それは、黒き魔道要塞ガルガンチュワの中。

「召還器……エルダーアークだとぉっ!」

緑の服を着て、目の部分を何かの魔力が込められた眼帯のようなもので覆っている女性が言う。

「そう……召還器は常に私と共にあるわ……あなたこそ、ダークプリズンはどうしたの?」

対して、褐色の肌に、至る所に包帯を巻いた女性が尋ねる。

「ふん、この体に乗り移ってから使えなくなったのさ。 あんたがなにか細工をしたんじゃないのかい」

「もう……召還器の声すら聞こえなくなってしまったのね……」

緑の服の女性の答えに、褐色の肌の女性は悲しそうに目を伏せる。

「暗黒騎士ロベリア、私はここで貴女を倒すわ」

大剣を構え、褐色の肌の女性は言う。

「ふん、ルビナス……お前が私に勝てるのか?」

ロベリアといわれた女性は、見下すように目の前の女性、ルビナスに言い放つ。

「ロベリア……まだ判らないの? 私は、あの時わざと貴女に負けたのよ……」

悲痛そうな表情で、ルビナスは言う。

「ふん、お前がそうやって私を見下していたことは知っていたさ」

忌々しげに言い放つロベリア。

「だが、あの時私を完全に倒してしまわなかった事を、今から後悔してもらうぞ」

その妖艶な笑みを浮かべ、ロベリアは剣を構える。

「いいえロベリア、今回は……貴女を完全に滅します」

言って、ルビナスも剣を構える。

「滅されるのは貴様のほうだっ!! 潔く、あの世にいきなっ!!」

片手で剣を振り回し、もう片方の手には魔力を込めながらロベリアがルビナス目掛けて走りだす。

そして、ルビナスもまた同じように剣に魔力を込めて、ロベリア目掛けて走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

紅き剣、金色の刃

(前編)

 

 

 

 

 

 

 

真正面から切り捨てるように剣を振り上げるロベリア。

その剣戟を、ルビナスは剣を横にして受け止める。

それを見た瞬間、ロベリアは片方の手に込めていた魔力をルビナス目掛けて放つ。

しかし、ルビナスはそれを紙一重で後ろに下がることで避ける。

「だぁぁぁぁぁっ」

そのルビナス目掛けてロベリアは両手で剣の柄を握り、襲い掛かる。

「はぁぁぁぁぁっ」

同じように、ルビナスも両手で剣の柄を握り、ロベリアの剣を真正面から受け止める。

同等の力同士がせめぎ合い、お互いが動けなくなる。

「腕は、落ちないみたいじゃないか……」

「あなたこそ、前より腕を上げたわね……」

そう言って、お互いは同時に弾かれたように離れる。

着地と同時にロベリアは腕から骨で出来た鎖をルビナス目掛けて放つ。

己に向かってくるその骨の鎖を、ルビナスは切り伏せる。

切り伏せたと同時にルビナスはロベリア目掛けて走りだす。

走っている時に、ルビナスはエルダーアークの能力で3人に分身する。

その内の二人が飛び上がり、残った一人が剣から光線のようなものを放つ。

「ちぃっ!!」

舌打ちして、ロベリアは真正面から己の左手に防御魔法を集中させて、その光線を防ぐ。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

そのロベリアに先ほど飛び上がったルビナス二人が襲い掛かる。

「せぇぇぇぇぇっ!!」

防御壁をはった左手を軸に、ロベリアは体を宙に浮かせる。

足の方から上空へと登っているのだ。

そして、左手を素早く光線の中から抜き出し、新たに一人のルビナスに魔力の塊を投げつけた。

その魔力の塊に直撃したルビナスは霧のように消えていく。

「はん、魔力の濃度で本物の見分けぐらいつくさっ!!!」

叫びと同時に、二人はすれ違った。

二人が着地する時にはもう、ルビナスの最後の分身も消え去っていた。

ゴト……

何かが落ちる音がした……それは、ルビナスの左腕が体から落ちた音だった。

「本当に、腕を上げたのね……ロベリア」

そのまま右腕だけでエルダーアークを構えながらルビナスが言う。

「100年以上は訓練したからね……お前は千年前と殆ど変わらない……」

笑いながら言うロベリアだが、異変に気づいた。

自分の目を覆っていた布が……斬りおとされた……

「ぐっ……」

咄嗟にロベリアは目を腕で覆う。

ロベリアは、この顔を他人に見られるのが嫌いだった……特に、目の前の女には……

「あのときの……まま、なのね」

どこか哀しそうに、ルビナスが言う。

そう、ロベリアの体は元はルビナスの体……その顔も、目の前のルビナスと似通った所があった。

当然である、目の前のルビナスの体もルビナス自身が作ったホムンクルス……基本は自分にしてあるのだ。

嫌な沈黙が、辺りを支配する。

「ルビナス……私はお前が嫉ましかった……」

ポツリと、ロベリアが言う。

「赤や白の服が似合う救世主ご一行様の中で、黒い服を着た私は、醜い妖術剣士だった」

リコ……当時はオルタラと名乗っていた赤の書の精とイムニティという白の書の精によって見出された4人。

皆がそれぞれに心に傷を持つものだった……それを、隠した、4人だった。

当時は本当に余所余所しいパーティーだった。

「だけど、お前が皆の間を取り持っていた……その魅力に、私は嫉妬していた」

ルビナス中心に、纏まって行く4人。

容姿端麗、実力も高く、さらに高位の錬金術師でもあるルビナスに、ロベリアは嫉妬していた。

自分にないものを、全て持っているルビナスに……

「そんな時だったね……あいつにあったのは」

驚きのような表情で、ルビナスはロベリアを見る。

ロベリアはもはや腕で目を覆っていなかった。

茶色の瞳が……ルビナスを見つめる。

「不思議な男だった……だけど、優しい男だった」

その出会いは運命か……とある街で、彼女らは出会った。

ロベリアと同じように、漆黒の服に身を包み、漆黒の剣を操り、漆黒の瞳をした、男に。

「私とあいつは、どこか似ていると思ったんだろうな……私にとって、あいつは特別だった」

ロベリア自身、好きだとか、恋愛だとか、そういうものは自分には縁がないものと、どこか他人事の様に見ていた。

だが、出会ってしまった……その男に。

「そして、あいつは私と共に戦った……」

そのことは、ルビナスだって知っている……自分も好きだったから……その男が。

でも、その男は目の前のロベリアを選び、そのまま破滅へと下っていった……

「さぁ、おしゃべりは終わりだ……決着をつける」

言って、ロベリアは剣を構える。

「ロベリア、本当に……もう昔のようにはなれないの?」

縋るように、ルビナスは言う。

本当に、昔のように笑い合えた関係に、戻れるのなら戻りたかった…笑いあって、お互いを競い合っていたかった。

「無理な事を言うな……もう、後戻りなど出来はしない」

言って、ロベリアは駆け出した。

そして、すぐさまルビナスの目の前まで疾走し、剣を振り下ろす。

振り下ろされた剣を、ルビナスは片腕で何とか受け止める。

「片腕で私の剣を受け止めきれると思ってるのかっ」

言って、ロベリアはルビナスを弾き飛ばす。

「せいやぁっ!!」

弾き飛ばされたと同時に、ルビナスは衝撃波をロベリア目掛けて打ち放つ。

「はぁぁぁっ!!」

それを一瞬にして切り伏せ、ロベリアは骨の塊をルビナス目掛けて放つ。

着地したと同時に襲い掛かる骨の塊を、ルビナスも切り伏せる。

ルビナスはそのまま落ちている腕を拾いに行こうとする。

「行かせるかぁっ」

そのルビナスの前にロベリアは走りこみ、ルビナスと剣を合わせる。

「エルストラスメリン……我は万物の長たるものに命ずる……爆ぜよっ!」

ぶつかり合った瞬間、ルビナスは呪文を唱えぶつかり合った所が一瞬にして爆ぜる。

「ちぃっ!!!」

間一髪後ろに後退していたロベリアは直撃こそ免れたが、少しばかりのダメージを負う。

そして、その横をすり抜けるようにルビナスが駆けていく。

それを見たロベリアがルビナスを追いかけようとする。

刹那……

「なっ、なんだっ!!?」

ロベリアが叫ぶ。

足場が……いや、飛行を続けているはずのガルガンチュワが、揺れているのだ。

それも小さな揺れなどではない……かなり、大きいものだ。

「エッ、エルダーアークがっ!?」

ルビナスも、同じように叫ぶ。

手にあった召還器、エルダーアークが一瞬震えたかと思うと、消えて行ったのだ。

「なっ、何が起きているんだ……」

ロベリアも、この事態を把握しきれていないのか……動揺を隠せないでいた。

「力が……力が、ある一点に集中していっているわ……」

気を探りながら、ルビナスが言う。

「まさか……神が降臨したのかっ!」

導き出された答えを、ロベリアが叫ぶ。

「大河くんっ……!」

ルビナスは呟くと、落ちていた自分の左手を拾い、繋げる。

「ロベリア、今はあなたに構っているときではないわっ……神の降臨だけは、なんとしても防がなくてはっ」

叫び、ルビナスは奥へと走りだす。

「ルビナスっ、行かせる訳にはいかないよっ!」

遅れて、ロベリアもルビナスを追いかけて奥へと走っていく。

そして、二人は同時に開けた場所へとたどり着いた……

その場所の中心には黒き玉座……

その前には金色の色に輝く、呪われし鎧……救世主の鎧。

そしてその前には……

「悪いな、大河よ……」

救世主の鎧へと、小太刀のような武器を当てている……

 

 

 

 

 

 

 

「きょっ、恭也ぁぁぁぁっ!!!」

    

    


あとがき

  

久々のDUELととらハのクロスSS〜〜

フィーア「にしては、結構短いわね」

うん、これは一応前編だからね。

フィーア「っていうか、とらハキャラ出てきてないじゃない」

そうだねぇ、もとより出てくるのは一人しかいないわけだが……

フィーア「完全なクロスSSとは言いがたいわね」

それはそうだけどね……次回は長くしたいな。

フィーア「最後に出てきたわね」

物語の中での最重要人物だからねぇ……

フィーア「この話はDUELではどの辺り?」

一応ハーレムルートの最後のガルガンチュワでの戦い。

フィーア「あんた、前にナナシルートの最後で話書いてなかったっけ?」

いろんな未来があるということで。

フィーア「じゃあ、破滅が勝っちゃう話とかもあるの?」

それは……さすがに、なぁ?

フィーア「まっ、あんたの事だからロベリアとかは生き残るような話は書くんでしょうけどね」

うむ、それは考えていた。

フィーア「じゃあとっとと後編を書きなさい」

ラジャー

フィーア「ではでは〜〜〜」




今回は前編〜。
美姫 「ルビナスとロベリアの対決ね」
しかし、決着は付かず。
そして、広間に居たのは救世主の鎧を纏った大河と、
美姫 「その大河に剣を突きつける恭也」
果たして、これが意味するものは。
美姫 「一体、どうなるの!?」
続きが非常に待ち遠しい。
美姫 「気になるわね」
つ・づ・き〜。
美姫 「楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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