ザンッ、と持っていた小太刀で男は目の前のものを切り裂く。

向かってくるものたちは全て異形のもの……ためらう理由など、ない。

立ち塞がるなら、全てを薙ぎ払ってでも、進まねばならないのだ。

「どけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

叫び声と共に、男は無心で走りだす。

いや、無心ではない……ただ、一つの事だけを思って、走っているのだ。

(間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合えぇぇっ!!!!)

最後に立ち塞がった敵を切り裂く。

明るい、光が見えてきた。

男はがむしゃらに、その光目掛けて飛び込んだ。

そして、叫んだ……

「ロベリアっ!!!!」

叫びと、血飛沫が飛び散ったのは同時だった……

「ロベリ……ア…」

目の前では腹に剣を突き刺された……ロベリアと言う名の女。

「恭………也……」

ごふっ、と血を吐き出して……ロベリアはその男の名前を口にする。

「恭……也…?」

そして、ロベリアを突き刺した女性も、その男の名前、恭也と言う名前を口にする。

女性の手から剣が離れ、ロベリアはそのまま倒れ付す。

倒れた拍子に、突き刺さっていた剣が抜け飛ぶ。

「ロベリアっ!!!」

恭也はほかには目もくれず、ロベリアに近づく。

「ロベリアっ、しっかりしろっ!!」

ロベリアを抱きしめながら、恭也は叫ぶ。

「恭…也…か……すまないな……負けてしまった……」

血を吐き出しながら、ロベリアは言う。

「もう、体は再生されない……力を、使い果たした……」

死霊から力を吸い取り、再生できるはずの体が……再生されないのだ。

「俺がっ、俺がもっと早くここにたどり着いていたら!!」

恭也は涙を流しつつ、言う。

「護ると、2度も誓ったのに……2度も、その誓いを果たせなかった……」

「何を言う……お前は、立派に誓いを、果たしてくれた……」

妖艶な笑みを浮かべて、ロベリアは言う。

その光景に……この場にいる全員が、動けなかった。

「最後に……」

言葉の意味を汲み取ったのか、恭也はロベリアにくちづけをする。

凛と、緋い、血塗れの……くちづけ。

静かな、別れのくちづけだった……

 

 

 

 

 

 

 

千年越しの、決着を

 

 

 

 

 

 

 

「恭也……」

ロベリアを突き刺した女性が、恭也の名を呟く。

「ルビナス……俺は、どうやら2度、お前達に誓いを破らされてしまったようだ」

立ち上がって、恭也は言う。

「だが、俺は……その誓いを、忘れる事などできはしない」

振り向いて、恭也はルビナスを見る。

刹那、恭也の体から大量の魔力が放出される。

「答えよ、答えよ、我が問いかけに答えよ……我と共にありしと思えば……我に手を貸してくれ」

紡ぐような、呪文。

「ダーク……プリズン」

刹那、恭也の目の前に一振りの剣が突き刺さる。

血塗れの刀刃……

「それはっ……」

ルビナスの表情が、驚きに変わる。

「力を貸してくれたこと、感謝するぞ……ロベリアの召還器【ダークプリズン】よ」

言って、恭也はその剣を地面から抜き取る。

血塗れの紅き刀刃……1000年前にロベリアが使っていた召還器【ダークプリズン】……

「さぁ、ルビナス……1000年前の決着を、今ここで果たそう」

恭也の脳裏に、あの日が思い浮かばれる……

あの、1000年前の……戦いの日々が……

 

 

 

 

それは、もはや不毛の大地を通り越した、地獄絵図のような場所だった。

あたり一面に広がるは、モンスターや、人々の死体。

漂う匂いは全て人の死んだ匂い……血の匂い。

空は黒い雲に覆われ、差し込む光もまた、血色だった。

「一対一で決着をつけたいとは……随分買いかぶられたな」

腰に差してある小太刀に手を当て、恭也は言う。

「恭也……」

対するルビナスは、召還器【エルダーアーク】を持っているが、その剣先にはどこか躊躇いを感じさせた。

「お前やミュリエル、アルストロメリアとは随分戦ったな……もう、2ヶ月近いか」

あの日から、恭也の戦いは始まった。

追い詰められたロベリア、イムニティを助け出したあの日から……

「恭也、あなたは何故……破滅へとつくことを選んだの?」

悲痛な表情で、ルビナスは言う。

あれから、あの日から……戦いで出会うたびに、ルビナスは恭也にその問いを投げかけ続けた。

でも、答えはかえって来ない……

恭也はいつも曖昧に微笑むだけなのだ。

「…………ある街に」

しかし、今回は違った……恭也が、ポツリと、話し始めた。

「ある街に、幼い兄妹がいた……仲の良い、兄妹だった。 その兄妹の親は破滅についたらしくな……無関係のその子供達は、街で酷く迫害されていた」

まるで、お前達も敵だと言わんばかりに、その兄妹に石を投げつける子供達……

「人間の、穢い部分を見せ付けられたようだった……無関係の子供にまで、罪はないというのに……」

時代の流れゆえに、その兄妹は迫害された。

妹は犯され、殺され、引き裂かれ、その死体は、焼かれた。

「なんという、無残で、惨たらしい仕打ちだろうか……その子供達が、一体何をしたというのだ……」

子供達は、知らず親に見捨てられ、兄は妹の為に夜通し懸命に働き、一生懸命生きていた。 なのに……

「そして、妹が殺された時、兄はついに、その手で村人全てを殺しつくした……」

「っ!!!」

恭也の言葉に、ルビナスは息を飲み込む。

「村人は、最後にはその兄に命乞いまでしていたよ……だが、その兄は情け容赦なく、その村人を切り殺した」

響く怒声、あたり一面に臭う血の臭い……切り裂かれた、村人達の死体。

「俺には……赦せなかった」

人々は生きたがっていた、死にたくないと、必死だった。

でも、そう思って敵を屠ってきた自分の道の跡に、何があっただろうか……

「自分が護ってきたはずの者達が、お互いに食い合うのだ……そのことが、俺には赦せなかった」

喜びも束の間、暫くすれば厄介者扱い、まるでアリエナイモノを見るかのような視線を向ける人々。

「だったら、一度破壊してしまったほうがいい……何もかも、消え去れば人の心にも変化は訪れよう……」

傲慢と、驕り昂ぶった者達を、倒さなければいけない。

「そのためには、赤の理ではもう無理なのだ……いや、赤の理の結果が、この世界だ」

だから、と恭也は言う。

「俺は白に賭ける……白の世界が、人々が忘れ去った想いを、再び呼び起こしてくれるものと信じて」

支配因果律を司るその世界に、希望を託す。

「俺は、もしこの救世主戦争に敗れれば、さぞ愚かな男だと言われるだろう…さぞ、馬鹿げた男だと思われるだろう」

破滅が負ければ、破滅側についたもの全てが、そういう烙印を押される事はわかっている。

「でも、俺はそうなったとしても、全ての人々に語りかけてやる。 俺の死をもってしても、語りかけ続けてやる」

優しさを忘れた人類に、生きる価値なし。

それは、恭也がであったとある詩人の言葉だった……

「そして俺は……俺はっ!!」

小太刀を抜き放ち、恭也は叫ぶ。

「俺は自分が殺してきたもの達こそ護りたかったんだっ!!!」

一気に加速して、恭也はルビナスに斬りかかる。

ガンッ と、お互いの剣がぶつかり合う。

「己の利を捨て、他人の為に何かを成そうとする者達は、どこへ行っても異端者扱いだ……」

だから、恭也はそんな人達を切り捨ててきた……それが、他の人達の為だと思って……

「だが、結果はどうだ……まるで正反対じゃないか……」

裏切りの行為に、その心は疲弊し、磨り減り、思いは……穢されていった。

「だから、人々があの尊き思いを想い出すその時まで……俺は悪になるっ!!」

叫びと共にルビナスを弾き飛ばし、恭也は追い討ちをかけるかのうように走りだす。

一瞬で間合いを詰める恭也の攻撃を、何とか受け流していくルビナス。

その攻撃の一つ一つから、恭也の痛いほどの思いが、伝わってくる。

「恭也、あなたは答えを出すのが早すぎたんですっ、もう少し、人々を信じて!」

ルビナスも、叫びつつ恭也に攻撃を仕掛ける。

恭也はそんなルビナスの攻撃を何とか紙一重で避けていく。

ルビナスがいくら女性だからといって、その手に在りし武器は召還器である。

身体能力の飛躍的向上、その上赤の主としての能力補助、加え自身の錬金術師としての力。

今のルビナスの力は普通の男を遥かに上回っている。

対して恭也は、力も平均以上あるが、それは普通の男から見ればである。

真正面から救世主と渡り合えるほど、力はない。

「もう少し……? ならば、後どれほど待てばいい……この戦争が終わるまでか? ロベリア達が死ぬまでか?」

ルビナスの攻撃を避ける合間に攻撃を繰り出しながら、恭也は尋ね返す。

「だが、俺は誓ったのだっ、ロベリアとイムニティの路に立ち塞がるもの全てから、あの二人を護るとっ!!」

「っ!!?」

その言葉は、ルビナスにとって衝撃以外の何ものでもなかった……

「そして、驕れる無能な神にでもなったつもりでいる人々が変わっていくまでの時間を、待てるほど時間もないっ!」

 

 

―――――――御神流(みかみりゅう) 奥義之伍(おうぎのご) 雷徹(らいてつ)―――――――

 

 

御神流屈指の破壊力を持つ奥義がルビナス目掛けて放たれる。

御神流の技の一つ【徹】の強化版でもある奥義である。

【徹】を2発動時に打ち込むのだ。

「ぐっ!!」

武器などで防がれても、体内にダイレクトに衝撃を徹すこの技に防御は余り意味がない。

体内に直接来た衝撃に、ルビナスは少しだけ血を吐き出した。

「ルビナス……お前は優しい……いや、優しすぎる……戦いには、向かないほどな」

小太刀を鞘に戻し、恭也は言う。

「だから、退け…俺は、お前を切り捨てることは出来ない……たとえそれが、ロベリア達に対する裏切りだとしても」

わずかな間だけだったが、お互いを認め合い、旅をしてきた仲間である。

赤と白に分かれた今でも、その時の思いはなくしてはいない。

「いいえ…恭也……私は、退けないわ……」

エルダーアークを支えにして、ルビナスは立ち上がる。

「私は、ロベリアを説得するまで、戦いを止めない……それに、ただ殺されていくだけの人々を見捨てる事も、出来ないわ」

構えて、ルビナスは言い切った。

「なるほど……ならば、俺は全力を持ってお前を倒そう……路は、分かれたのだからな」

柄に手を回し、恭也は構える。

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

神速に入り、恭也は一気にルビナスとの距離を詰める。

辺りの色が全て抜け落ち、モノクロの空間に入り込んだ感覚に捕われる。

体中に絡み付いてくるような感覚の中、恭也はルビナス目掛けて疾走する。

そして、ルビナスの間合い一歩手前で、神速から抜けだす。

 

 

―――――――御神流(みかみりゅう) 奥義之陸(おうぎのろく) 薙旋(なぎつむじ)―――――――

 

 

抜刀からの四連撃が繰り出される。

それら全てがルビナス目掛けていくが……

「なんだとっ!!」

恭也の放った斬撃は、全て空を切る。

切り伏せたと思ったルビナスは、エルダーアークによって生み出された幻影である。

「はいっ! はぁっ!! はいやぁっ!!!」

そして、その幻影のルビナスの後ろから、本物のルビナスが斬撃を繰り出しながら現れる。

高速の2回連続斬り、それを受け止めた瞬間、最後の3段目の衝撃波が恭也を吹き飛ばす。

「ぐぅぅぅぅぅっ!!!」

吹き飛ばされたが、何とか空中で姿勢を直し、恭也は着地する……刹那。

「束縛呪文だとっ!!」

着地したと同時に、恭也の体を無数の枷が拘束する。

「いくら貴方が魔法解除が出来ても……その鎖から抜け出すには時間がかかるわ……」

ルビナスの言葉の後、その後ろからオルタラが現れる。

「オルタラッ、何をする気だ!!」

恭也は鎖をほどこうとするが、ルビナスの言葉の通り、中々鎖を破壊できないでいた。

「恭也さん……私達は、あなたと戦えません……戦えても、きっと私達は貴方を倒す事は出来ない……だから」

そこまで言って、オルタラは呪文を唱えだす。

恭也の足元に、新しく巨大な魔方陣が浮かび上がる。

「貴方を、違う世界に跳ばすわ……」

「なん……だ、と……」

ルビナスの口から出た言葉に、恭也は驚愕する。

「貴方は、私達の事など忘れて……どこか、平和な世界で……すごしてほしいの」

涙を流しながら、ルビナスは言う。

「恭也、もし今度会えるときは……平和な時代で……」

言葉の後、魔方陣が光を放つ。

「くそっ!! 俺はっ、俺はぁっ!!!」

その瞬間、恭也は鎖を破壊する。

「オルタラッ!!!」

恭也が魔方陣から脱出しようとするのと、ルビナスが叫ぶのは同時だった……

魔方陣は一気に光を収束して……光が晴れた後……恭也の姿は、どこにもなかった……

「恭也……ごめんなさい……ごめんなさい……」

その場に座り込んで、ルビナスは涙を流しながら言った……

 

 

 

 

「あの時は、1000年を跳ばされた……だが、今回は必ず決着をつける!」

ダークプリズンを構えて、恭也は叫ぶ。

「恭也……結局、あなたとは戦わないといけないの……」

「そうだ……俺とお前は赤と白だ……今更、手を取り合うことは出来ない」

ルビナスの言葉を、恭也は否定する。

「ロベリアがいなくなった今は……イムニティを護らなくてはいけないからな……」

だから、と恭也は軽く息を吸って、気持ちを落ち着ける。

ロベリアの死を、無駄にしないために……決して、忘れないために……己が魂に、刻み付けるために。

「押し通らせてもらうぞ、ルビナスっ……そして、救世主候補達よっ!!!」

言って、恭也は駆け出した……

この戦いの果てを、見届けるために……

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

う〜ん、またしてもなにかおかしなものが出来てしまったな……

フィーア「今度は千年前と千年後の現在を一緒に書いたわね」

まぁ、跳ばされた時の状況とかも、書いてみようかなって思って。

フィーア「で、また変に終わらせたわね」

今回は千年前の恭也とルビナスがメインだからね。

フィーア「これはまたあの【哀しみの戦争へと続く道】の続編?」

一様はね、それらしい設定で書いた。

フィーア「ロベリア、冒頭で死んでたけど……」

話的には、ナナシルートの最後の戦いの辺りだな。

フィーア「この後、あの敵の大ボスはどうするの?」

もちろん、倒されたよ。

フィーア「そこは一緒なのね」

まぁ恭也自身はどうなったかは、ご想像にお任せします。

フィーア「一緒に戦ったかもしれないし、死んだかもしれないしってことね」

まっ、今回はこの辺りで。

フィーア「ではでは〜〜〜〜」





ほうほう。そんな事情が。
美姫 「千年前から続く赤と白の戦い」
あいも変わらず素晴らしい作品をありがと〜。
美姫 「ありがと〜」
いやいや、色んなパターンで続きを妄想中!
美姫 「やめい!」
ぐげっ! な、何で?
美姫 「いや、何となく?」
ひ、酷い……。
美姫 「ともあれ、今回はこの辺で〜」
ではでは。



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