『乃木坂春香と高町恭也の秘密』





第五話 その3













 一週間が経った……あの出来事以降、春香が初めて登校した日は結構な騒ぎとなった
 何があったとかいろいろ聞かれていたが、驚いてしまったとの事で貫いてもらった
 といっても、俺の方は弊害が無いかといえばそうでもなかったりする
 一部の男たちからは噂が立ってると、赤星から聞いた
 何事もなくすごせるのはありがたいが、藤代さんと赤星には翠屋で奢った
 ただ、藤代さんは赤星を連れて行く理由も出来たので、喜んでいたが
 ちょっとした弊害といえば、朝に生徒だろうが何やら声をかけてきてはいろいろと言って行くのだ

「恭也さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」

 朝登校時に会うことが多くなった……お昼にもたびたび現れてたりするので、わざとだというのが分かる
 それに駅からこちらの通りにくるのだから、きっと誰かが教えてるのだろう
 そういうことをしそうな人を一人思い浮かぶ

「明後日で授業も終わりですね。そうしたら、いよいよ夏休みです」

 楽しそうに言う春香。そういえば、夏休みは一緒に出かけようという約束をしていたな

「夏休みのことなんだが、少し良いか?」
「はい、構いませんよ」
「その、早朝と深夜は……身体を動かそうと考えてるんだが、大丈夫か?」
「あ、はい……一応時間とか確認しましたけど、大丈夫だと思います。夜中の方は」

 早朝が問題なのか? 口調から察するに大丈夫そうだが

「夏休み楽しみです。八月の中ごろになると思います」
「分かった……確かに、今年は変わった夏休みになりそうだな」

 いや、いろいろな意味で……それに、考えることもある
 彼女は自分の重要性というのを理解してないようにも思える。確かに強いだろうが
 それは武道をたしなんだというレベル……本格的なものに狙われては危険きわまりないものだろう
 あの時、俺がたまたま居たから助かったという言葉に葉月さんは頷いていた
 護衛対象を守りきれなかったというのは痛かったのかもしれない

「おはよう、春香ちゃん」

 また何時ものように声をかけてくる男一人……春香に惚れてるらしいが
 まったく持って相手にされてなかったりする
 俺からしてもあまりいい気のする男ではないのは確かだ

「春香ちゃん、相変わらず高町と居るのやめなよ。春香ちゃんの価値を下げるだけだよ」

 にやにや笑いを顔につけたまま言う男……確か名前を言われた気がするが興味が無くてすぐ忘れた

「そんな無表情で愛想のかけらも無いような野郎やめておきなって」

 何やらまだ言ってるようだ……俺は右から左に聞き流してる

「……やめてください」

 春香はそういって言っていた男を見る

「恭也さんはとっても素敵な人です。優しいし、周りの人に心配りが出来るすばらしい人です。
 私はそんな恭也さんを素敵だと思ってますし、そのことをあなたに否定されるのはとっても心外です。
 だから、やめてください」
「は、春香ちゃん?」

 ぺらぺらとしゃべっていた男の言葉もとまる
 ちょっと静かになったが、周囲からは目立っていた

「お話がそれだけでしたら失礼します。行きましょう、恭也さん」
「ん、ああ」

 頷いて手をつないだまま歩いていく

「ちょ、ちょっと待てよ! それ一体どういう意味!? こいつみたいな暗い野郎の何がいいってんだ?
 僕にも分かるように説明しろ!よ! は、春香ちゃん!」

 男が躍起になって声をかけてきていた
 俺は、ため息をつくと、春香の手を押さえた……良かったな、痛いことにならなくて
 春香はこちらを見つめてるが……『どうして?』という感じで
 怒りを覚えてるのは春香だが、俺はため息を再度吐く

「お前の顔からは下心しか見えてこないだと言うことだ」
「なにっ!?」

 真実だったのか、顔を赤くして怒る男
 誰だったか真剣に思い出せないな

「恭也さんの悪口言うの止めてください。今回は恭也さんがとめましたけど
 次に聞いたら自制できないかもしれません」

 春香はそういうと、俺の手に指先を絡める

「春香?」
「行きましょう……恭也さんは悪く無いんですから」

 その様子に周囲は呆然としたかもしれない

「春香の周りであまりうろちょろしてると痛い目を見るぞ……後、俺の周りでもだ
 俺は自分のことなら耐えられるが、大切な物や人なら耐えられないかもしれないからな」

 冷淡な視線をしてるかもしれない……男はそのままへたり込む
 奴のことなんて知らん……それに、あれ以上近づいて、乃木坂の誰かの手で抹殺されるよりマシだろう





 今朝の一件から、俺への風あたりはだいぶ減った
 まぁ、春香の言葉により、周囲の人たちが分かってきたというのもあるのだろうが
 クラスメート(女性多し)から言葉をかけられたり、色々聞かれたりした
 月村も同じように聞いてくるし……どうしろと?

「高町くんってば、春香さんとはお友達って事なの?」
「ま、まぁ、そんな感じだと思います」

 もっと違う感じがしないでもないが……どういったところで、分からない部分もあるし
 うちのこと、自分のことまで説明しなければいけなくなるので却下だ

「お〜い、高町〜、お前にお客さんだぞ〜」

 赤星がにやにや笑いでこちらに手を振って、背中を押す

「あの、恭也さん」

 少し頬を朱に染めて入ってきた春香……周囲が一度に色めきたったりしてる

「お昼ご一緒しませんか?」
「構わないが、お弁当だが良いか?」
「はい♪」

 笑顔でそういうと、周りの男たちが数名頬を染めて、春香を見ている
 昼休みになって来たのか、こちらの指先を絡めとり引っ張られる
 教室で人が居る場所でそんなことをすれば注目は必至で、周りからさまざま声が聞こえたりする
 確か、春香の二つ名は『白銀の星屑』(ニュイ・エトワーレ)だったような
 そんな二つ名があるものだからなおさらだ……名づけたのが教師らしいがどうなのだろうか?
 楽しそうな笑顔とも、上級生の教室で照れてるとも取れる二つの顔をしながら
 そのまま二人でベンチに座りご飯を食べる
 その間に色々と話していく。春香が質問をし、答えることが多いが









 そして、夏休み第一日目……俺は春香の家にお邪魔していた
 呼び出されたとも取れるが、先日の放課後に来てくれませんかといわれ、まぁ、良いかと頷いたのだ
 後ほど勉強を見てもらうことになっている……試験の結果が悪かったというわけじゃないが
 危険でもあると先生から言われたからだ

「お呼びだてして、申し訳ありません」
「いや、構わないさ……夕方からになるが、葉月さんから教えてもらえるのはありがたいし」

 学力の無い自分が恨めしいなどとは言えない
 今までの分があるのだから仕方ないとも取れることだ
 美由希がいいのは、きっとあいてる時間を本読みに費やすからだろう
 後は、微妙な怪我のときもあったりして、そのときは勉学に費やしてるからだ

「その、勉強には関係ないのが申し訳なくて……」

 そういって紅茶を入れていく
 セイロンブレンドのテ・フレスコだそうだ……銘柄的には有名よりブランドという感じか
 葉月さんはしばらくしたら戻ってくるそうだが、個人的な休暇中との事
 そして、美夏はおじいさんと北海道に狩猟
 お父さんとお母さんの双方も仕事だそうで、出ている

「これを一緒に読んでほしいんです」

 春香はそういって取り出したのは、『イノセント・スマイル』の創刊号だった

「構わないぞ。俺もあまり漫画とか読んだことは無いから、興味がある」

 それに、それだけ進めるということは何か意味があるのだろう。春香にとって

「……これは、私にとって特別な本なんです」

 春香はそう切り出すと、ベットに座り、隣を軽く叩く
 隣に座ってほしいということなのだろう
 隣に座ると、春香は語りだした

「私、落ち込んだりイヤな事があった時には、いつもこれを見る事で自分を励ましてきました。
 辛いことがあっても悲しいことがあっても、きっとあの時のあの方みたいに私の事を
 慰めてくれる人がどこかにいる。そう信じて、私はイヤな事を乗り越えてきたんです」

 春香はそういって本を抱き寄せる

「そういう意味で、この本は私にとって特別なんです。あの方との思い出の品でもあって
 とてもとても大事な、私の宝物なんです」

 春香に頼られた人物か……此処まで大きな影響を与えてるとは考えてなかった
 俺本人も忘れていそうなことなのに

「だから、恭也さんにも読んでほしかったんです。私を今まで支えてきたものを……
 そ、その、今私のことを一番支えてくれる人に」

 それにはちょっと驚いた……俺は春香を支えてるとは考えてなかった

「私、うれしかったんです。恭也さんが私を守ってくれて」
「そうか……じゃあ、一緒に読もうか」

 春香の説明が続く中読んでいく
 過去を思い出す一つのページのように開き思い返す……そういえば、彼女と再会したとき泣いていたな
 俺のことを今のように呼ばず、違う呼び方をしていたときに




「恭兄様」

 俺の胸の中で泣いてる少女……ああ、これは過去の出来事
 乃木坂邸から離れた公園で春香は泣いていた……友達との約束を急な習い事で却下されたときだった
 そして、俺は探してほしいと頼まれて探していたのだ

「春香」

 俺は泣いてる少女にどうしようも無いほど困っていた
 なんせ今まで話すことが無かったし、話してもかんたんな言葉とかだけだ

「春香、一緒に本を読もうか? 俺は父さんから奪ったもので悪いけど」
「本?」
「ああ、俺もあまり知らないものなんだが、どうだ?」
「あ、はい」

 泣いてる春香をあやし、泣き止んだときに俺は春香に提案を持ちかけた
 どうせ、大人たちは無視していたのだろう……泣いてる少女を
 大人への不信感を持ってしまう
 それを捨て、そのまま春香とともに本を読み出した
 『イノセント・スマイル』創刊号を

「恭兄様」
「どうした?」
「ありがとう」
「いや、これは、春香が持っていてくれ
 いつかまた会ったとき一緒に読もうな」
「はい」

 春香は泣き顔から笑顔に変わっていた
 俺はそれを見て、ちょっとほっとした
 遅くなったことに周囲は怒ってる人は居たものの俺はかばっていた
 自分が無理やり連れ出したと





「春香は、その人を尊敬してるのか?」

 本を読み終わり、春香は宿題を、俺は勉強をしてると春香は手を止めこちらを見る

「尊敬というより、私を導いてくださったという感じでしょうか?
 一日だけしか会ってないような方でしたし、たくさんあってないので思い出せないんです」

 そういう春香の顔は少し悲しそうで
 それでも、笑顔で言い切った

「でも、その人は優しくて、恭也さんに似ていたと思います」
「そっか」

 春香はそういうと手を動かす。俺も手を動かし問題を解いていく
 あってるかどうかはさっぱりだが

「春香、俺も隠し事してるから、お互いに秘密を持った者同士だな」
「はい」

 春香は笑顔で俺も小さく微笑んだかもしれない
 ただほほえましくて









 おわり












 あとがき
 次、六話に続く
 シオン「何時?」
 ……さらばぐえっ
 ゆうひ「ラリアットー!!!」
 げほげほ
 シオン「さくっと答えるくらいの日にちにしなさいよ」
 とりあえず第一巻分おわりまちた
 ゆうひ「次回の第二巻分は微妙だそうです」
 はい、まぁ、書くかどうかは自分のインスピしだいです
 シオン「だそうです」
 わくかなぁってところです、今は微妙ですが
 ゆうひ「でわ、また〜」
 ほなね〜(^^)ノシ



昔の事を、春香は微かに覚えているといった感じだな。
美姫 「まあ、それが恭也だったとまでは思い出せてないみたいだけれどね」
さてさて、次回はどんな話になるのかな。
美姫 「楽しみよね」
うんうん。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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