An unexpected excuse

   〜鳥羽莉編〜





「俺が好きなのは……」

恭也の言葉に、集まった皆が息を呑む。

「……やはり、言わないとだめか?」

「恭ちゃんっ! この期に及んで往生際が悪いよっ!!」

肩透かしを喰らった様に、美由希が叫ぶ。

「だが、こういうのは他人に言う物ではないだろう?」

至極まともな正論を恭也は言うが……

「恭ちゃんに拒否権なんてないよ」

美由希の言葉に、皆がうなずく。

「はぁ……」

溜息一つをついて、恭也は観念したような表情になる。

「鳥羽莉……白銀 鳥羽莉だ」

恭也の口からでてきた女性の名前に、皆が一斉にショックを受ける。

だが、一番驚きそうな忍だけは何故か驚いてはいなかった。

そして、FCの女生徒達はぞろぞろと教室へと戻っていく。

「恭也も、観念して早く言えばよかったのに」

疲れた顔をしている恭也に、忍が言う。

「お前も何か助けてくれても良かったんじゃないか?」

溜息一つついて、恭也は言う。

「忍さんは、あんまり驚いてないんですか?」

普通に恭也と接する忍を疑問に思った美由希がたずねる。

「うん、だって恭也と鳥羽莉の仲を取り持ったの、私だもん」

忍の発言に、辺りの時間が一瞬止まる。

「あっ、あら?」

少し戸惑いの声を上げる忍。

「忍さんっ! 何で黙ってたんですかっ!!?」

美由希の言葉に、晶もレンも那美も頷きながら忍を見る。

「いやまぁ、恭也にも黙っておいて欲しいって言われてたし、ね」

恭也に言われていたのなら仕方がない、といった風に美由希達は忍に詰め寄るのを止める。

「ところで恭ちゃん、その鳥羽莉さんはどこにいるの?」

「今はイギリスの片田舎だそうだ……この前連絡があった」

美由希の質問に、恭也は普通に答える。

「だったら、まだチャンスが……」

恭也に見えないようににやけながら言う美由希。

見れば晶もレンも那美も、同じようににやけている。

「あ〜、美由希ちゃん達……悪いけど、恭也を鳥羽莉から奪うのはまず無理だよ」

そんな美由希達を見た忍が苦笑しながら言う。

「へっ、なんでですか?」

素っ頓狂な声を出して、美由希は忍に尋ねる。

「それは「私が恭也を、離す訳はないわ」……ほらね」

忍の声を遮って、女性の声が響く。

驚いて、美由希達は声のしたほうを向く。

「気配を殺して近づいてくるな、驚くだろう?」

少し苦笑しながら、恭也は言う。

「あら、あなたを驚かせたかっただけなんだけど、面白いことになっているから」

声の主も、少し苦笑しながら恭也のとなりに立つ。

「今日来るとは一言も聞いていなかったぞ……鳥羽莉」

「だから言ったでしょう……驚かせようと思ったって」

恭也の問いに、鳥羽莉と呼ばれた少女は小さく笑って言い返した。

「忍さん、あの人が……」

「そっ、白銀 鳥羽莉。 恭也の彼女」

美由希の質問に、忍はすぐに答える。

「忍も、久しぶりね」

「まぁね、一ヶ月かな」

鳥羽莉に挨拶を返し、忍は美由希達の方へ向く。

「まっ、そう言う訳だから私達は教室いこっか」

そう言って、忍はいまだに納得できていない美由希たちを連れて教室へと戻っていった。

「随分と、もてるのね」

鳥羽莉は恭也の隣に座って、そういう。

「そうか?」

対する恭也は、本当に不思議そうに言い返す。

「ねぇ、恭也……」

真剣な目で、鳥羽莉は恭也を見る。

「後悔、してない?」

鳥羽莉の言葉に恭也は、何を、とは聞かない。

「あぁ、していない」

真っ直ぐ、恭也は答えた。

「俺は、鳥羽莉を選んだ事も……吸血鬼になった事も、後悔はしていない」

そうである……恭也は今……吸血鬼なのである。

忍に紹介された夜の一族とはまた違う吸血鬼の家計……それが、鳥羽莉の白銀家だった。

そして、色々と寄り道をして、二人は結ばれたのである。

「俺は、鳥羽莉が好きだから……鳥羽莉を置いて、逝きたくはなかった」

鳥羽莉は特殊な吸血鬼で、数年ほど前までは普通の人間だったのだ。

だが、先祖からの遺伝子というか、そういうものである日突然吸血鬼に転化してしまったのだ。

その時のままに、鳥羽莉は歳もとらくなり、成長もしなくなった。

この辺りが、忍たち夜の一族と違うのだ。

「鳥羽莉には、随分と辛い想いをさせたがな」

そう言って、恭也は隣の鳥羽莉の頭を優しく撫でる。

「忍にも、感謝している……あいつがいなかったら、俺も鳥羽莉も、死んでいたからな」

恭也が吸血鬼になると誓ったとき、色々と問題があった。

鳥羽莉達の様な吸血鬼が、勝手に誰かを吸血鬼にするのは違反行為なのだ。

それを侵した場合、鳥羽莉は勿論、恭也も処刑される事になっている。

だが、そこを忍は夜の一族の力を持って黙らせたのだ。

夜の一族は、吸血鬼などの世界ではかなり高い発言力を持っている。

だから、恭也は多少管轄下におかれているが、こうやって自由に過ごせているわけである。

「そう……恭也がそういうのなら、私はもう何も言わないわ」

目を閉じて、鳥羽莉は言う。

「そういえば、朱音と胡太郎は元気か?」

今は鳥羽莉と一緒にイギリスの片田舎で過ごしている鳥羽莉の双子の姉と弟の事を尋ねる恭也。

「えぇ、胡太郎も姉さんも元気よ……少し、中てられているけど……」

顔を少々赤くして、鳥羽莉は言う。

「そうか……まぁ、あと少しだけ待ってくれ……卒業したら、俺もそっちへ行く」

実は、桃子にだけは恭也はちゃんと説明していた。

流石に、人間を止めたと言った時の桃子は驚いて、それで泣いて、恭也の頬を叩いた。

泣きつかれた、恭也は。

だけど、恭也は考えを変えなかった。

皆を見送ってなお、生き残るという事を、選んだのだ。

皆を見送り、愛する女性と共に生き続けると言う永遠を、恭也は選んだ。

それから後日、桃子と鳥羽莉は二人だけで話しをした。

その時の内容は鳥羽莉も桃子も何も言わないが、桃子が納得するだけの気持ちが、鳥羽莉から感じ取れたのだろう。

そして、恭也が高校卒業後、鳥羽莉達の所へ行くことが決まった。

余にも珍しい、吸血鬼の夫婦二組として。

「姉さんと胡太郎も、会いたがっていたわ」

小さく笑いながら、鳥羽莉は言う。

「またあのシュークリームを作って欲しいって」

以前恭也が鳥羽莉の家族に挨拶をしに行った時、手土産に恭也自身が作ったシュークリームを持参したのだが……

それが、鳥羽莉の双子の姉、朱音に大層気にいれられ。

来る時は必ず持参する事を義務付けられた。

「あぁ、そっちにいけば飽きるほどに」

少し先の未来に想いをはせる恭也。

「ねぇ、恭也……」

鳥羽莉の声に、恭也は鳥羽莉のほうを見る。

すると、鳥羽莉のアクアマリンの瞳が、ワインレッドに変わっていた。

これは、吸血鬼としての目である。

「いい……?」

「あぁ」

すぐに恭也は答え、鳥羽莉は恭也の首筋に噛み付く。

牙を立て、恭也から血を吸い上げているのだ。

吸血鬼が吸血鬼から血を吸っても、乾きも飢えも満たされはしない。

でも、鳥羽莉は恭也から血を貰うのが好きだった。

血を貰えば、相手の思いが伝わるから。

恭也の、痛い位の、そして愛しい想いが、伝わってくるから。

恭也は鳥羽莉に血を吸われながら、鳥羽莉の頭を撫でる。

そして、数分して鳥羽莉は恭也の首筋から離れる。

傷口を一舐めして、絆創膏を貼り付ける。

「ありがとう、恭也」

今回も、あなたの気持ちがわかったわ、と。

鳥羽莉は、普段強気に見せるが、実際は臆病で、弱いのだ。

だから、恭也は血を与える。

それが愛しい人のためならば。

「鳥羽莉」

恭也は鳥羽莉の名前を呼ぶ。

「恭也……」

鳥羽莉は、恭也に名前を呼んでもらえるのは好きだった。

嬉しいから、心が満たされるようだから。

恭也の手が、鳥羽莉の顔を少し持ち上げる。

そして、深くキスを……

風が、吹きぬける。

二人を祝福するように……

きっと、前途は多難だろうけど。

二人はそれでも、幸せだと……感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

  

An unexpected excuse〜鳥羽莉編〜、いかがだったでしょうか。

フィーア「セリフが少ない気がするわ」

まぁ、そう見えなくはないな……

フィーア「それに、微妙に設定に無理ない?」

叩けば色々とでてくるだろうけど、勘弁してください。

フィーア「全く……で、今回は新ジャンルね」

うん、彼女たちの流儀から白銀 鳥羽莉でした。

フィーア「でも恭也も吸血鬼かぁ……」

結構意表をついたと思いたい。

フィーア「結構ありがちなネタだと思うけどね」

アウチ!

フィーア「で、次は誰にするの?」

同じく彼女たちの流儀からか……もしくは未定。

フィーア「結局はいつもと一緒って事ね」

まぁ、ね。

フィーア「はぁ、皆さん、ではでは〜〜〜〜」




彼女たちの流儀は未プレイ…。
美姫 「何か面白そうだったんだけれどね」
いつかやるかもしれないが。
でも、このお話は充分に楽しめました。
美姫 「何か優しい感じよね」
うんうん。アハトさん、ありがとうございました。
美姫 「ありがと〜」
うーん、何か彼女たちの流儀をやってみたくなったかも……。



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