『つきは回る2』













 ん〜、ふらふらと歩くのもあれだし、お金は多々あるが
 全部銀行だしな……体についてる血やら、なにやらをどうにかしないと
 ホテルは却下……血みどろの人が居たら困るだろうから
 仕方ない……近くの川かどこかで血液を流すか
 とりあえず、神社が良いな……屋根あるし
 お庭に水をやるための水道も完備されてるはずだ

「此処なら良いか」

 服はロッカーから取ってきた
 元から服は少ない……相手のやり口は上手かったおかげだな
 骨が折れることは無かった……それでに間接を幾度も抜いて入れてだったからな
 死ぬほど痛いってどう言う事か聞くくらいの痛みだ
 と、気配が近づいてくる
 誰だよ、人が体を清めてる時に……

「誰だ?」
「そちらこそ、夜更けの神社で何をしている」
「単に泊るところが無かったから、体を清めてるところだ
 今日は泊るところを此処ってしただけだ」
「勝手に使うのは良くないぞ」
「一声かけた」

 嘘だけどな……
 月明かりが相手を照らす
 勿論、俺も

「げっ」
「貴様!! なにをしてる?」
「だから、体清めてる……龍の手下を血祭りに上げたら血付いてホテル泊れないから
 後ろ向いててくれ……」
「了解」
「全く、16歳の乙女の体を見るなんて、不埒な大人だ」
「ちょっとまて!! お前、16歳?」

 見ていないで相手へと小刀を飛ばす

「すみません」

 宜しい

「ま、分からないだろうがな……これでも、16歳だ
 で、何で神社なんかに来てるんだよ」
「此処で鍛錬してるんだよ
 今日は走るだけで辞めようと思ったけど、気配がしたから」
「ああ、そうか……怪我させなかったもんなぁ」

 頷く

「はっ?」
「最初から羽の力を使えば、お前を殺すのは簡単だった……それだけ」
「なるほど」

 理解が早くて助かる

「じゃあ、何故、羽を使わなかった」
「単に龍から抜けるために、相手の目を欺くためだ」
「……狡賢いやつめ」
「ほっとけ……乙女の体を見た奴に言われたくない」
「乙女って……そんな年でもないだろうに」
「はっ、これだから……剣一筋で生きてきたかもしれないけどな
 俺はこれでも、純潔……勿論、裸を見られたことも少ないんだぞ」
「すみませんでした」
「宜しい」

 全く、なんて男だ

「で、あんた名前は?」
「高町恭也」
「滝川蛍」
「それがあんたの名前か?」
「まぁ、そうなるかな」
「??」

 分からないだろうなぁ
 ま、そんな事言ったところで分からないのが普通だ

「ま、これで晴れて龍から逃げる生活へと変わったわけだ」
「能天気だな……先ほどまで敵だった奴が近くに居て、余裕もある」
「もし、あんたが敵ならすでに俺は殺されてる」
「……」

 黙った……正解だろう
 俺も優しいものだな……相手も気づいてるだろう
 もしも、お互いに敵だと認識攻撃したら、双方ともただですまないと

「分かった……とりあえずだが、家に来ると良い」
「はぁ? 何でそうなる?」

 これの思考回路おかしいんじゃないか?
 はっ!! まさか……

「まさか、俺の体に興味があるとか!? 嫌だぞ、俺は
 人の体目当てにする男なんて」
「違うわ!! くそっ、単にここ朝も使うから
 それだったら、お前が家で休んだ方が良いだろうが」
「もしも、俺が敵だったら如何するんだ?」
「さっき、その質問で違うって言ってただろうが」
「なるほど」

 よく見てる……しかも、確りと考えての行動か

「ま、良いか……信頼してやるよ
 裏で名前の馳せた、双剣使いの家だったら、龍が襲撃してきても
 対応取り易いだろう」
「どうだろうな……一般市民もいるのだが」
「はっはっは……それこそ無粋だ
 知ってることもある……烏も居るだろ」
「烏?」
「御神美沙斗だったかな……確か、その人」
「ああ」
「なら、大丈夫かな……あの人はお母さんみたいな人だから」
「美沙斗さんが?」
「その辺りは親しくなったら話してやる
 あの人も話したがらないだろうからな」

 お母さんと呼んだ事は無い……何時も、姉みたいな感じで慕っていた
 どこか困った顔してたけど、会った時に色々と教えてもらった
 料理やら、サバイバル……鋼糸やら飛針なども見せてもらった
 だから、相手の剣筋がわかったのだ
 それなかったら、今頃捕まってるだろうな

「滝川蛍も美沙斗さんがつけてくれたからな」
「本来の名前は無いのか?」
「ん〜、無い
 その頃からキリングドールとして名を出してた」

 服を着て、髪の毛のハチマキとリボンをといた
 これで、自慢じゃないけど、長い髪の毛が降りた
 金色の髪の毛……仁村知佳も同じらしい

「誰かに似てる気がする」
「空似だ」

 そう言って、歩いていく

「後、高町だと全員引っ掛かるんだよな」
「ああ」
「家族構成は知ってるから言わなくて良い」
「何故?」
「お前の頭の中を羽出した時に少しだけのぞいたからな」
「ちっ」
「ま、怒るな……あの時は流れ込んできたんだよ
 家族だけは護るって……お前のその考え嫌いじゃない」

 歩く……

「場所分かるのか?」
「知らない町だが、誰かの頭を覗いたら地図くらいは出来る」
「なるほどな」

 ……驚かないのは、フィアッセ・クリステラのおかげか
 ま、それもまた良しだ……変な偏見が無い分

「裏道やらは自分で回らないといけないから、変わらないけどな」
「そうか」

 そう言って、俺についてくる高町恭也

「で、恭也」
「何だ?」
「美沙斗さんは居るのか?」
「居るが」
「なら、良しだ」
「仕事で此方まで来てたからな」
「会わなかったが」
「それは、あっちに護衛を任せて、俺が迎撃したからだよ」
「なるほど」

 しかし、こいつの体力は無尽蔵か
 あれだけ動いてて、まだこれだけ動こうとするのだから、ある意味朴念仁だろう
 周りの女性もかわいそうに……

「でだ、こっちであってるよな」
「ああ」
「確認だ……深い意味に取るな」
「すまない……てっきり方向音痴なのかと思っただけだ」
「普段ちょっとだけ天然ボケが入るらしい
 俺はそんなつもり無いのだがな」

 ……ジーと此方を見る恭也

「何?」
「いや、そうやってると女性に見えるが、全く女性っぽく感じない」
「ほっとけ……第一、これは遺伝子の影響だ」
「遺伝子?」
「美沙斗さんに聞け……俺から話すつもりは無い」
「なるほど」

 到着っと

「じゃあ、失礼します」
「って、普通俺が先じゃないのか?」
「まぁ、良いから良いから」

 玄関をくぐると荒い歓迎だった
 なんせ、美沙斗さんが完全武装で出てくるし

「ども」
「蛍!!」
「はい、美沙斗さん、こんばんわ」
「何で此処に!?」
「美沙斗さんと同じ」
「龍を抜けたのか!?」
「一応、そう言う風なものですけどね……外で血を洗い流してたら
 恭也に全部見られたんです!! むっつり助平です」
「恭也」

 ケケケ、ざまぁ見ろ

「ち、違うっ!! たまたま気配がしたから、水音だったし誰かが何してるか気になって」
「それでも、乙女の裸を全部見たじゃないか」
「堂々と見せてたじゃないか!?」
「隠すもの持ってなかったのをいいことに、色々と言葉かけて時間を稼いだくせに!!
 酷いっ、男なんて皆ケダモノなのね!!?」

 よよよっ、と泣きまねをしてみる
 美沙斗さんが恭也に視線を移してる
 俺が居ることより、其方の方が気がかりなようだ

「恭也……まさか、君がそんな男だったなんてね」
「嫌、美沙斗さん、普通、そっちを信じますか!?」
「蛍は、そう言う意味では嘘をつかない子だ
 それに、蛍は男のそう言うのを嫌っている……蛍を陵辱した罪は重いよ」
「ちょ、美沙斗さん、落ち着いてください!!
 こら、蛍も我関せずみたいな顔してないで、本人なら止めろ!!」
「美沙斗さん、とりあえず後で何か奢ってもらうなり、助けてもらうなりで」
「そうだね……まったく、蛍は可愛いから外じゃ駄目だって言っただろう」
「でも、血まみれでホテルに入れなかったんですよ」
「そのまま病院担ぎ込まれたら?」
「駄目ですって」

 何ていうか、会話っぽい会話じゃない気が

「お客さん?」

 この人が高町桃子さんか
 恭也の義理の母親

「初めまして、滝川蛍です……恭也さんが神社で泊ったら体が冷えるだろうって優しい言葉をかけてくれて
 それで、泊りに着ました……悪いのですけど、一晩だけ泊めて貰えませんか?」
「あら〜、可愛い子じゃない……良いわよ〜
 恭也もやるわね〜、こんな子を連れてくるなんて
 しかも、泊らせるためにわざわざ家を紹介なんて」

 新幹線思考だ……何ていうか、凄く突っ走ってる気がする

「あの、一晩だけで良いので
 その、後はホテルなり何なりで過ごしますし
 どうせ、私は捨てられた子なので」

 美沙斗さんは何も言わないだろうし、恭也は渋い顔してる

「え? 何で」
「実は……両親が死んで、家を追い出されたんです
 両親は交通事故で……私が行った時には、すでに……それで、そのまま夜の街を歩いてたら
 美沙斗さんに助けられたんです……少し話して、分かれたのですけど
 もしも来れるなら、海鳴までおいでって」
「美沙斗さんを頼って来たの?」
「はい……親戚も居りませんし、どうせ、私なんて居ても厄介者扱いされるので」
「あら? どうして?」
「HGSなんです……それで」
「なるほどね……蛍さんが良ければ居て良いわよ
 ホテルなんて勿体無いわ」
「そんな、悪いですよ」
「子供が何言ってるの……そのままだと夜の界隈で排他的な生活を送ることになるわよ」
「それが嫌で逃げ回ってたんです
 丁度いい神社も見つけて、水浴びをしてる所、恭也さんに見つかって」
「と言う事は、恭也に見られたのね」
「ええ」
「その御礼でって事かしら?」
「多分……もしかして、口封じとか?」
「そんな事させないわ、安心して」

 ふわっと抱きしめられる
 暖かい……恭也が騙されるなって顔してる
 美沙斗さんもそれには頷いてる

「かあさん、騙されるな……こいつは、結構あくどい」
「あら、恭也は蛍ちゃんの裸見たんでしょ」
「うぐっ」

 桃子さんの一撃に撃沈……凄いなぁ

「美沙斗さんも居るし、もしもこの子が変なことしても止められる
 それに、蛍ちゃんが如何いう子であれ、責任の一端は此方にもあるなら」
「でも、本当に一晩だけでいいんです
 後は、住み込みバイトでも探すつもりですし」
「暗殺依頼とか受けて?」

 美沙斗さん、それ凄く痛いです

「暗殺依頼?」
「本当のこと話すから、かあさんも離れて」
「分かったわよ〜」

 桃子さんが離れた
 ふぅ、一安心……ま、俺もそろそろ話しましょう
 恭也が凄く怖いし

「えっと、何処から話しますかね」
「最初から、美沙斗さんとの出会いも含めて」
「龍という組織に居たんです……最初、赤子の頃は逃げて逃げての生活を母がしてました
 でも、その後……母が無くなり、俺はそのまま龍に連れ戻されました」

 桃子さんの見る視線が痛い
 恭也さんと美沙斗さんは普通に見ている
 龍は桃子さんの旦那さんを奪った所
 私じゃないにしろ、手を出してないところで私が居た頃にあったこと

「訓練を受けて、骨接ぎを得てとする柔術を習って、それを武装にして暗殺をしてたんです
 首は一番弱いですから、頚椎を外したり、首の骨を折ったりして暗殺してました
 美沙斗さんとであったのはその頃です……龍という組織のことは一切話されず、依頼を受けてたので分からないですが
 それでも、美沙斗さんは私を色々と助けてくれたんです……料理を教えてくれたり
 他にも、男には警戒しろとか、もしも襲われたら、相手の骨を折ってでも逃げろとも」
「美沙斗さん、それ、問題じゃあ」
「いや、意外と良いかなと」

 話が折れた……

「それで、HGSの力もあったから、そのまま逃げたり、倒したりの生活をしてました」
「龍を抜けたのは先ほどと聞いたが」
「ええ、龍の手下を倒して、携帯でそいつの声音を使って」
「なるほど……じゃあ、何故此処に居ようとしない?」
「美沙斗さん、あなたならどうしますか?」
「まずは、違う所に身を隠すね……此処だと迷惑になりかねない」
「ですよね……俺も同じ理由……別に平穏な生活にはあこがれるけど
 平穏な所を壊してまで居たいという場所でもないので」
「なるほどね……それで、一晩だけで良いって言ったのね」
「はい」

 桃子さんの言葉に頷く
 何となくだけど、逆らえない何かがあるから
 眩暈がしてきた……そういえば、疲れてたんだっけ
 光りはあるし、回復は出来てるけど、それよりも肉体的な疲れを癒さないと
 恭也との戦いでほとんど体は疲れ切っている

「蛍!!」

 美沙斗さんに抱きとめられる
 あ、横に倒れたんだ……気づいてやっとか

「ごめんなさい……」
「良いから……この子は私と寝ますから
 何かあれば、私がこの子を殺してでも止めますから」
「お願いします」

 真っ暗の中へと落ちた







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