『三日月の表情』





 何時の間にか高町家に居着くようになって、三日
 昨日は寝続けた……ほとんど寝ていたと言っても過言じゃない
 人間寝るという行為を、疲れがあれば、24時間以上寝れるということを知った

「たくさん寝てしまったのは悪いけどさ、それでも、普通そんな所で座禅を組むか?」
「此処が一番神経を研ぎ澄ませるのに良いんだよ」
「でもね〜、しないって、これ」

 私が一番ショック受けた……なんせ、起きたらそこには、前と同じように座っている男
 いやはや、私はその瞬間、悲鳴をあげそうになった
 なんせ、いきなり男が隣に座っていたら、女として恥かしいし

「そんな貧相な体で、俺が相手にするとでも?」

 寝起きで少しボーとする頭にカチンと来る言葉

「そんな貧相な体に抱きつかれて、反応してる恭也に言われたくないわ」
「なんだと!?」
「間違ってるとでも言うの?
 それとも、もう1度してほしいのかなぁ、嫌がりながら、本当は嬉しいんじゃないの?
 このこの、むっつり助平め」

 とりあえず、付け足して言う……必要なことだし

「で、お前は何をしてるんだ?」

 布団を体に巻く
 単に恥かしいからだ……男に見られてるという事実が

「恥かしいんだよ」
「はぁ〜?
 そんな風には見えなかったのに、偉い進歩だな」
「ほっといてよ
 私だってそう思うけど、男女七歳にして同衾せずと一緒よ……見せたくないのよ
 元々他人に付け入らせない生活してたしね
 恭也も似たようなものでしょう……必要以上の接触は避けてる
 それが何よりの証拠、違う?」

 私の問いかけに頷く恭也
 私と美沙斗さんも同じような感じだった
 私の仕事を美沙斗さんはほとんど知らないし
 私も美沙斗さんの仕事を聞いた事は無い
 お互い隠れながらの生活だから
 一緒に暮らしたのもお互いがお互いで、それ以上に踏み込まないテリトリーがある

「美沙斗さんの前ではバスタオル一枚で歩いてたそうだが、男の前でも」
「あれは、部下だからね……美沙斗さんの
 もしも美沙斗さんの部下が何かしたら、間違いなく相手は死んでるよ
 それくらいの脅しはかけたつもりなんだけどね」

 脅しをかけたというか、何と言うかだけど
 そうとしか言えないのだ
 殺気を全開で相手をにらみつけたからね

「さてと、そろそろお前の飯が要るな」
「なんか、失礼」
「かあさんに頼まれたんだよ……起きないなら、誰か傍に居てやれば何時か目が覚めるでしょって」
「それで、誰かが毎回いたんだ」
「美沙斗さんと俺が交代でな……もしも、何か起きても実践レベルでは美由希はまだ
 蛍には勝てない……美沙斗さんもそれを理解して外した」
「偉く評価してるじゃない……私はそこまでポテンシャル高くないよ」
「それでも、お前は強いはずだ……いや、強い
 俺や美沙斗さんをいなすくらいにはな」
「かもしれない……でも、私も出来るだけ無傷で居たいから」
「そうだな」

 ま、ご飯は必要だね……

「じゃあ、食べましょうか……どうせ、恭也も食べてないでしょ
 家族で食べるから、あんたは食べたら駄目とか言われてそうだし」
「正解だ……かあさんやなのは、久遠、美沙斗さんが起きないのを心配してたぞ
 まさか、一日も目が覚めないとは思わなかったからな」
「後で謝っておくよ……私もそんなに寝るなんて思わなかったし」

 本当、思わなかったよ……腕時計で確認して初めて気づいたくらいだし

「最初は一晩だったはずなんだけどなぁ……油断してるなぁ」
「なんの事だ?」

 前を歩く恭也から声がかけられる

「私がそこまで疲れたのもそうだけど、油断してるってこと」
「そうか……気が緩むのは悪いことじゃない
 それに、まだお前は、16歳なんだぞ
 やり直しも利くし、何かしたいなら手伝えるだけ手伝ってやるから」
「いいよ……そんな事……それに、したいことって言われても
 本気にされても困るしね」
「なんだ?」
「普通の生活がしたいんだよ……ね、本気にするのには馬鹿げてるでしょ
 普通でいた生活というのに憧れてる
 ま、今の段階では無理でも、たくさん力を使えば可能なのかもしれないけどね」

 そう、自分が血を流した上で、龍を全て殺していけば……可能なのかもしれない
 龍の暗部など他の事を全て見て場所を吐き出しては殺しを繰り返せば、相手も有限じゃないだろうし

「ま、それも難しいというよりも、普通の生活を知らないから無理なんだけどね」
「……普通の生活か
 此処に居る限り難しいかもしれないな」
「そうかもね……私には理解出来ない事だわ」
「そうか……それはそれで苦労しそうだな」
「かもしれないわ」

 楽天的に答えると、テーブルに座る
 足や体に浸透していたダメージは全て去ったみたいだ
 多分、恭也たちがいう所の貫というのや、徹というのがあったからだろう
 中を破壊されないまでも、振動が伝わって中に微細な痛みを誘発してたってことだ

「さてと、どうぞ」
「どうも、ありがとう……」

 驚いてる顔の恭也が居る

「普通に御礼が言えるんだな」
「言えないと可笑しいでしょうが……全く、失礼な」

 食事の準備してもらったんだし、それくらいは言うわさ

「それで、ティオレさんは?」
「あの人は美沙斗さんとリスティさんと買い物中だ
 CSSの卒業生も幾人か引き連れてな」
「なるほどね……と言う事は、私は行かないほうがいいな」
「何でだ?」
「分からない?」

 不思議そうに聞く恭也
 私からしたら、言葉自体に驚いてしまっているけど

「私は会わない方が良いんだよ……あの人に会ってしまうのが怖い
 そして、あの人とかかわりの持つ人と会って、私が何を言われるかが怖い
 そう言う事だよ……だから、アメリカには絶対に行きたくなかったし、日本に居るのもあまり良くないと思ってる
 龍もそれは分かってるから、仁村知佳本人には手を出さないでしょうね
 近くに居たとしたらって思うから」
「なるほどな……差し当たっては、どうなるんだ?」
「どうにもならないわ……多分変わらない」
「変わらない?」
「そ、こうやって日常を送ることの重要なことだと分かれば私は
 そのぬるま湯のような、優しい心と温かい生活を渇望する
 今がそうであるように……恭也、いい事を教えてあげる」
「なんだ?」
「日常は何時か打破される」

 そう、それは私がそうであったように……私のお母さんは……
 私の目の前で殺された……私を庇ってとかじゃない
 実際には私の力の巻き添えとなって死んだ……だから、殺されたというものじゃない
 あんなに私に愛情を注いでくれた人を私は殺してしまった
 だから、何処か壊れた心と自分の寂しさ

「どう言う事だ?」
「誰かの結婚やら、誰かの死去などで変わっていく
 そりゃあね、此処の皆はまだ若いから先だけど、真っ先に死ぬのは、恭也か美由希
 最も可能性が高いのはね……継いでなのはちゃん
 最後はレンさんや晶さんになりそうだけどね……私からしたら、そんな順位付けがされる」
「なぜ、なのはが先だ?」
「決ってるじゃない……なのはちゃんは貴方達の弱点だから
 私なら、通学途中などに拉致って相手を呼び出し、相手の目の前で殺し
 そして、冷静じゃない、貴方達2人を殺す……ほら、簡単」
「なっ」
「暗殺者として的確な所だと思うけどね」

 恭也は納得したのか、頷いてる

「そうだな……忘れてたというか、大丈夫だろうと過信してるかな」

 私は目を閉じて……少し考える
 如何いおうか

「家に居る間は、恭也が護れないなら私が護るから」
「何を?」
「恭也の家族くらいなら護れる……と思う」
「思うなのか?」
「絶対なんて言わない」
「それに如何いう心境の変化だ」

 最もな意見だ……もしも、私が恭也と同じ立場なら言うだろう

「……私さ、母親だった人を私の力の巻き添えで殺したんだよね」
「なっ」
「恭也だったら下手なこと言わないと思うから言うけど、美沙斗さんにも話してない事
 私は、親殺しということもして、そして、今がある
 龍を抜ける決意をしたのも、相手の心に嫌気がさしたというのもある
 表の暖かさに憧れたのもある
 でもね、何時か、私は何かでこの世界の人たちに何かをしたい
 まだ、若いからやり直しが利くとかそんなの関係無い
 ただ、私が何かして、何か出来るなら、ほんの少しでいいの
 目の前にある物を守れるでもいい、壊すでもいい
 私が、私の体がつかえるなら、つかえたらって……恭也は分からないかもしれないけどね」
「いや、俺だって、もしも守るなら……少しでも相手を護る方法をとってるつもりだ
 相手を殺すかもしれないという可能性を考えながらも」

 分からないでも無い事……それは、お互いに死ぬ可能性を高い位置におきながらも
 それでも生還するという意思と相手を護るという決意

「恭也が狙われたなら、私が護ってあげるよ」
「お前に護られるというのも不思議な感じがするな」
「大丈夫だよ、同じ学部学科に入れてくれるらしいし
 同じ2年からの留学生扱いだから」
「良く知ってるな」
「そこに紙が置いてあった」
「……そうか」
「お母さんの欄もお父さんの欄も何も無かったのに、意外と不自由しないのね」

 恭也は私を見て、少しだけ考え込んでいる

「何?」
「いや、多分、ティオレさんやアルバートさんが頑張ってくれたんだろう
 偽装工作とか他にも色々」
「感謝してもしたりないね」
「……お前は、持っている力を悪用さえしなければ、大丈夫なんだと思うぞ」
「それは、恭也が思う事でしょ……私は根が単純だし、駄目だよ
 信頼を置いてる人も、少ないしね……恭也と美沙斗さんくらいだよ
 皆を信じきってるわけじゃない」
「俺を信頼してると」
「これでもね……美沙斗さんが恭也と美由希さんは気にしてたの知ってるから」
「そうか」
「そうよ」

 暗殺者時代の時といえばいいのか、美沙斗さんは、そのときでも2人の子供を気にしていた
 1人は恭也という子、もう1人は自分の子の美由希さん
 2人のことを常に気にしていた……まっすぐだからこそ、何かと危ない人でもあった
 それでも、私を見て、美沙斗さんは少しだけでもと手を出したのだ
 『似ている』という心が読めた
 それが誰かであるかも、私には理解出来たけど……それは言わない方がいいだろう
 私は、似てないと反発して、こうなったわけだし

「根っからの明るいというわけじゃないんだな」
「まぁ、それはね……私はこれからの人生を如何するか考えないといけない
 どうやっても狙われてくる人生にはなるでしょうしね」
「お前は、それで休まるのか? ずっと狙われる生活を」
「……どうだろうね」

 私には分からない
 今が安全だから、未来永劫大丈夫……そんなの勝手な妄想だ
 だったら、私は、それから先を大丈夫なように手を打ちたいし、生きていたい

「自信が無いか?」
「私は、皆を護れるほど強くもなければ、弱い存在なんだよ
 自慢にもならないけど、殺す事にかけては一流でも、守るという立場は無かった
 だから、護るに関しては三流以下だよ」
「……それでも、俺たちを護ると断言したんだったら」
「護るよ……いや、相手を見つけ次第殲滅するから」
「俺や美由希に出るなって事か」
「ええ……」

 私はそう言って、ご飯を食べ終える
 恭也も食べ終えたみたいだ……ま、それはいいけど

「だが、俺だって」
「違うよ……恭也は護るという時だけ、最強の力を発揮する
 だから、殲滅には向かない……そんなのは私に任せておいた方が幾らだっていい
 いや、私なら傷ついたところで悲しむ人は居ないから」
「悲しむ奴なら、うちの家族がしてくれると思うが」

 ……それはそれで嬉しいが、勝手に想像して言うのはどうかと思う

「恭也、それは、他の皆から聞かないと分からない事だよ
 それだったら、恭也はどう思ってるか分からないよ」
「俺だって、お前が傷ついたり、亡くなったりしたら、悲しむだろう
 お前ほど、早くに俺の前に現れ、全てを知ったかのように言い
 そして、今、こうやってしてる人は少ないだろうな」
「……そうかもしれないね
 恭也は狙われてる危険性が高くとも、今こうしてるんだもんね」
「ああ」

 恭也にはそう言う実績があるのだ
 だからこその強みだ

「蛍」
「何?」
「お前の名前で呼んで良いか?」
「良いよ……皆、蛍で通してるでしょ」
「いや……別に気にするな」

 なんだかなぁ
 でも、恭也に名前で呼ばれるのは不思議だ
 なんか、本当に

「片づけくらいはするね」
「ああ、俺は此処に居るから」
「分からないなら聞くわ」

 そういって、水の中に洗い物を入れる
 それだけで落ちが変わるだろう
 美沙斗さんが教えてくれた……

「タオルで拭いて戻した方がいい?」
「ああ」
「新しいタオル何処?」
「こっちだ」

 そう言って、置いておかれるタオル
 恭也の目の前におかれてるあたり、片付けを全て私に任せるなんて事は無いみたいだ
 お皿などを棚に戻すのはしてくれるみたい
 お皿を洗って、網棚の上におくと、案の定恭也がしてくれた

「ありがとうね」
「いや、家族なら当たり前だと思うが」
「そうかもね……」

 多分恭也は私の中にある変化に何かしら気づいてる
 私自身が先ほど気づいたのだから、恭也本人も何か言ってきてもいいはずだ

「……」

 しばらくの沈黙
 洗い終わったのを棚に戻しながら、恭也は小さく呟いた

「丸くなったな」

 ……太ったって事かな
 そりゃあ、此処に来て、食べてる気がしないでもないけど
 女性に、太ったって……
 無意識に、私は小刀を恭也に投擲してた……5本ほど
 何時取り出したかなんて、腕に数本仕込んでるだけだから

「何をする!?」
「太ったなんて言うから怒ったに決ってるでしょ!!
 女性には、言ってはならないワードがあるの!!! 特に『太った』とか『不細工』とかはね」
「いや、お前の精神が丸くなったなぁって
 棘なきえたというか、何と言うか……言葉には困るがそんな感じだ」

 どんな感じだ、それは?
 などと突っ込んでも仕方ないので、言わないことした
 まぁ、言って、どうこうなるわけじゃないし

「もう良いよ……とりあえず、女性に太ったは言わない事
 言ったら、私が許さないよ」
「分かった分かった……それで、1つだけ良いか?」
「何?」

 洗い物を終えて、恭也を見る






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