* * * * *
 いつからだろう
 大好きのキスにその先があることを知って それをあなたに求めるようになったのは
 甘くて優しいあなたの唇
 あふれる蜜はきっとどんなに美味しいお酒よりも簡単に わたしを酔わせてしまうでしょう
 ねぇ 声を聞かせて
 優しく涼やかなあなたの声
 眠る前に 夢へと落ちるその前に
 同じ夢を見られるようにと つないだ手と手は小さくて
 不安になってしまうこともあるけれど
 そんな時にはいつだって 側で支えてくれるあなた
 そのすべてが愛しくて……

 囁きは心を縛る魔法の鎖
 甘く 優しく だけど ほんの少しだけ残酷
 誘われるまま 心と身体 重ねるそのたびに
 わたしはあなたに溶けていく
 会えない夜に募った寂しさも 張り裂けそうなせつなさも
 全部 全部……

 求め合う 心と身体 重ね合わせて 一つに
 いつも いつまでも 二人一緒に
 歩いていける
 そんな素敵な未来 アシタの夢を
 今宵もあなたと見られるように……
   * * * * *
  それは掛け替えの無い時間なの
  作 安藤龍一
   * * * * *
 最近、なのはの様子が少しおかしい。わたしと一緒にいるとき、妙にそわそわしているっていうか、他人行儀な気がするの。
 例えば、授業中、わたしがうっかり忘れてしまった消しゴムをなのはに借りたときのこと。
「なのは、悪いんだけど、ちょっと消しゴム貸してくれない?」
「あ、うん、良いよ」
 何か考え事をしていたらしいなのは。それでもすぐにそう言って、ペンケースから消しゴムを出してくれる。
「はい」
「ありがと」
 お礼を言って、差し出された消しゴムを受け取ろうとしたとき、不意にわたしとなのはの指が触れ合った。
「あ」
 思わず漏らした小さな声が重なって、なのはは少し顔を赤くするとさっと手を引いてしまった。
「なのは、一緒に帰ろう」
 放課後、授業が終わって帰り支度をしているなのはへと声を掛ける。
「ごめん、今日ちょっと寄らないといけないところがあるから」
 いつものように誘ったわたしに、なのははそう言って鞄を持つと、逃げるように教室を出ていった。
 そんな感じのことが、もう数日も続いている。ケンカしてるわけでもないのに、まるで避けられているようななのはの態度に、わたしはすごく不安になる。
 何か嫌われるようなことをしただろうか。わたしは自分でもはっきりしない態度を取ってしまっていることがあるから、それで怒らせてしまったのかもしれない。
 せっかく両想いになれたのに、これじゃいけない。
 そう思って必至に考えるけれど、どうしよう。全然思いつかないよ。
 アリサやすずかは気にしすぎだって言うけれど、わたしにとってなのはに嫌われることは何よりも辛いことだから。
 不安で、眠れない夜が続いた。
 ジュエルシード探索で深夜に出掛けたこともあるから、二、三日の徹夜は何ともないけれど、心のほうはそうもいかない。
 なのは以外のことでなら折れない自信があるわたしの心も、彼女のことになると途端に弱くなってしまう。
「……寂しいな」
 夜、一人の部屋でふと漏らした呟きに、わたしは思わず笑ってしまう。
 家にはリンディさんもクロノもいるけれど、心は全然満たされなくて……。
 ああ、わたしはなんて贅沢なんだろう。
 そう、分かっている。だけど、今欲しいのは、感じていたいのは、たった一人の大切な人の温もり。
 目の眩むような興奮と、何もかもから解放されたような浮遊感。その後にやってくる虚脱感も、二人、一緒なら心地よい時間になる。
 思い出して出るのは、溜息。
 だけど、大切な人と二人きりで過ごした夜の思い出が、今はこんなにもわたしの胸を苦しくさせるなんて……。
   *
 そして、迎えた週末。とうとう堪えきれなくなったわたしは放課後、なのはを屋上へと呼び出して問い詰めた。
 どうして避けるのか。わたしが何か悪かったのか。わたしのことを、もう好きでは無くなってしまったのか。
 あふれ出した感情のままに叫んで、少しだけ冷えた心に押し寄せるのは後悔だった。
 ただ、側にいて欲しかっただけなのに。こんなふうに攻め立てるつもりなんて無かったのに。
 俯いたわたしの目からこぼれるのは涙。そんな資格ないのに、押さえることが出来ない涙。
 そんなわたしの肩にそっと手を置いて、なのはは一言謝った。
「ごめん、寂しい思いをさせちゃったね」
 そう言って易しく抱きしめてくれる。わたしが言ってしまった酷いことなんて、まるで気にしたふうもない。
「ううん、わたしも、もっと早く言えば良かったのに。勇気が無くて、ごめん」
 なのはは優しいから。その優しさに甘えてしまいそうになる。だけど、それではダメだと思う。
 わたしも悪かったのだ。
「別に避けてたわけじゃないんだ。ただ、この気持ちをどう表わせば良いか分からなくて」
 わたしを放してそう言うと、なのはは何処か照れたような困ったような複雑な顔をする。
「フェイトちゃんを好きな気持ちはすごく強いんだけど、何と言いますか、それをそのままぶつけちゃうと押さえが利かなくなりそうで」
 顔を赤くしてごにょごにょと口篭るなのはに、わたしは思わず小さく笑ってしまった。
「もう、笑うことないじゃない」
「ごめん。でも、どっちかっていうと、なのはは強引に迫ってくるほうだと思ってたから」
 溜めていたものを吐き出して心が軽くなったからか、つい思ったことをそのまま言ってしまったわたしに、なのはがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「つまり、フェイトちゃんはわたしに強引に迫られたいと」
「あ、えと、そういうわけじゃなくて……」
「良いんだよ、隠さなくても。なのははフェイトちゃんのためなら喜んで狼さんになりますから」
 そう言ってわたしの腰に腕を回してくるなのはに、わたしは顔を真っ赤にして固まってしまった。
「あ」
 交わされたのは、軽く触れ合うだけのキス。てっきりもっと激しくされるものとばかり思っていたからそういう意味でも驚いたけど、でも、これはこれで良いな。
 ぼーっとする頭でそんなことを考えていると、なのはがわたしの耳元に囁いてきた。
 それを聞いて湯気が出そうなくらい真っ赤になるわたしの顔。
「帰ろうか」
 わたしを抱きしめる腕を解いて、代わりに手を握ると、なのははそう言っていつもの笑顔を向けてくれる。
「う、うん」
 わたしはそれに少し上擦った声で短く答えるのがやっとだ。
 町を夕暮れに染める陽射しは赤く、わたしの頬はそれよりもなお紅い。
 近頃慣れた感のある通学路を二人並んで歩く。つないだ手から伝わるのは、お互いの鼓動と優しい温もり。
 ほんの少しの間、離れていただけなのに、何故かそれがとても懐かしい気がする。
「フェイトちゃん」
「なに?」
「ううん、何となく呼んでみただけだよ」
「じゃあ、わたしも。なのは」
 そう言って、どちらからともなく笑みを零す。今、二人の間にあるのはそんな穏やかで優しい時間。
 燃えるように熱い夜も良いけれど、こんな夕暮れの時間もわたしは好き。
 なのはを好きなわたしと、わたしを好きななのは。二人、ただ並んで、他愛のないお喋りをしながら歩く時間。
 そんな何でもない日常も、わたしたちにはきっと、掛け替えの無い……。
   * * * fin * * *






甘く切ないお話。
美姫 「最後は甘々ね」
なのフェイは良いね〜。いやー、思わずしみじみと。
美姫 「安藤さん、投稿ありがとうございました」
ました〜。



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