディアナは構わないと言う風に言い返す。
「あの、エンディアナさん……私に」
意を決して、なのは言い出す。
「私に、魔法を教えてください!」
声を大きくして、頭を下げるなのは。
そんななのはの姿に、エンディアナは少し考え…
「魔法なら、私よりイムニティの方が良いのではないか?」
堕天使人形のエンディアナより、書の精のイムニティの方が魔法のレパートリーは多い。
そう思って、エンディアナは聞き返すのだが……
「イムちゃんの魔法は、その、後方型が多くて…私は、前衛でも使える魔法を覚えたいんです」
「なるほど、なのはは君主恭也の隣で戦う為に、前衛で使える魔法が覚えたいと」
納得したような顔で、エンディアナは言う。
「ない事はないが、君主恭也はなのはが前衛で戦うことを許さないと思うぞ」
恭也のなのはに対する態度を思えば、容易にその答えが浮かび上がる。
「それに、戦場ではそれぞれに役割がある。 酷な言い方だが、なのはは後方支援型の召喚器使い…前衛魔法を覚えても得にはならない」
役割を考えると、なのはが無理に前衛魔法を覚えて前に出てきては陣形に影響が出る。
そう、エンディアナはなのはに言うが。
「それでも、私はおにいちゃんの隣にいたいの」
強く、揺ぎない決意の篭った目で、なのははエンディアナに言う。
「……判った」
なのはの揺るがない想いを感じ取ったのか、エンディアナは目を閉じて言う。
エンディアナの言葉に、なのはの表情が一気に歓びへと変わる。
「たが、無理をしない程度にだ。 完全な前衛魔法を教えて、後衛の仕事を疎かにされては君主恭也に示しがつかん」
そんななのはに、釘を刺すようにエンディアナは言う。
「エンディアナさん、よろしくお願いします」
その言葉に頷き、なのはは再び頭を下げた。
受け継がれる想いと、新たなる誓い
「でだ、何故俺がこんな格好になっているのか説明してもらえるのか、エンディアナ?」
内心疲れていると言うように、恭也は尋ねる。
「うむ、イムニティに聞く限り君主恭也は魔法無効化のレアスキル持ちと聞く。 だからだ」
そんな恭也に、エンディアナは普通に言い返す。
今の恭也の格好を説明するならば……
鎖でぐるぐる巻きに木に括り付けられている状態である。
「それで、俺に何をさせたい?」
「魔法の実験台だ」
疲れながら尋ねる恭也に、エンディアナは爆弾発言をする。
「なっ、どういうことだ!!?」
さすがにそれには驚いたのか、恭也は叫ぶ。
「今から、君主恭也の妹のなのはに魔法教える事になって、それで説明するより実演した方が早いと思ってな」
「あはははは、ごめんね、おにいちゃん」
説明するエンディアナの後ろで、なのはが乾いた笑みで謝っている。
「安心しろ、そんな高出力で放ちはしない」
言って、エンディアナは体に魔力を纏わせる。
「前衛の魔法といっても、やる事は後衛とさして変わりはない。 ただ、武器強化の魔法は必ず覚えてもらう」
エンディアナの言葉に、なのはは頷く。
「前衛は君主恭也やロベリアなどを見ればわかるが、防御能力と生存能力は必須だ。 この二つが高ければ高いほど、行動時間が長くなる」
前衛は、その特性ゆえ孤立する場面が多々ある。
そんな状況になっても生き抜き、与えられた仕事を全うする為に必要なもの。
それが、ダメージを極力抑える防御能力と、どんなダメージを受けても動ける生存能力である。
「まぁ、なのはは召喚器の恩恵がある分、生身の兵士よりは防御能力も生存能力も高いが、それでも油断は禁物だ」
そこまで言って、エンディアナは恭也の方を向く。
「前衛は接近武器の所持や、格闘術を覚えている事が望ましい…が、なのはの様な前衛にそんなチマチマしたものはいらない」
言葉と共に、エンディアナの手に魔力が集まる。
「なのはは瞬間の魔力放出量なら私達の中でもケタ違いだ。 それを利用すれば……っ」
走り出し、エンディアナは恭也の腹に掌を当てる。
「ごふっ!?」
突如、恭也が口から少量の血を吐き出す。
「おにいちゃんっ!!?」
それを見たなのはは驚いて恭也に近づく。
「これは、回復魔法の対極的な使い方の1つだ」
言って、エンディアナは恭也の体に手を当て、回復魔法をかける。
「薬と同じだ。 取りすぎれば害になる…回復魔法も同じでな、過度にこの魔法をかけ続けると逆に相手の体内を破壊できる」
そこまで言って、エンディアナはなのはを見る。
「なのはの瞬間の放出魔力量の高さから見て、この魔法が一番相手にダメージを与えられる。 言うなれば、肉体と言う器に宿る魔力量を一気に上昇させるからな」
ダムのように、許容量を超せば決壊する。
それと同じ原理だ。
「しかし、君主恭也は私の思った通りだな」
「何がだ?」
エンディアナの言葉に、恭也は聞き返す。
「君主恭也は表面的には魔法無力化は出来るが、体の内に通す魔法には余り魔法無力化が働かないと言う事だ」
一般的な攻撃魔法なら無力化できるが、回復魔法などの体の内に働きかける魔法に対しては無力化が働かない。
エンディアナはそう推測し、それが実証された。
「後天的に得た魔法無力化だからか、回復魔法や強化魔法が効くのはありがたいぞ。 先天的に魔法無力化を持つ者は、本当にあらゆる魔法を受け付けないからな」
苦笑しつつ、エンディアナは言う。
(もっとも、君主恭也がプレアデスを完全に使いこなせればどんな魔法も効かんがな)
そう思いつつ、エンディアナはなのはを見る。
「なのはが覚えて使えそうな前衛魔法は今はこれぐらいだな。 後は武器強化の補助魔法をイムニティに教えてもらって、ロベリアあたりと経験を重ねるといい」
そう言って、エンディアナは再び恭也と距離をとる。
「最後にもう1つ、後衛魔法でも前衛で使えるものは腐るほどある……それが」
刹那、エンディアナの掌から凄まじい魔力の流動が恭也目掛けて撃ち放たれる。
その魔力の流動は恭也の目の前で霧散して消えていくが……
恭也には、その技に見覚えがあった。
正確には、忘れたくても忘れられない技だから、恭也は息を呑んだ。
「強大な魔力を流動に変え掌から撃ち出す古代魔法だ。 これなら距離を詰められていようが撃てる」
(これは強大な魔力を流動に変えて掌から撃ち出す古代魔法なんだ。 これなら距離を詰められても撃てるだろ?)
エンディアナの声が、恭也の頭の中である声とダブる。
「この魔法の名前は…」
(この魔法の名前は…)
「「天輪」」
恭也と、エンディアナの声が重なる。
「なんだ、君主恭也はこの魔法を知っているのか?」
その恭也の声に驚いたのか、エンディアナは尋ねる。
「……千年前、俺の二人目の朋が使っていた魔法だ」
搾り出すように、恭也は答える。
「おにいちゃん?」
そんな恭也の様子が変だったのか、なのはは心配そうに尋ねる。
「あぁ、大丈夫だ」
そんななのはに心配をさせまいと、恭也は苦笑する。
「なのは、この鎖を解いてくれないか?」
恭也の言葉に頷き、なのはは恭也を木に括りつけていた鎖をほどく。
「二人とも、すまないが少し用事を思い出した、俺はこれで失礼する」
そう言い残し、恭也は屋敷の方へと戻って行った。
「おにいちゃん……」
そんな恭也の後姿に、なのはは心配そうな声で呟いた。
屋敷に戻ったあと、恭也はイムニティに頼んである場所に転送してもらっていた。
それはホワイトカーパスの一番端にある、誰も近寄る事のないような荒野。
地平線に見えるのは、数百を超える十字架。
そんな中を、恭也は歩いていく。
そして、1つの十字架の前で止まる。
十字架の前には風化が始まっている大きな十字剣。
十字架に刻まれた文字は……
【好敵手にして最高の朋 リュート・ヴェルスタシオ 此処に眠る】
そう、刻み込まれていた。
エンディアナがあの魔法を使ったのを見て、思い出してしまった。
だからこそ、恭也は何となくここにこなくてはいけない様な気になっていた。
十字剣に触れると、サラサラと砂になって風に飛んでいく。
「先日、俺が目を覚まさせた堕天使人形のエンディアナが、お前と同じ魔法を使ったんだ…それで、何となくお前に言いに来た」
苦笑しながら、恭也は言い続ける。
「自分でも、少し女々しいと思う……お前の死を、受けきれていない自分がいる」
自分で殺したくせに……なんて、身勝手。
「もしお前が今の俺を見たら、笑うか、それとも貶すか……どちらにせよ、一発殴られそうだな」
きっとリュートは、自分らしくないといって一発殴るだろう。
気兼ねなく、思いの丈を吐き出せる相手だったからこそ、気遣いなどなかった。
だからこそ、二人でいる時は楽しいと感じた。
お互いに切磋琢磨して、高みを目指していられれば、どれだけ幸運だっただろうか。
だが、そんな未来は永遠に来なかった。
自分から、そんな未来を切り捨てたのだから……
「ここにいたか」
そんな恭也の後ろから、エンディアナの声が響く。
「……どうやってここに来た?」
感情のない声で、恭也は尋ねる。
イムニティには、此処に誰も転送しないように言って来ていたからである。
「君主恭也の魔力を辿って、自分で跳んできた」
「……そうか」
エンディアナの答えに、恭也は振り向かずに答える。
「それが…君主恭也の朋の墓、か?」
恭也の前にある十字架を見ながら、エンディアナは尋ねる。
その問いに、恭也は頷く。
「アヴァターにおいて我が最高の朋、リュート・ヴェルスタシオ…それの墓だ」
恭也の言葉に、エンディアナはそうか、と呟く。
「お初にお目にかかる、我が名はエンディアナ。 君主恭也に忠誠を誓った堕天使人形だ」
そしてエンディアナは、その墓に向かって挨拶をする。
「これから先、君主恭也は誰よりも過酷な戦いに赴く。 だが、必ず死なせはしない。
貴公にはすまないとは思うが…もうしばらく、君主恭也を私達と共に在らせてくれ」
生者が、死者へと誓約をする。
そんなエンディアナの姿に、恭也は何もいえなかった。
ただただ、心配させていた事に苦笑した。
「リュート、もし俺が死んだ時は…その時は、またお前と共に在れればと思う。 だが、その誓いはまだ果たせそうにない」
だから、そう言って恭也は小太刀を抜きさる。
「俺に力を貸してくれ。 千年前、お前と語り合った未来を作る為に、俺の剣と誓いに、お前の想いを貸してくれ」
千年前に語り合った、争いのない平和な世界。
全ての人が当たり前のように幸せを受諾できる、そんな世界を夢見て語り合った。
その夢を、誓いを、実現する為の力を。
「お前を殺してしまった俺に、貸して欲しい」
刹那、まるでその言葉に反応するかのように突き刺さって風化していた十字剣が光を放つ。
そして、強烈な閃光の後、そこには1つの宝珠が浮かんでいて、風化していた十字剣は消え去っていた。
「なるほど…古代魔法の中でも最も扱いが難しい封印魔法の最上級系か」
その変化を見て、エンディアナは納得する。
「どういうことだ、エンディアナ?」
その宝珠を見つめながら、恭也はエンディアナに尋ねる。
「この封印魔法は、込められた想いに反応して解ける仕組みだ。
掛けた者と、解いた者の想いが一致しなければ解ける事が無い故に、あまり使用されていなかったんだが……」
驚きながらも、エンディアナは説明する。
想いが鍵となる、古代魔法の封印系魔法の最上級魔法。
物に想いを鍵として別の物を封印する事が出来るが、封印していた物が壊れると封印していた物も無くなってしまうと言う危険を孕んでいるこの魔法。
故に、あまり誰も好んで使うことはなかったのだが、秘匿性においては群を抜いている。
だからこそ、リュートは自分の十字剣にこの宝珠を封印していたのだ。
「君主恭也の先程の誓いと、この封印を掛けたリュート殿の誓いが一致した為、封印が解けたのだな」
その言葉に、恭也は内から色々な物が込み上げてきていた。
想い出される、リュートと共に過ごした僅かな日々。
僅かな日々だったが、それでもこれ以上ないぐらい充実していた、そんな日々の思い出。
そんな想い出をかみ締めながら、恭也は目の前に浮かんでいる宝珠を掴む。
その宝珠から流れ込んでくる、リュートの想い。
昔と変わらない、平和を思う気持ちや、自分と共に過ごしていた時の、穏やかな想い。
「この想いに、俺は誓う…そして、必ず果たしてみせる」
守るべき誓いと、果たすべき誓約……この二つを持って、鴉は新たな路を進む。
朋の想いを胸に秘め、その想いを果たすために。
あとがき
堕ち鴉第32弾をおおくりしました〜〜
フィーア「今回は恭也の新しい誓いって所かしら」
まぁ、そんなところだね。
フィーア「ところで、冒頭のなのはの魔法特訓ってどうなるわけ?」
実は、最初はギャグを書こうと思ったんだけど、続かなくなってねぇ……
フィーア「それで、シリアス展開に戻したって訳?」
うむ、タイトルも4回ほど書き替えたからな。
フィーア「それで、次回はどうなるの?」
とりあえず、次の展開は…恭也が、王国に忍び込みます。
フィーア「いきなりな展開ね」
まぁね。 でも色々と理由があったり、皆さんが微妙に驚いてくれるサプライズも用意していますので。
フィーア「じゃぁ、さっさと次のに取り掛かりなさい」
OK。
フィーア「ではでは〜〜〜」
新キャラ、エンディアナとなのはの特訓〜。
美姫 「魔法であっちこっちに吹き飛ばされる恭也」
じゃなくて、単に見本となる魔法の的(笑)
美姫 「便利な能力故に、こういった事で利用されたのね」
はははは〜。後半は一気にシリアスな展開に。
千年越しに重なる想い。
美姫 「とっても良いわね〜」
だな。次回の王国に忍び込む恭也というのも楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。