『新月の芳香』





 外は知らない事ばかりというわけじゃない

「病院って、駅からバスに乗っていくのか?」
「ああ、そうだが」
「……ふぅん」

 バスなんて初めてだな
 襲撃したことはあるけど……こう、タイヤ破裂さして回転してるところに
 爆弾投げて遊ぶということだけだけど……

「蛍」
「はい?」
「どうかしたのかい?」
「携帯とか、カードの書き換えしないとって」
「ああ、服の代金はそっちが出すのかい?」
「そのつもりですよ……第一、美沙斗さんよりお金持ち〜♪」
「そうなんだよね〜」

 美沙斗さんが落ち込んだ
 まぁ、16歳のガキに負けたって事だもんね〜、稼ぎ金額

「とりあえず、携帯の方とかは後で回るとして病院行くぞ
 手当てとかも応急しかしてないのだろう
 俺の知り合いがそう言うのに詳しいから」
「知り合い? ああ、フィリスさんだっけ? 医療の世界で働いてる
 どう見ても恭也より年下に見えてしまう人」
「ぷっ」

 美沙斗さんに受けた
 こうやってちょっとだけ笑ってもらえるのは嬉しい
 美沙斗さんと2人で仕事した時はばらばらに動いてたから
 成功率100%を誇ってたけど

「それを本人の前で言ってみろ」
「言わないですよ……俺が言っても信じないだろうし」
「ちっ」

 何ていうか、あれだなぁ
 周りから視線が厳しい
 恭也がいい男だからか……すっごい鈍感なのに
 それとも、美沙斗さんが綺麗だからか?
 黒の服だけど、スーツみたいにびしっと決っていて、宝塚だったか、そんな感じに見えるし
 ショートの髪の毛じゃないけど

「絶対何か不穏なことを考えてる」
「不穏って人聞きの悪い」

 応えるけど、やっぱり不穏かなぁ

「バス停発見っと、あれだよな」
「ああ」

 バス停には丁度バスがきていた
 恭也の腕に腕を絡める

「って、なにをしている?」
「子供料金を試せるかどうか実験だ」
「がめついぞ」
「美沙斗さんはしてくれたよ」
「え?」

 美沙斗さんが苦笑い

「ちょっと大きな子供くらいでとおりそうだったから
 やってみるって実験したら通れたんだ」

 恭也が落ち込んだ

「お兄ちゃん、バスの乗り方分からないから教えて〜」
「あうっ」

 よし、このままずりずりと引きずっていく
 そして、恭也と共にバスに乗る
 子供料金でいけるみたいだ
 誰も何も言わないし

「あれ? 恭也くんやん、隣の子は?」
「恭也とは知り合いです……隣のお兄ちゃん役してもらってます」
「ははぁん、お姉さんも乗らせてもらって良い?」
「何処かに用事で?」
「昨日な、歌歌ってる途中にこけてな〜、センセが行け行けって煩いねん」
「大変ですね〜」

 そうだ……この人、椎名ゆうひだ
 ティオレさんの頭の中にあった人だ
 若干年齢差があって、気づかなかったけど、女性は数日で化けるから

「あれ? でも、君誰かに似てるなぁ」

 !!! そうだ、この人は、さざなみ女子寮って所に居た
 そして、それが導かれる答えは……ばれるかもしれないと言う事

「空似じゃないですか?」
「そうかなぁ」

 ……ばれるのは困るって訳じゃない
 それに、俺は俺、彼女は彼女

「しかし、この子、可愛い子やね〜」

 頭を撫で撫でとされる
 可愛い? 俺が?

「自己紹介まだでしたね」
「そやった」
「初めまして、滝川蛍と言います」
「蛍ちゃんかぁ……うちは椎名ゆうひって言うねん
 でも、恭也くんの腕に絡み付いてたから彼女かと思ったわ」
「そんな、お兄ちゃんが彼女なんて」

 両手で軽く頬を抑えて、いやいやと頭を振る

「美沙斗さんも病院に?」
「いや、この子の服などをね……ちょっとご不幸があって」
「そうなんや〜、ごめんな」
「いえ、大丈夫ですから」

 大丈夫だと思わないといけない
 病院に到着すると、すぐさま受付へと行く
 恭也は渋い顔をしつつ、言葉を出す
 ゆうひさんも同じく
 俺だけ、HGSの方へと歩いていく
 場所は分かるし、医者の頭の中を覗かせてもらったし

「じゃあ、待っててくださいね」

 バス降りる時、子供料金で通れた
 140センチの子供……良いや

「私もご一緒しようか?」
「いえ、美沙斗さんは此処で待っていてください、大丈夫ですから」
「分かったよ」

 HGSの権威……と言える人だろう
 海鳴大学病院の院長だったっけ? 矢沢医師

「初めまして、滝川蛍です」
「ふむ、とりあえず、検査を受けるんだね」
「はい」
「羽も自分で出せるがコントローラーが無いと」
「はい、最も苦労しましたけどね」
「そうだろうね」

 そう言われながらも、そのまま機械の前に立つ

「じゃあ、羽を出してくれ」

 羽根を出す……白き翼……俺に似合わない翼

「え?」

 驚いた声
 多分、気づいたのだろう
 ある人と同じと言う事に……

「リヤーフィン」

 やっぱり

「光りを力へと変換してる……まさか!?」
「ごめんなさい、驚かせてしまって……本当のこと話しますから落ち着いてくれますか?」

 羽を出すと心が読める
 目の前に居る人の心がわかる……慌ててる心が

「龍に属してて、たった一つの成功例です」
「今もかい?」
「いえ……龍を抜けました……といっても、追いかけられるでしょうけど」
「そうか……すまない、驚いてしまって
 しかし、知佳ちゃんと同じか」
「……はい、彼女が俺の父親というか母親というか双子の姉というかそんな感じです」
「あってるよ……確かに誰か居たら嫌だわな」
「リスティさんでしたっけ? あの人のコピーも実験してたのと同じような物です」
「そうか……とりあえず、これがイヤリング型の調整の奴だよ
 一応全開では出せないと思う」
「はい、確かに」

 つけて分かる……確かに抑えられてる
 体重が130とかたくさんあるわけじゃないのだけど……アレは多分何かしらの特性なんだろうけど
 武術やる上で体重というのも大きなウェイトをしめるから良いのになぁ
 女性としては受け付けないものだけど

「ほとんどは知佳ちゃんと同じなんだね」
「はい、エネルギー変換は変わりません……ただ、基本的にはテレポートとアポート
 後は、テレキネシスとサイコバリア、1つ違うのは、テレキネシスがちょっと強い程度ですね」
「そうか……分かった
 後、羽は閉まってくれて良いよ」

 イヤリングを調整すると羽が消えた
 羽人から解放された……って、何か違うけど

「白い羽根が出た時は驚いたよ……翼みたいなものだけど」
「最初、暗殺につかえるとかで教わったのが悪いみたいで
 心読んだりも出来ますね」
「万能型か」
「多分」

 防御よりも攻撃
 確かにそっちだな

「君は誰かに遺伝子提供というか、髪の毛を渡したりは」
「してません……しようとした奴は殺してきたので
 だから、医者とか科学者もあまり好きじゃありません」
「そうか……悪いね
 科学者の悪い癖だ」
「いえ」

 もしも、この子の代えが居たらって考えてしまう
 それは、誰しもあること……物とかに例えたらいい……
 鉛筆があって、その代わりに代用できる鉛筆があれば、安心できる
 俺というのも、ほとんど物扱いだった……だからこそって事だ

「君が仁村知佳のコピーであることは黙っておくよ」
「すみません、お願いします……その、狙われる可能性もあるので」
「そうだね」

 頷いて、データの一部を消す
 誰かとか、そういう部分だろう

「診察終わりっと……体のところどころにあるのは?」
「ちょっと骨を繋ぐのに内出血です
 自然治癒が一番です」
「なるほど、湿布でも貰うといい
 フィリスに言えばたくさんくれるだろう」
「そうでしょうか?」
「連れて来ただろ、恭也くん」
「ええ」
「ご機嫌だろうしな」

 ……それで良いのだろうか?
 まぁ、何言っても難しそうだし良いけど

「じゃあ、行きますね」
「ああ、そうすると良い」

 そう言われて、歩いていく
 扉に手をかけて、外に出ると、男性の方も一緒に行くようだ
 矢沢医師……信用しても大丈夫そうだ
 心も読んだし

「ついでに娘の仕事姿でも」
「いいんじゃないですか」
「ありがと」

 そう言って一緒に歩いて、フィリス先生の所まで歩く
 実際には案内されながらだけど……発作が起きなければ大丈夫だし
 発作が起きれば、薬で抑えるしかない
 一応便利な病って所……でも、力の多用は禁物
 そのままぽっくり行く時もあるのだそうだし

「失礼」
「お邪魔します」

 中では、なにやらマッサージ中だったらしい
 恭也に馬乗りになって、揉んでいる女性(固まってる)
 半裸といっても、パンツ履いてるけど、居る恭也

「女医に襲われる患者ですかね」
「おっ、中々話分かるね」
「でも、ちょっと女医が魅力不足?」
「何処が?」
「めがねと胸」
「なるほど〜、分かってるじゃないか」
「いえ、そういうのが良いらしいって、話を聞いただけです」

 そう、話を聞いただけ
 盗み聞きとも言う

「お父さんと其方の方、まだ診察中なので」
「見学です」
「娘の成長ぶりを確かめようかと」

 矢沢医師とは気が合いそう
 こう、真面目な人ほどからかいたい

「良いから、プライバシーの侵害にも」
「恭也の怪我の具合聞いておかないとって思って
 俺の責任でもあるし」
「はい!?」
「昨日の敵だった、滝川蛍です」
「なっ!!」
「そうだったのかい、それは驚きだね」

 矢沢医師は全く驚いてないな……予想済みか
 フィリスさんの方は顔を真っ赤にしてる
 一応、サイコバリア精神の方は張っておこう
 読まれたら嫌だし

「本当ですか? 恭也さん」
「え、ええ、まぁ……行きがかり上こうなってしまったってだけで」

 ドアのところにかすかな反応

「失礼するよ」
「何、リスティ」
「いや、昨日のことで、ちょっとな……キリングドールが亡くなったってほうこ……」

 俺を見て固まるリスティさん

「何でお前此処に居るんだ?」
「美沙斗さんと同じですよ」
「信じられるか!!? 第一、たった一日で」
「それは、龍を抜けるために……
 でも恭也と知り合ったのは、偶然ですよ……乙女の柔肌をじっくり堪能した恭也が悪い」

 あ、骨そっちには曲がりませんよ、フィリスさん
 バキッて音がなった

「つぅ〜」
「減点10くらいか」

 あれは、外れたな
 フィリスさんを押しのける
 謝る前に嵌めろ……でないと、すぐに変なことになる

「ちょっと痛いけど歯食いしばってて」

 ぱきって音が鳴って入る
 人間の骨は音がなる……といっても、空気が骨の間でなるというのもあるし
 骨同士の結合にもよる

「よく我慢できました〜、膝の方は平気そうですね」
「こっちの方が医者っぽくないか」
「あれは、動転しただけです」

 それで相手の骨を抜くのか……恐ろしい

「で、何でお前が此処に居るんだ?」
「龍を抜けたくて、昨日は行動してましたから」
「欺き」
「ええ」

 頭の回転が恐ろしく速いな

「まぁ、吐いてくれることは無いのだろう?」
「ええ、俺も美沙斗さんと同じですから」
「端末を担ってたってだけの人と言う事か」
「はい」

 結局、自分も操り人形
 キリングドールとは上手く例えたものだ

「良いだろう……信じてやるよ
 それに、恭也らから信頼あるなら、何も言わない」
「どうもです……」
「でも、誰かに似てるな」

 ……似てるだけ、似てるだけ
 髪の毛は横の髪の毛を左右に振り分けてあるだけだし
 心配は心配だけど

「空似ですよ、きっと」
「そうかなぁ……ま、良いか」

 そういって、相手も深く考えない様子
 診療が終ったのか、恭也はぐったりしてる
 まぁ、間違って骨抜かれたら、ぐったりもするか
 可愛そうに……

「大丈夫?」
「ああ……」
「しんどいなら、別に無理しなくても」
「大丈夫だ」
「そう……でも、骨入れたの痛かった?」
「いや、そうでもなかったな」

 不思議そうにする
 そりゃあ、自分で幾度も入れていくのだから、ある程度は簡単にいれれるし
 痛みが無い方法も知ってはいる
 己を知って、他を知れるって所だ

「さてと、美沙斗さんが待ってるし、もう行きますね」
「ああ……そうだな」

 恭也は1人ズボンをはき、そのまま歩いていく
 足の痛みは消えたようだ……ま、悪いことじゃない

「矢沢先生」
「ん?」
「もし、本当のこと言うなら、仁村知佳本人が居る時とさざなみ寮関係が全員揃った時に」
「分かったよ……」

 小声でやり取りして、そのまま廊下へと出る

「湿布は恭也くんの名義で多めに出しておいたから」
「ありがとうございます」

 それを使えって事だろう
 後、骨合気柔術だと、骨が抜け易い……衝撃で抜けないように補正はするものの
 それでも、抜けるときは抜けるって事だ

「で、そっちは大丈夫なのか?」
「ま、ご心配なく」

 時を旅するのは人も動植物も同じだ
 月も回っているし……

「さ、買い物買い物」
「……たくさん買うのか?」
「もし、多くなりすぎたら、送ってもらうけどね」

 話してると、待合所まで到着
 受付や薬局で湿布やらを貰い、そのまま美沙斗さんと合流し出る

「もうすぐ御昼?」

 太陽は真上にあるように感じる
 といっても、真上にあるわけじゃないし、南側というべきか

「そうだな」

 時計で確認している恭也
 美沙斗さんもそれを分かっているのか、頷く

「じゃあ、このまま翠屋まで行って、それからにしよう」
「そうだな」

 しかし、意外と昔だとばれないようだ
 ちょっとは似てるけど、ちょっとだけだし……仁村知佳の今の自分の年齢の頃を思い出す人なら
 かなり困った状態になるかもしれないから
 またバスに乗って、駅前まで行く
 人が多いな……服がだぼだぼで少しだけ動きにくい
 やっぱり、シャツだけの方が……ちょっと恥ずかしいな
 足とか見られるのもってほとんど隠れちゃうけど

「どうかしたのか?」
「いんや……」

 ぽてぽてと着いていく
 ちなみに、戻りも子供料金……背が小さいというのは意外と使えるな
 実生活において……普段は送りがあったり迎えがあったり
 色々あったから……




「いらっしゃいませ〜」

 翠屋の中に入ると、ほどよい混雑具合

「あれ? 恭也、如何したの? 美沙斗さんと、此方は?」

 あ、この人、恭也の頭の中、覗いたときに出てきた人だ
 失敗ばかりの科学者というか、初歩ミスをする人
 凄いこともするのに、何処かドジだっけ?
 確か、月村忍さん……

「初めまして滝川蛍と言います……ちょっとした知り合いなんです」
「へ〜」

 そうは言うけど、信じてないみたいな目だ
 ま、仕方ないよな……普通紹介されて信じられるかって所
 それだけ、大変な場所に居たのかもしれない

「かあさんが昼から出るの知ってるだろう?」
「うん、そのために私も緊急呼び出し……フィアッセさんが裏でガンバるって」
「そういうことだ」
「ふぅん」
「新たな居候になる予定ですので、よろしく」
「ええ」

 ……何の反応が無いのは寂しい
 何かあってほしかったな……と、数秒固まって声を出さず指を差してる
 失礼な……分かってるけどね

「嘘っ」
「家族会議の結果な……ちょっとあったから、家で引き取ろうということにしたんだ
 で、お昼だし、飯食いに着たんだ」
「ごめんなさい、案内しますね」

 そう言って、席へと案内する
 4人がけのテーブル席
 奥側でちょっと良いかも……安心安心

「俺は、BLTサンドとナポリタン」
「私は、ほうれん草のパスタで」
「カルボナーラお願いします」
「お飲み物は?」
「コーヒー」
「紅茶で」
「ん〜、ダージリンのセカンドある?」
「ありますけど」
「じゃあ、それのミルクティで」
「分かりました〜」

 さすが客商売……って感心してる場合じゃないかな

「美沙斗さん」
「なんだい?」
「先ほどから視線を感じるのですけど
 不特定多数から」
「……気づいてるなら話が早いけど、如何いう人が多い」
「男の人かな? 年齢問わず、女性も若干混じってる」
「元は可愛いからね、蛍は」
「またまた、ご冗談を……美沙斗さんの方が遙に可愛いのに」

 美沙斗さんが黙って考え込んでしまった
 どうかしたのだろうか?
 まぁ、良いか

「恭也」
「ん?」
「先に携帯とデパート寄らせてね」
「何故に携帯に拘る」
「無いと、仕事できないし……バイトするにしても、恭也の家にかかってきたら困るでしょ」
「居ない場合もあるという事か」
「そう言う事です」

 そう、もしもいなかったら携帯にかけてもらうほうがいい
 そう言う事なのだ……

「お待たせしました〜」

 そういって置かれる今日のお昼ご飯

「は〜、豪華」
「そういえば、あの頃は携帯食で賄ってたからね」
「ええ」

 美沙斗さんと昔を思い出して、苦笑い
 戦士は休む時も食べる時も迅速にって事だね

「一体どんな食生活ですか!?」
「そんなの聞いていいのかい? ご飯食べる気無くすよ」
「そうそう、世の中知らない事もあった方が魅力的ってね」

 恭也を無視して食べ始める
 恭也もそれを聞いて納得したのか、食べ始める
 ま、知らない事があったほうが魅力を感じるのは女性もかな?
 ミステリアスな方が良いってよく言われるらしいし






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