『恭也と美咲もながされた藍蘭島』

01 〜住むところを探して〜

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か行人を追いかけるかたちで藍蘭島に流されてきた恭也と美咲だったが、現在一つの重大な問題が勃発していた。住まい、である。

もともと行人の妹である美咲は、本人の強い意向もあり行人と同じくすずと同居させてもらう事に相成った。すずが少々ふくれっ面だったのと、美咲がすずを多少威嚇していたが、行人の無自覚な笑顔と、

 

「改めて、二人ともよろしくね」

 

という発言でとりあえずは落ち着きを見せた。

しかし、流されてきたもう一人の方はとんでもない事になっていた。

 

「恭也様、私の家にいらっしゃいません? 神社ですから広いですし(ふふっ。行人様と恭也様を独り占め♪)」

 

「何言ってんだまちねぇ! 恭也さんは家にくりゃいいんだよ! 毎日美味い飯ご馳走するぜ、恭也さん(初めてのダンナ以外の男だ。ダンナの知り合いらしいし、色々話を聞いて……」

 

「もうっ! おばさん達は黙っててよ! お兄ちゃんってほしかったのよね。なんかすっごく優しくて、一緒に遊んでくれるんだって」

 

「私も、今度こそ男性というものを詳しく知りたいですの(あ~んな事とかこ〜んな事とか♪)」

 

まちやりん達によって熾烈な恭也の取り合いが勃発する。一部かなり打算的な思考を働かせているが……。

その内一人暮らしで寂しさを少々感じ始めているしのぶや、兄的オーラを感じ取ったのかメイメイまで参戦し、収集がつかなくなる。

 

「あ、あの……お気持ちは嬉しいのですが、さすがに若い女性の方と一つ屋根の下というのは……」

 

島に女性しかいない事情なども聞いている恭也は、さすがに不味いだろうと低姿勢で断ろうとする。

 

「変わってないな、恭也さん」

 

「うん。昔からすっごい硬派で紳士的な人だったもんね。……お兄ちゃんもすずさんと二人暮らしで鼻の下伸ばしてないで見習ったら?」

 

棘のある言葉にへこむ行人。しかしすずの事情があるのでそこは言われるがままになっておく。

久々の兄妹の暖かい(?)会話の間にも恭也を巡る争いはどんどん大きくなっていく。恭也が困り果てて、

 

「いえあの……家くらい何とかしますから」

 

と遠慮がちながら主張するが、もはや誰も聞いていない。しかし、

 

「いいかげんにせんかっ!」

 

オババの一声が響き渡る。言い争っていた皆も沈黙し、オババのほうへと目をやる。

 

「お前たちそれで婿殿に、いや行人殿に散々迷惑をかけた事忘れたか?」

 

「いや、提案したのはオババだっただろ…」

 

「行人殿、少々黙っておれ」

 

「……はい」

 

正直にツッコもうとした行人だったが、オババの威圧に素直に引き下がる。

それを見て満足げに一つ頷いたオババは、

 

「ここは一つ恭也殿の意見を聞こうではないか。のう、恭也殿?」

 

と恭也に話を振った。

やっと自分に発言権が回っていたと一つ安堵のため息をついた恭也は、全員を見回して深く頭を下げた。

いきなりの事にいったい何が何なのか分かっていない皆に恭也は真剣な表情で語りかける。

 

「皆さん、行人の知り合いとはいえ見ず知らずの俺の為にそこまでしてくださってありがとうございます。しかしこれから当分ここで生活しなければいけないとなると、俺がいきなり誰かの家庭に入り込んでしまう事で今の状態を壊してしまう事にもなりかねません。ですので、ご好意は本当に嬉しいのですが、自分は何処かで一人で暮らさせていただきます」

 

全員がそんな真剣な恭也に見惚れていた。無事なのは行人と美咲、オババと動物達くらいなものだ。

 

「しっかりしとるの、恭也殿。初めてここに来たときの行人殿とは比べ物にならん。しかしじゃ。何処かで一人でといっても家は一から立てねばならんぞい?」

 

「……自分一人住む小屋くらいなら何とか作れます。それまでは野宿でもしますので、どうぞお気遣いなく」

 

そう言ってのける恭也に、慌てて声をかける一人の少女。

 

「ちょ、ちょっとまった恭也さん!」

 

「ん? 貴方はたしか……りんさんでしたか?」

 

自分の名前を恭也がしっかりと覚えている事に感激するりんだったが、しかし用件は用件。

 

「うちは大工なんだ。なんだったらあたい達が恭也さんの家、建てさせてもらうぜ?」

 

そういうりんの後ろにはいつの間にか頭がトゲトゲのペンギンと二足歩行の大きなイタチ、そしてとぼけた顔のサルが並んでいる。

 

「し、しかし大工というなら報酬が必要でしょう? あいにく俺は何も支払えるものを持っていません」

 

「ああ、それならいいんだ。こっちの出す条件に従ってくれればそれが報酬ってことで受けさせてもらう」

 

男気溢れる台詞で引き受けようと言うりん。もっとも後ろのペンギン、トゲ太に「実際に建てるのは俺達だろっ!」とつっこまれていたが。

自分はどうするべきか、と視線を行人に向けてみると、

 

「りんに頼むなら俺も手伝いますよ」

 

と笑顔で返される。

まぁたしかに素人仕事の家に長期間住むのは不安があるし、どうやら何か取られるわけではないらしい。そう考えた恭也は、

 

「では、よろしくお願いします」

 

と、りんに深く頭を下げた。

照れまくるりんをからかい始めるまちやあやね達比較的すずや行人と長く一緒にいる娘たち。他の子達はいつの間にかそれぞれ仕事に戻ったらしい。

 

「それにしてもオババ、今回は随分と簡単にひきましたわね」

 

家の場所や簡単な間取りなどを相談する恭也達を一人だけ輪を外れて眺めているちかげ。

ちかげの言葉にオババは、

 

「それはそうじゃ。恭也殿では勝負にならん」

 

と一瞬だけ真剣な表情に戻る。

そんな表情に首をかしげたちかげに、オババは笑いながら恭也を示し、

 

「あやつはこの島の誰よりも強いじゃろうて。たぶん主達でもかなわんよ。それに行人殿とは比べ物にならんほど意志が強いゆえ、こちらの思惑には流されてくれなさそうじゃ。それならば勝負に勝たれて頑なになられてしまうよりも、自然に誰かとくっついてくれるのを待ったほうが島にとってはいい」

 

そう言い残して自分の家に戻っていくオババの背中を見送りながら、ちかげもまた、

 

「ふむ。それはそれで楽しそうですの」

 

と、ああだこうだと話し合っている皆の中心にいる恭也を眺めて眼鏡を光らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局恭也の家に関しては恭也が決めるのが一番と言う事に決まり、一晩考える事になったのだが……

 

「条件って、俺が家が出来るまでの間ここに住む事が、ですか?」

 

「ああ、不満か、じゃなくって、ですか?」

 

すずと行人が美咲を連れていき、他の少女達もそれぞれが家に戻った後、残ったりんが恭也に先ほど言っていた条件を提示した。出された条件は、家が出来上がるまでの間りんの家に住む事。

女性と一つ屋根の下というのはそれなりに気を使うし、道徳的にも間違っていると考える恭也だったが、りんの家はかなり大所帯と聞いて少々安心していた。出された条件はまさに恭也にとって至れり尽くせりという条件なのだ。そんな事もあって少々余裕が出来ていたのだろう。わざわざ言い直して敬語を使おうとするりんに恭也は、

 

「いえ、普段どおり、行人達と話しているように話してくださって結構ですよ。お世話になるわけですし」

 

と柔らかい調子で告げた。

 

「お、そうかい? んじゃ恭也さんももっと普通に話してくれよ。行人のダンナとはもっと普通に話してただろ? あとあたいの事はりんって呼んでくれ。さんなんてつけられると無図痒い」

 

そう言いながら清々しい笑顔を向けてくるりんに、恭也は少し考えた後、

 

「……ではそうさせてもらう。これから何かとよろしく頼む、りん」

 

と精一杯の笑顔で返した。

それを見たとたん、はっとしたような表情で顔を真っ赤にしてしまうりん。

 

「……もういい加減慣れてきたが……、そんなに俺に笑顔は似合わないか……?」

 

普段から同じような反応をされているので慣れているとはいえ、新たな土地でも同じ反応をされるのかと少々ショックを受ける恭也。

そんな恭也をみてりんは慌てて、

 

「そ、そうじゃねぇよ恭也さん。そうじゃなくて……ま、まぁいいじゃねぇか! それよりも早く! 入った入った!」

 

と取り繕いながら恭也を家の中へと押しやる。

 

(……恭也さんの笑顔、めちゃくちゃカッコいい……)

 

まだ顔の赤いりんが恭也に続いて中に入る。

 

「今日はもう仕事上がってるはずだから、母ちゃんとバァちゃんにも紹介しないと」

 

「そうだな…。しかし良かったのか? ごりょ…、お母さんやお婆さんに了解もとらずに来てしまって」

 

「そりゃ大丈夫だ。ウチにはさっきのアニキ達も居候してるようなもんだし、もう一人増えたところでたいして気にしゃしねーよ。っと、さあ入ってくれ」

 

そう言いながら襖を開けるりん。そこには下町の職人のような男気溢れる女性と、同じような格好をしているが大人の女性の魅力の漂う女性が座っていた。

 

「おう、りん。とげ太から話は聞いてるよ。遠慮なく入ってもら……」

 

大人の女性の魅力漂う女性、りんの母親のりさがそう言いながら二人に顔を向けて……固まった。

 

「?……どうかしたか、母ちゃん?」

 

そんなりさの態度に不審そうに首を傾げるりん。一緒に座っていたりんの祖母、りつもそんなりさを不思議そうに眺めていると、

 

「ようこそお越しいただきました。そこのりんの母親のりさと申します♪」

 

と、いきなりその場で正座し、三つ指を立てて頭を下げた。

突然の出来事に何がなんだか全く分からないりつとりん。そんな中恭也がその場で同じく正座をし、

 

「わざわざご丁寧にありがとうございます。高町恭也と申します。何かとご面倒をおかけするかもしれませんが、家が出来るまでこちらでご厄介にとご息女のお気遣いを頂きまして参りました。ご了承いただければありがたく存じます」

 

と馬鹿丁寧にりさにあわせて挨拶する。

しばしの沈黙が流れる。

りつとりんはりさのこんな面は見た事がなく唖然として。恭也は返事を待って。そしてりさは、

 

「……やっぱ慣れないことはするもんじゃないね。簡単に化けの皮がはがれちまう」

 

と照れくさそうに頭を掻いた。

 

「それにしてもお前さん、かなりの美丈夫だね。歳は?」

 

いきなり口調が元に戻ったりさに少々驚いた恭也だったが、何故かこちらのほうがしっくり来るとすぐに小さく微笑みながら、

 

「今年で20になります」

 

と自然に受け答えを始める。

 

「ほう、20かい。こりゃ坊や以上に大変なことになりそうだな!」

 

いつの間にかりつも会話に加わり始め、あわててりんも傍によっていく。

 

「バァちゃんそれどういうこと?」

 

りんのそんな疑問に、りつはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「坊やはまだ14歳。島唯一の男だったとはいえ、守備範囲はどうしても十台に限られちまう。でもこの青年は20歳。美丈夫で落ち着きもある。お前みたいな年下には頼れる男としてうつるだろうし、それに……」

 

そう言ってりつは会話の輪から少しだけ頭をはずしてりんにちょいちょいと指をさして示す。その指の先には頬を染めて恭也に話しかけるりさと、それに小さく微笑みながら真面目に受け答えする恭也。

 

「あれくらいの年代にはそれに加えて年下の可愛さも見出しちまうんだ。ようするに坊やよりも多くの女子に慕われる事になるだろうってこった」

 

りつとりんがそんな話をしている間にも、りさは恭也にかなり露骨なアプローチを続ける。

 

「恭也はあたしみたいな娘のいるおばちゃんに魅力なんか感じないよな?」

 

と思ったらどうやら自分が恭也にとって守備範囲内かどうかを調べているらしい。のわりに妙に照れくさそうに、しかし何処か気落ちしたように尋ねているりさ。

 

「そんなことないですよ! そ、その……魅力的な女性だと思います……」

 

悲しいかな。桃子の教育の賜物か。はたまたこれまでの依頼者に何故か女性が多かった事が影響しているのか。恭也はこういったとき殆ど条件反射で本音を口に出してしまう。

そんな恭也の言葉に嬉しそうに目を輝かせるりさ。

それを愉快そうにみていたりつだったが、りんはというと自分が少し外れた間に妙にりさが色気を出しているのが面白くない。

 

「母ちゃん! 自分の娘の前で“なんぱ”なんかするなよ!」

 

りさはりさで、割って入ってきたりんが自分の娘であろうといいところを邪魔されたという感情しか浮き上がってこない。

 

「小娘はひっこんでな! 坊やのところにでもいけばいいだろう。恭也は年齢的にもあたしみたいな大人のほうが似合ってるに決まってる!」

 

「そんな事ないっ! あたいみたいな料理上手のほうがお、お嫁さんに……だ、大体母ちゃんはもう結婚してるだろっ!?」

 

「あの人だっていつまでもあたしが引きずってたら喜ばないよっ! あたしは新しい恋に生きるんだっ! あんたはそんな事いってる暇があったら早く一人前になりなっ!」

 

繰り広げられる堂々巡りの親子喧嘩。その争いの中心人物の恭也はというと、

 

「仲のいい親子ですね。俺みたいな余所者の前でも全く飾らずに普段どおりにしてくれているようです」

 

と、いつの間にか抜け出してりつに話しかけていた。

 

「それと、うやむやになってしまいましたが俺の家が出来るまでここにおいていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、もちろん大歓迎だ。もう何年も男のいなかった島だから何かと面倒も多いだろうが、あたしでよければいつでも相談にのるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「とりあえずお前さんの嫁候補としてりさかりんはどうだい? りんは本業の大工こそいまだに半人前だが料理は島の誰よりも上手いし、ババァ馬鹿と言われるかもしれないがなかなかの器量よしだ。りさも、りんの母親だが生んだのはかなり早くてな。実はまだ二十台後半なんだ。それであの色気はなかなか出せないと思うよ?」

 

「…え? いえ、あのそういった相談は……」

 

「なんなら二人一緒でもあたしゃかまわないよ? もともともう男はお前さんと坊やしかいないんだ。生まれる子供は多ければ多いほうがいいし、それが身内からならなおめでたい」

 

恭也の話を全く聞かずにどんどん強引に話を進める江戸っ子気質なおばちゃん、りつ。おばあちゃんとはいってもまだ50前という年齢の所為か、言っている事は近所でお見合いをセッティングするのが大好きなおばちゃんと高町家の母が混ざったような性格のりつに、恭也もなす術がない。

結局恭也は家を建てる候補地を見繕いにいっていたとげ太といた一に助け出されるまでりつのおばちゃんトークとりさとりんの恭也争奪言い争いに付き合わされる羽目になった。

 

『あんさんも大変だな』

 

「……実はもう慣れてしまっている事が一番辛かったりする」

 

妙に気があったとげ太に寝床に案内され、鍛錬もそこそこに布団に入った恭也は思うのだった。

 

(……こんな離れた島に来たのに結局やっている事が変わらないと思うのは気のせいだろうか? というかなんで俺はそんなに相手がなさそうか?)

 

自分が無愛想で相手がなさそうに見えるから皆自分をからかっている。普段の忍やフィアッセ達の行動も心配半分からかい半分だと思っている恭也は、ここに来てまでもそんな全世界の男性を敵に回しそうなことを思いながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

調子に乗ったアインです。

とりあえず漫画の藍蘭島は一話一話が完全に区切られているので、こちらもそうしようかなぁ、と思ってます。

ペースはかなり遅くなる事必至ですが、とりあえずネタが浮かべば書かせていただきますのでお付き合いくださいませ。

話の流れですが、とりあえず完全オリジナルにさせていただこうと思ってますので。十巻が出た後から恭也と美咲が流れてきたものと思って読んでやってくださいな。

では、今回はこれにてっ!





とりあえずの寝所も無事に決まり、後は家の完成を待つだけ。
美姫 「早速、争奪戦が…」
これからどんな展開が待ち受けているのか。
美姫 「とっても楽しみね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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