とらいあんぐるハート×魔法少女リリカルなのはA's









魔法少女リリカルなのは〜守りたいものありますか?〜A's

第四話 シグナムと恭也











 なのはが帰ってくる前に、シグナムに帰ってもらわないと……
 今のところ大丈夫だろうが、もしもばれたら大変なことになるだろう
 それが恭也の考えだった
 勿論、シグナムもそういうことは分かってきているので何となく理解はしている
 そう、早めに終わらせようと……鍛錬は短時間でも可能だと
 シグナムは恭也に案内されて、恭也の家、高町家へと到着した
 シグナムは道場に入ると、ほぅとため息をついた
 戦うのに適した場所があるという恭也についてきて正解だったと

「ここで戦うつもりだが、良いか? 他の場所が良いならそちらにするが」
「いや、此処が良いな……気に入った」
「得物を持参してもらって悪いな……うちは小太刀だから」
「ああ、それくらい構わない」

 シグナムも小さく頷いて微笑みを浮かべ返す
 強い者だからこそ、強者と当たることへの喜び……それが表情に出たのだ
 間違いなく恭也は魔法抜きにしたら自分を超える存在かもしれないから
 自分と肩を並べて立てる剣士だからこそ、同じ剣士として戦いたい
 ヴィータやザフィーラは闇の書を持って、魔力を奪いに
 シャマルははやてと共に居る……恭也とシグナムの鍛錬について行こうとしたが
 恭也が断ったのだ……あまり見せたくない、と
 その言葉の意味に気づいたシグナムも、頼んだのだ
 本来なら、よくないのは分かってるが、シグナムは紳士に頼み、はやても頷いた
 シャマルも説得に参加したのが大きかったようだ

「寸止めを基本とするが……当たった場合を考えて一応プロテクターでも着けるか?」
「いや、そんなものは必要ないだろう……我らには」

 お互いを信じてるからこそできる剣の鍛錬
 そして、小さく笑う……だが、その顔は真顔に戻り、お互いの力場みたいなのが出る
 剣の気……もしも、此処に騎士や魔導師が居たら、すぐさま計測したり逃げるだろう
 濃密な力

「合図はなしだからな」
「分かっている」

 小さな汗が一筋流れる……シグナムは相手の力量を見誤ったと実感した
 相手の剣の気はあらぶる炎のようでありながらも、全てを飲み込む常闇のように
 そして、圧倒的な剣の気が放たれる
 だが、逃亡という二つの文字は浮かばない
 木刀を持ち、攻撃を加える……それだけなのだが
 剣のリーチを考えれば、先制攻撃はシグナム
 だが、左ですぐさまはじかれ、剣の軌道がそらされる
 自分の向かう先の男からの気に押されてるのじゃない
 ただ一つ、左手に持った小太刀の木刀で自らの木刀をそらされている
 力加減を考えたら、自分の方にも相手の方にもどちらも長所と短所がある
 それすらも乗り越えてこそ、剣術というものなのだ
 それぞれの短所長所を捕らえてるからこそ、戦いになる
 シグナムは恭也の戦い方を見て、一つ分かったことがある
 恭也はどんな武器を使わせても戦うことが出来る。例えば自分の剣
 例えば、フェイトが使っていた斧のようなもの、弓も、ハンマーも、単なる物干し竿ですらも凶器となる
 だからこそ、リーチが読みにくいし、左での攻防の際に足や手も来る
 その攻撃は際限が無く、攻撃を休めれば自分がすぐさまやられる事に
 近づければ近づけるほど危険で……
 右手の木刀で恭也を突く……一度縦に振り、すぐさま突く作業に入る
 恭也はそれを見ても、冷静な感情を失わない
 しかも、突き出される剣に対して、右手で掴んだのだ
 木刀だからこそ、出来る荒業とも取れる……真剣ではないが白刃取り、しかも片手

「なっ!」

 それに驚くのは勿論シグナム
 動く剣を、木刀とは言え、相当な加速が加わったものを受け止めるのはかなりの握力が必要だ
 それをこともなげにする恭也も恭也だが、その隙は確実に恭也の間合いに入っての攻撃になる
 シグナムはとっさに片手を木刀から外し防御するが、それをすり抜けて恭也の剣が到達した

「私の負けだ」

 シグナムはそういって、ため息をついて木刀を離してもらい距離を取る
 自分の力量だけで勝てない男、勝てない人が居る
 喜びそうになる自分が居て、ちょっとだけ不謹慎だと考えていた
 恭也は恭也で一息ついて、左で小太刀を幾度か振るう

「今度は俺も一刀でしてみよう」
「……出来るのか?」
「シグナムには負けるだろうがな」

 苦笑いで恭也は言うが、シグナムはどうなんだろうと考える
 どの武器だろうが、恭也の技術は達人並にまで上っているのではと考えてしまうのだ
 それは本人が悪いのではないが、シグナムにとっては脅威でもある
 どんな武器でも使えるというのは羨ましい限りだ
 武器がなくなっても戦えるということと変わらないのだから

「ほぅ、長年使われてそうだな」
「元は友達が俺のためにと買ってきたものだからな……大事には使ってる」

 恭也が出した木刀を見て、シグナムはそうもらす
 血がついてるというわけじゃない……ただ、恭也はその木刀を懐かしいかのように見る
 赤星と木刀で一刀勝負したとき、これを使用していたことを思い返していた
 勿論、負けは無いという言葉通り、基本的には恭也が勝つのだが
 えてして素早さと力勝負の図になりたつからだ
 恭也の方が早く、赤星の方が力が強い……そういうことだ

「じゃあ、もう1本くらいでやめておくか?」
「ああ」

 その言葉に突き進むように、二人はぶつかる
 先ほどの小太刀では負けたが、間合いが変わるこれでならという想いもある
 何より剣を持つときの気が変わるのをシグナムは見抜いていた
 恭也は攻撃に舌を巻きながらも、はじき返していく
 受け止めるのではなく、受け流す
 基本はそれである

「嬉しいぞ」
「なにが?」
「私は、剣士だからな……恭也のような者が居てくれてありがたい」
「そうか……俺も良い鍛錬相手が見つかりありがたいぞ」
「本当になってるかどうか怖いところではあるがな」

 シグナムはそう漏らし苦笑い……気づきたく無いことにこそ気づく
 なんせ、恭也は生粋の剣士。シグナムは戦いに身をおくが、魔法剣士
 その差があるのだ……純粋に魔法も使えば恭也を圧倒することも可能だろうが
 それだけはしたくないと考える

「本当に強いな」
「そうか?」
「ああ。だが、私も同じ得物となって負けるわけには行かないというわけだ」

 一度引いた剣に恭也は小さく舌打ちをもらした
 相手の方が剣術としての、得物が同じなら、恭也より上をいった
 シグナムは恭也の首筋に木刀を置く

「私の勝ちだ」
「みたいだな……」
「振る時にどうしても左からの攻撃が多くなるな……だが、まぁ、悪くない手も多々あった
 恭也が小太刀で戦ってるときは間合いも狭いから手や足が出るが
 剣だと間合いが広がり出来ないのだろう」
「そうだ」

 二人はそんな解釈などを交えながら、また今度会おうなどと再会の約束をする
 何よりシグナムは良い鍛錬相手、しかもこの世界での最高峰とも取れる剣士と会えたのだ
 恭也も良い鍛錬相手が出来るならということで頷く

「送っていく前にシャワーでも浴びていけ……汗だくだと風邪を引く
 なにより、心配するのははやてだろうしな」
「そうだな」

 シグナムはそれを言われてすぐさまシャワーを浴びる
 傷跡があるが、それにしみないように丁寧に汗を流し、
 次に恭也が入れた紅茶を飲みながら恭也が出てくるのを待つ
 恭也にもシャワーを浴びるように言ったのだ……シグナムはそれくらい待つと言って聞かなかったのだ

「待たせた」

 髪の毛をバスタオルで拭きながら恭也は出てきた
 服は着てるものの、髪の毛は乾かさないといけないと思ったのだろう
 そして、二人してお茶を飲み(紅茶から緑茶に変わった)、歩いていく
 昼間だからこそ人通りも少なく、はやての家まで送った恭也
 本来ならそこまでしてもらわなくて良いのだが、はやてとシャマルはシグナムと恭也を迎え入れる

「良かったら、あがっていきません?」

 その言葉に恭也は首を横に振った

「この後、バイトがあるから、誘ってもらえて嬉しいのだが」
「あ、そうなんや」

 ちょっと残念そうなはやてに、シャマルたちはどう言って良いか考える
 だが、先に動いたのは恭也だった

「また来るから。それじゃあ駄目か?」
「明日って確か」
「ああ、そうだな……病院行くからその時に」

 病気では無いが、激しく動いたならそれなりの整体をするべきだろう
 それは恭也なりの体のいたわり方だ

「それじゃあ、明日に」
「はい」

 はやては小さく手を振って、恭也を見送った
 はやてが鼻歌交じりで料理を作ってる間、シャマルとシグナムは庭に出て話をしていた

「どうだったの? 剣は」
「強かった……剣のみの勝負で言えば、私が負ける」
「……」

 シャマルはその言葉に絶句する

「同じ得物なら、負けないが……相手の得物と私の得物の対決となれば
 話は全く別物になる。もしも、恭也と戦うことになるなら
 ヴィータやザフィーラでは話にならないかもしれない」

 高町恭也は剣士として戦うのは恐ろしい相手である
 シグナムはもしも、魔法があって戦ったら……震える左手を無意識の右手で抑える
 ……もしも、非殺傷じゃなく殺傷設定でやりあえば、負けるのは……自分であると

「相手が悪すぎるって事?」
「なんていえば良いのか悩むところだが、剣士として、殺すことに慣れている」
「じゃあ」
「間違いなく、私にとってのライバルだ」

 剣を扱うものとして、武術を扱うものとしてのライバル
 宿敵とは言いにくいが、朋友や親友という類のライバル
 シグナムにとっては良い戦いに恵まれた





 さて、その頃恭也と言えば、翠屋でバイトをしていた
 大学に余裕があるのだから、桃子と士郎は何も言わない……そこに、なのはやアリサ、すずか、フェイト
 その四名が帰ってくる。と言っても帰りに寄ったとも言うんだが

「いらっしゃい、アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん……それと、なのははお帰り」

 桃子が笑顔で迎える
 士郎も同じように出迎え、恭也も対応する

「恭也さん、お久しぶりです」
「ああ、アリサ、すずか、フェイト久しぶりだな」

 恭也の言葉に頷く少女たち

「あいつに会いに来たのか?」
「あははは」

 苦笑いのなのは、士郎の答えには十分になっただろう
 そして、楽しそうな三人の少女たち

「まぁまぁ、士郎さん、良いじゃないの……それに、アリサちゃんにしろ、すずかちゃんにしろ
 フェイトちゃんにしろ、仲が良いのは悪いよりマシな事よ
 それに、笑顔が見れて良いじゃないの」

 桃子はそういって、仕事に戻る
 士郎も桃子が戻ることに、気づき自分も仕事に戻る
 勿論恭也に声をかけて

「恭也、仕事してくれ〜」

 士郎の言葉に恭也はアリサ、すずか、フェイトの順番で頭を撫でると
 一言謝って、バイトへと戻っていく
 今日は天気が良いので、外のカフェテラスの方でお茶を貰う4人

「お兄ちゃん、機嫌良いね」
「そうか?」
「うん。なんか嬉しそうだから」
「まぁ、ちょっとした好敵手に会えたってだけだけどな……友達にもなれたと思う」
「そうなんだ……」

 恭也のなんの好敵手か聞かないなのは
 アリサとすずかも聞いて良いのかどうか考えたが、言わないのなら聞かない方が良いと考えたようだ
 と、フェイトが思い出したように言葉を発した

「恭也さん、一度街案内してくださいって約束……明日の昼からで良いですか?
 土曜ですし、時間開いてますし」
「ああ、分かった……それじゃあ、明日の昼からで良いんだな?」
「はい」
「迎えに行くから」
「えっと、場所知ってます?」
「なのはに案内してもらう」

 なのははそういわれて、恭也の顔を見る
 恭也は小さく頷いたので、頷く
 案内くらいなら良いが、言うなればていの良い散歩だ
 そして、それぞれ約束やらなにやらを取り付けていく
 アリサやすずかにとっては、恭也に犬や猫を洗ってもらいたいのだ
 暴れる犬と猫は居るから仕方ないのだが……恭也だとおとなしいのが不思議で仕方ないのだが
 恭也も二人の頼みを無碍に断らず受け入れた

「それじゃあ、俺はバイトの途中だから」

 引きとめ工作の万策尽きたようで、恭也はバイトに戻っていく
 桃子や士郎からバイト料引いておくななんて話が出ているが
 恭也も苦笑いで頷いてる……まぁ、時間をつぶさしたのは確かなのだから間違いではないだろう
 ただ、少女たちは恭也が持ってきてくれる飲み物はとても楽しみだったようだ
 全員が『恭也(さん)が入れた紅茶』とオーダーしたから







 つづく








▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る