六時間目終了のチャイムがなり、皆がそれぞれ思い思いの時間をすごしていく。

ホームルームはどうしたとか言う意見は皆すでに却下している。

むしろ、今までこのクラスでそんなものがあったのかと皆が言うぐらいだ。

「んぁぁぁぁぁ〜〜〜、終わった終わった」

思いっきり伸びをして、恭一が言う。

「思いっきり寝てただろ……」

そんな恭一に、前の席に座っている胡太郎が苦笑しながら言う。

「ちゃんと聞いてたぞ、睡眠学習で」

首を何回か叩いて、恭一は答える。

「それに、それはこたの隣の義姉さんに言ってやれ」

そして、恭一は胡太郎の隣の席ですやすやと眠っている朱音を指差しながら言う。

「朱音はいつもの事だからな」

「これはこれは、身内びいきかな」

胡太郎の言葉に、恭一は笑いながら言う。

「身内びいきって……恭一もある意味、もう身内だろ?」

「だな」

胡太郎の言葉に、恭一は苦笑して言い返す。

「なぁこた、俺ってこたの義兄さんになるのか義弟になるのか、どっちだろな」

ふと、恭一がそんな事を言う。

胡太郎の姉の鳥羽莉と付き合っているのだから恭一は胡太郎にとっての義兄さんになるのだが。

胡太郎自身、その鳥羽莉の姉の朱音と付き合っているのだから、恭一の事を義弟と呼んでもおかしくはない。

「そういえば、どっちだろうな」

胡太郎も今まで考えた事がなかったのか、少し考える。

「まっ、どっちにしろ俺達の関係は変わんねぇよな」

「そうだな……変わらないよな」

二人して笑いながら、そう言い合う。

自分たちは家族だから、義兄とか、義弟なんて関係ない。

今の関係が、一番心地よいのだから。

「恭一、部長、そろそろ部室行こうよ」

そんな二人の所に、櫻子と佳推がやってくる。

「そうだな」

「うぃーっす」

胡太郎と恭一はそう返事して、鞄を持つ。

「義姉さん、ほっといて大丈夫か?」

恭一は、今だ寝ている朱音を指差しながら胡太郎に尋ねる。

「そうだな……千佐都ー、朱音起こしておいてくれるか?」

今から教室を出ようとしていた千佐都に声をかける胡太郎。

「別に良いわよ」

千佐都は振り返りながらそう答えて、朱音のところへとやってくる。

千佐都が引き受けてくれたのを確認して、胡太郎達はサークル棟にある部室へと揃って出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼達の優雅な放課後

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃーっす」

恭一がそう言って、部室のドアを開ける。

「あっ、先輩達、こんにちは」

すると、すでに部室にいた青髪の少女が返事をする。

「よぉ、せせり」

恭一は片手を挙げて挨拶をし、部室に入る。

それに続いて胡太郎たちも部室に入る。

少女は由希 せせり。 2年の演劇部員で小道具、裏方担当である。

「あれ、せせり、すずはどうした?」

部室の隣の荷物置き場にカバンを置いてきた恭一が、せせりに尋ねる。

すずとはせせりと同じ2年の演劇部員、秋名 涼月である。

ピンクの髪に、風になびくウェーブヘアーの百合娘である。

勿論、せせりにぞっこんである。

「涼月は掃除で少し遅れるって言ってました」

「あいつも真面目に掃除なんてしてるんだな」

恭一のその言葉に、胡太郎が笑う。

「余計なお世話よっ!!」

「ぐはっ!!」

その時、叫びと共に後頭部に凄まじい衝撃を受ける恭一。

「ってぇ……すず、後頭部は人の急所だからこんなもん投げつけてくんな」

後頭部をさすりながら、恭一は後ろに立っていた涼月に言う。

「自業自得よ」

涼月はそう言い放ち、カバンを拾って隣の荷物置き場に行く。

「あれ、丹波はどうしたんだ?」

「あっ、丹波君は今日はおやすみですよ、先輩」

周りを見て、一人足りない事に気付いた胡太郎に、せせりが答える。

「じゃあ、これで全員だな。 一年は今日は収集してないから」

せせりの言葉に胡太郎は返事をして、集まった全員を見る。

「えっと、今日集まってもらったのは次にやる演目を皆で決めたいんだけど」

胡太郎がそういうと、恭一は勢いよく手を上げる。

「恭一、何か案があるのか?」

「主演俺、ヒロインこたの純愛劇」

「却下だっ!!」

期待して聞いた僕が馬鹿だったと、胡太郎はこめかみを押さえながら言った。

「ジョークじゃんよ」

「恭一は普段の言動からジョーダンに取られないからねー」

肩を竦めて言う恭一に、櫻子は笑いながら言う。

7人でやれる劇か……やっぱさ、一年もなんかちょい役ぐらいやっても良いんじゃね?」

腕を組みながら、恭一は胡太郎にそう言う。

「今から少しは舞台に馴れさせときゃ、後から良い演技もできるだろうし、何よりあの達成感っつうの? あれは早めに味あわせてやっといたほうが良い」

俺もそうだったしな、と恭一はつけたす。

「そうだな……恭一の言う事も、もっともだな」

「じゃさ、その点も踏まえてまた明日にでも一年も集めて話し合った方が良いんじゃない?」

櫻子の提案に、胡太郎は頷く。

「じゃあ、せっかく集まってもらってなんだけど、これはまた明日一年も集めて話そう」

そして、胡太郎の言葉に全員が頷いた。

「じゃ、私とせせりは帰るから」

「先輩達、お疲れ様でした〜〜」

涼月に連れられ、せせりと涼月は帰っていく。

「私達も帰えろっか、佳推」

櫻子の言葉に佳推は頷き、恭一たちのほうを見る。

「あのっ、恭一くんたちも一緒に、帰らない?」

少々顔を赤くして、佳推は恭一と胡太郎に尋ねる。

「ちょっとやりたい事があるんだ、待っててもらえれば別に俺は構わないぜ」

「僕も、恭一に付き合うから」

恭一の答えに佳推は頷き、櫻子と一緒に部室の隅っこに座る。

「よっし、じゃ3人ともしっかり見ててくれよ」

突然恭一がそう言い、佳推と櫻子は恭一を見る。

そして、恭一が軽く深呼吸をして……

「『他の誰が望むまいと僕が望む! 他の誰が許さなかろうと僕が許す!』」

身振り手振りをつけながら、恭一が言いだす。

「『キミが生きる事を望まない者がキミに剣を向けるなら、僕はその切っ先を全て全て打ち払って見せよう!』」

この台詞は、去年の文化祭の演目【月の箱庭】のクライマックスシーンの一部。

吸血鬼であるレミューリアが、死せる月の女王たるセレスに対して言う台詞の一部である。

「『キミが生きる事を許さないものがキミに呪いの言葉を投げ掛けるなら、僕はその万倍の祝福の言葉をキミに送ろう!』」

まるで、目の前に本当にセレスがいるかのように、恭一はレミューリアになりきって言葉を紡ぐ。

「『万軍の主が命じられようと、僕は君の冥府の扉をくぐらせはしない!』」

その手に剣があるかのように、恭一は剣を上空へと翳す。

「『―――保障なんて必要ない、今この場で僕が証明してみせる。 キミの中に眠る魂が、人となんら変わりないことを』」

そして、徐に目の前を見るとそこには佳推と櫻子が座っていて……

「『好きなんだ、セレス』」

その瞬間、佳推の顔が一瞬にして真っ赤になる。

「ふぅ……どうよ、こた」

息を整えて、恭一は胡太郎に尋ねる。

「凄いうまかったよ、鳥羽莉と同じぐらいかな」

「うん、去年の部長並にうまかったと思うよ」

胡太郎についで、櫻子もそう評価をする。

「佳推さんはどうだった?」

櫻子の隣に座っている佳推にも感想を尋ねる恭一だが……

「佳推? 佳推?」

佳推は宙を見て、ぼっとしている。

櫻子がいくら呼んでも、返事がない。

「体調悪いんじゃねぇかな……」

心配そうに、恭一が言う。

「…………ふぇ、さっ、櫻子、なに?」

そして、唐突に佳推は櫻子に尋ねる。

「いや、恭一が今の演技どうだったって」

「ああああ、うっ、うん、凄く良かったよ、恭一くん」

顔を真っ赤にして、少々どもりながら佳推は言う。

「そう? ありがと、佳推さん」

笑いながら、恭一は言い返す。

「んじゃま、帰りますか」

「そうだな」

恭一の言葉に胡太郎が頷き、一緒にカバンをとってくる。

そして、四人は部屋から出て、胡太郎が鍵を閉める。

「でもさ、何で急にあんなことやりだしたの?」

下駄箱へと行く途中で、櫻子が恭一に尋ねる。

「まぁ、何となく……かな」

曖昧に答え、恭一は笑う。

本心は鳥羽莉がやっていたから自分もやってみたかった、というものである。

そして、四人は玄関に辿りつき、靴を履き替える。

「んじゃ、また明日」

校門の所で別れるため、恭一は腕を振りながら挨拶をする。

「また明日……」

佳推が小さく手を振りながら、恭一に言い返した。

そして、お互い分かれて家路へと着く。

「はぁぁ、今日も1日終わりだなぁ」

白銀家へと帰る途中、恭一が隣の胡太郎にそう言う。

「まだ夜が残ってるけどな」

苦笑しながら、胡太郎が言い返す。

「こたと義姉さんの蜜月か?」

「お前と鳥羽莉もそうだろ」

「違いねぇ」

はははは、と恭一は笑う。

「ってか、こたと義姉さんも他人の血を直にすわねぇと駄目って言うのは不便だよなぁ」

「まぁ、ね」

恭一の言葉に、胡太郎はどこか申し訳なさそうに言う。

「そんな暗い顔すんなよ、血がいるってとこは俺も一緒だしな」

胡太郎の背中を軽く叩いて、恭一は言う。

「いっその事さ、こたと義姉さんも、咬んでやろうか?」

真剣な眼で、恭一は胡太郎に言う。

「そうすると、輸血パックの血で賄える……まぁ、その分性欲が強くなっちまうがよ」

「はははは、そうだな……でも、今はこのままで良いよ」

笑いながら、胡太郎は恭一にそう言った。

「もし僕も朱音も、他人の血を吸うのが嫌になってしまったら、お願いしようかな」

「任された」

胡太郎の言葉に、恭一は静かにそう言った。

「つまりは、俺とこたはもう一蓮托生ってことだよな」

先ほどまでの雰囲気を一気に破壊して、恭一はそう言う。

「なっ、何でそう話が突飛するんだよっ」

胡太郎も、苦笑しながら恭一に言い返す。

「まぁでも、俺とこた、鳥羽莉と義姉さん、俺達皆一蓮托生だろ?」

「そうだな、僕達は……ずっと一緒だもんな」

4人が、別たれることなんて、きっとない。

死ぬまで、この永遠をずっと四人で生きていくのだ。

「そういえば恭一」

「んぁ? どうかした?」

家が近づいてきて、胡太郎が恭一に言いだす。

「今日、覚悟しておいた方がいいよ」

「なにをさ?」

胡太郎の言葉に首を傾げ、聞き返す恭一。

そうしているうちに、家につく。

「さぁ、それは自分で確認してくれ」

はぐらかす様に言って、胡太郎は家の玄関をくぐる。

「……訳わかんねぇ」

恭一もそう言って、玄関をくぐった。

そして悟った、あぁ、こういうことか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

3回連続で吸血鬼達の優雅な日常シリーズ更新〜〜

フィーア「今回は第3弾ね」

これも前回の続きで、放課後の話。

フィーア「じゃ、次は夜の話?」

一様はね、第四弾までは続き物で、第5弾からはそれぞれ一話完結の話にしようと思ってる。

フィーア「そこまで早く書きなさいよね」

第四弾まではもう殆ど構成はできてるから、後は書き出すだけだよ。

フィーア「じゃあさっさと書きなさい」

いやね、少しくらい休憩があっても……

フィーア「あんたにそんな物はないわよ」

藤堂基準法違反とか……

フィーア「あんた人じゃないし」

ひっ、ひでぇ!!

フィーア「あんたは下僕、どぅーゆーあんだーすたーんど?」

何でひらがななんだよ……

フィーア「そこはほっときさない!」

ぶべらっ!!

フィーア「ではでは〜〜〜」





今回は放課後〜。
美姫 「演劇部のお話ね」
まあ、簡単なみーてぃんぐだけだけれどね。
美姫 「何でアンタまでひらがななのよ」
いや、何となく?
美姫 「はぁぁっ!」
ぶべらっ!
美姫 「次回は夜のお話になるのね。一体、どんな風になるのかしら」
胡太郎の言った覚悟とは。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
待ってます。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る