『決闘少女リリカルなのは』
さて、準決勝である。既に第1試合を戦うなのはとフェイトは共にデュエルリングへと上がり、所定の位置にて審判による開始の合図を待っている状態だ。
一回戦はもちろん、ポイント制だったサバイバルイレブンでも無敗を誇った二人だけに、誰もが激しいデュエルを期待して胸を膨らませていることだろう。
ちなみに、ここからは一試合丸ごとテレビ中継され、スタジオにも解説役のゲストが入ることになる。呼ばれたのは地元在住の元プロデュエリストだとか。
「では、これより全日本アマチュアデュエリスト選手権、東海地区予選、準決勝第1試合を執り行います。両者、前へ!」
審判の指示を受けてリング中央へと歩み出る二人。偶然の出会いから昼食を共にしたなのはとフェイトだったが、こうして決闘の舞台に上がったからには最早多くを語る必要はなかった。
武道家は拳で己を語るという。ならば、決闘者(デュエリスト)である自分たちは、デッキとそれを駆使した戦術で以って自分というものを示せば良い。基より決闘とはそういうものだ。
互いに全力を尽くす。一つ頷き合うと、なのはとフェイトは開始の合図を待って同時にデッキへと手を伸ばした。
なのは LP:4000
フェイト LP:4000
デュエルディスクのオートシャッフル機能によってデッキが混ぜられ、続いて先攻後攻を決める判定が行われる。
「……っと、先攻はわたしだね。ドロー!」
デュエルディスクのランプが灯るのを受けてそう言うと、早速デッキトップへと手を伸ばすなのは。まずは最初の1枚。引いたカードを確認し、手札に加えると、なのはは別の1枚へと手を掛けた。
「わたしは、《J(ジュエリィ)・スタック・ガーネット》を召喚」
なのはが初手に選んだのは、優秀なドロー効果を持つガーネットの魔術師だった。どのような形でフィールドを離れようとも必ず1枚ドロー出来る。ただ、その攻撃力は一般的なリクルーターと同等の1400と少々心許ないが。
「更にカードを3枚伏せて、ターンエンド!」
なのは LP:4000
手札:2枚
モンスター:J・スタック・ガーネット
魔法・罠:伏せ3
「始まったね」
リングに立つ妹の姿を見て、美由希が誰にともなくそう呟く。普段は大人しいなのはが一人前に気迫を纏って試合に臨む様は、剣を握った時の自分たちに通じるものがあり、美由希は内心複雑な思いだった。
「ああ、なのはの奴、最初からあんなに手札を切って大丈夫なんだろうな」
そんな美由希に頷きつつ懸念を口にする恭也。今日の大会をここまで危なげなく勝ち進んできたなのはだが、そのプレイスタイルには一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
シンクロ主体のデッキ全般に言えることではあるのだが、性質上どうしても手札消費が激しくなりがちだ。勝負を決める局面でならまだしも、序盤からそんなシンクロ召喚を多用していては、すぐに手札が尽きて身動きが取れなくなってしまうのではないだろうか。
昼休憩の時にもなのはは咲耶からその点を指摘されており、そんな会話を何とはなしに聞いていた彼は、それを聞き入れた様子の見えない末妹の姿に思わず眉を顰めていた。
一方、デュエリストとしてのなのはをよく知る彼女の親友二人はまた違った感想を持ったようだ。
「なのはちゃん、わたしとの時に比べて大分大人しい出だしだよね。手札も2枚残してるし」
そう評するのは、すずか。初手にモンスターが少なかったのか、珍しく最初から大量展開しない親友の動きに首を傾げている。
「そうでもないわよ。先攻1ターン目から3枚伏せってことは、狙いはたぶんカウンターシンクロだろうし、手札に盾があるならフェイトはまともにダメージを通せないだろうから」
対するアリサはやや呆れた調子でそう言って、なのはの狙いを予想して見せる。大量展開からの即行シンクロという派手さに隠れて目立たないが、彼女の守りは相当堅牢だ。
守備表示モンスターを問答無用で破壊するレッド・デーモンズを従えるアリサには関係ないが、正面突破しようと思えばそれなりの手札消費を強いられることになるだろう。
そうでなくても、いきなり3枚ものカードを伏せられれば普通は何かあると考えてしまうもので、実際にやられたフェイトも困惑気味に表情を揺らしていた。
とはいえ、エンド宣言をされたからにはこちらも自分のターンを始めないといけないだろう。なのはがどんな手を打ち、それに自分がどう対処するか考えるにしても、まずは最初の1枚を引いてからだ。
「わたしのターン、ドロー」
引いたカードを手札に加えて考える。さて、第一試合のリプレイ動画やなのは自身の話を見聞きするに、彼女のデッキは魔法使い族の種族統一型で間違いないだろう。
ただし、使われているモンスターはどれもフェイトの知らないものばかりだった。いわく、この四月に発売される新パックから新規収録されるシリーズで、そのデザインは咲耶が担当したのだとか。
なのはのは、発売前のオンライン限定イベントで優勝した折に賞品として授与された二つの構築済み(ストラクチャー)デッキに既存のカードを組み合わせたものとのことだった。
となれば、セオリーからセットカードを予測するのは難しいだろうか。
場のモンスターは一回戦でも使っていたドロー効果持ちの魔術師だ。その効果の発動はフィールドから離れた時。つまり、どんな方法でも除去すれば1枚ドローできるのだ。
直接攻撃を受けた時に手札か墓地から特殊召喚できる《J・シールド・ダイヤモンド》のことも考えると、自分から除去して積極的にそういう状況を作ろうとするかもしれない。何せ、彼の盾の守備力は2600もある。
生半可な攻撃力では突破できないため、こちらが切り札を出したところを除去しようと考えている。あるいはもっと単純に、強力な全体除去の魔法カードを序盤に使わせてしまうのが狙いか。
いや、とフェイトは軽く頭を振った。少ない情報で可能性を上げてもきりがない以上、ここは思い切って動いてみよう。少なくても、それに対する相手の反応を見れば、狙いの幾らかは分かるはずだ。
意を決すると、フェイトは手札から1枚のカードを抜き取り、デュエルディスクに差し込んだ。
「わたしは手札から《久遠の魔術師ミラ》を召喚。このカードが召喚に成功した時、相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して確認する。わたしはこの効果で、なのはから見て一番右側のセットカードを確認する」
フェイトがモンスターを召喚すると同時にフィールドにエフェクトが走り、選択されたなのはのセットカードが翻される。
久遠の魔術師ミラにはこのように召喚に成功した時、相手の場のセットカード1枚を選択して確認することが出来る効果が備わっている。ただそれだけなら大したことはないが、注目すべきは相手はこの効果に対して魔法・罠カードを発動することは出来ないという点だろう。
おかげで《激流葬》や《奈落の落とし穴》に除去されることなく攻撃力1800のアタッカーを召喚することが出来る。確認効果のほうはついでのようになってしまうが、少しでも情報アドヴァンテージを得たい今回のようなケースでは有用だった。
そうして明らかにされたのは、魔法使い族の攻撃宣言時に発動可能な通常罠カード、マジシャンズ・サークルだった。
確認したセットカードの正体に、少女の表情に困惑の色が浮かぶ。マジシャンズ・サークルは、発動するとお互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族を攻撃表示で特殊召喚するカードだ。
そう、お互いに、である。なのはもフェイトのデュエルを見ていたのなら、それが敵に塩を送ることになるのは百も承知のはずだ。にも関わらず、わざわざこれを伏せていたということは……。
「手札から即効魔法《サイクロン》を発動。今確認したマジシャンズ・サークルを破壊する」
フェイトが掲げた1枚のカードから小さな竜巻が発生し、セットし直されたばかりのマジシャンズ・サークルのカードを吹き飛ばそうと迫る。
相手にも召喚を許した上でアドヴァンテージを稼ぐことを考えるなら、なのはの場にある残り2枚の伏せカードのうちの1枚は召喚か攻撃宣言に反応する除去系トラップの可能性が高い。久遠の魔術師ミラの効果の発動に対して相手が魔法・罠を発動することは出来ないが、効果処理の終わった後、例えばバトルフェイズ中であればどちらも問題なく発動可能だ。
前者なら、先にも挙げた《奈落の落とし穴》や《激流葬》、後者は《炸裂装甲》か《聖なるバリア‐ミラーフォース》辺りだろうか。
特に激流葬で自分のスタック・ガーネットを巻き込んで破壊すれば、その効果と合わせてなのはは手札補充と墓地肥やしを同時に行えることになる。
いずれにしてもコンボの基点となるのはマジシャンズ・サークルである以上、まずはそれを破壊する。最後の1枚に妨害されるかもしれないが、それならそれで、発動のために何らかのコストを支払わせればこちらの損にはならないはずだった。
「そう来るんだ。でも、させないの。トラップ発動、《マジック・ジャマー》。手札を1枚捨てて、サイクロンの発動を無効にする。そして、このカードが手札から墓地に捨てられた時、表側攻撃表示で特殊召喚できる。チューナーモンスター《ピジョンブラッドの精霊》を特殊召喚!」
セットカードに迫るサイクロンの竜巻に対し、なのははすぐさま別の1枚を翻すと手札を捨ててその効果を発動させた。
発動したジャマーの効果でサイクロンが掻き消される。
更に追い討ちとばかりに彼女の墓地からフィールドへと赤い光が走り、新たなモンスターがその姿を現した。
「チューナー。でも、次のターンまで残さなければ。わたしは続けて手札から即効魔法《ディメンション・マジック》を発動。久遠の魔術師ミラをリリースして、手札の《混沌の黒魔術師》を攻撃表示で特殊召喚。その後、ピジョンブラッドの精霊を破壊する」
だが、フェイトも然るもの。読み違えたと判断するや、すぐさま新たな手札を切ってみせる。しかも、それらは彼女の切り札級の2枚だ。
久遠の魔術師が次元の渦へと飛び込み、代わりに降り立つ混沌の力を操る黒き魔術師。
その際、異次元より漏れ出た破壊が、なのはの場に現れたばかりの小さな妖精に襲い掛かる。
「させない。わたしはその効果にチェーンして発動。通常罠《緊急同調》。この効果でスタック・ガーネットとピジョンブラッドの精霊を墓地に送って、エクストラデッキからシンクロモンスター1体を特殊召喚する。行くよ!」
なのはの宣言で彼女の場の2体のモンスターが光に包まれる。片方が星に、もう片方が光の輪と成り、星が輪の中を通り抜ける特有の演出だ。
「天空(そら)と大地が交わりし時、地上の星が煌き出す。その煌きを以って幻惑せよ。シンクロ召喚、《魅惑の妖精ローズクォーツ》!」
4 + 4 → 8
光が晴れた時、そこに立っていたのは一回戦でもその姿を見せた幻惑の力を操る魔導師だった。
「スタック・ガーネットの効果で1枚ドローする。そして、ローズクォーツの効果。このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。エンドフェイズまで選択したモンスターの効果を無効にしてコントロールを得る。わたしはこの効果でフェイトちゃんの場の混沌の黒魔術師の効果を無効にしてコントロールを得るよ」
妖しい光がローズクォーツから放たれ、それをまともに見てしまった混沌の黒魔術師は頭を押さえながらもふらふらとフェイトの場から離れていった。
「わたしの手札にこれ以上召喚できるモンスターはいない。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
なのは LP:4000
手札:2枚
場:魅惑の妖精ローズクォーツ
魔法・罠:伏せ1(マジシャンズ・サークル)
フェイト LP:4000
手札:1枚
場:混沌の黒魔術師
魔法・罠:伏せ1
互いに1ターン目を終えたところで、状況は手札の枚数差でなのはのほうが若干有利といったところだろうか。次のターンのドローと合わせて3枚。
対するフェイトは1枚のみ。モンスターの攻撃力でこそ勝っているものの、そんなものは手札1枚であっさり覆される程度のアドヴァンテージでしかなかった。
「わたしのターン。手札から《シンクロ・キャンセル》を発動。ローズクォーツをエクストラデッキに戻して、墓地のスタック・ガーネットとピジョンブラッドの精霊を攻撃表示で特殊召喚する」
なのはが発動したのは、シンクロデッキのキーカード。効果により、場のシンクロモンスター1体をエクストラデッキに戻し、その後自分の墓地にそのシンクロモンスターのシンクロ召喚のために墓地に送った素材1組が揃っていれば、それらを自分の場に特殊召喚することができる。
その後は再度同じモンスターをシンクロ召喚して効果を使うもよし、状況に適した同じレベルの別のシンクロモンスターを呼び出すもよし。
素材を足せるなら更に上のレベルのシンクロモンスターを出すことも可能だし、そのために非チューナーをリリースして上級モンスターをアドヴァンス召喚しても良いだろう。
そんな多彩な展開を可能とする1枚だが、当然弱点もある。それは例えば発動そのものを無効にされたり、あるいは召喚した素材を使う前に潰されたりといった具合にである。
特に後者はフリーチェーンの単体除去1枚で可能なため、割とあっさり対応されてしまったりするのだった。そう、例えばこんなふうに……。
「そう来た。なら、その流れを断ち切らせてもらう。リバースカードオープン、通常罠《サンダーブレイク》。手札を1枚捨てて、ピジョンブラッドの精霊を破壊する」
再びなのはの場に現れた紅玉の妖精を指差して、そう宣言したフェイトの指先から一条の稲妻が迸り、ピジョンブラッドの精霊を墓地へと送り返そうとする。
「そうはさせないの。わたしはその効果にチェーンして、手札から即効魔法《マジシャンズ・トレード》を発動。自分の場の魔法使い族1体を手札に戻し、その後手札からレベル4以下の魔法使い族1体を特殊召喚する。わたしはこの効果でピジョンブラッドの精霊を戻して、再び特殊召喚する」
「避けられた!?」
「これくらいはね。そして、もう一回レベル4の《J・スタック・ガーネット》にレベル4の《ピジョンブラッドの精霊》をチューニング。再び幻惑の力を示せ。シンクロ召喚、魅惑の妖精ローズクォーツ」
留まらない。動き出したなのはのタクティクスは最早一つの流れとなってフェイトを押し流さんと迫ってくる。彼女にそれを阻む術はなく、ただただ正面から受け止めるより他はなかった。
「スタック・ガーネットの効果で1枚ドロー。続いてローズクォーツの効果、シンクロ召喚に成功した時、相手の場のモンスター1体を選択してエンドフェイズまで効果を無効に、コントロールを得る。混沌の黒魔術師を選択するよ」
「うっ、だ、だけど、わたしの墓地にはさっきのサンダーブレイクのコストで捨てた《ネクロ・ガードナー》がある。そう簡単には……」
「行くよ、魅惑の妖精ローズクォーツと混沌の黒魔術師でフェイトちゃんにダイレクトアタック!」
「わたしは墓地のネクロ・ガードナーをゲームから除外して、混沌の黒魔術師の攻撃を無効にする」
「やっぱりそうするよね。でも、ローズクォーツの攻撃は通るの。幻想光(イリュージョン・レイ)!」
魔導師の手に黒魔術師を惑わせた光が収束し、放たれた一条の光線がフェイトの胸を貫いた。
ダメージ体感システムによるフィードバックを受けて、僅かに身体をよろめかせるフェイト。だが、なのはの場にこれ以上攻撃できるモンスターはいない。
マジシャンズ・サークルを使わなかったのは不思議だが、これで次のターン、混沌の黒魔術師が戻ってくれば反撃できるはず。そう思っていた時がフェイトにもあった。
「バトルフェイズはこれで終了。でも、わたしはまだこのターン、通常召喚をしてないの」
混沌の黒魔術師は返さない。案にそう言われ、フェイトはハッとした。
「見せてあげる、これがわたしのエース。メインフェイズ2に移行して、場の2体のモンスターをリリース。手札から《宝石姫ジュエリア》をアドヴァンス召喚!」
なのはの場からモンスターが消え、代わりに純白のドレスを纏い、銀のティアラを冠した少女が姿を現す。外見こそはなのはやフェイトとそう変わらないように見えるが、その身に宿した力は宝石魔術師たちを束ねるに相応しいものだった。
「それが、なのはのデッキの切り札なんだ」
小さな体躯から立ち昇る魔力的威圧感に、フェイトは思わず息を呑む。後攻1ターン目から混沌の黒魔術師を出したフェイトに応じるように召喚されたそのモンスターの攻撃力は、レベル8の最上級モンスターに相応しい2800だ。
「効果が無効になってる混沌の黒魔術師は場を離れても除外されず、墓地に行く。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
なのは LP:4000
手札:0枚
場:宝石姫ジュエリア
魔法・罠:伏せ2(うち1枚はマジシャンズ・サークル)
フェイト LP:4000 → 1700
手札:0枚
場:モンスターなし
魔法・罠:なし
最初のターンは失敗だった。チューナーを狙うなら効果破壊ではなく、混沌の黒魔術師で攻撃して戦闘破壊するべきだったのだ。
そうすれば破壊されたモンスターは混沌の黒魔術師の効果で除外されるし、その前に同じく混沌の黒魔術師の効果で墓地のサイクロンを回収して緊急同調を破壊できていれば完璧だった。
そう思ってみたところで過ぎ去ったターンが戻るわけもなく、フェイトに出来るのは早々に自分を追い詰めて見せたこの新しい友達のタクティクスを素直に賞賛するくらいのものだった。
相手ターンでのシンクロからコントロール奪取へと繋げての防御の手並みは見事だった。その際にこちらの切り札を奪うことで、心理的揺さぶりまで掛けてきたと考えるのは深読みが過ぎるだろうか。
そして、返しのターン。再び奪った混沌の黒魔術師を加えての直接攻撃。その後の処理も合わせてほとんど隙のないプレイングは、フェイトの脳裏に敗北の二文字をちらつかせた。
なのはは強い。フェイトがこれまでに戦った同年代の中でも間違いなく最強クラスだろう。だが、それで闘志が萎えるようなら、彼女もこんな大きな大会に出ようなどとは考えなかった。
ともすればこのドローで最後。そんな状況でありながら、少女の瞳に宿った光は衰えるどころか増してさえいる。諦めない。その思いが奇跡さえも起こすのだ。
「わたしの、ターン!」
小さくも力強い声。
――わたしだって負けるわけにはいかないんだ。母さん、それに、……やアルフも見てくれてる。だから、お願い……。
思いは強く、ただただ真っ直ぐに渇望する。そんな少女の心からの願いに、彼女の半身たるデッキが応えないはずがなかった。
「手札から《壺の中の魔術書》を発動。このカードはお互いの手札が2枚以下の時のみ発動できる。お互いに手札が3枚になるまでデッキからカードをドローする」
「ここでそんなカードを引くんだ」
「まだ。わたしは続けて手札から《埋葬呪文の宝札》を発動。墓地のサイクロン、ディメンション・マジック、壺の中の魔術書をゲームから除外して2枚ドロー!」
怒涛の連続ドローに巻き起こる歓声。フェイト自身も若干の戸惑いを見せながら、それでも手を止めることはしなかった。
「《トレード・イン》を発動。手札のレベル8モンスター、《雷神皇ボルティオス》を捨てて2枚ドロー!」
これで手札は4枚。その中に死者蘇生があるのを見て、フェイトは攻めるのを決めた。
「その様子だと、大分良いカードを引けたみたいだね」
苦笑しながらそう言ってくるなのはに、フェイトも苦笑いで返すしかない。さすがに通常のドローに加えて7枚もドローしていれば、そういう反応にもなるというものだ。
「行きます。わたしは手札から《死者蘇生》を発動。墓地の混沌の黒魔術師を攻撃表示で特殊召喚する」
フェイトの掲げた手札から蘇生の光が墓地へと降り注ぎ、再び混沌の力を操る最上級魔術師が彼女のフィールドに降り立つ。だが、まだこれで終わりではなかった。
「混沌の黒魔術師の効果。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、墓地の魔法カード1枚を手札に加えることができる。わたしは死者蘇生を手札に加えてもう一度発動、墓地の雷神皇ボルティオスを攻撃表示で特殊召喚!」
そうして混沌の黒魔術師の隣に並び立つは、金色の王冠を頭上に頂く白き法衣の魔導王。背後に稲妻を従える威風は正しく王のそれだ。
「すごい、すごいのフェイトちゃん。場にも手札にも何もなかったのに、そこから一気にここまで持ってくるなんて!」
「ありがとう。でも、まだこれだけじゃないんだ。わたしは手札の魔法カード《大嵐》を発動。フィールド上の魔法・罠カードをすべて破壊する」
フェイトが発動させたのは全体除去の定番。自分の魔法・罠カードも巻き込んでしまうが、何枚も一度に伏せるような相手の戦術を崩すには打ってつけの1枚だ。
「なら、わたしはそれにチェーンして、トラップ発動。通常罠、《スターライト・ロード》! 自分の場のカードが2枚以上破壊される場合、その効果を無効にして破壊。その後、スターダスト・ドラゴン1体を自分のエクストラデッキから特殊召喚できる」
フィールドに吹き荒れる嵐の中、立ち昇る閃光の中から姿を現す一体のドラゴン。星屑の煌きを思わせるその竜は、デュエルモンスターズに新たな時代の到来を告げたシンクロモンスターの代表格としてあまりに有名だった。
「スターダスト。あ、そうか。星繋がりなんだ」
「うん。単純にセットカードを守れるからでもあるんだけど。後、一族の結束を邪魔しにくいのもあるかな」
なのはの説明に、フェイトもなるほどと頷いてみせる。
スターダストには自身をリリースすることで破壊効果を無効にする効果が備わっているのだが、この効果でリリースしたこのカードはエンドフェイズに戻ってくるため、一族の結束の効果を阻害せずに済むのだ。
それにしても、そこまでして守り続けるマジシャンズ・サークルをなのはは一体どう使うつもりなのだろうか。
「バトルフェイズに移行して、まずは混沌の黒魔術師でスターダスト・ドラゴンに攻撃」
「その攻撃宣言時にリバースカードオープン、通常《マジシャンズ・サークル》!」
フェイトの攻撃宣言に合わせ、なのはが最後のセットカードを翻す。
「効果の説明はいらないよね。わたしはデッキから《JS(ジュエリィズド・シュバリエ)・旋風のプレアデス》を攻撃表示で特殊召喚する」
そして、降り立つ新たなモンスター。銀河の星を思わせる白銀の甲冑に、紺碧のマントを羽織ったその姿は、魔術師というよりも寧ろ騎士に近いものがあった。
「わたしは《雷神官ウィルナ》を攻撃表示で特殊召喚!」
対するフェイトの場には、一回戦でも召喚された光属性の女性神官が。互いに召喚成功時の誘発効果はなく、なのはの場にモンスターが増えたことでバトルステップが巻き戻される。
「改めて混沌の黒魔術師でスターダストに攻撃!」
「そうはさせないの。その攻撃にチェーンして、JS・旋風のプレアデスの効果発動。このカードの攻撃力を600ポイント単位で下げることで、600ポイントにつき1枚、フィールド上のカードを持ち主の手札に戻す。この効果は相手ターンにも使用できるの」
「バウンス効果!?」
「わたしはプレアデスの攻撃力を1200ポイント下げて、混沌の黒魔術師と雷神皇ボルティオスをフェイトちゃんの手札に戻すの」
「甘いよ。わたしはその効果にチェーンして、手札から即効魔法《禁じられた聖杯》を発動。プレアデスの攻撃力を400ポイントアップし、その効果をエンドフェイズまで無効にする」
旋風の二つ名に相応しい速さでプレアデスが腰のレイティアを抜き放てば、フェイトの場に出現した聖杯からあふれた光がその勢いを封じ込める。
その脇を抜けるように、黒魔術師から放たれた混沌の魔力波動が翼を畳んで守りを固める星屑竜の身体を貫いた。
「続けて雷神皇ボルティオスで宝石姫ジュエリアを攻撃。サンダー・スマッシャー!」
「相打ち狙い。でも、読み違えたね。宝石姫ジュエリアの効果。このカードは自分の場にジュエリィと名の付いたモンスターが存在する限り、戦闘では破壊されないの」
「構わない。最後に雷神官ウィルナでJS・旋風のプレアデスに攻撃。フォトンランサー・マルチショット!」
雷神皇が掲げた右手を振り下ろすと、その手の平から電撃を纏った巨大な光の本流が放たれ、宝石の姫君を飲み込まんと迫る。
だが、従者に守られたらしい姫は健在。逆に同じだけの力で雷神の王を返り討ちにしてみせた。
尤もその代償として、従者同士の打ち合いではフェイト側に軍配が上がったようではあったが。
「雷神官ウィルナの効果、このカードが戦闘で相手にダメージを与えた時、デッキからレベル7以上の戦士族、または魔法使い族モンスター1体を手札に加えることができる。わたしはレベル8の戦士族、《ギルフォード・ザ・ライトニング》を手札に。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
なのは LP:4000 → 2800
手札:3枚
場:宝石姫ジュエリア
魔法・罠:なし
フェイト LP:1700
手札:1枚
場:混沌の黒魔術師 ・ 雷神官ウィルナ
魔法・罠:伏せ1
・JS・旋風のプレアデス
ATK:1400 → 200 → 600
* * * 登場オリカ設定 * * *
・マジシャンズトレード 即効魔法
効果 :
自分フィールド上に表側表示で存在する魔法使い族モンスター1体を手札に戻し、手札からレベル4以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
(yun様提供)
・宝石姫ジュエリア
効果モンスター
星8/闇属性/魔法使い族/ATK:2800/DEF:2600
効果 : このカードは、自分フィールド上に「ジュエリィ」と名の付いたモンスターが表側攻撃表示で存在する限り、戦闘では破壊されない。
・
・JS(ジュエリィズド・シュバリエ)・旋風のプレアデス
効果モンスター
星5/風属性/魔法使い族/ATK:1400/DEF:1000
効果 : 1ターンに1度、このカードの攻撃力を600ポイント単位で下げることで、600ポイントにつき1枚、フィールド上に存在するカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの攻撃力が他のカードの効果によって元々の数値を上回った場合、このカードを破壊する。
* * * * * *
フェイト、ピンチから反撃。
美姫 「良いデュエルよね」
だな。まだ決着はつかず、次回に持ち越しとなってしまっているけれど。
美姫 「うーん、LPではなのはの方が有利だけれど」
罠など場のカードはフェイトの方だしな。
美姫 「どっちが勝つのかはまだ分からないわね」
どんな決着になるのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」