恋姫†無双戯曲 −導きの刀と漆黒の弓−
第四話 −平穏の終わり−
新たに星を将に迎えた公孫軍。
収めている領土も特に問題が起きる事もなく、いたって平穏無事に騒がしい日々をおくっていた。
そんな様子を快く思っていないものも多いものの、白蓮の実力はもちろんその白蓮を戦場から救い出した一弦、そして新たに加わった星の三人が公孫軍の三強であるがゆえに手出しが出来ずにいた。
「一弦、街の見回りにいこう。また黄巾党崩れの奴らが出たらしい」
「一弦くぅ〜ん♪おねぇさんお薬とか買いにいきたいんだけど着いてきてくれなぁ〜い?」
「一弦殿、ここに居る者達に聞いたのだが相当な弓の使い手らしいな。是非ともその腕ご披露願いたいのだが」
白蓮、泉、星の三人が殆ど同時に一弦の部屋に飛び込む。これももういつもの事だ。
そして、
「「「ちっ!またいない!」」」
そこに一弦がいないのもまたいつもの事。
仕事をしている間は殆ど白蓮の傍を離れない一弦だが、仕事が終われば基本的には自由。
見回りの予定さえ組まれていなければあとはどこで何をしていようが行き先さえ告げてあれば自由なのである。
「番兵は一弦が出て行くのはみていない」
「ということはぁ〜」
「早い者勝ちという事だな?」
そして三人は一弦の部屋を飛び出した。と、丁度その時、
「うわぁ?!ご、ご主人様?!華佗様と趙雲様も……もしかしてかい、じゃなくて嶋都様ですか?」
一弦の部屋付にした少女と鉢合わせた。
なにやら名前を言いかけたようでその辺が少し気になった白蓮だったが、それよりも今は一弦の居場所である。
「嶋都様でしたら先ほど弓を持って中庭にいらっしゃ…………」
「「「中庭だな!!!!(ねん♪)」」」
聞き終わらないうちに飛び出していく三人。
砂煙が本当に立っているその場で少女は唖然と三人を見送った。
「……御三人とも必死なんですね……でも一弦様お優しいし素敵だし、当たり前かな♪」
自分が世話を仰せつかっている一弦が人気者でなんだか嬉しい少女だった。
三人が中庭に到着すると、一弦は確かにそこにいた。
しかしいつもと違う雰囲気の一弦に三人とも声はかけずに覗き見るように身を潜める。
一弦は目を閉じて中庭に静かに佇んでいたかと思うと、急に目を開けて動きは始める。
弓に取り付けられた刃を舞うように振り、時にそこにいない誰かの攻撃を受けるようにガードするような仕草を見せる。
斬りつけ、受け止め、切り裂く。
そんな動作の繰り返しの中にも、何処か舞うような優雅さを感じる一弦の動き。
そして一弦はその動きの中に矢を交え始めた。
背負った十字架の短いほうには矢が大量に納まっている。
左手で斬りつける動作と共に右手で矢を掴み、そして番えると同時に左手を弦のほうに移して引き、一気に放つ。
矢は空気を切り裂くような音を立てて中庭の脇に立っている的に刺さる。
「なんとっ!」
「すっご〜い!」
一弦の弓の腕前をみた事のない星と泉は思わず感嘆の声をあげる。そして唯一見たことがある白蓮もまた、客観的にみる一弦の弓の腕前とその動作の美しさに息を呑んでいた。
一弦は声に気付いた様子もなく、演武のような動作を続けながら矢を放ち続け、それはすべて的に刺さっていく。
そして、
「……ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
やがて動きを止めた一弦が長く息を吐いたところでそれが終わりだという合図となった。
「白蓮さん達、いるでしょう?出てきて、ください」
「「「ギクッ?!」」」
明らかに三人の隠れている場所の方向を見ながらそう言う一弦。
三人が大人しく出て行くべきか迷っていると、
「別に練習を見ていたからといって……どうこうするわけではないです。隠れていては、お話も出来ないでしょう?」
といつもの優しげな声が三人の耳に届いた。
その声の調子に安心して出て行く三人を、一弦は困ったような笑みで出迎えた。
「三人揃って今度は、どうしたというんですか?」
「え?あ、いや、オレは一弦と見回りにいこうと思ってだな」
「あたしは一弦君にお薬を買いにいくのついて来てもらおうと思ってたのよん♪」
「私は一弦殿の弓の腕前を是非とも見せていただきたく」
三人がそれぞれ一弦を探していた訳を話すと、一弦は少し考えるように人差し指を唇に当てる。そして、
「星さんは弓の腕を見に来たと、言うならもうご覧になりましたよね?」
と星にまず尋ねる。
「ん?まぁそうだな。舞のようで実に見事なものだった」
「ありがとう、ございます。では……後は見回りと薬、ですね?」
「ま、まぁそうだな。それならば見回りのほうが重要だろ?さ、いこうぜ」
「あ、ずるいわよん白蓮ちゃん。あたしのお薬だってとぉ〜っても大事なんだからん。それでいろいろ一弦君にいたずら……ぁ〜と、とにかくお薬は常備しておかないとねん♪」
なにやら不穏当な台詞が泉の言葉の中に見え隠れしていたが、一弦はそれを意識的に気にしない事にして話を進める。
「でしたら、見回りのついでに薬を買いにいけば……全部用事は済みますよね?」
「「「…………おぉ?!」」」
なんでもない打開策に心底感心したように両手をぽむっとあわせる三人。
そんな三人を見て一弦は苦笑を零し、
「では、僕は汗を軽く流してきますから……用意をしておいてください」
そう言って部屋に戻っていく一弦。
三人はそれに聞き分けのいい子供のように返事をしつつ、お互いの顔を見合わせた。
「さて、では私も準備をしてこよう」
「あたしも足りないお薬をもいっかい確認してこよぉ〜♪」
「ふむ。そういえばメンマをきらしそうになっていたな。私も同行することにしよう」
今日も今日とて戦乱の世とは思えないほど平和な一時だった。
しかしそんな時間も、もうすぐ終わりを告げる。
「一弦、星、泉、黄巾党が暴れている。少々遠出になるが押さえに行くぞ」
三人が現れてから何かと忘れがちだが、白蓮は遼西を束ねる太守なのだ。
その言葉に星は、
「ようやく腕を揮うことができるな。最近の生活も楽しかったが、やはり武人は戦ってこそ。そうは思わぬか?」
と人一倍乗り気で喜び勇んでいる。
そんな星をしょうがないわねぇと姉のような目線で見ている泉は、ふと一弦の様子がおかしい事に気付いて白蓮を見やる。
白蓮もそれには既に気付いていたらしく、
「一弦、どうかしたか?」
とそれまでの太守としての顔を引っ込めて心配そうに覗き込んだ。
そんな白蓮に一弦はいつもより多少弱々しく見える微笑で答えた。
「大丈夫、です。もう……覚悟は決まっていますから。白蓮さんは……絶対に死なせない」
「……一弦……」
やはり殺すという事に抵抗を感じずにはいられないのだろう。
そして自分がこの見知らぬ土地で死ぬ可能性も、正直少なくはない。
それでも一弦は救われた恩を返すと誓ったのだ。
「……すまん一弦。私がもう少ししっかりしていたらあの時一弦が弓を引く必要はなかったんだ。本当に……ごめん」
自分を死なせない。
そう言ってくれた一弦に一時は嬉しそうに相好を崩した白蓮だったが、一弦の笑みがいつものほっとするような笑みとは比べ物にならない程弱々しいのがどうしても気になってしまう。
そもそも人を殺すという事を知らなかった一弦が始めてその弓と矢で人を殺したのは、窮地に追いやられた白蓮を助ける為だった。
それが分かっている白蓮はその事実がなにより心苦しくてならない。
しかし、
「謝らないで、ください。僕は貴方を……助けなければと弓を引いた。それは、僕の意思です。そして僕は貴方に救われた。最初の意志と、白蓮さんへの恩。僕はだから……いつか一刀と会う時までは絶対に貴方の弓として、貴方を死なせないと……そう自分に誓いました」
一弦はそう言ってその長い後ろ髪を、右側の前髪と共に後ろに束ねた。
そこから覗いた瞳には、その口元の笑みとは違った力強い意思が宿っている。
「いきましょう白蓮さん、泉さん、星さん。白蓮さんの土地に住む人達を……護らないと」
そう言って自分の弓を握り締めた一弦に、
「わかった。もう言わない」
と白蓮は綺麗に微笑んで見せた。
そして改めて宣言する。
「よし!我が領地の民を苦しめる黄巾党を討伐するぞ!!!!」
数日後、公孫軍は黄巾党の軍勢が北平に向けて進行しているとの知らせを受けた。
「なんだとっ?!ちっ!奴らめ好き放題しやがって!」
突然の知らせが舞い込んだ白蓮は歯噛みする。
こうしている間にも黄巾党の本隊は街を襲っているのだ。襲われている街がこの先にあって、それでいて後ろも街を襲わんとして軍勢を進めている奴らがいる。今ここで引き返してそいつ等を一網打尽に出来たとしても、その頃にはその先にある街は手遅れになってしまう。現在その街を守っている軍だって、皆篭城作戦で持ちこたえているというのが現状なのだから。
「どうする。長旅戦を見越して出来うる限りの兵を引き連れてしまっている。それぞれの街にも兵はいるが、相手が万単位ともなると私達がすべてを終えて帰るまではもたない……こうなると手は一つしかないんだが……」
そう言って白蓮は一弦と星に目を向けた。
そして何かを決心したように頷くと、
「一弦、星、隊を二分割する。お前達と泉は私と一緒にこのまま討伐に向かうぞ」
そして白蓮は戻る将を選び、引き連れた軍の三分の二と信頼を置く将を数名そちらに回した。自分が討伐に言っている間の奉り事を任せる為だ。
「さて、少数精鋭といった感じだがこれでいいだろ」
「そう、ですね。こちらは……街の兵と協力すれば人数は増やせますから」
「足りぬのなら有志を募っても良いだろう。それより今は急がねば」
「そうねん♪それに送り返すのって、皆裏で白蓮ちゃんの太守の座を狙ってる人達ばかりだしねん♪」
「なるほど厄介払いにも最適か。そんな輩達には背中は預けられんしな」
「足を、引っ張るつもりでも……自分の住む街を積極的に潰されるなんて……する訳ないですから」
「後は将達の能力があまり高くないからな。帰ってもらった“仲間”の為に兵は多めにしておいた」
どうやら白蓮の人選を聞いた瞬間全員が同じ結論に至っていたらしい。
白蓮と星はニヤリと互いに目を合わせて笑いあうと、
「さて、それじゃ全員集めて今の話するから。一弦はついて来てくれ。星は隊の再編成、というよりお前の隊に兵を増やすだけだが……まぁ好きにやってくれ。泉は救護隊の二分割を任せていいか?出来ればこっちに多めにだ」
白蓮がスラスラと指示を出していく。
「了解した。使えそうな奴らを選ばせて貰おう」
「ん〜。あたしって客人扱いだった気がするんだけどぉ〜。でもまぁたまにはいいわねん♪白蓮ちゃんを暫く助けてあげるわん♪」
それぞれが指示どおりに動き始めるのを確認してから、白蓮も一弦を伴って将を集めた。
いくらかの反発をねじ伏せ、信頼する将達に指示をだし、白蓮達は先に進んだ。その甲斐もあり、襲われているという報のあった街は今だ健在だった。兵達も白蓮達の到着を信じてどうにか凌いでいたらしい。
街に入るなりそこに残っていた将と兵達を再編成し、自軍の戦力として組み込んだ白蓮は即座にこれからの方針を打ち出した。
「ふっ!ようやく武人としての私の力を振るうことが出来る!この趙子龍、たとえ客将とはいえ使えたからには必ずや公孫賛殿に勝利を!」
陣形などとうに意味をなくしているこの戦場で一際目立つ星。
鋭く無骨ながら何処か星と通ずるような優雅さと宿した槍を思う存分に振り回す。
無駄のない流れるような動きの星と鬼神の武具の如き力強さを持った彼女の唯一無二の戦友の槍は、それまで人道に反してきた賊共を次々と冥府へと送っていく。
一対一で彼女と対峙できる敵などこの場にはいない。
そこにあるのはもうすでに彼女の体力が続く限りの粛清の嵐だった。
「どうした下衆共!これまでも多くの罪無き者達の命を奪ってきたのだろう?!男ならばその命達の隣に我が魂魄も並べて見せよ!!!!」
星の戦いが一騎当千ならば白蓮と一弦は二騎当千と言った所か。
その長剣をまるで自分の手のように扱い族を屠っていく白蓮の傍らには、付かず離れずの距離で一弦が相手にとっての死の舞いを披露している。
しかし白蓮の長剣は星の槍とは違い多対一にはやや不向き。
一対一での能力はそれこそ一騎当千と謳われる将を相手取っても遜色ない力を発揮できる白蓮にも、そればかりはどうしようもない。
しかし白蓮はそんな事など全く気にせず自分に向かってくる敵を確実に倒す事に集中している。なぜなら、
「一弦!無理はするなよ?!……?!しまっ!」
「…………何が、です?」
白蓮には常に一弦がいるから。
弓に装着された湾曲刀を手に舞うように動いている一弦の動きは攻防一体。近づけば切り刻み、切りかかれば弾き飛ばす。
そんな動きの中で一弦は常に白蓮と一定の距離を保ち、矢で援護する。
一連の動きの中でも信じられない正確さを誇る矢は確実に白蓮の負担を激減させる。
むしろそんな一弦が無理をしているのではないかとちらちら気にして視線を相手から切ってはその度に襲い掛かられる白蓮のほうが問題だった。
「気を、抜かないでください。早く……終わらせないと」
「お、おうっ!オレの背中は任せるよ、一弦?」
「任せて、ください。貴方は絶対に……僕が死なせません」
そこは白蓮と一弦が支配する空間。
入り込んだものは斬られるは刺されるか、刻まれるか射られるか。
長剣が閃き、弓が回り、矢が飛ぶこの空間でおこなわれるのもまた、戦闘ではなく粛清に他ならなかった。
そして本陣に残った泉もまた、いつもの空気を完全に何処かへ飛ばして医者としての顔で奔走する。
「こっちの患者さんは傷が浅いわ!薬を塗りこんで布を厚めにおってあてがったら包帯を少しきつめに巻いて!そっちは矢の傷よ!毒の可能性はない?!ならまず傷口の消毒から!……貴方は腕の骨をやられてますね。添え木をあてますから持ってて……そう、そうのへん。そこで固定して……じゃあ包帯巻いて抑えるわよ?……そうそうのまま。痛い?もうちょっとで巻き終わるから我慢してね!」
補佐をしている人間や他の医療班の人間にまであたりを見回して着実に正確な指示を飛ばす。
患者の容態を丁寧に、しかし素早く把握し、治療を施していく。
軽いものは補佐の人間達に指示を与え、重いものは自分で出来るところまで誠心誠意。
自分に代わって治療に当たる人間が来るまで決して次の患者のところには行かず、自分の前にいる患者に心血を注ぐ。
泉は知っているのだ。
いくら医術を極めようとそれを収めるのは人間であって、その人間は絶対ではありえないと。
泉には目の前で苦しむ命すべてを救う事は出来ない。したくても出来ない。なぜなら泉は一人しかいないし、その一人は決して神ではないから。
それをもう嫌というほど理解した泉は、だから自分が受け持った患者に最善を尽くす事に心血を注ぐ。
皆を救う事は出来ないから、せめて一人でも多く。
救う事が出来ない人なら、せめて苦しまないように。
戦場で命のやり取りをしている白蓮達とは違った場所で彼女もまた多くの命を救い、そしてまた少なくない命を彼女自身の手で安らかな眠りに付かせていく。
「だから白蓮ちゃん、一弦君、星ちゃん……お願いだから少しでも早く……一人でも多く助かるように……」
一騎当千が一人とそれに準ずる二人一組。
そしてそれらが率いる兵達もまた賊とは違い訓練を受けた武人達と、それに従う何かの為にそこで戦うことを誇りに思える人間。
そんな人間達を前に数の暴力としても数の多くない黄巾党は、最初こそ勢いに任せて突撃を繰り返していたもののすぐにその戦況が芳しくない事が理解できた。
しかし出来た時にはもう遅かった。なぜなら、
「な、なぜだっ?!なぜ街に入っていたはずの公孫賛達が後ろから攻めてくるっ?!」
気付いた時にはもう白蓮の策に完全に嵌っていたから。
「しかし見事に嵌ったな、白蓮殿!少数精鋭での挟撃。たしかに我々だからこその作戦だな!」
そう。白蓮達三人は少人数の兵を連れて素早く黄巾党の後ろにまわりこんで突撃していたのだ。
前線で街の守りを責め崩しているつもりだった奴ら以外、つまり真ん中あたりでのうのうと自分の部下達が街を攻め、殺し殺されているのをただ眺めていたこの賊の首領格の男は、いきなり後ろで上がる悲鳴すらはじめ耳には入っていなかったのだ。
そしてそんな余裕を出している間に白蓮、一弦、星をはじめとした個々で能力の高いもので組まれた公孫軍の少数精鋭がもういつの間にかすぐ後ろまで迫ってきていた。
慌てて前線に逃げ込もうとするも、今までただ耐え忍んでいるだけだった街に残っていた大半の公孫軍がそれを見越したように前進をはじめ、もはや黄巾党にとっては前門の虎、後門の狼状態。前門の虎は今まで塀の裏にいた全軍を動かして数でなだれ込み、後門の狼はその明らかに格の違う力量で挑んでくるものを片っ端から倒していく。
今までただ村を襲い、そこに生きる人々を殺し、そして殺した人々から金や物を奪ってきた黄巾党。そこには戦略も智謀も必要なく、殺して奪えばいいだけだった。はむかって来るのはそこにいる少数の兵達とあとはそこに暮らす平民のみ。
「な、なにやってんだ?!さっさと殺せ!公孫賛を殺してしまえば俺達の勝ちだぞ!」
しかしそれは敵わない。
白蓮の剣技はいくら多対一には不向きとはいえ自分より弱い人間しか殺してこなかった腐った力で敗れるものではなく、まして、
「こ、このアマぁぁぁぁぁぁ!覚悟しやがぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「なっ?!ど、どこから矢なんて?!」
白蓮の背中は一弦の矢が護っている。
常に瞬時に反応できる距離で、常に自分の周りよりも白蓮の周りを気遣って戦っているのだ。
その所為か一弦本人が身に着けている白蓮が仕立てさせた黒い防具には初陣だというのにもう所々に傷が出来ており、また一弦自身も防具や弓で受けきれなかったのか所々血が滲んでいる。
「か、一弦?!無理するんじゃない!」
「そう思うなら、よそ見しないでください。そうすれば……僕の矢は減りません」
本当に心配そうにそう声をかけた白蓮の言葉にも、一弦は頭から血を流しながら軽口を叩いて見せている。
圧倒的な剣技で他を圧倒する白蓮と、その白蓮のわずかな隙すら埋めてみせる一弦。二人の連携は弱者から奪う事しかしてこなかった奴らにどうにかできるようなものではなかった。
そしてたいした指示も出来ずにただ手下を怒鳴り散らす事しかできていなかった男にも最後のときが訪れる。
「貴様がこの下衆共の親玉か。やはり知性のかけらも感じさせない下品な面構えだな」
そこには白い衣装を見に纏った見目麗しい戦女神。
しかし男には彼女は鎌の代わりに槍を背負った白き死神。
「これまで散々罪無き民を一方的に虐殺してきたんだ。こういった最後は予想出来ていただろう?」
戦場でありながらはっと息を呑んでしまうほど美しく微笑むその少女の名は趙雲。
もはやそれまでの怒鳴り声も出せず、まるで自分の彼女だけしか居なくなったようにすら感じてしまうその戦場で、彼はただ迫りくる死の匂いに怯えていた。
「し、し、死にたくない!まだ死にたくねぇよ!上手い飯だってまだ食ってねぇ!いい女だって抱いてねぇ!まだやりたい事がたくさんあるんだよぉぉぉぉ!」
「そうはいうがな?貴様は命乞いをした人々をどうした?助けてやったのか?女は?犯さずにおいてやったか?子供は?刃以外のものをやったか?」
彼女の目は冷たく冷えきっていた。
男は悟った。
ああ、本当に殺されるんだ、と。
しかし星はその槍を振り下ろさない。
これ幸いと男は背を見せて無様に走り出す。
「これは私の仕事ではないゆえな」
そう言って苦笑しながら横から斬りかかってきた男を視線も向けずに無造作に槍を振って斬り倒した。
「一弦殿、よろしく頼む」
そんな星の声に答えるかのように閃く二本の黒い光線。
「ぐ、あ゛ぁぁぁぁぁあ!!!!あ、足が?!」
一弦の放った二本の矢は狙いすました様に逃げる男の両足に突き刺さる。片方は運悪く足の腱を完全に断ち切ってしまっており、男は倒れ付してもがく事しかできない。
「ほう!さすが一弦殿。その距離からお見事な腕前。かの有名な黄忠殿にも引けをとらんのではないか?」
そんな星の声など聞いているはずもない。というか先ほどから聞こえているはずもない。それほどの距離から見事に足を打ち抜いて見せた一弦は、まだ星のほうに向かってきている最中なのだから。
そしてもがく男の前に、束ねた赤い髪を揺らした一人の少女が立ちふさがった。
「お前がこいつ等の親玉だな?」
「た、た、助けてくれ!ま、まだ死にたくねぇんだ!」
その少女、白蓮に男は情けなく命乞いをする。がしかし白蓮の反応もまた星と同じく冷ややかなものだった。
「なんで許してもらえると思えるのかがわからねぇよ、私には」
そして白蓮はその男に黙ってその長剣を振り下ろした。
そしてそれから一刻も経たないうちに黄巾党は親玉の死を知り、敗走した所に追い討ちをかけられて全滅した。
喜びの声をあげる兵達や街の人間の声を聞きながら、白蓮、一弦、星の三人は示し合わせる事もなく集まった。
「終わり……ましたね」
「ああ。……って一弦?!お前その怪我!」
「ああ。一弦殿は白蓮殿の背中を護りながら戦っていたからな。全くたいした男だ」
白蓮がおろおろと取り乱し、星がそれをみて呆れながら一弦には優しい視線を送る。
一弦はとうとうふらふらと地面に腰を下ろしてしまう。
それを支えるように自分も隣に屈んだ白蓮の肩に、一弦はもう耐え切れないとばかりに頭を預けてしまう。
「ほう?これはまた随分と大胆な……」
「ちょ、かかかか一弦?!おおおおお前何を?!……ってアレ?」
楽しそうにニヤける星をよそにこれ以上ないほど狼狽していた白蓮が、ふと一弦を覗き込んで首を傾げた。
「ん?どうした?まさか一弦殿は実は女性だったとか……」
「…………寝てる」
一弦は気を失うように眠ってしまっていた。
「……泉を呼んでこよう」
「ああ、頼む」
「なるべくゆっくり呼んでくる事としよう」
「なっ?!せっ、……くそっ」
ケラケラと笑いながらヒラヒラと舞うように逃げていった星の背を怒鳴りつけようとした白蓮だったが、自分の肩にもたれかかって眠ってしまっている一弦を気遣い思い留まる。
そして残された白蓮は肩、というよりも今の騒動で胸にもたれかかってしまっている一弦に赤面したが、すぐに優しい笑みを浮かべて一弦の頭を優しく自分の膝の上に落とした。
何の抵抗もなく白蓮の膝の上で眠る一弦の長い前髪が流れ、そのあどけない素顔が露になる。
(?!こ、コイツこんなに……やばっ!お、オレ絶対顔赤い!……か、一弦の顔……い、以外に男らしいんだな……)
普段は男っぽくもなく女っぽくもない一弦。
どちらとも取れてしまう一弦に白蓮が何処となく男を感じたのは、自分を護って戦っている時だけだった。
しかし自分に膝の上で眠る一弦の表情は、あどけないながらも確かに自分の背中を護ってくれていた男、たしかに男の顔だった。
やがて白蓮はふっと力を抜き、頬を緩めて優しく一弦の髪をすき始めた。
「ありがとな、本当に。……ありがと」
「で、星ちゃん。あたし達はいつ出て行けばいいのかしらん♪」
「……もう少しあのままにさせてやろうと思うのだが……」
「……いい絵なんだけどぉ……なんか面白くないわん」
あとがき
ひっさびさだなぁ本当に!こんちわ、アインでっす!
もうちょっと!もうちょっとで原作に追いつきます。というか次回ですけどw
やっと一弦君は一刀君と会えるわけですが、ここで一弦君にとっては問題が。
かつて自分を助けてくれて嶋都の人間としても護る対象である唯一無二の友人である一刀と、なにもわからずに放り出されたこの地で親身になって面倒を見てくれた恩人である白蓮。
一弦は一体どうするんでしょうね?(いや、ね?ってアンタ……)
そしてちょっと先の話なのですがこの話をどう終わらせるかもまた悩みどころです。
原作を知っている人ならば分かるでしょうある一点で、そこからどうするかを迷ってます。
そこで終わらせるかその後最後まで皆と行くか……まぁどっちにしても死にネタにはならないですけどねw
う〜ん、どうしよう?
あ、すいません。ではでは〜♪
黄巾党との戦いも一段落〜。
美姫 「次はいよいよ本編と繋がるのね」
しかし、そこで一体どうなるのか。
美姫 「かなり気になる所よね」
うんうん。次回が待ち遠しいよ。
美姫 「続きも楽しみに待っていますね〜」
待っています。