「えっ!?」
 携帯電話の通話口から聞こえてきたその声に、わたしは思わず声を上げて飛び起きた。
「来れなくなったって、どういうことですか!?」
 続くわたしの言葉に、隣で寝ていたたまもがむくりと起き上がる。
「はい。何とかしてみますけど、……いえ、それは……」
 薫の指示に、わたしは反射的に反論しようとするけれど、冷静な部分では、それも止むを得ないと思っていた。
「……分かりました」
 最後にそう言って電話を切ると、わたしは深々と溜息を吐いた。いや、こういう事態も想定しておくべきだったのだ。
 昨晩遅くに降り始めた雪のせいで、花音市へと向かう電車は始発からすべて運休。当然、海鳴から電車で来るはずだった薫もこちらには来られず、現在発生中の怪異に対しては、わたしたちだけで対応しなければならなくなった。
 元々、身から出た錆ではある。とは言え、本当にわたしたちだけで何とか出来るのだろうか。
   * * * * *
  Maika Kanonical〜奇跡の翼〜
  第20章 人外魔境
   * * * * *
 結論から言えば、どうにかならないこともなかった。
 たまもの管狐たちを使って確認したところ、あの霊樹の核は未だあの場所に居座っているようだった。それがそのまま現在発生中の怪異の中心となっていることは明らかで、つまりはこれを破壊することさえ出来れば、万事解決となるわけだ。
 問題は、どうやって力を温存したままそこまで辿り着くか。
 現在、霊樹のある森は完全に異界と化しており、凶暴な魔物が何匹も獲物を求めて徘徊している。奴らは異界の外までは出て来られないようで、今のところ一般人に被害は出ていないようだけど、それもこのまま異界が広がり続ければ時間の問題だろう。
 時間も無いし、強行突破するしかないんでしょうけど、それにしたって、数が足りない。せめて、後一人か二人、独力で魔物と戦える人がいてくれれば……。
 ――わたしは、魔物を討つものだから……。
 その時、わたしの脳裏を舞の言葉が過ぎった。それは、彼女が自分自身をごまかすための暗示。だけど、今の舞にはそう名乗るに相応しいだけの実力が備わってもいた。
 人と違う力を持つ者は、それだけ怪異と遭遇する可能性も高くなる。そうなった時、少しでも生き残る確立を上げるために、わたしは日々の鍛錬の中で舞にも力を使った戦い方を教えてきたのだ。
 剣を扱う彼女は気の流れを掴む術に長けており、それを応用した力の制御を覚えるのにも対して時間は掛からなかった。
 まだ完全に力を取り戻したわけではないこちらの舞に、負担を掛けすぎないよう、剣術と併用した形での使用に限定したのが良かったのだろう。今の彼女の斬撃は、能力全開のわたしでも正面から受けるのは危険なくらいだった。
 そう、戦力としては申し分ないのだ。舞のことだから、頼めば引き受けてもくれるだろうけれど、だからと言って、わたしの失態の後始末に彼女を巻き込むのはどうにも気が引ける。
 しかし、既にそんなことを言っていられる状況でもないことは分かっていた。
 色々な意味で重い腰を上げて、わたしが舞のケータイへと電話を掛けると、彼女は既にこちらに向かっているとのことだった。何でも今回の怪異に舞の“魔物”が関わっているらしく、それがどういうことなのか確かめるのに力を貸してほしいと言われた。
「分かりました。百貨屋は知ってますよね。わたしもこれから支度をして出ますから、そこで落ち合いましょう」
 そう言って電話を切ると、わたしはたまもへと振り返る。彼女はクローゼットを開けて適当に服を見繕うと、きちんと畳まれた未使用のバスタオルと一緒に渡してくれた。
「ありがとう。シャワーを浴びたらすぐに出ますから、たまもも一緒に来てください」
「はい」
 昨日着ていたものを洗濯に出し、たまもと二人で軽くシャワーを浴びると、素早く身支度を整えて外へと出る。朝食は百貨屋で舞と話しながら摂るとして、今は少しでも早く出掛けなければならなかった。
「ちょっと出てきます。朝はいりませんので、もう用意してしまっていたら済みませんけど、わたしの分は皆さんで食べちゃってください」
 朝食の支度をしている秋子さんの背中に向かって、一息にそう言うと、わたしは水瀬家を飛び出した。
 雷獣のコートの裾をなびかせ、背中には、この世界に存在しないはずの、もう一本の退魔剣の重みを感じながら、舞の待つ百貨屋へと急ぐ。懐には、薫からもらった物も含めて呪符が三ダース。
 更にコートの内ポケットには、退魔武具としての処理を施された小刀や、霧状の清水を散布する煙球など、手持ちの装備を持てるだけ詰め込んである。
 異界を現出させられる程の相手である以上、もう封印するだなんて甘いことは言わない。敵はたまもの全力攻撃に耐える化け物だけど、わたしや舞も加わって、最初から減殺するつもりで掛かれば、必ず倒せるはずだ。
   * * *
 早朝の商店街は、いつもと変らない喧騒に満ちていた。
 既に開店している店も、これから店を開ける準備をしているところも、ほとんど普段と変らない。いや、異界の出現を何かの気象現象と勘違いして、騒いでいるものまでいる分、寧ろ普段よりも賑やかなくらいだ。
 何も知らない連中がバカ騒ぎをしている光景は、平和ボケしたこの国の国民ならでは。事態の異常性に気づいたものたちも、最初の混乱を過ぎれば、早々にそれぞれの日常へと戻っていく。怪異に曝されていても、世の中が変らず回り続けているのは、それがルーチンワークの塊と化している証拠だ。
 わたしが舞との待ち合わせ場所に指定した百貨屋も、当然のように営業していた。自分で指定しておきながら何だけど、もう少し緊張感というものを持ってもらいたいものだ。
 営業スマイルで迎えてくれたウェイトレスに、内心で溜息を吐きながら、わたしは舞の待つ奥の席へと向かう。彼女も朝食はまだだったようで、わたしを待つ時間を利用して好物の牛丼を食べていた。
「って、何で喫茶店に牛丼があるんですか!?」
「美味しい」
 思わず突っ込むわたしに、舞が表情を綻ばせながらそう答える。
「ご注文はお決まりですか?」
「はぁ、とりあえず、ミックスサンドとドリンクのセットを。飲み物は、ホットコーヒーで」
「わたしは、狐うどんを」
「畏まりました。少々お待ちください」
 体勢を立て直しつつ、わたしがウェイトレスにそう答えると、彼女は一礼して去っていった。何も言わなかったところを見ると、普通に狐うどんもあるのだろう。
 ちらりとテーブルの上に視線を走らせると、紙ナプキンと並んで立っているのは、日替わりランチの一覧だった。その充実ぶりは、喫茶店というよりも、寧ろファミリーレストランに近いものがある。
 百貨屋って、こんなお店だったかしら。いえ、前に来た時にはコーヒーしか頼まなかったし、ろくにメニューを見た覚えもないので、分からないのだけど。
「ところで、どうしてたまもがいるの?」
 わたしが喫茶店の定義について首を捻っていると、舞が徐に箸を置いてそう尋ねてきた。そういえば、こちらの舞にはまだ話していませんでしたね。
 ちょうど良い機会なので、わたしは本人に了解を得た上で、舞にたまものことを話すことにした。これから一緒に戦うのだ。特に必要でもない限り、味方の情報を秘匿するのは望ましくないだろう。
 ただ、白面金毛九尾の狐に関することはまだ伏せておく。その話自体が誤解と捏造の産物だし、真実のほうも、話せば彼女の心の傷に触れることになるので、軽々しく口にすべきではないと思ったからだ。
 舞には、たまもはこの地方に昔から住んでいる狐の神様で、今は訳あって、わたしの守護霊みたいなものになっているのだと説明した。実際、彼女は神格者だし、わたしを守護してくれてもいる。
 すべてを話したわけではないけれど、嘘も言っていないので、そんなに良心が痛むことも無いはず。舞もさすがに神様が守護霊と聞いて驚いたようだけど、そんなこともあるのか、みたいな顔をして頷いてくれた。
 ――閑話休題……。
 異界と化した森へと一歩足を踏み入れると、なるほど確かにそこは濃厚な魔物の気配に満ちていた。
 こうして足を踏み入れるまで気づけなかったのは、世界を隔てる何かがそれを覆い隠していたからだろう。でなければ、これほど濃密な殺気を見落とすなど、あり得ない。
 学校の外で魔物の気配を感じたことなどこれまでなかっただけに、舞は幾分緊張した様子であたりを伺っている。
「舞、良いですか。魔物が襲ってきたら、迷わず切り捨ててください。間違っても、取り込もうだなんて考えてはダメです」
 異界へと踏み込む前、わたしはそう言って舞に釘を刺した。異界の魔物というのは、そのほとんどが負の思念の集合体だ。そんなもの、人体には毒にしかならない。
「魔物がわたしの力だったら?」
「その時は、倒しても霧散せずに舞の身体へと向かうはずです。他の生物に憑依するものだったとしても、そのお守りを持っていれば、大丈夫ですから」
「分かった……」
 わたしの説明に納得すると、舞は先に立って異界の森へと入っていく。隊列は、完全近接型の彼女が先頭、真ん中に中・近距離もこなせるわたし、最後に広範囲をカバー出来るたまもの順だ。
 森に入ると、すぐに魔物が襲ってきたけれど、舞の一太刀であっさり撃退された。中途半端に実体化しているせいで、物理的な干渉に対する耐性を十分に得られていないのだろう。
 わたしも何体か切ったけれど、豆腐を箸で切り分けるが如く、実にあっさりと刃が通る。これではまだ舞の魔物たちのほうが手ごたえがある。
「罠、でしょうか」
 ポツリと呟いたたまものその言葉に、わたしと舞の足が止まる。霊樹自体に知性は無くても、それによって現出した異界の住人たちにはそれがあるかもしれないということか。
「狩猟本能だけで動く肉食獣にも、群れの一部が囮となって獲物を引き付けるものがいます。そう、例えば、こんなふうに……」
 そう言って、たまもは、振り向き様に球状に圧縮した霊気を投げる。放たれた霊気球は、気配を殺してこちらの背後に忍び寄っていた魔物の一体を捕らえて爆砕した。
「舞歌、囲まれてる!」
 正面から向かってきた二体を纏めて切り捨てながら、そう叫ぶ舞に、わたしは分かっていると答えて清水の霧を散布する。
「たまも!」
「心得ました!」
 叫ぶわたしに短く答え、たまもはわたしが霧を散布したあたりに向けて霊気を放出した。忽ち高濃度の霊気が大気と干渉して放電現象を起こし、霧に濡れた魔物たちの身体へと絡みつく。これによってあっさりと包囲網を崩したわたしたちは、敵が怯んでいる隙にそこから脱出した。
 追ってくる魔物たちを振り切り、大樹のあった広場へと一気に駆け抜ける。しかし、そこでわたしたちを待ち受けていたのは、更なる異界へと繋がる門だった。
「黄泉路の門……」
「何?」
「魑魅魍魎、あるいは地獄の亡者どもが巣食う異世界へと続く門です。わたしたちは、元々はこれの出現を防ぐために動いていたのですけれど……」
 空高く聳え立つ光の柱を見上げて、たまもはやれやれといったふうに溜息を漏らす。
「霊樹の核はこの向こうですか。時間もありませんし、面倒なので、門ごと破壊してしまいましょう」
「待って」
 早々に最大破壊術式を展開しようとするわたしに、舞が慌てて待ったを掛けた。
「この向こうに、魔物の気配を感じる」
「何ですって!?」
 舞の言う魔物とは、彼女の力、そして、生命そのものの具現だ。迂闊に消滅させてしまえば、舞の命に関わる。
「となると、出てくるのを待っている暇はありませんし、気は進みませんけど、こちらから門を潜って、回収しに行くしかありませんね」
「急いでください。異界の侵食が本格化する前に、終わらせないと」
「分かってます。舞、たまもと手を繋いでください。わたしが良いと言うまでは、絶対に放してはダメですよ」
 自分もたまもの手を握りながらそう言うわたしに、舞は頷いて言う通りにする。七年前、舞の力の暴走に巻き込まれたわたしは、おそらく世界の壁を越えたのだろう。
 あの時“俺”は身体を失い、どういうわけか、気がつくと“わたし”になっていた。舞も身体を失くし、残ったのは、まいちゃんの身体と、少しずつ欠けた三人の魂。
 理由を想像することは出来るけれど、結局、それを証明するものは何も無い。つまりは、何が起きるか分からないし、何が起きても不思議ではないということだ。
 今回はちゃんと開いている門を通っての移動ではあるけれど、行き先が行き先だけに、危険なことに変りはなかった。
「ここは……」
 黄泉路の門を潜った先にあったのは、わたしや舞にとっては見慣れた、けれど、何処か違和感のある光景だった。
「学校?」
 舞が周囲を見回してポツリと漏らす。そう、そこは花音高校の校舎の中だった。ただし、わたしたちが普段通っているのとは違う。同列次元上のよく似た別空間。状況としては、校舎全体が結界によって隔離されているようなものだ。
 その証拠に、わたしたち以外に人間は一人もいない。このことから、黄泉路の門というのは、ある二つの空間同士を繋げるゲートのようなものだと推察することが出来るが、そんなことは今はどうでも良かった。
 手近な教室のドアが開き、中から生徒の形をした何かがぞろぞろと廊下に出てくる。その目には一様に生気が無く、口を半開きにしてだらりと手を下げた姿は、正に地獄の亡者そのものだ。
「傀儡。……いえ、これはただの人形ですね。気配が式紙のそれに似ていますから」
 迫り来る人型の群れに対し、たまもが瞬時にその正体を看破する。
「蹴散らしましょう。この手の輩は、相手にするだけ時間の無駄です。舞、合図をしたらついて来てください。……たまも」
「了解です」
 わたしの言葉に、たまもが頷いて霊気を解放し、人型の一団を吹き飛ばす。その余波で、廊下の壁の一部が崩れたけれど、わたしたちの学校ではないので、気にすることもないだろう。
「舞、行きますよ」
「……分かった」
 圧倒的なたまもの霊圧に、唖然とする舞の手を引いて駆け出す。人型たちを蹴散らしたたまもも、すぐにその後に続き、わたしたちは校内のある場所を目指して走った。
「神威、爆砕光弾波!」
 走りながら振り抜いた退魔剣から無数の光弾が飛び出し、行く手を塞ぐ人型の群れへと散弾の如く降り注ぐ。剣を媒体に増幅した霊気を放つのは、神咲の技では最も基本とされるものだけど、相手が負の思念の塊だけに、その効果は絶大だ。
「……川澄流、三日月!」
 舞が川澄流抜刀術に“力”を乗せて放ち、斬撃の軌道に沿って放たれた衝撃波が人型を三体纏めて薙ぎ払う。
「やはり、簡単には辿り着かせてくれませんね。いっそのこと、この建物ごと吹き飛ばしますか?」
 追ってきた人型数十体を、貫通力に優れた集束霊波砲で一掃しつつ、たまもが物騒な提案をしてくる。確かにそうすることが出来れば手っ取り早くて良いのだけれど、そうすると、ここにいる舞の魔物まで巻き添えにしてしまう。
「それも良いですけど、先に舞の力を回収してからです。舞、どっちですか?」
「こっち」
 たまもにそう答えながら、わたしは舞に進むべき道を尋ねる。気配が混濁していて広範囲の察知が役に立たない今、彼女とその力との繋がりだけが頼りだった。
「待ってください!」
 階段を上がって、そのまま廊下へと飛び出そうとした舞の襟首を掴んで引き戻す。軽く首を絞められたようになって舞が呻き声を漏らすけれど、そのすぐ目の前を一筋の閃光が通り抜けたのを見て、彼女はわたしへの抗議の言葉を飲み込んだ。
「ふぅ、危なかったです。今みたいな待ち伏せとかもあり得るので、角を曲がる際には慎重に」
 掴んでいた服を放してそう言うわたしに、舞は神妙な面持ちでこくりと頷く。
「下の階のものは、上には上がってこられないようですね」
「でも、上野階のは、下にも降りられるみたいですよ」
 階段の下でうろうろしている人型を見てそう言うたまもに、わたしは角を曲がって現われた一体の人型を切り捨てながら答える。それに、二年女子の姿をしたそれは、下の階で倒したものよりも幾らか手ごたえがあった。
「休ませてはくれないということですか。しかし、現代の学校というのは、やたらと広いものなのですね」
 今しがた通ってきた廊下の長さを顧みて、たまもが呆れたように溜息を漏らす。同感だ。いや、生徒数の多さから考えるとそうでもないのだけれど、こうしてダンジョンとして攻略する分には広すぎる。
「まあ、ここまで来れば、後は階段を上るだけですし、頑張りましょう」
   * * *
 降りてくる人型を倒しつつ、二階から三階へ。こちらの攻撃に反応して腕を伸ばしてきた女子の制服のリボンの色は、よく見ると三年生を表わすものだった。
「上に上がる程、敵も強くなる。まるで、ロールプレイングのダンジョンみたいですね」
「本当にそうだったら洒落になりませんよ」
 行く手を塞ぐように、横一列に並んだ男子三人を、霊気の圧力で吹き飛ばしながら軽口を叩くたまもに、わたしは上から降ってきた口裂け女のような女子を階下に蹴落としながら答える。というか、たまもはどうして、ロールプレイングなんて知っているのだろう。
「……はぁっ!」
 階段を駆け上がりながら、すれ違い様に一閃。舞の剣を受けた人型は、上半身と下半身がお別れして、そのまま階下へと転がり落ちていった。
 相手が雑念の集合体だけに、それを切り捨てる彼女の太刀には容赦も躊躇も無い。気の流れを視ることを覚えた舞には、それらの姿がただの黒い靄に見えているのだろう。
 だが、そんな舞の進撃も長くは続かなかった。
「……祐一」
 四階へと上がったわたしたちを待ち受けていたのは、抜き身の日本刀を手にした制服姿の祐一だった。それもこれまでのような模倣人形では無く、正真正銘本物の相沢祐一だ。
「よお、舞。それに、舞歌さんと、そっちの金髪美人は、たまもさんだったかな」
「こんなところで何をしているんですか?」
 普段通りの調子で話し掛けてきた祐一に、わたしは目を細めてそう尋ねる。呪的な気配を感じないので、傀儡にされているということはなさそうだけど、全く平常かと言えばそうでもない。そう、これは、まるで……。
「あなたを待っていたんですよ。ちょっと話したいことがありまして。舞、それに、たまもさんも悪いんだけど、少し外してもらえないかな」
 日本刀の切っ先でとんとんと床を叩きながらそう言う祐一に、舞が戸惑った表情でわたしへと振り返る。何かが可笑しい。舞もおそらく気づいたのだろう。
「舞、先に行ってください。たまもは舞の護衛を」
「舞歌……」
「心得ました。舞さん、行きましょう。今は一刻も早く、あなたの半身を回収して、事態を終結させるのです」
「……分かった。舞歌、気をつけて」
「ええ、あなたたちも」
 言って駆け出す舞とたまもを見送って、わたしは改めて祐一と対峙する。彼の身体に漲る気は、霊樹のそれと似たところがあるが、憑依されたというわけでもないので、これは祐一本来のものだろう。
「追わないんですね」
「言ったでしょう。俺が用があるのは、あなたですから」
 意外そうにそう言うわたしに、彼は軽く肩を竦めて答える。
「お話を聞かせてもらいましょうか」
「その前に、一つ確かめさせてくれ」
「……何をですか?」
 祐一の口調が親しい同輩に対するものに変ったのを受けて、わたしも僅かに緊張を和らげる。しかし、次に彼の口から出た言葉を聞いた瞬間、わたしは一瞬にして硬直してしまった。
「舞歌さん。あなたは、俺なのか?」
   * * * つづく * * *



事態を収束させようとする舞歌たちの前に現れたのは!?
美姫 「まさかまさかの祐一ね」
しかも、操られたりはしていないみたいだし。
美姫 「更には驚きの言葉まで」
うぅぅ、続きがとっても気になります。
美姫 「一体、何がどうなるの!?」
次回も待っています!
美姫 「待ってますね〜」



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