「ようやく……あんたを消す事が出来るようね」

白い吸血姫は言った。

「それは此方の台詞よ……」

黒い吸血姫も、言った。

「あら、もうあんたの護衛の黒騎士も白騎士も霊長の殺人者もいないのよ……あなたが私達に勝てるとでも?」

おかしそうに、白い吸血姫は言う。

「そうね、もうリィゾもフィナもプライミッツもいない……でも」

黒い吸血姫の唇がそり上がる。

それはまるで、無邪気な子供のように……

「私にはまだ“彼”がいる」

言って、黒い吸血姫は指を鳴らす。

その刹那、まるで初めからいたかのように黒い吸血姫の後ろから一人の青年が現れる。

「その男は……」

白い吸血姫はその青年を軽く睨みながら尋ねる。

「見たところ東洋人ね……で、その男があんたの護衛だったら笑えない冗談よ」

軽く笑って、白い吸血姫が言う。

「その男からは魔力なんて全く感じられないわ…見た所教会や協会の人でもないようだし、死徒でもなさそうね」

「ふふふ、随分と甘く見られているわねぇ、キョウヤ」

甘い声で、黒い吸血姫は青年、キョウヤの名を呼ぶ。

「キョウヤ、見せてあげて……あなたのその力を……」

言って、黒い吸血姫はキョウヤに口付ける。

舌を絡ませ、自分の唇を切って出てきた血を相手に飲ませて、代わりに相手の唾液を受け取って飲み込む。

「…………判った、我が主にして最愛の姫……アルトルージュ」

アルトルージュと呼んだ黒い吸血姫の額にキスを落として、キョウヤは目の前の白い吸血姫を見る。

「アルトを護る黒き刃、キョウヤ・フワがお相手しよう……純白の吸血姫 アルクェイドよ」

言って、キョウヤは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒の守護者と白の殺人貴

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け出すと同時に牽制の為に飛針を数本アルクェイド目掛けて投げつける。

しかし、それは当然のようにアルクェイドの前に一瞬にして塵へと還される。

でも、その一瞬の動作で十分。

キョウヤは一瞬にしてアルクェイドと交差する。

「へぇ、中々の速さだけど私に攻撃するにはまだまだね」

余裕そうな声を上げてアルクェイドは言う。

「あらあら、随分と余裕ね……その腕の傷を見ても?」

可笑しそうに、楽しそうにアルトルージュが言うので、アルクェイドは自分の腕を見てみる。

そこには、一筋の傷跡が走っており、そこから血があふれ出す。

「………………」

無言でその傷跡を消して、アルクェイドはキョウヤを見る。

「なめてかかると痛い目を見るわよ、アルクェイド」

アルクェイドとは対象に、アルトルージュが楽しそうに言う。

「あんた……何者?」

軽く睨みつけて、アルクェイドはたずねる。

「アルトを護る黒い刃……そういったはずだが?」

キョウヤはふり返り、アルクェイドを見る。

「そんな事を聞きたいんじゃないわ……死徒でもないのに、私に傷を負わせるなんてね……」

「慢心だな、白き吸血姫よ。 唯の人間に負けるはずなどないという、な」

小太刀の刀身を光らせて、キョウヤは言う。

「人は闇を恐れるだけの生き物ではない……時には、こうやって闇にも襲い掛かる。 そして、闇を打ち払う事も出来る」

行って、キョウヤは駆け出す。

 

 

――――――――――――御神流 奥義之壱 虎切――――――――――――

 

 

御神流において、高速かつ超射程の一閃が、アルクェイド目掛けて放たれる。

しかし、その斬戟はアルクェイドに届く事などなかった。

突如として、一人の、これまた黒ずくめの少年位の背格好の男がアルクェイドの前に立ち、その斬戟を弾いたのだ。

その姿は、学生服で右手にはナイフを……両眼には、幾重にも包帯が巻きつけられていた。

「アルクェイドに手を出すのは、やめてもらおうか」

「志貴っ!!」

少年と、アルクェイドが言葉を発するのは同時だった。

「白き吸血姫の護衛……殺人貴か」

スッと、目を細めてキョウヤは目の前の少年、志貴を見る。

「あんたこそ、黒き吸血姫の護衛、守護者だろ?」

対して、志貴も苦笑するような口の動きで、言い返す。

「あんたの対象を護衛する力は評価してるよ、でも……それも他の死徒どもの話だ……俺には、通じない」

言って、志貴は眼を覆い隠している包帯を外しだす。

包帯が一回り外される度に、志貴の魔力が膨れ上がっていくのをアルトルージュは感じていた。

キョウヤも、それを殺気と言った形で感じ取っていた。

「さぁ、この死を視る“直死の魔眼”が相手をするぞ」

刹那、志貴はものすごいスピードでキョウヤ目掛けて駆け出す。

「ちぃっ!!!!」

数歩バックステップでさがって、それと同時に牽制に飛針を数本投げつける。

しかし、その飛針は志貴がナイフを振るった瞬間、消え去る。

それを見たキョウヤは内心かなり驚きながら志貴と距離をとる。

今しがた牽制にと飛ばしたはずの飛針は、弾かれたのではない……文字通り消えたのだ。

「全てのモノの死を視るといわれた“直死の魔眼”……まさか、これほどとわな」

眼前でナイフを構えている志貴に対して、キョウヤは言う。

「お前、案外死が少ないんだな……でも、右足は死が沢山あるぞ……」

その言葉に、キョウヤは少し驚く。

「驚いたな、直死の魔眼とはそんな事も判るのか」

軽く足を叩きながら、恭也は言う。

「偶々だ。 一箇所に対してそんなに死が充満してるのも珍しいからな、判っただけだ」

言って、志貴は姿勢を低くして構える。

「避けられるかな……」

志貴がそういった瞬間、一瞬にして消え去る。

それを見たキョウヤは一瞬驚くがすぐに周りに意識を張り始める。

しかし……

 

――――――――――――閃鞘・八穿――――――――――――

 

上空からのいきなりのアタックに、キョウヤは不意をつかれる。

「ぐぅぅっ!!!」

とっさの事だったがキョウヤはなんとか身を屈め、その斬戟を避ける。

だが、服の左肩が切り裂かれる。

「まさか……避けられるとはな」

少しばかり驚きの表情で、志貴はキョウヤに言う。

「紙一重、といった所か」

斬られた服に手をやり、キョウヤは言う。

「なら……今度はどうだっ」

いって、志貴はまたしても消えた。

(気配の遮断が巧過ぎる……だが)

周りの空気に自分の意識を同化させるように、キョウヤは神経を集中させる。

 

――――――――――――閃鞘・七夜――――――――――――

 

目の前から、志貴の気配と共にナイフが迫り来る。

だが、キョウヤはそれを予測していたかのように小太刀を振るう。

キョウヤの小太刀と志貴のナイフがぶつかり合い、鈍い金属音が響く。

その瞬間、キョウヤは左手の小太刀を志貴目掛けて思いっきり突き出す。

 

――――――――――――御神流・裏 奥義之参 射抜――――――――――――

 

御神流において、刺突の速度と最高の射程を誇る、嘗ては己の叔母と義理の妹が最も得意とした刺突を繰り出す。

「っぅぅぅぅっ!!!!」

正しく一瞬の攻防の隙に繰り出された超高速の刺突に、志貴は舌打ちしながら何とか体を捩る。

しかし、完全に避けきる事は不可能で、左腕の肘の辺りの肉が抉れ飛ぶ。

「ほぅ……完全に射止めたと、思ったんだがな」

志貴から離れ、小太刀に付着した血をキョウヤは払い落とす。

「お前こそ……護衛者なんて言ってる割には、随分と戦い慣れしてるじゃないか」

右腕で左腕を押さえながら、志貴は言い返す。

「うふふふ、キョウヤ……噂の殺人貴はどうかしら?」

キョウヤの後ろで、アルトルージュがキョウヤに尋ねる。

「噂以上だな……だからこそ、戦いがいがある」

少し笑って、キョウヤは答えた。

「そう……ならキョウヤ……あなたの主たる私が許可するわ」

本当に面白そうに、アルトルージュは言った。

「貴方の聖痕(スティグマ)の開放を認めるわ」

「了解だ、我が主よ(マイマスター)

すかさず、キョウヤは言い返す。

そして、いったん眼を閉じる。

その瞬間、キョウヤとアルトルージュの体がはねる。

「我が……血と盟約によってここにその姿を現せ……我が刃、キョウヤ・フワに宿りし……聖痕(スティグマ)よ」

ドクンッ! と、キョウヤの体が再びはねる。

「汝の聖痕(スティグマ)、我と共にあり……我らが契りの証、永久に果てることなく……」

アルトルージュが呪文のようなものを唱えるたび、キョウヤの体ははねる。

「志貴っ!! 今すぐその女を殺してっ!!!!」

危険を感じ取ったのか、アルクェイドは志貴に向かって叫ぶ。

志貴も、言われなくてもやるつもりだったのか、すぐさま駆け出す。

「バウッ!!!!」

しかし、すぐさま一匹の真っ白くて、巨大な狼のような犬が、アルトルージュと志貴の間に割ってはいる。

死徒27祖が第一位、黒の姫アルトルージュの護衛たる霊長の殺人者たる、プライミッツ・マーダーだった。

「なんで……第一位が……」

志貴が残りの二人と共に殺したはずのプライミッツが現れた事により、アルクェイドと志貴は動けなくなる。

「目覚めよ……汝に宿りし我と共に在りし契りの聖痕(スティグマ)よっ!!!」

叫びが響き渡り、キョウヤを光が包み込んだ。

そして、その光は一瞬にしてキョウヤへと吸収されていった。

聖痕(スティグマ)の開放は終わったわ……あとは、あなたの好きにして良いわよ」

アルトルージュはそういうと、プライミッツ・マーダーを下がらせる。

「そうさせてもらおう……身体が、言う事を聞きそうにないからな」

閉じていた眼を明け、キョウヤは志貴を見る。

刹那……凄まじい魔力の奔流が志貴とキョウヤを包み込む。

キョウヤの瞳には……十字架が彫られているように見えた。

「そんなっ!!? あの男からは魔力なんて一切関知されなかったのに……」

「当然よ」

驚くアルクェイドに対し、アルトルージュは楽しそうに言う。

「キョウヤは唯の人間よ……ただし、私の聖痕(スティグマ)を持った、ね」

その言葉に、アルクェイドはさらに驚く。

聖痕(スティグマ)とは元来、キリストが十字架刑で受けた傷が信者の体に現れるというものよ……キョウヤの体には、昔私があなたに負わされた傷と同じものがあった」

恍惚の表情で、アルトルージュは言う。

アルトルージュがキョウヤと会った時、彼女は歓喜に震えた。

まさしく、長年探していたものを……見つけたのだから。

その上、キョウヤ自身の戦闘能力は並の人間よりも桁外れだったことも、彼女が喜んだ点である。

このキョウヤ自身のステータスに、自分の聖痕(スティグマ)の力が加わればどうだろうか?

まさしく、それは白の吸血姫の護衛である殺人貴と同等、あるいはそれ以上の能力となった。

「ああなった彼はリィゾとフィナの二人よりも強いわよ……なにしろあのオーテンロッゼの首を切り裂いたのも、今の彼なんだから」

プライミッツ・マーダーの鬣を撫で付け、アルトルージュは言う。

「いきなさい……キョウヤ」

言葉と共に、まるで吹きぬける風のような速さでキョウヤは志貴に詰め寄る。

「くっ!!!」

とっさにナイフで防ぐが、余りの速さに右腕ごと体が弾かれる。

「あらあら、今のですら防げないなんて……キョウヤが神速を使っちゃえば知覚するまもなく貴方も死ぬかもね」

「アルトォッ、ルージュッ!!!!」

アルトルージュの言葉に、アルクェイドが叫ぶ。

「それ以上志貴に対して何か言ったらすぐさま殺すわよっ!!!」

金の瞳で、アルクェイドは睨みつける。

「異な事を言うわね……貴女も最初キョウヤに対して言っていたくせに……私には言うなと?」

アルトルージュも、アルクェイドを負けじと睨みつける。

「五月蠅いっ!!!!」

アルクェイドが己が爪をふりかぶってアルトルージュに襲い掛かろうとするが……

「アルトには手出しはさせんと言ったはずだ」

まるで風のように、キョウヤがアルクェイドの振りかぶった腕を切り裂いてアルトルージュの前に立つ。

「キョウヤっ!!」

目の前に現れたキョウヤに、アルトルージュは喜びの声を上げる。

「アルト……今日はもう良いだろう。 白の吸血姫も、護衛たる殺人貴も最早疲れきっている」

視線はアルクェイドと、その向こうにいる志貴に向けて、キョウヤは言う。

「そうね……私は別にアルクェイド達を殺しに来たわけじゃないし、良いわよ」

楽しそうに、勝ち誇った笑みを浮かべるアルトルージュ。

「白の吸血姫、そして殺人貴よ……金輪際アルトには関わらないでいただこう、俺達は、そちらから来ない限りは襲いかかりはしない」

キョウヤはそう言って、小太刀を鞘に戻す。

「じゃあね……アルクェイド」

言葉と共に、二人と一匹は風と共に消えて行った。

 

 

「流石に、聖痕(スティグマ)開放時の神速は膝に負荷がかかる……」

アルトルージュの城に戻ってきてすぐ、キョウヤは膝を押さえ始めた。

アルトルージュの目の前では、そのような事をしたくはなかったが、流石に恭也の足も限界だったのだ。

「ごめんなさいね、キョウヤ……貴方に無理をさせてしまって」

アルトルージュはキョウヤの膝をさすりながら、言う。

「いや、アルトを護る為ならば俺は傷つく事を恐れはしない……護ると、決めた時から」

アルトルージュの肩を抱いて、キョウヤは言う。

「ふふふふ、始めて来た時はそんな事言ってくれなかったのに、今では普通に言ってくれるのね……」

キョウヤの胸の中で、アルトルージュは笑いながら言う。

「フィナの、お陰とも言うかな……思いは、口に出さなければ後悔すると言われたから」

瞳を閉じ、キョウヤはアルトルージュを抱きしめる腕に力を込める。

「愛している……そしてずっと側にいるよ、アルトルージュ」

「私もよ……キョウヤ」

静かに、口づけを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

うむ、アンケートではバトルといったはずが、最後は関係なくなったな。

フィーア「それ以前に、待たせ過ぎよっ!!!」

ごぶっ!! すいません……何故だか、筆が進まなくて……

フィーア「言い訳無用。 それにまたあんた性懲りもなく長編書こうとしてるでしょ」

ああ、はやて×ブレードととらハのクロスの話ね。 でも、あれは殆どオリキャラメインだし……

フィーア「恭也とかはおまけだと?」

う〜ん、最悪そうなるかも……

フィーア「はぁ……とにかく、批判だけされないように気をつけなさい」

ラジャー、ではアンケートSSをおおくりしました。

フィーア「ではでは〜〜〜〜」





アハトさん、ありがと〜。
美姫 「かなり前にお願いした恭也対志貴ね」
うんうん。いや〜、嬉しいな〜。
美姫 「はいはい。アンタも、ちゃんとお返ししないとね」
わ、分かってるよ……。
美姫 「それじゃあ、まったね〜」
ではでは。



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