その少女は、ずっと彼女を見ていた。

3年の始まりに急に転校してきた彼女。

普通の人にならなんて事はないが、少女にとっては怪しい存在だった。

裏、と呼ばれる世界を知るが故に…軽い疑心暗鬼なのだ。

少女の名前は、桜咲 刹那。

京都発祥の退魔の流派、神鳴流の剣士である。

刹那はとある任務の為に、この地に来ているのだが。

その任務の内容上、彼女は疑わしかった。

クラスメイトとは何人か知り合いがいたようだが、それでも安心は出来ない。

そして、同僚である褐色の肌をした少女と話をつけ。

刹那は、彼女と対峙しその目的を吐かせようとする。

その彼女の名前は……

月村 魔璃。

吸血鬼を片親に持つ、ハーフ吸血鬼にして、今は絶えし御神流の剣士。

これは、そんな二人のお話……

 

 

 

 

 

 

 

神鳴る剣と御神(おんかみ)の刃

 

 

 

 

 

 

 

本日も、つつがなく6時間目終了のチャイムが鳴り響く。

後は放課後を待つのみで、教室の中はこれからの事を考える人が沢山である。

魔璃も、その内の一人だった。

(さてと、今日はエヴァ姉さんの魔法の訓練もありませんし、楓さん達との約束もありませんし)

手持ち無沙汰な状態だなと、魔璃は苦笑する。

(まぁ、その分夜の鍛錬まで休憩しますか…疲労を減らすのも、剣士の勤めですし)

鞄に教科書などを詰めていき、魔璃は前を向く。

刹那、射貫かれるような視線を感じ取る。

(……敵意は、多少ですがありますね…やれやれ、やっかいな)

内心ため息をついて、魔璃は視線を動かさずに視線の元を辿る。

(あれは…桜咲さん? 彼女が何故私にこんな視線を向けるのでしょうか……)

その視線の元を刹那と確認し、魔璃は考える。

別段、刹那とは仲良くもなければ仲が悪いわけでもない。

そもそも、会話した事ですら殆どないのである。

(なにやら、快く思われていないようですね……後で、話を聞きますか)

そう思っている間に、HRが終わり、教室からクラスメイトが出て行く。

「おい魔璃、今日は家に来ないか?」

そんな中、エヴァが魔璃に声をかける。

「エヴァさん、すいません……少し、用事が出来てしまいまして…それからでもいいですか?」

申し訳なさそうに、魔璃はエヴァに謝る。

「そうか、なら待っているぞ」

そう言って、エヴァは茶々丸を連れて教室を出て行った。

(では、行きますか)

気は乗らないが、どうにかしないといけないだろう。

そう考え、魔璃は教室を出て行く。

少し経ってから、視線の主である刹那も魔璃を追い駆けるように教室を出て行った。

 

 

 

(で、結局こう言う場所に連れ出されるのですね)

逃げようとも思えばいくらでも逃げきれたのに。

そう考えて、魔璃は辺りを見回す。

障害物が殆どなく、それでいて殆ど人通りがなさそうな広場。

(……人がいないのではなくて、人が寄らないように、この空間に入らないように、仕組まれましたね)

エヴァから魔法に関しては色々知識を得ていたので、そう言う系統の魔法があることも魔璃は知っていた。

そして、この不可解な状況を、そういうものだと結論づける。

「……私は、何処まで貴女に付き合えばいいのでしょうか?」

広場の真ん中で止まり、魔璃は言葉を放つ。

「桜咲、刹那さん―――――」

振り返りながら、魔璃は自分の後ろにいるであろう人物の名前を呼んだ。

そこには、確かに刹那がいて……

冷徹な顔をして、立っていた。

「この度は、このような場に招待してもらった、とお礼を申し上げるべきなのでしょうか?」

「……答えろ、貴様は何の目的で麻帆良にやってきた?」

魔璃の言葉に答えず、刹那は魔璃に言い放つ。

「何の目的といわれましても、学生をするため、では納得していただけませんか?」

「ふざけるなっ!!」

至極当然な答えを出したが、刹那は怒りを露にして叫ぶ。

実際のところ、魔璃は本当に学生をするために麻帆良にやってきたのだが……

「桜咲さん、私は貴女にそう言われるいわれも、覚えもないのですけど?」

「この期に及んでまだ白を切るか……ならば」

魔璃の言葉に全く応じず、刹那は持っていた野太刀を構える。

「人の話はちゃんと聞きましょうと、習いませんでしたか?」

ため息をついて、魔璃は考える。

(ここで武器を出してしまえば……桜咲さんはさらに誤解しそうですね)

どういう姿勢に出るか、魔璃は考えあぐねる。

(現在の武装は焔と小刀が一刀、飛針が107番鋼糸が一つ……)

自分の持っている武器を全て確認しつつ、魔璃は刹那を見る。

「お嬢様は、私が護るっ!!」

その間にも、刹那は叫び魔璃に向かう。

(疾いっ!!?)

一気に距離を縮められ、魔璃は内心焦る。

それでも、刹那がくりだす太刀を、紙一重で交わしていく。

後方に下がりながら避けていたため、後ろからの一瞬の殺気に、魔璃はバランスを崩す。

「くっ!!」

もう、誤解云々等と言う事は魔璃の頭の中からすっかり抜け落ちていた。

そのため、魔璃は迷うことなく右の袖から携帯している機刀 焔を抜き取る。

そして素早く手首を軸に回転させて……三号刀にして刹那の太刀を受け止める。

「とうとう尻尾を出したか……」

その焔を見て、刹那は魔璃が刺客だと確信する。

「いつ以来でしょうか…剣士としての姉以外に……」

呟くように、魔璃は言葉を紡ぐ。

「これほどまで怒りを覚えたのはっ!!!」

叫びと共に、魔璃は刹那を弾き飛ばす。

その事に多少驚きつつも、刹那はバランスを崩さずに着地し、魔璃を見据える。

魔璃をその視界に捉えると……魔璃の黒い瞳が、紅く染まっていた。

「ふざけるな? 尻尾を出した? 誤解にも程がある」

静かに、だが凛とした声で、魔璃は言う。

「私がいつ、貴女の言うお嬢様に手を出したと言うのか……思い上がりも、度をすぎれば」

刹那、魔璃が一瞬にして刹那の眼前に現れる。

「迷惑だと言うことを知りなさいっ!!」

魔璃の叫びと共に振るわれる焔を、刹那は太刀で受け止める。

しかし、予想以上の力で押し切られ、吹き飛ぶ。

突然の魔璃の変わりように、刹那は多少驚くが直ぐに意識を集中して魔璃に向かう。

そして、そのまま何合か剣を打ち合う。

「斬岩剣っ!!」

刹那の必殺の一撃が、魔璃に向かって放たれる。

しかし、その一撃を魔璃はいとも簡単に避ける。

そしてそのまま、魔璃は刹那に向かって焔を振り下ろす。

刹那は咄嗟にその一撃を防ぐが、凄まじい衝撃が体内に徹る。

その後、魔璃が何回か焔を振るい、刹那がそれを受け止める。

しかし、その度に刹那の体内に凄まじい衝撃が徹る。

(何だ、この衝撃はっ!?)

訳がわからないと刹那は思い、受け止める事を止め、避ける事に専念する。

「防戦一方ですか、仕掛けてきておいて」

その魔璃の言葉が、刹那の癇に障った。

「刺客風情が偉そうにっ!!」

避けて、すぐさま刹那は攻撃に転じる。

避けてからすぐさま自身の最速で敵に近寄り、剣戟を浴びせる。

「美由希叔母様と似たような戦術……でも、拙過ぎますっ!!」

その攻撃をも避けきり、懐の小刀を抜刀して刹那の背中を柄で思いっきり殴りつける。

「かはっ!!?」

背中に感じる凄まじい衝撃に、刹那は血を吐いて少しばかり吹き飛ぶ。

軽く徹を込めて、背中を打ちつけたのだ。

それを確認し、魔璃はすぐさま木の陰に身を隠す。

一瞬の間をおいて、魔璃のいた場所に銃痕が出来る。

(先ほどの殺気もこの狙撃手のものですか……いるのはわかりますが、距離と正確な場所が掴みきれない……)

あたりの気配を探るが、狙撃手の位置を掴みきれない魔璃。

「狙撃手の方、この戦いは誤解である事を信じてもらえませんか?」

返事を期待しつつ、魔璃は問いかけてみる。

「私は別に桜咲さんの仰る刺客ではありません。 学園長先生に連絡を取ってもらえれば判ると思うのですけど」

魔璃の言葉の後、暫く静寂が辺りを包む。

「……どうやら、本当に関係ないらしいね」

言葉と共に、褐色の肌をした少女が歩いてくる。

「ですから、先程から申し上げていますでしょう……私は、純粋に学生をしに来ただけですよ」

「うぅぅ……」

溜息をつきながら言う魔璃の少し後に、刹那が呻き声を上げながら起き上がる。

「刹那、あいつは関係がないと学園長も言っているぞ」

「学園長が?」

そんな刹那に、褐色の肌をした少女が声をかける。

少し顔を顰めながら、刹那は褐色の肌をした少女に尋ねる。

「あぁ、後あいつに手を出すのなら凄まじい事になるからやめておけと」

その言葉に、刹那はどういうことだ、と言う風に目配せする。

「あいつの親は鹿児島、京都、青森に本拠がある神咲の御三家の当主と知り合いだそうだ。 当然、そんなやつの娘に手を出してみろ……神鳴流と言えど、庇いきれんぞ」

特に、同じ京都にある神咲楓月流とは仲が良いだけに、庇いきれない。

そう、褐色の肌をした少女は言う。

その言葉に、刹那は蒼白になって驚く。

他にも、魔璃に手を出そうものなら国内の夜の一族も黙ってはいないが……

さすがに、その事については学園長が黙っておいたのだ。

「あの、判ってもらえましたか?」

そんな刹那に、魔璃は尋ねる。

「もっ、申し訳ございませんでしたっ!!」

すぐさま、刹那は膝をついて頭を垂れ、魔璃に謝る。

「こちらの思い違いで、無関係の貴女に危害を加えてしまい……」

「いえ、こちらも良い鍛錬になりましたよ」

恐縮しっぱなしの刹那に、魔璃は気にしていないと言う風に言い返す。

(まぁ、実際は怒りに身を任せて徹を放ちっぱなしだったのですけどね)

内心苦笑しながら、魔璃は焔を回転させ、ナイフの大きさに戻して袖に直す。

その様子に、二人は驚く。

「あの、その武器は一体……」

「あぁ、焔の事ですか……」

刹那に尋ねられ、魔璃は考える。

「……内緒、です♪」

命一杯の笑顔で、魔璃はそう答えた。

そして、そのまま魔璃はエヴァの家に行こうと歩き出す。

「私に勝ったら、教えてあげますよ、桜咲さん」

そう言い残し、魔璃は歩いて行った。

「……刹那」

「判っている」

魔璃が去って行った方向を見つめながら、二人は頷き合う。

「必ず、勝ってみせますよ―――――――魔璃さん」

そう、刹那は宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

魔璃譚第3弾は刹那との戦いのシーンを。

フィーア「魔璃、結構強いじゃない」

あぁ、あれはバーサークモード一歩手前だからね。

フィーア「どういうことよ?」

まぁ、極端に言えば…怒って夜の一族としての力がかなり解放された状態だよ。

フィーア「それで、あれだけ強くなったって訳?」

だいたいね。

フィーア「で、次回は?」

ふふふふ、そう聞かれると思って!!

フィーア「うんうん」

……未定です。

フィーア「……こんのぉ、大馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

びでぶーーーーーーっ!!!

フィーア「期待した私が馬鹿だったわ……ではでは〜〜」





次回は未定! 明言だね〜。
美姫 「この馬鹿が!」
ぶべらっ!
美姫 「アンタの、その阿呆な思考がアハトさんに広まってるんじゃないでしょうね」
お、俺は病原菌か…。
美姫 「もっと性質が悪いわよ」
ひ、酷い……。
美姫 「それにしても、切れると魔璃って凄いわね〜」
まあ、御神流に夜の一族の力だしな。
美姫 「今回の件により、刹那が興味を抱いたみたいよね」
だな。今後はどんなお話になっていくのやら。
美姫 「次も待っていますね〜」
ではでは。



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