1、鼎達と一緒に買い物に行く(中篇)

 

 

 

 

 

 

「鼎お姉ちゃん達と買い物に行く〜〜」

「うっし」

フィーアの返事を聞いた瞬間、鼎がガッツポーズをする。

「フィーアちゃんの服装のコーディネートって楽しいのよねぇ」

「ええ、フィーアちゃんは何着せても可愛いですからね」

彩とベルフォードも楽しそうだ。

「では、そういうことで」

馨の言葉の後、皆で一斉に箸を置いた。

 

 

「さてと!! 行くか」

玄関で伸びをした鼎が言う。

「うん!!」

それにフィーアが満面の笑みで答える。

その後ろで、クラクションの音が響く。

「行くわよ」

運転席からベルフォードが顔を覗かせて言う。

「いやぁ、ベルが車持っててくれて助かったぜ」

サイドシートに乗り込み、鼎が言う。

「備えあればなんとやら、よ」

含み笑いを浮かべ、ベルフォードは車のハンドルを握る。

「ベルさんって、たいていの乗り物は乗れますものね」

後部座席では彩、フィーア、紅の順番で座っている。

大型特殊、限定解除、工事用特殊車両、それからセスナに二級船舶……他になんかあったっけかな?」

指折りで数えていき、ベルフォードは彩に尋ねる。

「大型の航空機にも乗れたんじゃないですか?」

「ああ、それもあったわね」

彩の言葉に、ベルフォードは笑いながら頷く。

「ベルお姉ちゃんって、いろんなものに乗れるんだね〜〜」

フィーアが満面の笑みで、ベルフォードに向かって言う。

「そりゃぁね、職業柄いろんな乗り物に乗れないといけなかったからね」

バックミラー越しにフィーアの笑顔を見たベルフォードも、笑顔で答える。

「わたしゃ車ぐらいしか乗れないねぇ」

「乗れない、じゃなくて乗らないだけでしょう、貴女の場合は」

鼎の言葉に、紅が溜息をつく。

「そういう紅は機械オンチじゃねぇか」

くっくっくと笑いながら鼎が言い返す。

「あれはっ、だって……いきなりあんな事になるなんて思わなかったんですもの……」

「なになに? 興味あるわね、その話」

運転しながらベルフォードが鼎に尋ねる。

「こいつの家って金持ちじゃんか、お迎えの車とかも当然あるわけよ」

「ふんふん」

笑いながらしゃべりだす鼎に、ベルフォードが相槌を打つ。

「ちょっ、鼎!!」

顔を真っ赤にして紅は叫ぶが、鼎はやめない。

「ある日こいつが自分で運転するって言ってよ、そしたら基本操作を間違えて車ごと私ら川に落ちたんだよ」

「あははははは、紅ちゃん可愛い〜〜」

鼎の話を聞き、ベルフォードは笑いながら紅に言う。

「……っ!!!」

紅はといえば、先ほどよりもっと顔を真っ赤にして、俯いてしまった。

「ベルさんも鼎さんも、そろそろ止めないと紅さんが可哀想ですよ?」

そんな紅を見た彩が二人に向かって言う。

「紅お姉ちゃん、泣いてるの?」

下から覗き込むように、フィーアが紅の顔を見る。

「ううん、泣いてないわよ」

軽く首を振って、紅は答える。

「泣かないでね、紅お姉ちゃん」

フィーアはそう言って紅の目元に軽くキスをする。

「フィッ、フィーアちゃん!!?」

それが効いたのか、紅は思いっきり顔を上げる。

「どどどど、どこでそんな事ををををっ!!?」

かなりどもりながら紅はフィーアにたずねる。

「えっとね、お父さんが泣いてる私にしてくれたから、私もしてみたの」

「きょっ、恭也さんが……?」

フィーアの言葉を聞いて、更に紅は赤くする。

「あの野郎、結構な事してんじゃねーか」

「ふふふふふ、今夜の特訓は3倍増しね」

ニヤニヤと笑う鼎と、怪しい笑みを浮かべるベルフォード。

「鼎、今夜付き合ってね」

「はいよ」

「殺さないようにしてくださいね」

鼎とベルフォードの危険な会話にも、彩は動じない。

「殺しちゃうとフィーアちゃんが悲しみますから」

「だよなぁ……ったく、恭也は良いよな〜〜フィーアにこんだけ思われててさ」

「同感」

鼎とベルフォードはここにはいない恭也に向かって愚痴をこぼす。

「だって、恭也さんはフィーアちゃんのお父さんですもの」

彩の言葉に、鼎とベルフォードはなぜか納得してしまった。

 

 

「さぁて、まずどこから行くかね……」

煙草に火をつけてから、鼎はたずねる。

「勿論まず服屋ね、フィーアちゃんの服を買うのが先」

「そうですね、そろそろ春物の服を買わないと」

ベルフォードの意見に、彩が賛成する。

「こんな事なら恭也ぐらいに荷物持ちにこさせりゃ良かったな」

服屋へと歩き出してすぐに、鼎が言う。

「面倒だけど、買い物をするたびに車に持っていくしかないようね」

鼎の隣で、ベルフォードが言う。

ちなみに、この5人はやたらめったら目立っている。

鼎とベルフォードは凛々しいお姉さまタイプであり、紅と彩は可憐なお嬢様タイプである。

フィーアは皆が口を揃えて可愛いというぐらい可愛いので言わずもがな。

ゆえに、すれ違う人男も女も皆この5人を見ていく。

だが、この5人に声をかけるような奴はいない。

声をかけ様とした瞬間、鼎とベルフォードの射殺さんばかりの視線を受けるのだ。

それに竦み、声をかけようとしたものは声をかけられないままなのである。

「よぅし、ベル、どっちがフィーアに似合う服を探せるか勝負しようじゃないか」

「面白いわね、のった」

服屋に入って鼎がベルフォードにそう言い、二人はすぐに服を探しにかかる。

鼎は少女向けな一般の服のコーナーへ。

ベルフォードは……なにやら怪しいコーナーに入っていった。

「では、私達はフィーアちゃんに似合いそうな小物を探しますか」

「そうですね、彩さん」

フィーアと手をつないだ紅と彩がそう言い、歩き出す。

「鼎、私達は小物を見てきますわ」

「うぃー、了解」

紅にそう返事をし、鼎はまた服選びに没頭する。

「でもフィーアちゃんの部屋は恭也さんの影響か、女らしくないというか」

「畳に障子……ああ、座敷のテーブルもありましたよね」

嬉しそうに歩くフィーアの上で、彩と紅はそんな会話をする。

「ですが襖の中の洋服棚はもう一杯ですよ? 鼎とベルさんが何かあるごとに買ってきますから」

口元に指を当て、紅が言う。

「はぁ、私達がフィーアちゃんに女の子らしい生活を望んでも、私達の環境がそれを許さないんでしょうか」

溜息一つついて、彩は言う。

「今まで戦いという世界にいた私達……フィーアちゃんも、そんな戦いの中で生まれた子だから……」

ちょっとしんみりしつつ、二人は話し合う。

「お姉ちゃん達なんのお話してるの?」

二人を見上げるようにして、フィーアがたずねる。

「くすっ、なんでもないわフィーアちゃん」

「ちょっと、フィーアちゃんのお部屋に何を置こうか考えてたのよ」

それに、二人は苦笑して答える。

そうだ、何も焦ってする必要なんてない。

時間はまだまだあるのだ、これからゆっくりしていけばいい。

「うぉい、いたいた」

そこに、一着の服を持った鼎が来る。

「なんだ、見に行かなかったのかよ?」

どうやら随分ゆっくりと歩いていたのか、それとも鼎が走ってきたのか。

とにかく、すぐに合流してしまった。

「フィーア、この服着てみな」

そう言って鼎はフィーアに一着の服を渡す。

「これを着てみればいいの?」

「ああ」

フィーアは鼎に聞いたあと、服をもってトテトテと更衣室に入る。

「はぁ、和むねぇ……」

フィーアの後姿を見ていた鼎が言う。

「私達女だけの特権ですから」

鼎の言葉に、紅が少し笑って言う。

「ところで鼎さん、ベルさんは?」

辺りを見回して、ベルフォードがいないので尋ねる彩。

「ベルなら、まだそこらで服選んでるんじゃねぇの?」

取り出した煙草に火をつけ、鼎が答える。

「着替えたよ〜〜〜」

そこで、更衣室のカーテンが開かれる。

中には、薄いピンクのキャミソールを着たフィーアがいた。

模様は薄い赤の花で、それがいたるところに大小散りばめられている。

ズボンは少し紺色に近い青のジーパンである。

「ちょっとばっかそろそろフィーアも女らしくなってきたんだ、これぐらいでどうよ?」

フィーアを見ている紅と彩に尋ねる鼎。

「貴女のセンスは確かですし、良いんじゃないですか」

「ええ、私も言いと思いますよ」

二人はそう言って、フィーアを見る。

「紅お姉ちゃん、彩お姉ちゃんどうかな?」

くるりと、一回転してみてフィーアが言う。

「可愛いですわ、フィーアちゃん」

「とっても似合ってるわよ」

それに、二人とも笑顔で答える。

同じように、周りにいた客も、そのほとんどがフィーアを見ていた。

「見つけたーーーっ!!!」

そこに、ひときわ大きな声がする。

何事かと思ってそちらを見ると、ベルフォードが服の山の中から出てきたのだ。

「おっ、フィーアちゃん可愛いわよ」

そして、その服を持ってきて、フィーアの服装を見て言う。

「その発言は私の勝ちって事で良いのかい?」

ニヤニヤとして、鼎は笑いながらベルフォードに言う。

「冗談、フィーアちゃんは何着ても似合うから当然の事を言ったまでよ」

そう言ってベルフォードはフィーアに近づく。

「フィーアちゃん、次はこっちの服ね」

「うん!」

ベルフォードはフィーアの頭を撫でながら、持っていた服を渡す。

そして、フィーアが受け取ったのを見て、カーテンを閉める。

「しっかしよぉ……お前あの服の山はなんだよ?」

顎で先ほどベルフォードがいた服の山を指して、鼎はたずねる。

「どれもこれもフィーアちゃんの魅力を出すにはちょっと役不足でねぇ、探すのに手間取ったのよ」

言って、ベルフォードもポケットから煙草を出して、火をつける。

ちなみに、ベルフォードも煙草を吸うが、一日1本か2本程度である。

鼎が吸い過ぎなのである。

「あれを片付ける人は可哀想ですわね」

そして、彩が率直に感想を告げる。

「まっ、私たちはお客なんだし、別に良いんじゃないの」

対して、ベルフォードはどこ吹く風だ。

「はぁ、ベルさんの相手をしていたら鼎の相手をするような気分ですわ」

深く溜息をついて、紅が言う。

「「そんなに溜息ついてると幸せが逃げるわよ(老けるぞ)」」

そこに、ベルフォードと鼎が息もピッタリに言い返す。

「誰のせいですかっ!!」

「まぁまぁ、紅さんも落ち着いてくださいね」

鼎達の言葉を聞いて叫ぶ紅を、彩がなだめる。

「着替えたよーー」

そこに、フィーアの明るい声が響く。

シャァァッと、カーテンが開けられる。 そこには……

「ぶっ!!」

「あらぁ……」

「はぁぁぁぁ……」

上から、鼎、彩、紅の順番である。

「やっぱり思ったとおりフィーアちゃんにはピッタリだったわねぇ〜〜〜」

そして、一人満足げにベルフォードは頷く。

「おいベル!! なんだありゃ!!?」

フィーアを……性格には、フィーアの着ている服を指差し鼎が叫ぶ。

「何って、ゴスロリ?」

それに、ベルフォードは首をかしげながら答える。

そうである、ベルフォードが持ってきたのは小さなリボンが服の至る所に付けられ、なにやらフリフリしたスカートのある黒い色のゴスロリの服である。

「やべぇぞ……なんで……なんで……」

まるで信じられないといった風に震える鼎。

 

 

「なんで、あんなに似合ってるんだよぉぉぉっ!!」

 

 

叫んで、鼎は膝をつく。

「フィーアちゃん、似合ってますわよ」

「似合いすぎだと思うんですけどね……」

彩は嬉しそうに、紅は少し呆れて感想を言う。

「フィーア、スカートの端を持って回ってみて」

「こうかな?」

ベルフォードに言われた通りにしぐさをするフィーア。

最早、絵から出てきた可憐な美少女である。

ちなみに、何人かの男の客が、倒れている。

「どう、鼎? 私の勝ちね」

「くそぉぉ……反則だろ、ありゃ……」

かなり悔しそうに、鼎は言う。

「ふふふん、店員さん、会計をお願いできるかしら」

近くにいた固まっている店員に声をかけるベルフォード。

「この服、このまま着ていくからよろしくね」

お金を払って、ベルフォードは笑う。

「うぅぅぅ、ベルお姉ちゃん、恥ずかしいよぉぉ……」

上目遣いでフィーアは頬を赤くしてベルフォードを見る。

「っ!!! 可愛すぎよもう〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

その姿にヒットしたのか、ベルフォードはフィーアを思いっきり抱きしめる。

「…………行きましょうか、彩さん」

呆れた顔をして、紅が彩に言う。

「そうですわね、少々目立ってしまったようですし」

彩も、ちょっと困ったような顔をして答える。

「ほら鼎、行きますわよ」

いまだに挫折している鼎の腕を取って、紅は言う。

「ベルさーん、行きますよ」

いまだにフィーアを抱きしめているベルフォードに彩は言うが、反応はない。

「はぁ……」

それを見た紅は、また一つ、大きな溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(後編へ)

 

 


あとがき

 

 

今回は、結構ほのぼの買い物風景です。

ちなみに、フィーア(作中)がゴスロリの服を着て一回転したときに、周りの男集の何人かは鼻血をふいてます。

フィーアの可愛さを余すことなく発揮できていればいいなぁ、と思います。

ではでは、また違う選択肢か後編でお会いしましょう。




フィーア 「今回は、ほのぼのとしたお話よ」
美姫 「うんうん。ほのぼのよね♪」
……あれ? あれ? あれ?
フィーア 「どうかしたの?」
美姫 「何、一人で首を捻っているのよ」
いや、何か違和感が……。
フィーア 「違和感? そんなの感じます?」
美姫 「全然、感じないわね。きっと、寝惚けているのよ」
フィーア 「ですよね〜」
…………って、何で、お前がここにいるんだよ!
違和感の正体は、お前だ、お前。
フィーア 「そんな、酷い……。私はただ、お姉さまに会いに来ただけなのに」
美姫 「ちょっと、浩! アンタ、何、虐めてるのよ」
そ、それは、激しく誤解だぞ。
フィーア 「うぅぅ、じゃあ、居てもいいんですね」
あ、ああ。
美姫 「さて、そういう事で、今回は選択肢の1番ね」
フィーア 「はい、その通りです。後、3番を書き上げたら、後編と言ってました」
美姫 「後編が出来上がるのが、楽しみね」
うんうん。
美姫 「後編の前に、残る選択肢も楽しみにしてますね〜」
それでは、また〜。
フィーア 「じゃあ、お姉さま、遊びましょう♪」
美姫 「そうね。何をしようかしら」
何をしようか〜。
フィーア 「ここはやっぱり…」
美姫 「あれしかないわね」
何々?
フィーア・美姫 「浩虐め♪」
……お、鬼じゃ! 鬼がいるよ〜!
フィーア 「誰が…」
美姫 「鬼なのかしら?」
じょ、冗談です。き、綺麗な女性に囲まれて、ボカァ〜、幸せだな〜。
幸せすぎて、前が見えないよ…(泣)
フィーア 「それじゃあ、冗談はおいておいて、遊びましょう♪」
美姫 「そうね。そうしましょう」
じょ、冗談……。よ、良かったよ〜。
フィーア 「たっぷりとね」
美姫 「ええ、時間はたくさんあるんだから」
……さ、寒気が……。



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