『An unexpected excuse』
〜鶴屋さん編〜
「俺が好きな人のは…………」
「おやおやっ?高町君じゃんっ。こんな所でなにやってんのってなんだか随分女の子がいっぱいだねっ?」
突然聞こえてきたやたらテンションの高い声に、恭也は開きかけた口を閉じて少々困ったように突然の乱入者に視線を向ける。
そこに立っていたのは腰までありそうな綺麗な長い髪と少し大きく開いた額が特徴的な、明るい笑顔を湛えた美少女だった。
「……鶴屋さん……」
困ったようなそんな恭也の声にもお構いなく、鶴屋はずんずんと恭也に近づいて、
「この前はありがとねっ!わざわざ別荘まで来てもらっちゃってっ。寒いのに大変だったねっ」
と親しげにそう言いながらニコニコと楽しそうに恭也の肩を叩いている。
そんな彼女に恭也は苦笑しつつされるがままになっていたが、忍達は鶴屋の発言に目の色を変えて二人に詰め寄った。
「ねぇ恭也!別荘ってなによ別荘って?!」
「そういえば恭ちゃんいつだったかちょっと出かけるって言って暫く帰ってこなかったよね?」
美由希のそんな言葉にさらに色めき立つファンクラブの面々。
恭也が余計な事を言うなと美由希、晶、レンの三人に鋭い視線を送った事で三人がこれ以上口を開くことはなくなったが、それでも三人以外の事情を知らない人間は詳しい話を聞きたいと詰め寄る。
どうしたものかと恭也が途方に暮れていると、
「ん?高町君は昔からちょくちょく家にきてくれてるよっ?妹ちゃんは知らなかったのかいっ?」
と恭也の考えなど全く気にしていないような明るさで鶴屋が恭也の隣から口を挿む。
恭也は頭を抱えてはいるが、鶴屋をとめることなど出来ないと悟っているのか疲れたような溜息を零している。
「え?ってことは恭ちゃんと鶴屋さん、でしたよね?は結構前から知り合いなんですか?」
「うんっ!結構前からってか子供の頃からかなっ?これはもう幼馴染っていっても過言ではないよねっ?」
『お、幼馴染っ?!』
「そだよっ?高町君のお父さんが家に何度も遊びに来てたしねっ。退屈な子供同士で仲良くしよーよって、ねっ?」
そう言って超至近距離で恭也の顔を覗き込む鶴屋。
いきなりの事に恭也が言葉をなくして顔を赤くしていると、それを見ていた忍達が声をあげる。
「ちょ、ちょっと鶴屋さん、貴方何してんの!?」
「そっ、そうですよ!そんなに顔近づけてっ!」
「恭也さんから離れてくださいっ!」
かなり取り乱し気味の忍、美由希、那美の三人。
しかし年少組の晶とレンはもう話が読めてきているのか、小声で話し合っている。
「おおっ、那美さん大胆だな」
「全然迷惑そうやないけどな」
ちらちらと視線を向けながら話す晶とレンを、見透かされているような気がして居心地悪そうに見る恭也。
鶴屋のほうはというと、取り乱した三人を目を見開いて凝視していたかと思うと、
「そっかっ。皆高町君の事が大好きなんだねっ?よかったねっ、高町君たらもてもてだねっ」
とまたケラケラと笑いながら恭也の肩を叩き始める。
「でもねっ、皆残念賞なんだっ。高町君はもう売約済みなんだよんっ」
そう言って叩いていた手を恭也の首に回して抱きつく鶴屋。
先ほどから殆ど口を開く事すら許されずにされるがままになっていた恭也も、もう言い逃れは出来ないと溜息を一つ。そして、
「先ほどの質問の答えなんだが……、俺が好きな人はここにいる鶴屋さんで、もう将来も誓い合っている」
と鶴屋の肩に腕を回す。
「に、にゃははははっ。そんなにはっきり言ってくれちゃったらめがっさ照れちゃうよっ!でもまぁ嬉しいからいっかってあれ?皆どした?まるで引き潮のようにざざぁって帰っていくよ?ざざぁって!」
恭也の答えを聞いた瞬間、ファンクラブの人間と忍達はそんな鶴屋のハイテンションな声を聞きながらすごすごと引き下がっていった。
「それにしても高町君ってやっぱりもってもてだねっ。彼女としてはちょっと心配になったりするっぽ」
「そんな……、皆良い奴らだから俺の事を心配してくれていたんでしょう。俺みたいに無愛想な奴、放っておいたらいつまでも特定の人なんか出来そうにありませんでしたから」
皆いなくなって中庭に取り残された二人は、得にすることもなく木の根元に座っていた。
「あははははっ!高町君は相変わらず無自覚ってか自分が視えてないってか自分を過小評価するよねっ。でもそんな事ばっかりされちゃうと君を大好きなあたしまでなんか馬鹿みたいに聞こえるっさ」
そんな事はないと否定しようとする恭也の肩に自分の頭を預けると鶴屋は、
「高町君、ってか恭也ってもう呼んでもいいよねっ?折角二人っきりなんだしっ、はとっても素敵な人であたしの大好きな人なんだからもうちょっと自信バリバリでいこうっさ!」
とムード一杯の体勢でなぜか元気一杯にそう恭也に微笑みかける。
そんな鶴屋に恭也も小さく礼を言って微笑み返す。
しばらくそんな見た感じだけは甘い感じで駄弁っていた二人だったが、暫くして鶴屋が相変わらずのテンションをそのままに恭也に、
「ところで恭也君っ、なんであたしがよかったのかなっ?」
とまた顔を覗き込んだ。
恭也はいきなりの事に普段より幾分幼く見える表情で首を傾げる。
「さっきの子達だって皆めがっさ可愛かったし、こいっちゃなんだけどあたしといたってあんまり男の子としては楽しくないっぽ?」
明るくそういう鶴屋の表情に少しだけ陰りのようなものが浮かぶ。
それを見て取った恭也は、身を乗り出して覗き込んでいた鶴屋の頭を自分の胸に優しく引き寄せた。
「とおさんが死んで、自分を追いつめて膝を壊してしまった時、周りの皆は心配して、同情してくれました」
突然昔を語りだした恭也の声を、鶴屋はびっくりしたような表情を浮かべながら恭也の胸の中で静かに聞く。
「でも貴方だけはいつものように笑って、いつもと同じように俺と接してくれた。何の遠慮もなく、なんの変わりもなく、ただ明るい笑顔を向けてくれた貴方に、俺は救われたんですよ。だから貴方だけは、俺を救ってくれた貴方のその笑顔は……何があっても俺が護り通します」
そして恭也は鶴屋の長い髪の毛を優しく撫でながら、
「そして貴方が俺の事を好きだと言ってくれた時、なんで俺は貴方の笑顔に救われたのか解ったんですよ。……俺はずっと前から貴方の事に惹かれていたんです。すべてを受け入れてくれるようなその笑顔に俺は惹かれ、そして同時に救われていたんです」
と耳元に囁きかける。すると、
「にゃははははっ!く、くすぐったいさっ!」
と突然鶴屋が大声で笑い出した。
真面目に話していた恭也は幾分か憮然とした表情で鶴屋を見る。が、どうやら耳元で話していたことがくすぐったかったのだろうという事が解るとその表情を苦笑へと変える。
そんな恭也の正面に、いつの間にか四つん這いの格好で鶴屋がまた恭也の顔を覗き込む。
「……?なんですか、鶴屋さん」
首を傾げる恭也に鶴屋は楽しそうに見ると、突然身を乗り出して恭也の唇を奪った。
目を白黒させている恭也に鶴屋は少々頬を染めた笑顔を向ける。
「恭也君は相変わらずだっめだめだねっ。女の子があそこまで顔近づけたら男の子としてはやる事は一つだけにょろ?」
どんな時でも明るい笑顔を向ける鶴屋に、恭也はその表情に微笑みを浮かべながら鶴屋の頭を抱え込んで自分の唇を優しく押し当てた。
「すいませんでした。俺はどうもこういうことに対して無知なものですから」
唇を離してそういう恭也。
鶴屋はそのまま先ほどのように恭也の胸の中にいる。
「まああんまり気にしなくてもいいっさ。あたしは恭也君のそんなところも大好きだしねっ♪でもあたし以外とそんなことしちゃだめにょろ?」
「そんな事しませんよ。無知と言っても意味くらいは解っているつもりですから……。貴方だけですよ」
「うれしいねっ。後は子供の頃みたいにもっと普通に話してくれればもっと嬉しいねっ!」
二人きりで学校の中庭。
先ほどの騒ぎの影響と、もうすぐ昼休みも終わりという事もあってまったく人影はない。
そんな状況が、恭也の心を少しだけ積極的にさせた。
「午後はサボるか、―――――」
<おわり>
あとがき
久しぶりに自分結構無謀な事やってるんじゃない?と思いました。アインです
ブリジット「いつもの事です」
……一言でいきなり鋭く抉ってくるな
ブリジット「だってこともあろうに下の名前すらあかされていない究極のサブキャラ出してくるなんて……アホとしかいいようがないです。ラストなんて名前の所あんなんで意味深っぽく伏字ですよ」
いや実は朝倉とどっちにしようか最後まで迷ったんだけど……
ブリジット「……だけど?」
別荘いくつかもっててお金持ち風な設定が恭也の過去とつなげられたらちょっと面白いかなぁ、と思ったりして
ブリジット「無謀な挑戦をしたです?」
そんなはっきり無謀だなんていわなくても……
ブリジット「どうせ自分でも無謀だってわかってるんでしょです。知ってるんですよ?」
な、何の話かな?
ブリジット「この間美姫さんに最近アインがけしからんので気合を入れて欲しいって頼んだです」
な、な、なんて恐ろしい事を……
ブリジット「そしたら美姫さん、「でも旅行が……」って言葉を濁してたです」
…………きっとハワイ辺りにご旅行のご予定があったんじゃないか?最近寒くなってきたし、きっと誰かがチケットでも……
ブリジット「……つまりそういうことなのです?」
……色々ご都合もあるんだよ。なんたってあの破天荒さが魅力のお方だから……
ブリジット「念の為聞きますけどアインって浩さんの事師匠って呼んでませんでしたです?」
くっ……すみません師匠。師匠に勝てないものに仮にも弟子を名乗る私は勝てないです……
ブリジット「さて、アインの長いものには巻かれる悪代官のような一面が色濃く出てきた所で……」
あまりにもあんまりな言い草だな、おい
ブリジット「いつもより短めの駄文でしたが、読んでいただいてありがとでした♪」
ポツ〜〜ン。
一人寂しく、お昼寝。
って、そうじゃない! 遂に来ました涼宮ハルヒシリーズ。
ブリジットさん! サブキャラだって良いじゃないか! 好きなものは好きなんですよ。
名前がなくても、出番があればOK(笑)
美姫 「って、何一人で暴走してるか」
ぶべらっ! ……って、どうしてここに?
旅行は?
美姫 「いや、そんな心底不思議そうな顔をされても。今日、帰ってくるって言ってなかった?」
初耳……いや、記憶の彼方で聞いたような。
美姫 「はいはい。あ、これお土産ね」
おおー、ありがとう。って、こんなので誤魔化されないぞ。
美姫 「あ、いらないんだ」
嘘です、ごめんなさい、頂きます。
美姫 「へー、今回は涼宮ハルヒから鶴屋さん編なんだ」
おう。あのテンションの高さも見事だぞ。
美姫 「いやー、本当に凄いわね」
うんうん。思わず、頭の中で映像が浮かんできたよ。
美姫 「本当に。アインさん、投稿ありがとうね〜」
ありがとうございました。