乙女に恋するお姉さま!?
それは、瑞穂が恵泉女学院に転入して来た日の事。
紫苑に男という事がばれた直後の事である。
「宮小路サン、少シ宜シイデスカ?」
何処か、たどたどしい日本語で話しかけられ、瑞穂はそちらを向く。
「えぇ、別に構いませんけど……」
クラスの誰か、というのは判るけど名前がわからない。
「ココデハ少シ話シ辛イノデ……」
「判りました」
少女の言葉に頷いて、瑞穂達は人通りのない屋上へと続く階段の踊り場へとやってきていた。
「話とは、なんでしょうか?」
踊り場につき、瑞穂は少女に尋ねる。
「フフフフ、女ノ子ノ真似……随分ト上手クナリマシタネ」
「えっ……」
まるで見透かしたように、少女は言う。
「ソレニ見タ目も随分ト少女ラシイ……マリヤサンノ仕業デスカネ」
瑞穂を上から下まで見て、少女は言った。
「あの……」
瑞穂が、訳がわからないといった風に少女に言葉を声を掛けようとする。
「ソンナニ緊張ナサラナイデクダサイネ……鏑木 瑞穂サン?」
その言葉に、瑞穂は固まった。
「アァ、別ニ脅ス、ナンテコトハシマセンヨ。 楽シミガ減ッテシマイマスカラネ」
何処か楽しそうに、その少女は言う。
「自己紹介ガマダデシタネ……私ハ鵬 雫トイイマス」
スカートの両裾を軽く持ち上げて、少女は小さく笑いながら言った。
「貴方は……何故、僕の事を?」
少し戸惑いながら、瑞穂は尋ねる。
「アラ、気ガ付キマセンカ?」
口元に手を当てて、小さく微笑みながら雫は言い返す。
その仕草は、どこか紫苑を思い浮かばせるものだった。
「幸穂サマニハ、随分ト良クシテモライマシタシ、瑞穂サントモ何度カパーティーナドデオ会イシテイマスヨ?」
その言葉に、瑞穂は考える。
「鵬…鵬……あぁ! もしかして母様の御学友だった鵬 明日香さんの!」
そして、思い出したのか、少し声を大きくして言う。
「エェ、思イ出シテイタダケマシタカ」
今度ははっきりと、微笑んで雫は嬉しそうにいった。
「何年ぶりかな……随分前に確か……」
「慶久サマノ薦メデ、10年前ニ渡米シテ以来デスネ」
お互い笑いあって、言い合う。
「でも驚きました、いつ帰ってきていたんですか?」
「去年デスヨ、慶久サマニハ連絡シテイタハズナンデスケドネ」
瑞穂の問いに、雫は小さく首をかしげながら言う。
「そういえば、父様が楓さんとそんな事を話していたのを聞いたような気もする」
「マァ、伝達ガ遅レテモコウシテ会エタノデスカラ良シトシマショウ」
言って、雫は瑞穂の手を持つ。
「ソロソロ教室ニ戻ラナイト皆サンガ心配シマスカラ、戻リマショウ」
「えぇ、そうね」
言って、二人は教室へと戻って行った。
「あら、瑞穂さんと……」
教室に戻ると、紫苑が二人に話しかけてきた。
「鵬 雫デスヨ、紫苑サン」
紫苑のそんな態度に別になんとも思っていないのか、雫が名前を言う。
「ごめんなさいね」
申し訳なさそうに、紫苑が謝る。
「紫苑サンガ謝ルコトナドナイデスヨ、私ハ余リ人ト関ワリ合イガナイデスカラ」
気にしていないという風に雫が言う。
「ソレニ、コレカラ瑞穂サント一緒ニイマスカラ」
付き合いは、これからしていこうということである。
「はい、そうですね」
二人は同じようなポーズを取って、苦笑しあった。
瑞穂はそれを見て、苦笑いするのであった……
そして、あっという間に放課後……
「失礼します、雫お姉さまはいらっしゃいますでしょうか?」
教室に、下級生の一人がやってきて、雫の事を尋ねる。
「はい、少々お待ちになってね」
それを聞いたのは3-Aの受付嬢との声もある、高根 美智子である。
「雫さん、下級生の方がお見えですよ」
微笑みながら、美智子は雫に言う。
雫はというと、瑞穂と紫苑と談笑をしていた所である。
「アリガトウ、美智子サン」
雫も微笑んで、美智子にそう言い、教室の外へと行く。
「アラ、君枝サン」
雫が教室の外へ行くと、そこには現生徒会書記の菅原 君枝がいた。
「雫お姉さま、そろそろ生徒会に顔をお出しください」
少し困ったように、君枝が雫に言う。
「別ニ、私ガイナクテモ優秀ナ生徒会長ニ副会長、書記モイルカラ大丈夫ジャナイカシラ?」
そんな君枝に、雫は小さく笑いながら言う。
「いえっ、雫お姉さまも十分優秀ですし……会長も、お待ちになっていますし」
「……ソウネ、最近貴子サンノ顔モ見テイマセンシ」
君枝がむきに反論した姿を見たからか、雫は苦笑しながら。
「判リマシタ、今日ハ生徒会室ニ顔ヲ出シニ行クワ」
「はいっ、お待ちしております」
雫の言葉に嬉しそうに表情を綻ばせながら君枝は言って、生徒会室へと戻っていった。
それを見送った雫も教室へと戻る。
「瑞穂サン、紫苑サン、少々用事ガ出来テシマッタノデ今日ハ失礼サセテイタダキマス」
そして、談笑をしていた二人にそう言う。
「判りました、また明日に」
「私達のことなら、気になさらないでくださいね」
瑞穂も紫苑も、了解といった風に雫に言う。
「フフフフ、デハマタ」
瑞穂を見ながら、どこか意味深な笑みを浮かべて雫は教室を出て行った。
そして、それから5分ほど後に、雫は生徒会室へと来ていた。
「ゴ苦労様ネ、皆サン」
扉を開けて、雫がまずそう言って入った。
「雫お姉さま、来てくださったのですね」
そんな雫にまず声を掛けたのが副会長を務める門倉 葉子である。
「エェ、君枝サンニ熱烈ナラヴコールヲ受ケタモノデスカラ」
小さく笑いながら雫がそう言うと、生徒会室にいた役員全員が君枝のほうを見た。
「しっ、雫お姉さま!」
顔を真っ赤にして、君枝が雫に言う。
「フフフフ、君枝サンハカラカワレル事ニ早クナレルベキネ」
笑いながらそう言って、雫は椅子へと座った。
暗黙の了解で決められている雫の指定席だ。
生徒会長の机の隣という、奇妙な位置にある椅子である。
「雫さん、あまり君枝をからかわないでくださいね」
そんな雫に、生徒会長である貴子が小さくため息をつきながら言う。
「オヤ、嫉妬デスカナ貴子サン?」
「なっ、べべべべ別にそんな事を言っているのではなくてですねっ!!」
雫の言葉に、貴子がかなりどもりながら言い返す。
「今日ハ久シブリニ顔ヲ見セニ来タノデスヨ。 アマリ行カナサ過ギルト顔ヲ忘レラレテシマイソウデスカラネ」
「そんな、雫お姉さまの事を忘れる役員はいませんよ」
苦笑しながら言う雫に、葉子ははっきりとした声でそういった。
葉子は、少なからず雫に憧れを抱いていた。
クールで理知的……だけど、どこか付き合いやすさも感じ取れる。
何故雫が、この学園であまり知られていないかが葉子には不思議だった。
「ソウ? 葉子サンガソウ言ッテクレルト嬉シイワネ」
微笑みながら、雫が葉子にそう言った。
ちなみに、雫の役職は生徒会名誉役員というあまり意味のわからない役職である。
前生徒会書記ではあるが、今年はその地位を後輩の君枝に譲り、そのまま生徒会を去ることにしていた。
当時の役員や副会長だった貴子はかなり驚いていた。
貴子と雫で生徒会長と副会長をやってもらうつもりだったのだ。
貴子はそのまま生徒会長になったが、雫は当時の役員だった葉子に副会長を任せた。
そしてそのまま生徒会を止めようとした所で、皆の反論にあったわけである。
そんな経緯もあって、雫は生徒会名誉役員という何だかとても意味のわからない役職についたのだ。
「ソロソロエルダーノ選挙モ近イデスカラ、放蕩シテイル訳ニハ、マイリマセンワネ」
「そうですね、もうそんな時期ですし」
雫の言葉に、君枝が言う。
「雫さん、今年こそはちゃんと選挙を行ってくださいね」
ジト目で、貴子は自分の席の隣に座っている雫に言う。
「オヤ、ドウシマショウカネ」
そんな貴子の態度も何処吹く風、といった感じに受け流す雫。
「あの……雫お姉さまが去年の選挙の時に何かをなさったのですか?」
君枝がそう尋ねると、他の役員達も気になるらしく、雫と貴子を見ていた。
「ふぅ……雫さんは、去年のエルダー選挙の時に、誰も選ばなかったのですよ」
その貴子の言葉に、役員の殆どが固まった。
それもそうだろう……
エルダー選挙の選挙権を放棄した、というのは通常選挙の義務である選挙の投票を放棄したと同じである。
「マァ、ココデ言ウノモ憚ラレマスガ……私ニトッテ、エルダーハ誰デモ良イノデスヨ」
苦笑しながら、雫は言う。
「言イ換エレバ、見本トナルオ姉サマガ見ツカラナカッタト…言エバイイカシラネ」
当時雫は人との付き合いを余りもとうとはしなかった。
その所為か、周りで騒ぎたてられているエルダーというものにも興味がわかなかったのだ。
唯、前生徒会長に見出されそのまま生徒会入りをしたという異例な存在でもあるが。
「今年ハ、ソウネ……貴子サンヲ選ボウカシラ?」
それはこの生徒会役員の殆どが思っていることである。
皆貴子を尊敬し、信頼している。
「とにかく、今年こそはお願いしますね」
少し顔を赤くしながら、貴子は雫に言った。
嬉しいのだが、なんとなく素直になれないのである。
「サテト、来テ早々悪イノダケレド今日ハ帰ラセテモラウワ」
椅子から立ち上がり、雫がいう。
「あら、何か用事でも?」
「エェ、ドウシテモ外セナイ用事ガアリマシテネ」
少々困った風に、雫が言う。
「明日モ多分コレナイカモシレナイワ」
「貴方が二日続けてきた記憶はないのですが?」
その貴子の言葉に、役員達は苦笑した。
「オヤ、随分ナ言ワレ様ネ」
気にしていない、といった風に言う雫。
そうである、雫が二日続けて生徒会室に来た事はない。
良くて1日間隔、来ない時は半月も来ない時があった。
「マァ、二日後ニハ必ズ来ルワ」
「期待せずに待っていますわ」
貴子に言われ、雫は小さく笑いながら生徒会室を出て行った。
その日、瑞穂が寮に帰ると玄関にダンボールが幾つか置いてあった。
雫と別れてからも、教室で紫苑と話しており少々帰ってくるのが遅くなっていた。
「あれ……朝はこんなもの無かったわよね……」
不思議に思いつつも瑞穂は自分の部屋へと戻ろうとする。
そして、階段を一段上ると、後ろの玄関の扉が開く音がした。
下級生の奏か由佳里、それともまりやかと思い玄関の方を振り返ると……
「オヤ、遅イゴ帰宅デスネ瑞穂サン?」
「えっ、雫さんっ!!?」
そこには、教室で別れたはずの雫がいた。
「何で、雫さんがここに……?」
「今日カラココニ住ムカラデスヨ」
困惑気味の瑞穂に、雫はそう答える。
「でも、そんな話は全然……」
「驚カセヨウト思ッタノデスガ、ドウヤラ驚キスギタ、トイッタ感ジデスネ」
小さく微笑み、雫は瑞穂に言う。
「コレカラヨロシクオ願イシマスネ、瑞穂サン」
「……そうですね」
手を差し出す雫に、もはや驚き疲れたといった感じで手を握り返す瑞穂。
でも、昔は殆ど一緒にすごしていたから、実はかなり嬉しいのである。
10年前に急に渡米して以来全然手紙も電話もなかったのである。
だから、話したい事等沢山ある。
「マタ、一緒デスネ」
嬉しそうに、雫は瑞穂にそう言った。
あとがき
なんだ、これは……
フィーア「私に聞かれても……」
唐突に、こういう話し方をするキャラを書きたくなって書いたのは良いが……
フィーア「あの、ひらがなの部分が全部カタカナな話し方?」
そう。 で、唐突にオトボクのSSを書きたくなって。
フィーア「それだったらお姉様達書けばいいじゃない」
いやね、女のオリジナルキャラで書いてみたかったんだ。
フィーア「はぁ、要するに行き当たりばったりってところね」
うぅ、言い返せない……
フィーア「それに、これって短編?」
そこも微妙な所だねぇ……
フィーア「長編、また増やしすぎじゃない?」
長編って言っても、お姉様達ぐらいじゃないか。
フィーア「まぁ良いわ……また書かせるから」
苦労をかけるねぇ。
フィーア「それは言わない約束よ、さぁあっちで書こうね」
…………このネタ、昔浩さんと美姫さまがやってた気が……
フィーア「気にしない気にしない」
むぅ……
フィーア「ではでは〜〜〜〜」
むむむっ。そんなネタやったか?
美姫 「さあ? だって、私はいつだって本気だし」
それはそれで嫌だな。って、やった事ぐらい、覚えておいてくれよ。
美姫 「そんな事言われてもね〜」
あー、はいはい。
美姫 「と、久しぶりのオトボクのSSね」
ありがとうございます〜。
美姫 「うんうん。片言の台詞ってのも良いわよね」
今回のは、短編らしいね。
美姫 「とても面白かったわね」
うんうん。
美姫 「アハトさん、ありがとうね〜」
ではでは。