『乃木坂春香と高町恭也の秘密』










第一話 その2














 いつもの日常が戻ってくるのだと考えたい
 日常的には、平穏無事に過ぎていく……というより、平穏無事に過ぎていった
 ただ、少し変わったと言えば、乃木坂さんを見かけるたびに見てしまうことか

「お、高町にも気になる……」

 赤星が一度だけ、優しい声音で言ってくれた
 『辞めておけ』と……元からそう言うつもりは無いのだがと言ったところで
 赤星は聞く耳をもたず、そのまましゃべりつづけた
 何でも剣道部でもアタックした人も居るらしい
 約100名近くが告白玉砕しているとのこと……撃墜確立100%だとか
 何でそんなことまで知ってるのかいまいち分からないが
 まぁ、そんなこんなでことは平穏無事に何事もなく終わりを見せていた
 事件は、あの図書室大掃除しなくちゃ再開できませんよからきっちり2週間後の朝に起きた
 校門前でしている持ち物検査だ……そして、その少し手前
 一区画手前で固まっている乃木坂さん

「どうかしたのか?」
「え?」
「おはよう」
「あ、おはようございます」

 後ろを振り向いて挨拶だけは返す
 先を見る……先生方がチェックを慌しくしている
 事前告知の無い抜き打ちチェック……全て出されて、駄目な物、者を全て生徒指導ということで
 体育館に入れるのだ……携帯は良いらしい
 昨今の事情からとか話してた気がするが、覚えてない
 乃木坂さんが悩むのは間違いないだろうけど、本のことだろう

「乃木坂さん、そういえば、この前間違えて渡したままだった本持ってるか?」
「え? え?」

 小声で更に付け足した

「あなたが持ってる本を渡してください、隠しますので」
「あ、はい」

 そして、本を受取り、そのまま俺はカバンに放り込む

「すみません……拾って頂いてたんですね
 図書室で一緒でしたし、持っていてくださると勝手に勘違いしてました」
「いえ、こちらこそあの時はお世話になりました」

 お互いにお辞儀をして、そのまま校門に……

「高町〜、なんだこれは〜!」

 そういって、怒って取り出すのは、単なるリール(鋼糸のカモフラージュ)

「釣りを好きな友達に上げようと持ってきたのですけど……駄目ですか?」
「ああ、いかんね……これは没収だ……ま、他は良いだろう」

 大事の前の小事ってことだな……ま、こちらのほうが危ないし
 服装チェックとかボディチェックされた方が危ない
 乃木坂さんも何事も無く到着できたみたいだ
 俺はそのまま乃木坂さんのカバンにメモを放り込んだので、その時に返せば良いだろう

「ふぅ」

 流石に疲れる……というより、何で俺はフォローなんてしたんだ? わからん






 5時間目と6時間目の間……授業はまだあるものの空いてる時間とか考えてこの時間しかなかった
 本来なら違う時に渡せばいいのだけど、屋上も他の場所も人が多くなるので却下だった
 そして、人の目を気にせず会える場が、この時間のこういう穴場なのだ

「はい、これ」
「すみません」
「いえ……」

 時間が短いのだが、これで良いだろう……疲れた〜
 まぁ、カバンの中を見た時に変なものが見えたが気にしたら駄目なのだろう

「あの、高町先輩ありがとうございます、助けていただいて」
「……別にお礼を言われるようなことをしてないから」
「いえ、そんなこと無いです……それに、高町先輩って優しいですよね?」
「そんなことは無い」

 少し照れてぶっきらぼうに返してしまう

「もうすぐ6時間目が始まる……戻ろうか?」
「あの、メモ大切にしますね……携帯の番号も書かれていたわけですし」
「まぁ、用事とかで時間をずらすならそれしかないだろう」
「本当にありがとうございます」

 頭をペこりと下げて歩いていく
 まぁ、元気というかなんと言うか……周りに居なかったタイプの人だよな
 そんなことを思いながら教室に戻ると、移動教室だったみたいで誰も居なかった
 次なんの授業だっけ?








 結局授業に遅刻したが、まぁ、問題も無く終り、夜中の鍛錬中
 携帯がなり、少し驚いてる間に美由希の不意打ちをくらいかけたところを思いっきりどついてしまった

「すまん」

 とりあえず、気絶してる美由希に謝りを入れておいたし良いだろう
 電話番号は知らない人だった
 でも、たまにあることと、近場の番号だと見て分かるので出てみることにした
 登録件数が少ないのも原因の一つだが……

「もしもし?」
『あ、もしもし、高町先輩ですか? あ、私、乃木坂です』

 思っても無い人からの電話だった……最近と言っても今まで殆ど話したこと無い人だが
 それでも、かなり気分のいい声であるのは確かだ
 ただ、今日に分かれた時は上機嫌な声だったと思うが、今は深刻そうな感じだ

『夜遅くにごめんなさい
 実は、高町先輩にお願いがあって……』

 俺にお願い?

『……突然こんなことを言うのはとても心苦しいのですけど、でも、
 でも今言わないと後で絶対に後悔すると思ったんです』

 そりゃあ、後悔は後でするものだしな……しかし、真剣な声だな
 何をそんなに深刻に悩んでるというか、困ってるんだ?

『聞いて……もらえますか?』
「ああ、構わないが」

 此処で断れるほど、俺は人間落ちぶれてないつもりだ
 本当に困ってるみたいな声だしな

『良かった……あの、高町先輩、これから私と会っていただけないでしょうか?』
「えっ……」

 声が止まってしまった……と言うより、思考が纏まらない
 乃木坂さん、いきなりに何故?

「えっと、会うって、二人でか?」
『はい』

 やっぱり謎だ……というより、二人にこんな時間に会うって……

『あの……実は、私と一緒に学園まで行ってほしいんです』
「学園ですか?」

 多分、風ヶ丘のことだろうが……何故……学校、深刻そうな乃木坂さん
 何処か引っ掛かりがあるのだけど、なんだろう?

『……本を返し忘れてしまって』

 弱弱しい声が電話口から漏れていた……美由希はいまだ失神中

『最初は……高町先輩と会った後にそのまま返しに行こうと思ったんです。
 でもなんだか一安心して気持ちが緩んでいたからつい後回しにしてしまって。
 そうしたら……そのまま忘れてしまったんです』
「……本ってまさか」

 今日、返すってことは、『イノセント・スマイル』

『…………はい』
「……」

 大正解だったようだ……それにかなりまずい……うちの学校を考えたらそうだら
 校則は緩いのだが、施設や備品の利用となると煩いのだ
 何でか分からないが……大事に扱えってことなのかもしれない
 思考がそれた……確か図書室の本の返し忘れは
 その日の朝に、放送で呼び出されたはずだ……氏名と学年、クラスと本のタイトルと呼ばれて

『……そうなんです。
 もしも呼び出されることになったりしたら私、わ、私……ぐすっ』

 不吉な未来を想定してか、半泣きという状態になってしまった

『だ、だから今から返しに行こうと思って。
 ぐすっ、で、でもこんな時間に1人で学園に行くのは……その恐くて。
 それで、誰か一緒に行ってくれるように頼もうと思って……だ、だけど』

 涙声で語る乃木坂さん……なるほど、確かにそう考えたら頼る人は限られてくるだろう
 今の所俺しか居ないのでは無いだろうか? いや、今1つ乃木坂さんの交友関係を知らないわけだし
 そんな失礼なことを考えるのも駄目か……護衛だと思えば良いだろう

『あの、ぐすっ、だから……ダ、ダメですか?
 た、高町先輩には度々迷惑をかけて、ひくっ、本当に悪いって思って、いるんですけど、でも……』

 それに、こんな殆ど泣いてる状態の乃木坂さんを放置するのも後でかあさんやティオレさんに知れ渡れば
 それこそ、俺のピンチだ……流れて欲しくない情報が流れるの決っている
 全国版で……

「直接、学校に行けばいいか?」
『ぐすっ、え……』

 驚いてる声

『行って、くださるんですか?』
「ああ、どうせやることもないし」

 何かあった気がするが……

『あ、ありがとう……ぐしゅ、ありがとうございましゅ』

 声が最後崩れてるし、相当感極まったってことだろう……1人で行くのは確かに恐いのかもしれない
 俺からしたら恐いと思えないのだが、実際は恐いらしい
 今度美由希1人で行かせるのも良いかもしれない
 特訓と称して罠をたくさん設置して……ふむ、良いかもしれない
 そんなことを考えながら、真夜中の学校へと向けて足を運ぶのだった







 泣いてる乃木坂さんはもう少ししたら来るだろう……風呂に入る時間が足りないので
 水で濡らしたタオルで体を拭いておいた……汗臭いのは流石に問題だろうし
 意外と汗の匂いは強いからな……美由希が持っていたスプレーを使って消臭はしたものの
 少し足りないかもしれない
 『美由希には未熟者、荷物を持って走って帰るように』という置手紙を残しておいた
 全く、不意打ちをかけて、切り替えされて、反撃受けて気絶とは、情けない
 もう少し厳しくするべきかな
 しかし、どうやって中に入るべきなのかな……

「高町先輩、こっちです」

 くいっと引っ張られる……気づかなかった? いや、それほどまでに思考に嵌っていたのか……
 それはそれで問題だな

「裏口からなら入れるんです」
「裏口から? なんでだ?」
「合鍵があるんです」
「合鍵?」

 なぜ、そんなものが

「ええと……父の書斎にあるものを、こっそり勝手に拝借してきたんです。
 必用になると思ったから」

 確かに必用だな……スマートというかどうやって入るかで問題なわけだし
 当直の先生に見つからず行くには、それ相応のリスクが伴ってくる
 最初の方は昏倒させて、後でって手もあったのだが……危険かもしれないし

「私もよく知らないのですが……何でも父はうちの学園に多額の出資をしているらしくて
 非常時に備えて、秘密裏に学園の全ての合鍵を作っていると言ってました」

 そっか……さすが、乃木坂ってことか……娘の通う学校だからってことか
 納得してしまう自分が恐ろしい

「? どうかしたましたか?」
「いや」

 まぁ、突っ込みどころというか言いたいことは多々あるが
 今のところやる事があるなら、先にそれをすべきだろう

「それでは行きましょう」
「ああ」

 そして、夜の学校内へと足を向け歩いていく
 裏口の扉の音は消音で回りに響かなかった……いいことか悪いことか








 つづく








 あとがき
 すみません、此処できらないともっと長くなるので
 シオン「これの二倍か三倍できる場所が無いんだよね」
 そうなんです
 ゆうひ「だから、今回は短め」
 申し訳ないです
 シオン「でも、これくらいの方が読み易いんじゃないかな」
 かもしれないけど、余り短いのもつまらないから
 ゆうひ「あんたが言うなよ」
 いや、結構色々読んでるからね
 シオン「まぁ、良いけど」
 良いのか?
 ゆうひ「でわ、また〜」
 ほなね〜(^^)ノシ 次は夜の学校探検隊か……二人だけど




美由希、折角の出番も良い所なし…。
美姫 「あははは〜」
いよいよ夜中の学校へ〜。
美姫 「ワクワクドキドキの展開が待っているのかしら?」
次回も楽しみにしてますね。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る