恋姫†無双戯曲 −導きの刀と漆黒の弓−

 

第十九話 −反董卓戦、終幕−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音々音ちゃん、どう?」

 

「駄目ですな。いや、良いのですかな? 月殿と詠…董卓殿と賈駆の姿はもう城にはないです」

 

「じゃあちゃんと逃げられたのかな? 一弦お兄ちゃん?」

 

洛陽の目の前までやってきた反董卓連合軍。

先鋒を任された一刀達は当然、何の動きも見せない董卓軍の様子を見るために先行して様子を見るために鈴々を派遣するつもりでいた。

そんな所に音々音を連れて来た一弦も加わり、顔を知っているものとその護衛という事で結局、そのまま一弦と音々音も鈴々と一緒に潜入する運びとなっていた。

 

「じゃあ鈴々、お兄ちゃん達に合図送ってくるね」

 

そのまま一直線に洛陽の城を目指して董卓達の保護を目指した三人だったが、結果は空振り。

城内には人一人残っておらず、ただただ静けさだけが支配する空間と成り果てていた。

とりあえず城にはもう誰もいないという事を報告すべく、鈴々が飛び出していく。

 

「音々音ちゃんは……白蓮さん達が真っ先にここに突入出来るように誘導、出来るかな?」

 

「任せるのです!」

 

「僕に着いてきた兵は……君達五人、僕と一緒に手分けして一応情報収集。後は音々音ちゃんを護衛、お願いします」

 

『はっ!』

 

鈴々が飛び出していってから一弦も急いで兵達に指示を出し、各自が動き出した。

 

「一弦殿、董卓殿と賈駆は恐らく一緒にいるのです。二人ともねねよりも少し大きいくらいの女の子で、董卓殿は貴人のような風貌、賈駆は眼鏡をかけておりますぞ」

 

恐らく音々音は、一弦が数人と残ってしようとしている事がただの情報収集ではないと気づいたのだろう。

きっと一弦は、万が一二人が洛陽に残っていたら大変な事になると思ってこの場に残るのだと。

鈴々は元々一刀の意思で動いているのであって、一弦達とはそこまで協力関係にあるわけではない。

一弦が頼めば、鈴々とて愛紗と同じく一弦の事を義兄のように思っているので断る事はないのだろうが、そこで無理を言って一刀達を煩わせてしまっては意味がないのだ。

 

「ありがとう、音々音ちゃん……頼んだよ?」

 

「了解なのです!」

 

そして一弦は選んだ五人と共にその場に残った。

 

「嶋都殿、我々はどうします?」

 

五人を代表した一人の問いかけに一弦は暫く城内を見渡してから、

 

「城内の捜索に一人、お願いします。後はそれぞれ二人一組で街の調査を。来る時には一人も会いませんでしたが、住民はいないか……お願いします」

 

「はっ! 嶋都殿はいかがなさるおつもりで?」

 

「僕は街の外に出る経路を捜索します。白蓮さん達と合流出来たら……僕の動向を報告し、後は白蓮さんの指示に従ってください」

 

『はっ!』

 

そして散り散りになっていく5名。

一弦はそんな背中を見送ると、双逆鎌弓を強く握り締めて歩き出した。

 

「……嫌な、予感がする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、月っ!? 大丈夫、月っ!?」

 

「へぅ……え、詠ちゃん……詠ちゃんだけでも、逃げて」

 

「そんな事出来るわけないでしょっ!?」

 

反董卓連合軍が今まさに洛陽内に突入せんとしているそんな時、街中を走る二人の少女。

その二人はまさかもまさか、董卓と賈駆その人だった。

 

「護衛の人達が食い止めてくれてる間に外に出られれば助かる見込みが出て来るわっ! だから頑張って月っ!」

 

「……うん……だけどもう、駄目みたい」

 

董卓―月の視線の先には、白装束の奇妙な集団の姿。

退きながらも奮戦していた兵達の最後の一人が切り倒されると、その集団のわずかにあらわになっている目元は明らかに月と賈駆―詠の姿を捉えていた。

 

「くっ! こうなったらもう……月、月だけは絶対に助けてみせるんだからっ!」

 

そんな状況に詠は、震える手で明らかに護身用にしかならないような短刀を構えて月を後ろ手に庇う。

しかし当然詠は文官でしかない。

戦うどころか持っていた短刀を取り出すのも初めて。

何も出来ないそんな状況でもう眼前で剣を振りかぶる白装束の無機質な視線に、しかし詠は最後まで怯まずに睨み返す。

せめてそれだけは退いてなるものかという気概が、詠に絶望するという選択肢を選ばせなかった。

だからこそ詠には、それを捉える事が出来た。

 

「ぐえっ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

自分達に剣を振り下ろそうとしていた白装束達の頭に、黒い棒が生えるその瞬間を。

そして……

 

「……お怪我は、ないですか?」

 

突如として現れた、黒い弓兵を。

その男、一弦は白装束達の混乱に乗じて月と詠の元まで真っ直ぐに駆け寄り、その勢いのままにもう3人双逆鎌弓の刃で斬り飛ばしてから改めて尋ねた。

 

「お二人とも、お怪我は……ないですか?」

 

突如として現れた一弦に、殺されかかっていた二人は声もない。

ただぶんぶんと首肯するその姿を見て少しだけ口元を緩めた一弦はすぐに弓を構え直すが……

 

「……嶋都一弦だ……」

 

「……嶋都一弦だ、間違いない」

 

「いたぞ、嶋都一弦だ」

 

「あぁ、間違いないぞ!」

 

白装束の男達は一弦を見るや、標的を一弦に変更してきた。

まるで、当初から本当の目的は一弦だったかのように。

 

「……そうか……お前達が蘭華さんの言っていた……」

 

そして一弦は急速に事態を理解する。

蘭華が言っていた、一刀と一弦を悪とする奴等。それが目の前の白装束達なのだと。

そしてそうなると問題なのが……

 

「あ、アンタ……アンタが、嶋都一弦なの?」

 

「…………」

 

一弦が一時は救い出した二人の存在。

今や二人は標的としては二の次、三の次だろう。

しかし戦闘能力がないに等しい二人を庇いながらでは、この世界の武将達ほどの力を持っていない一弦には分が悪すぎる。

詠も、それに気がついたのだろう。

自分達を操っていた奴等の標的の一人が目の前にいる一弦だという事は、一弦がいなければ自分達は狙われなかったと思いはするが、それが一弦に責任のない事であるという事も頭の良い詠には理解出来る。

感情だけはどうにもならないが、その理解が詠に自分が気がついた“今の自分達は足手纏い”と言う事実からの脱却を優先させようと逃げ道を探していた。

そして月の眼にも、両親を人質に取られて自分達が操られた理由の一つである一弦に対する恨みなどは一切感じられなかった。

優しそうで愛らしい顔を不安に歪ませ、ただただ自分達を庇いに現れた一弦の身を案じている。

しかし……

 

「……それでも、護るんだ」

 

一弦はそんな状況で、二人を自分から離す事を良しとしなかった。

確かに二人が一弦から離れれば護る対象がなくなる一弦は戦いやすくなるが、しかしそれでは二人の身の安全は保障されない。

北郷家の人間を守護する為に力を身に付けた一弦だからこそ、護る対象を危険にさらしてまで自分を優先するという行為は選択肢になかった。

それに、一弦はこの戦いの裏を、蘭華からすでに聞いている。

つまり今ここにいる月と詠が、一刀と一弦が来なければ利用される事もなかったかもしれない事も理解しているのだ。

 

(これは……この二人が追い詰められているのは、僕の責任だ。だから……)

 

一弦は素早く髪を束ね、片目を晒すと二人を振り返った。

 

「董卓さん、賈駆さん! 走れますか?」

 

「なっ!? あ、アンタなんで僕達を――」

 

「は、はいっ! 詠ちゃん、今は逃げないと」

 

「わ、分かったわよっ!」

 

「それじゃ――「死をっ! 嶋都一弦に死をっ!」――ふっ!」

 

「ぐっ!?」

 

駆け出そうと立ち上がって背を向けた二人に斬りかかった一人を双逆鎌弓で斬り伏せた一弦は、そのまま二人の背中を護るように後ろに立った。

 

「呂布さんの家に、向かってください。そこまでいけば……」

 

「分かったわっ!」

 

一弦の言葉に促されて走り出した二人。

体力にも運動神経にも自身があるほうではない二人だが、懸命に走る。

その後ろで一弦はただひたすら白装束達を矢で牽制し、追いついてくる者を斬りつけて二人に刃が届かないように護り続けていた。

しかし……

 

「いたぞっ! 嶋都一弦だっ!」

 

「董卓と賈駆も一緒だぞっ!」

 

「殺せっ! 諸悪の根源だっ! 殺せっ!」

 

「ま、回り込まれたっ!?」

 

「へ、へぅぅ」

 

「くそっ!」

 

正面に現れた白装束達に一弦は温存しながら使っていた矢の最後の三本を打ち放った。

 

「「「ぐぁっ!?」」」

 

先頭の三人はそれで退けられたものの、後ろからは次々と現れ始める。

とっさに辺りを見回して抜け道を探した一弦と詠だったが、不運にも現在地は大通りのど真ん中。

呂布の邸宅までもまだ距離もあるそんな状況での、まさに絶体絶命。

 

「はぁ、はぁ……も、もう駄目……」

 

「…………」

 

詠と月も、流石にこれまで走り続けた分と追い詰められた絶望感のようなもので、もう足がいう事を聞かないといったようにへたり込んでしまう。

そんな二人を庇いながらもジリジリと追い込まれていく一弦はしかし、それでも二人を見捨てようとはしない。

 

(ここで二人を見捨てたら蘭華さん、瑠那ちゃん、泉さんに……一刀に、それに誰より……白蓮さんに合わせる顔がない)

 

蘭華との約束が。

頼り、慕ってくれる瑠那の、そしていつも気さくに接してくれる泉の笑顔が。

自分を今いる場所まで引き上げてくれた一刀への感謝と友情が。

そして何より、短いながらも白蓮と背中合わせで戦ってきたその時に決めたあの日の覚悟が、一弦に弓を振るう事を止めさせなかった。

 

「…………来るなら、こいっ」

 

返り血を全身に浴びながらも、そして完全に消耗しながらも怯むどころか強みを増すその片目の眼光に気圧される白装束達。

しかし妄信的な宗教信者にも似たその麻痺した脳が、いくら本能がそうだったとはいえいつまでも気圧されているわけもなく……

 

「し、死をっ! 嶋都一弦に死をっ!」

 

「おおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」

 

「死ねぇぇぇぇぇっっっ!!!!」

 

「くっ!」

 

斬りつけてきた三人の剣を、弓の大きさに頼んで同時に受け止めた一弦。

しかし筋力で言ってしまえばまともに三対一。

しかも上から押し込もうとする力と下から押し返そうとする力ではあまりに一弦に分が悪い。

詠と月はもう、一弦の両隣で屈んでいる事しか出来ない。

そしてそんな状態で動けない一弦を見て、さらに追い討ちをかけるように次々と一弦の弓に剣を振り下ろしてくる白装束達。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!」

 

ついに一弦が膝を着く。

押し負けまいと必死に耐えているその形相が、詠と月の視界に入ってくる。

 

「あ、アンタ……も、もういいわよっ! アンタだけでも逃げればいいじゃないっ!」

 

「なんで……なんでそんなに……もう……もういいですよぅ……」

 

涙を堪えて一弦に逃げるように訴える二人だったが、一弦はそんな声に耳を貸す気などないといわんばかりに歯を食いしばり続ける。

そんな姿に月がとうとう声もなく涙を溢れさせ、詠が……

 

「誰か……誰かコイツを助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

その時だった。

 

「一弦お兄ちゃーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

 

そんな大絶叫と共に少数の兵を引き連れて赤髪の少女が飛び込んできた。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!?』

 

何人分かも分からない悲鳴と共に駆け込み、

 

「うりゃりゃーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

可愛らしい気合一閃、一弦を押さえ込んでいた白装束達を一振りで薙ぎ払って見せたその少女は……

 

「一弦お兄ちゃんに何するのだっ!」

 

「り、鈴々……ちゃん?」

 

「燕人張飛っ! ただいま参上なのだーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

一刀の元に戻ったはずの鈴々だった。

 

「な……んで……」

 

「お兄ちゃんに言われて街の様子の調査してたら女の子が叫んでる声が聞こえたのだ」

 

「そう……ありがとう、鈴々ちゃん」

 

「いいのだ。鈴々隊の皆っ! 二人を呂布の家まで連れて先に行くのだっ!」

 

『はっ!』

 

「え? ちょ、ちょっと……」

 

「大丈夫ですから、従ってください」

 

自分抜きで話が決まっていく事に危機感を覚えた詠。

詠としてはやはり、命賭けで護ってくれた一弦は信用出来るが助けに入った鈴々のいる陣営、つまり北郷軍は信用しきれないところが大きかった。

しかし異論を挟もうとしたその時、一弦が穏やかにそれを押し留める。

暫くそんな一弦のあらわになった片目を覗き込んでいた詠だったが……

 

「……分かった。お願い」

 

結局、一弦の大丈夫だと言う言葉を信用する事にした。

急がないといけない状況だけに悠長に言葉を交わす事は出来ないが、月と共に一弦に感謝の視線を向けて鈴々隊の中に入り込んでいくと……

 

「じゃあ一弦お兄ちゃん、一気に囲みを突っ切って皆を逃がして……」

 

「……後は全員殲滅、だね?」

 

「一弦お兄ちゃんと一緒に戦ってみたかったのだ。帰って愛紗に自慢するのだ♪」

 

無邪気な笑顔でそう言って一弦に笑いかけた鈴々だったが、次の瞬間にはもう白装束達に獰猛な笑みを浮かべて睨みを利かせていた。

そして……

 

「ヘンな白い人達、覚悟するのだ。鈴々……ちょっと本気でいくよ」

 

それからはもう、圧巻の一言に尽きる。

一弦一人であれだけ手こずっていた白装束の集団は、鈴々がそこに加わった途端にまったくなすすべなく全滅に追い込まれ、一弦と鈴々はそれぞれの陣営に悠々と帰っていった。

 

「鈴々ちゃん、二人の事……お願いね」

 

「任せるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで董卓ちゃんと賈駆ちゃんには便宜上、死んでもらうって方向でいこうと思うんだけど……どうかな? 二人共。俺達の陣営に来る気はあるかな?」

 

鈴々の隊に護られて無事、呂布の家に着いた月と詠。

戻るとまた白装束の奴等が今度は一刀を狙って攻め込んでいたが……

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」

 

よほどこの世の物とは思えないはげに三つ編みの褐色筋肉達磨のような男…もとい漢女、貂蝉に救われ、事なきを得ていた。…………言い寄られた一刀の精神状態を除いて、だが。

そこで月と詠は行方知れずとなっていた恋と再会し、そして一刀達の真意を知る事となった。

 

「アンタ……どういうつもり? ボク達の存在はアンタ達にとって不利にしかならないのよ?」

 

「そうでもないさ。白装束の奴等の情報は君達から得られるし、それに……俺達はもう出会って、言葉を交わしてしまった。そんな女の子を自分の不利になるからって理由だけで殺すなんて事したら、俺は俺自身が許せなくなる」

 

「……そ、それだけの理由で……」

 

「だけ、じゃないさ。俺の存在を自分自身が許せなくなったら、俺はもう戦えない。実際問題俺自身が戦っているわけじゃないけど、でも俺はこの陣営の旗なんだ。たなびかない旗は……降りるしかないよ」

 

「あ、アンタ達はっ!? 関羽に諸葛亮っ! アンタ達はそれでいいのっ!?」

 

「いいの、と聞かれましても……」

 

「御主人様がいなくなってしまえば私達はもう、戦い続ける事ができるかどうか危ういからな。個人的には、その……少々引っかからなくもないが、それで御主人様が我々と共に在り続けてくれると仰るのなら……」

 

「愛紗〜、素直に言えばいいのだ。お兄ちゃんの傍に女の子が増えるのは面白くないけど、お兄ちゃんに嫌われたりお兄ちゃんがいなくなっちゃうのはもっと嫌なんだよね〜」

 

「り、鈴々っ!?」

 

素直になれない愛紗とそれをからかう鈴々のおかげで重くなっていた空気が軽くなる。

かなりの重要案件について話し合っているはずなのに笑顔の耐えない北郷軍の陣営を月と詠は、ただ唖然と見ていた。

そんな二人の様子を見ていた一刀が、ほとんど言葉を発す事がなかった月の前に屈みこむ。

 

「董卓ちゃん。君は優しそうだから多分……自分だけ助かるわけにはいかないって、そう思ってるんじゃないかな?」

 

優しそうな笑顔でそう問われた月は、素直に首肯する事でそれに答えた。

 

「水関で死んだ人達……虎牢関で死んだ人達……その人達に償うには、私が……」

 

「それは違う、董卓ちゃん。それは違うよ」

 

苦しそうに搾り出した月の言葉を一刀は、きっぱりと否定した。

そのあまりの率直さに月が思わず眼を見開いてきょとんと首を傾げる様に苦笑を零した一刀は、しかしすぐに表情を引き締めて真っ直ぐに月の瞳を覗き込むようにして語る。

 

「偉そうな事言うようかもしれないけど、俺は人の命の重さは皆平等だと思う。こんな時代だから軽んじる人も多いけど、でも俺は……君が王だからと言って、死んでいった人達全員の命と君の命が釣り合うとは思えない。君も……そんなに傲慢な人じゃないだろう?」

 

「そ、それは……で、でもそれなら私はどうやって……」

 

「それは、生きて考えないと。考えて考えて……自分なりのやり方を見つけるしかないんだと思うよ。まぁ……君一人に償わせるつもりはないんだけどね」

 

「…………え?」

 

「今回の戦いが俺と一弦をおびき寄せる為の戦いなら、俺達がこの世界に来なければそもそもなかったかもしれない戦いなんだ。一弦も多分、その事には気づいてた。だから君達を命賭けで助けて、鈴々に託したんだと思う。一弦は一弦なりに、これからもアイツなりの償いを続けていくんだろう。なら俺だけ、そんなの知らないで済ませるわけにはいかないんだ。だから……俺は皆と、いつか皆が笑って暮らせる日の為に戦い続ける。それが、俺の償いだと思うから」

 

そう言って少し儚げに笑った一刀に月は、思わず息を呑んで見惚れてしまった。

そこに、今の自分にはない強い決意と覚悟を感じて。

そこに、誰よりも優しい意志を感じて。

 

「……ご、御主人様ぁ……」

 

「……か、カッコいいのだ」

 

「は、はわわぁ……綺麗だよぅ……」

 

「………………ご主人様」

 

「な、なんなのコイツ……」

 

外野がそんな笑顔にただただ頬を朱に染める中、月は意を決したように一刀の眼を覗き返した。

 

「私も……私も、見つけられるでしょうか?」

 

「……うん。一緒に見つけて、一緒に償っていこう」

 

それが、月に最後の一歩を踏み出させた。

 

“今はまだ一人では償い方もわからないが、一刀と一緒ならいつか”

 

そう心から思えた月は、一刀のそんな言葉に泣きそうになりながらも笑顔で頷いた。

 

「詠ちゃん、私……」

 

「……本気、なのね?」

 

「うん……私がこの人に出会えたのは、天命だと思うから……」

 

「……分かった。北郷一刀。貴方の保護を、受けるわ」

 

最後に詠がそう言って、月と詠は北郷軍で侍女として匿われる事となった。

名を捨て、真名を預けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、御主人様。御主人様はその……嶋都一弦様と、お知り合いなのですよね?」

 

「あ、うん。幼馴染だけど」

 

「丁度いいわ。ほとぼりが全部冷めてからでいいから、一度話をさせて頂戴」

 

「詠ちゃん、そうじゃないでしょ。あ、あの、助けてもらったお礼を、まだきちんと言えていないんです。だから……」

 

「分かった。丁度ほとぼりが冷めたら陳宮ちゃんをこっちで引き取る事になってるから、その時に会える様に白蓮さん…公孫賛に頼んでみるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「じゃあその件も含めて、朱里、伝令、っていうか使者か、を出して白蓮さん達の軍に董卓の自害の噂を流す協力を要請しておいて。一弦は事情を理解出来るだろうから」

 

「御意です。すぐに」

 

「あと貂蝉を俺の視界から外してくれると嬉しい」

 

「そ、それは……い、いってきますっ!」

 

「ちょ、朱里ぃ〜……はぁ…しょうがないか。何か知ってそうだしな。…………じゃあ気を取り直して月、詠。二人には侍女としてふさわしい衣装を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、鈴々と分かれた一弦は打ち合わせどおり董卓の城に入っている公孫賛軍と合流したのだが……

 

「か、一弦っ! お前どこいってたんだ……ってどうしたんだその怪我っ!?」

 

一弦の戻りを今か今かと待ち続けていた白蓮に傷だらけの姿で捕まってしまった。

そして問答無用で泉を呼ばれ、上半身の衣服をすべて剥ぎ取られた状態で治療を受けながら状況の説明に入った一弦だったが……

 

「……というわけでやっぱり、蘭華さんの仰っていたとおりでした。恐らく一刀達も…………? どうしました、白蓮さん? 瑠那ちゃんに蘭華さんも」

 

「……い、いや、その……(か、一弦……やっぱり体付きは男らしい……)」

 

「な、なんでもないっスよ!?(な、なんスかこれっ!? なんでこんなに胸ドキドキいってるっスかっ!?)」

 

「い、いいいいえっ!? ななななんでもありませんわっ!?(お、男の方の肌……は、初めて見ましたわ……)」

 

一弦が上半身裸である事で皆話に集中しきれないようだった。

 

「はぁ……洛陽はこの状態です。ここは早く撤収作業を開始し、一段落してから話を再開する事をお勧めするのです。急ぎの話は今のところありませんし」

 

そんな中、やはり少々頬を染めてはいたものの比較的冷静だった音々音が軍師としての力を発揮し、この場はとりあえず一弦の治療を泉に任せて素早い帰還を進言した。

一番まともな意見に一弦が賛成した事でこの場はひとまずお開き。

白蓮達は撤収作業に取り掛かり、残っていた音々音が一刀達からの連絡を聞いて一弦に確認を取ってから実行に移しとなんだかんだで忙しく動き回り始める。

そして程なく一刀達と音々音が流した董卓及び賈駆の自害の噂が浸透し、反董卓連合は解散となった。

 

「白装束の奴等……あの夜一刀を襲ったあの男……これから、どうなるんだろう」

 

一弦はまだ知らない。

一刀が劉備の役割を担っているように一弦もまた、誰かの役割を担っているという事を。

そしてその役割がこの後一弦を、どんな運命へと導くのかを。

 

「はぁ……疲れ、ました」

 

「だな。早く帰って、ゆっくり休もうな、一弦」

 

「……はい。帰りましょう、白蓮さん」

 

 

 

 


あとがき

 

またまた数ヶ月ぶり。

色々脱線したり仕事に追われたり脱線したり脱線したりとしていたアインです。

……主に脱線してましたね(汗

恋姫のトリップ物とかを自分のHPで夢小説としてUPしてみたりとか色々してましたが、別に忘れてたわけではありませんよ?

ただ……一弦の役割をどうやって表現するか〜とか、一弦に助けれて北郷軍にいくメイドさん達をどうやって自然に受け渡すか〜とかでちょっと悩んでました。

……一言で言うと、駄目駄目でしたw

貂蝉だそうとしてあまりに長くなってしまい、削った事が未だに良かったのか分かりませんが、まぁお話の主人公は一弦君でもあるわけですので……

一応合流はしてますのでその内……その内、ね?

正直本編でも登場と最後辺り以外は拠点フェイズでちょいちょい出てただけだし……い、いいですよね?

ま、まぁともあれ反董卓連合編も終了しました。

これからオリジナル展開! 一弦君どうなるっ!?みたいな話に……なったらいいなぁw

まぁこのままストレートにいっちゃうのもなんか違う気がするので、拠点フェイズを一度くらいはさもうと思ってます。

可愛い白蓮さん、書きたいですしww

それでは、今回はこの辺で失礼します。




今回のお話で反菫卓連合編は無事に終了を迎えたみたいだな。
美姫 「みたいね。一刀の元に月たちも引き取られて」
ここからが特に気になる所なんだよ。
美姫 「そうよね。このままだと公孫賛は攻められるものね」
ああ。一弦がいる事でどうなるのか。彼の役割も含めて気になってたんだよな〜。
美姫 「拠点フェイズが挟まれるかもしれないって事だけれど」
それも楽しみにしてます。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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