『乃木坂春香と高町恭也の秘密』





第五話 その2













 乃木坂家へと到着……美夏も電車で帰ることに異論は言わなかった
 といっても、俺も同じく電車でこちらに来るわけで、時間が遅くなることだけ伝えておいた

「お姉ちゃんのこと」
「ああ」

 話を聞いて、自分に何が出来るか考える
 結局のところ、何も出来ないのではないかとも思う
 俺は身一つで守る人だから……いや、破壊専門かもしれない

「おに〜さんなら大丈夫だよ、きっと」

 そういうと、美夏は俺をじっと見つめてる
 姉妹だな……こういう部分は似ている

「お姉ちゃん、なんだかんだって言いながら、おに〜さんのこと気に入ってるし」

 そうなのか? 今ひとつ理解しがたいのだが
 歩きながら乃木坂邸までつくと、今度は長い廊下やらを歩いていく
 本当にでかいな……一度だけ訪れたことのある春香の部屋を思い出す
 心配してるもう一方、葉月さんもついてきてくれた
 ありがたい……正直なところ、俺と美夏だけというのも心配所だった

「春香様、恭也様がお見舞いにいらっしゃいました」

 葉月さんがノックすると、中で少しの気配が動いた

「お姉ちゃん、おに〜さんがお土産に翠屋のケーキを買ってきてくれたの。
 お姉ちゃんも一緒に食べようよ〜」

 ガタリバタバタ、と中から何やら動揺したような音が聞こえた。
 お土産で買ってきたのは、春香が大好きと言われる部類のものらしく、俺は知らなかったのだが
 此処のメイドの誰かが買いに言ってるらしい
 三日に一度の割合で食べてるとの事だ

「……出ていらっしゃいませんね」

 葉月さんが中からの反応が消えて、もらす
 凄く心配してるのは確かだろう、美夏が腕を組んでうなっている

「う〜ん、おに〜さんとケーキのダブルコンボでだいぶ動揺はしてるみたいだから、もうちょっと
 って感じなんだけどな〜。とりあえず、ここでお茶にしよっか?
 葉月さん、用意してくれる?」
「はい」

 葉月さんはそういわれて、折りたたみ式のテーブルなどをセッティングしていく
 しかし何時見ても思うが、どこに入れてるのやら……四次元?
 手ぶらだったと思っていたら痛い目にあう人でもあるし

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 椅子を勧められて、座る……出所不明の椅子という部分が怖いが
 まぁ、変なものでないことは、美夏が座ってることから分かる

「ヌワラエリアでよろしいでしょうか?」
「何でもいいよ。わたしはお姉ちゃんみたく紅茶マニアじゃないから」

 直球だな……美夏らしいが

「構いませんよ」

 俺も頷いておく……茶葉というのは分かるが、飲んだことないし、ちょっと楽しみだ
 いつの間にか準備が進み、春香の部屋の前でお茶会が始まろうとしていた
 廊下のはずなんだが、廊下と感じさせないのはこの二人の雰囲気からか、それとも、廊下も部屋っぽいからか

「わ〜、おいしそ〜♪」
「ザッハ・トルテですね。切り分けましょうか?」
「うん、お願い〜」

 鮮やかな手つきで葉月さんがケーキを切り分けていく
 俺は食べれないといったのだが、1ホール買っていったわけだし
 『お姉ちゃんなら大丈夫♪』とうれしそうに言った美夏だけど、美夏本人も食べたいのだろう
 背後の気配が揺らぐ……カタリと音もなった

「ん?」
「!」

 振り返るとドアの影からこちらをのぞいてる春香の姿があった。俺と目が合うとあわててドアをしめた。
 ……もしかして、ケーキに釣られて顔を出したのか?

(よしよし、惹かれてる惹かれてる)

 美夏はそう小声でこちらに言う

(よろしければ、フルーツコンポートもお持ちいたしましょうか?)
(あ、いいかも。お姉ちゃん、大好物だし)
(では……)

 葉月さんはそのまま歩いていった……取りに行ったということだが

(お待たせしました。こちらがフルーツコンポートになります、季節の果物をシロップで煮て
 ラム酒を加えたものです)

 葉月さんの説明を聞きながら、独特のにおいを発するものを見る
 俺には食べれない代物だな……甘いの苦手だし
 カチャ
 ドアの開いた音、先ほどと同じように春香はこちらをドアの隙間から見ている

(ん〜、後一押しだと思うのだけど)
(それでは今度はジンジャービスケットを持ってきましょうか?)
(うん、お願い)

 天岩戸まがいのことを繰り返すのだが、春香はこちらを見ているだけで出てこない

「もう〜……粘るなあ、お姉ちゃん」

 痺れを切らした美夏

「よ〜し、こうなったら……」

 息をすうと吸い込むと

「ほら〜、出てこないんだったら、ケーキもおに〜さんもわたしがもらっちゃうよ〜。
 ね、おに〜さん」
「ちょ」

 声が小さくもれてしまったが、美夏は猫のように抱きついてきたのだ
 といっても、猫は抱きつけないので、こちらのひざ上に乗っている
 葉月さんが何も言わないあたり黙認ということなのだろうか?

「おに〜さん、ごろごろ〜」
「こ、こら」

 胸元に頬を摺り寄せるな! においがするかもしれないだろうが

「もうお姉ちゃんなんか放っておいてわたしとデートしよう、デート。
 二人だけでさ、アキハバラなんか良いよね〜」
「だから、まて」
「うにゃ〜」

 力尽くでじゃれついてきている美夏をはずすわけにもいかずあわててると
 ドタン! っと大きな音が立ち、ドアがバタンと開いた

「だ、だめですっ!」

 顔を少し赤くし必死なようすで、両腕を振り回してる春香が出てきた

「き、恭也さんはだめですっ! ほかの事ならともかく、恭也さんだけは譲れません!
 き、恭也さんは、アキハバラには私とだけ行くんですっ!」
「……」
「……」
「……わお」

 沈黙する俺と葉月さん、楽しそうな美夏の声
 いい加減に降りてくれないかなぁ

「わ、私、何言って……す、すみませんっ!」

 何を言ったのか理解したのか、春香は真っ赤になるとそのまま部屋に戻る
 ドアに鍵を閉め、さらにストッパーまでかけたみたいな音が響いた

「う〜ん、逆効果だったかなあ……」
「いえ、作戦としては良かったと思いますが……」
「そうだよね〜。う〜ん、おに〜さんの色男♪」
「……スケコマシ」

 二人に好き勝手言われてるが、元に戻ってしまった……いや、元にというより
 さらに悪化したような気がしないでもない

「……こうなったらもう、強行突破をせざる得ません。ここ三日、まともに食事を摂って
 いらっしゃらないので、春香様の身体が心配です」

 葉月さんが一歩前に出る

「でも、どうやって?」

 ストッパーを切るにはそれ相応のものが必要になる
 小刀程度では不安があるが、まぁ、壊すくらいなら可能だろうけど

「これを使用します」

 チェーンソーを構える葉月さん

「危ないですので、お二人はお下がりください」

 チェーンソーの音が廊下に響き渡る
 メイドさんがチェーンソー、不思議な光景だな

「それでは……」

 本気みたいだ
 上段に構えられたチェーンソーをよけて、葉月さんの前に立つ

「恭也様?」
「とりあえず、任せてくれないか? 今部屋から出したところで効果が無いだろう
 それに、俺は言いたいこともある……春香にとって重要な事だ」
「任せてくれって事ですか?」
「ああ」

 頷くと、チェーンソーの電源を切り、下ろす
 美夏もこちらを見ている

「……分かりました、お任せします」
「がんばってね、おに〜さん」

 二人の言葉を背に受けて、俺はドアをノックする

「春香、開けてくれないか? この前の事で話しがある。春香にとっても悪い話じゃないはずだ
 それに開けてくれないと葉月さんがチェーンソー振り回してドアを破壊するみたいなんだ
 俺も押し開けようかどうか考えてる。ドアを壊したくないし、出来るなら開けてくれないか?」

 しばし無言、だが、気配が動く
 ドアの前まで来たみたいだ

「……分かりました。入ってください」

 鍵が開いて、ストッパーも取り外された
 部屋の中に入ると、ストッパーと鍵を閉める……ほかの人に聞かれたくないだろうし
 後ろから何やら訴えるような声が聞こえるけど、春香が居る方向に目を向ける




 天蓋付きのベッドでひざを抱えて座っている春香
 傍らにはクマのぬいぐるみと、雑誌のようなものが置かれてる
 俺の姿を確認すると、春香は頬を朱に染めて目をふせた

「……あの、先ほどはすみませんでした。そ、そのおかしなことを言ってしまって……」
「いや、気にしなくても大丈夫だ」

 そのことに関しては気にしないでおこう……突っ込んでも変わらないだろう

「春香の趣味ばれてないぞ」
「え?」
「三日間休んでる間にもみ消した」
「もみ消したって!?」
「友人たちに頼んで、ばれてない」
「でもっ、それじゃあ、恭也さんは」
「もともと他人とは距離を取ってたんだ……なんていうことは無い」

 春香の目に涙が浮かぶ

「で、でも……それなら恭也さんがそういうのを趣味に持ってるって」
「ほとんど本とか持たないし分からないが、まぁ、その手の本を知ってるという噂くらい気にはしないさ」
「そんな」

 淡々と言う俺に春香は軽く肩を震わせる

「そんなのだめです……恭也さんがそんな目で見られるなんて」
「春香、大丈夫だ。俺は趣味で人を見たりしない。何より、俺にも秘密がある
 春香も知ってるだろう……やろうと思えば、ドアだって鍵を壊すだけで済ませることも出来たことを」
「あ」

 小さな声が漏れる……美夏には聞かせられない言葉
 俺は御神流の使い手だから

「中学のころの話、美夏から少しだけ聞かせてもらった。でもな、春香が友達と思っていた奴は
 たった、たったそれだけのことで離れていった奴らだ。そういう人たちとはいつか離れていってしまう
 そういうものだと思う。本当の友達なら趣味なんかで離れるなんてしない
 それに今なら、俺も一緒だ。違うか?」

 ぽろぽろと涙が零れ落ちる春香

「一人ぼっちじゃない」

 頷く

「悪い方向に向かう噂なんて気にするな……俺は、もっと悪人なんだぞ」
「そんなことありません! 恭也さんはいい人です」
「春香がそういってくれるだけで十分だ。だから、春香も一人じゃない。
 俺が居る、葉月さんが居る、美夏が居る
 世界中で春香が変な目で見ても、俺が春香の味方だ。あまり当てにはならないだろうがな
 だが、出来るだけでフォローしたいとも思ってる」

 普段にない気持ちではあるがな……こういう気持ちになるのは初めてかもしれない
 守らなくてはと思う反面、さらに一歩進んだ感じになるのは
 こちらを見つめる瞳には涙がたまっている
 こぼれそうな涙をそっと指先で拾う

「恭也さん、私、誰かに言ってほしかったのかもしれません。一人じゃないって
 誰かがそばに居てくれるって」
「そうか」

 涙を拾うのが指先では足りなくてハンカチを取り出して、当てる

「あの、お願いがあるのですが、良いですか?」
「ああ」
「少しの間だけ、胸を貸してほしいです」
「お安い御用だ」
「はい」

 春香は頷くと、俺の胸に顔を寄せて静かに泣いた。その涙の理由は分からないが
 それでも大きな一歩であると思う。春香の身体を抱き寄せていた
 しばらくして春香は泣き止み、真っ赤な目をこちらに向け、照れくさそうに言った

「……ずっとそばに居てくださいね」
「ああ」

 言葉と行動で返すしかなかった。いつか離れるときも来るだろう
 でも、彼女はもう一人の妹のように感じた。守ってあげたい存在。
 なのはとは違う感情だけど……それは、少しどきどきするような感じ
 抱きしめる力を強めず、ただそのまま甘えさせるような……どこか俺も甘えるような感じ

「長く話し続けて疲れただろう、甘いものでも食べよう」
「あ、はい」

 手を取り、そのまま立ち上がる
 ベッドサイドから立ち上がり、春香とともに部屋を出る。廊下では聞き耳を立てていた美香と葉月さんが居た
 飛び込むための準備なのだろうか? それとも信頼されてるかされてないか微妙なところだ
 ただ、大切な姉が出てきた事に美夏からお礼を言われたし、葉月さんもうれしそうだった









 つづく









 あとがき
 次がエピローグだけど、その前に春香の中学時代のことを書かないと
 シオン「こっちで書いちゃえば」
 ま、そうするか……間に書くことも考えたけど、大変だったし遠慮した
 ゆうひ「そうなんだ」
 んじゃ、美夏と恭也の対話の中で恭也が美夏から簡易に聞いたのを、さらに纏めて簡易にしました
 シオン「それで良いの?」
 原作も変わらないし良いかなぁって
 ゆうい「おいおい」
 でわ、どうぞ……後ほど殴られそう



〜美夏と恭也の対話より〜

 春香が中学ころ、そのころには、その手の本などにはまり春香はそれを読んでいた。
 そして、春香が通っていたのは聖樹館女学院という、超がつくほどのお嬢様学校
 そんな中で、春香は優秀な生徒であったが、一つのポカにより、本を教室のど真ん中でぶちまけてしまった
 もともと容姿端麗頭脳明晰運動抜群の春香で、周りからも良い意味で見られていたのだが
 そのポカにより周囲が一変してしまったのだ。それまで周りに居た友達が離れ
 今まで普通に接してきた人からも一歩二歩と離れた状態へと陥ったのだった
 そのことが原因で春香はばれたら周りから引かれ、一人ぼっちになってしまうと考えたのだ。
 表立ってのいじめなどは発生しないのだが、ただ距離を置かれるだけという状況に
 今までそれなりの友達も居ていた春香にとっては辛く寂しく悲しいことだったのだ
 だからこそ、それが嫌な思い出となりバレたら……というトラウマに近い状態へとなったのだ。





 まぁこんな感じ
 シオン「まとめたね」
 実際のところ、よく話す春香であったりしたけど、これ以降話さなかったりもしたらしいしね
 ゆうひ「一巻目の最後の方にちらほら載ってるし立ち読み程度で読むとなお分かるかな」
 うむ、買うの勿体無いって人はそれでもいいかと……個人的にはお勧めだけど
 シオン「遊び人、こういう甘酸っぱいの好きだもんね」
 好きだけど、まぁ、青春っていうのかな……そういうのと程遠いから
 ゆうひ「納得……でわ、また〜」
 ほなね〜(^^)ノシ 青春か〜







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