『朧月の眠り3』













「それじゃあ、高町くんや赤星くんと付き合ってるわけじゃないのね?」
「はい、私なんかじゃあ相手にされませんよ〜
 小娘ですし……」

 この会話すでに20回は超えてる……そろそろ疲れてきました
 で、事務室へと到着して、ドアをノックすると、柊真琴さんが出てきた
 やっと着いた〜、学校について、更に20分は同じ工程を繰り返して、来たよ

「お待たせして申し訳ありません」
「いいのよ〜、攫われたって聞いて、驚いたくらいだもの」
「正しくは連れて行かれたですけどね……私は悪くないのに
 美味しいご飯の場所教えてもらいましたし、いいのですけどね」

 それに、お金持ってるし……ティオレさんの方に学費を渡して、それを元にしてもらったのだ
 それ+他にもって所だけど、それは、まぁ、色々とあるのだ
 政治資金というのから、他にも多々あるのだろうし、使うのがいいところなら問題無いだろう

「とりあえず、これとこれとこれは書き込みましたけど、此方は」
「ああ、それは、いいわ……間違って渡しただけだし」
「そうですか……それで、教科書のことなんですけど」
「高町くんから見せてもらったらどうかしら?」
「そうですか……分かりました」
「……蛍さん」
「はい?」
「頑張ってね……外にはたくさんの教科書を貸してくれる候補生が居るわ
 教授たちには、すでに連絡回してあるから、どの講義出てくれても良いわよ」
「ありがとうございます……2回生の講義に拘らないといけないのかと思いました」
「そんな事無いわよ」

 そう言って、私はそのまま回れ右をする
 あ〜、なんか人がたくさん……柊真琴先生、助けて

「じゃあ、頑張ってね」
「先生、何も知らない学生を放り出すのですか?」
「大丈夫よ、あなたなら、涙目でお願いなんてしたら、男たちが何でもしてくれるわよ」
「……それしたら、私は夜中の町で働いてることになりますよ
 それに、飛び級しても子供なんですし、助けてくださいよ〜」
「大丈夫よ、きっと」

 その根拠は何処に?

「ほら、来てくれたじゃない……」
「失礼します」

 ドアをノックして入ってくる男性、もとい知り合いで親友で弟子

「高町くん、お姫さまがお待ちよ」
「お姫様って柄じゃないと思いますけど、とりあえず、ご迷惑おかけしました」
「私、迷惑でした?」
「そんな事無いわ……じゃあ、今日はお疲れ様」
「はい……高町くんは何で此処に来てるの?」
「かあさんが、『蛍さんを1人置いてきたですって!! 何考えてるのよ!!』って吼えてな」
「高町くんのお母さんがそう仰ったの……分からないでもないわね
 それに、間違いでもないだろうし」
「でも、私お姫様って柄じゃない……どちらかと言えば、小娘とか言われる方が多いし
 恭也なんて、小娘小娘って連呼するし」
「あまり苛めたら駄目よ、高町くん」
「……はい……では、これで失礼します」
「失礼します」

 頭を下げて、扉から出る
 外は人だかり……で、人だかりに集まる人だかりで人が多い
 何人居るんだ?

「ね、ね、高町くん、これからカラオケに」
「すみませんが、この子の知り合いが連れて来いって言われてまして」
「え? 私の知り合い?」
「美沙斗さんだ」
「ああ、美沙斗さんかぁ……」

 多分嘘も方便って所だろうな……

「そっかぁ、残念……分かった」
「ごめんなさい、そう言うわけでして……今度お時間空いた時にお願いしますね」
「は、はい」
「勿論です」
「ああ、任せてください」

 良かった……騙せてって言い方は嫌いだけど、上手くいって
 校門のところまで、まぁ、それで乗り切ってると、車が止まっていた
 黒塗りの車

「ノエルか」
「恭也さま、蛍さま、お待ちしておりました……忍お嬢様が出来たらお願いって言われまして
 私も、時間が空いてましたので」
「そうか……じゃあ、頼むな」
「はい」

 車に乗せられる……1度考えてしまうのは、相手の思考を書き換えて、そのまま自爆とか
 そういうのも可能性的にはありうるのだ……怖いことだけどね

「ノエルさん、ありがとうございます」
「いえ、蛍さまも高町家の一員ですし、私にとっても、嬉しい限りですから」
「そうですか?」
「ええ」
「でも、恭也が鈍いの悩んでるんじゃないの?」
「そんな事ございませんよ……忍お嬢様は毎回悩んでるようですけど」
「……ノエルさんは?」
「それは、秘密ということで」
「……ノエルさ〜ん、教えてくださいよ〜」
「いい加減にしろ、この馬鹿娘
 他人にまで迷惑をかけおって」
「何よ〜、恭也より遙にマシでしょ〜……それに、勇吾さんは喜んでいたよ」
「あれは、喜んでいたというよりも、
 困っていたとも言うんだ、大馬鹿娘」

 酷いよね〜、全く……しかも、恭也って私に容赦が無いよ
 何で、こう、苛める言葉を言うかなぁ……というか、逆かな……

「もう、如何でもいいことかもしれないけど、私を馬鹿娘って言うの辞めてくれないかな
 恭也に言われると結構傷つくんだよ……恭也の方が馬鹿っぽく見えるし」
「酷いぞ、それ」
「蛍さま、それは流石に言いすぎでは」
「って、その言い方だと、ノエルもそう思ってるのか?」
「いえ、そう言うわけじゃありません」
「何で目をそらす」
「気のせいです」

 ノエルさんも誤魔化すって事上手く出来ないなら言わない方がいいのに
 でも言っちゃうんだね……私は楽しい限りだけど

「もうすぐ着きますので……翠屋で桃子さまとティオレさまと美沙斗さまがお待ちですし」
「そうなんだ……どうかしたのかな?」
「服装についてじゃないか?」
「これは、桃子さんのお勧めなんだよ〜、そんな事言う奴は駄目駄目だよ」
「かあさんか、それにしたの」
「うん、私もこんな服を着たことないし」
「だがなぁ、お前、大学で如何いう風になってるか分かってるのか?」
「噂? そんなの気にならないよ
 第一、恭也と私の関係がそれはもう人様に言えない内容のものなら、私も考えるけど
 そんな事無さそうだしね」
「……」
「確かに、そうなったらなったで、忍お嬢様が子供の頃に戻る機械とか言って作りそうですし」

 それはそれで、私がショック受けそう……

「いや、そうじゃなくてだな……」
「何?」
「俺が変態のレッテル貼られそうじゃないか」
「それは、恭也の否定の仕方が弱いんじゃないの?」
「何で、俺がそこまであしざまに言われないといけないんだ」
「ん〜、でもさ、恭也が女性に少しでも興味を示してたら、私なんか相手にならないって分かってるのに
 全く、そんな素振り無く、しかも、あれじゃあね〜」
「何だ、何を読んだ?」
「読んでないよ……あれは、周りの人たちが可愛そうだって思ったんだよ
 勇吾さんは犠牲者になるかもしれないけど、そこまで嫌がってる素振り見せなかったし」
「赤星は、妹とか居ないからな……弟だけだろう
 それに、あっちには姉妹が居ないから、蛍を見ると、妹みたいに感じたのだろう
 それが、両親にも認められた理由だろう」
「……私が姉妹……勇吾さんの妹かぁ
 それはそれで、可愛がられそう」

 そんな感想を持ってしまうあたり駄目なのかな
 でも、一般家庭の姉妹というのも憧れてしまう……まぁ、此処には口うるさい兄が1人生息してるって感じだけど

「忍お嬢様もお待ちしてますし、その、さざなみ女子寮の真雪さまとリスティさまも珍しく」
「確かに珍しいな」

 ……うそっ!! 何で!?
 矢沢医師は言わないだろう……と言う事は!!
 まさか……いや、そんな事は無いはずだ
 それに、すぐにはばれないはず
 性格だって似てないだろうし……

「着きましたので」

 下ろして貰う
 ノエルさんは車を置いてから来るって事なので、先に翠屋へと歩いていく
 でも、如何して……あの人と会うのは避けたい
 だからといって、ずっと会わないのも寂しいものがある
 だからって、会って何か言いたいわけでも無い
 ただ……何か言ったとしたら、リスティさんから真雪さんへと行ったのだろう
 情報が……そうでなければ通らない

「いらっしゃいませ〜……なんだ、恭也か」
「初めまして、滝川蛍と言います」
「あら〜、可愛いお嬢さんね〜、恭也くんの彼女?」
「違います……しかも、さっきと敬称ついてるとついてないし」
「ふふっ、気にしたら負けよ」

 こっちって案内された先には、驚愕で目を開いてる真雪さん
 私の姉と言える人……仁村知佳の姉、仁村真雪
 お互い何も言わない……いや、でも、言った人が居るかもしれないのは確か
 ただ、私から言うのも駄目だ

「初めましてですね」
「ああ、そうだな」

 お互い緊張してる……いや、私は若干震えてる
 なんせ、このこと事態が予想以上の事態だから
 逃げたいと思う反面、下手な行動は、相手へとバラすことになる

「恭也、座ったら」
「あ、はい」
「蛍さんも」
「はい……滝川蛍と言います」
「そうか」

 ジーと見られてる……目を閉じる
 スカートの上で指先にレースを当てて、落ち着くために努力する
 冷静に、クールにだ……此処でのミスは許されない

「初めまして、仁村真雪だ」
「よろしくお願いします」
「ああ……本題だ」

 騙された……そう思えるほどに鮮やか

「お前、何者だ?」

 目を細め、そして、見ている先に何があるのか
 それ以上に、私は追い込まれそうだ……たった数日しか居ないけど
 此処に目の前に、仁村知佳という人を最も知ってる人が居る
 それが、最も傷つくことなのに……

「何者って、普通の恭也の所の居候かな」
「そういうんじゃない……根本だ」

 言い逃れは出来ないか……それとも

「滝川蛍なんて偽名じゃないのか?」
「本名ですよ……ほら、仮学生のものですけど」

 身分証明するものを見せる……これで信頼されなかったら、どうするかな

「それだけで認められるほど、私も人間できてないんだわ」
「仁村さん、落ち着いてください」

 1人扉のところに居る人

「薫か……お前だって、異質なことに気づいてるんじゃないのか? リスティもだ」
「いや、ぼくはさっぱりだよ……だからこそ、真雪を連れてきたんだ」
「うちは、用事で来ただけじゃ……那美に頼まれてな」

 ……私へと視線を向ける

「確かに、にている」
「はい」
「そうだね……さて、滝川蛍、いや、元龍の暗殺者よ、何者かな?」

 ……小さな声で聞かれる
 いやだ、言いたくない……

「それ以上は辞めてもらおうかな……蛍が嫌がっているんだ」
「なっ!?」
「え?」
「はっ」
「それとも、俺は大量虐殺なんて怖くないんでね……それこそ、蛍を護るためならなんだって出来るさ」

 しろう……

「士郎、駄目」
「しないさ……でも、脅すだけだよ」

 士郎の目は、マジで怒っている

「彼女は言いたくないと思っているのに無理に聞き出すつもりかい?
 16歳の少女に……それこそ、非人道的だと思う俺はいけないのかな?」

 士郎の目は明らかに3人の動きを捕らえてる
 少しでも変な動きをすれば、相手を倒す……間違いなく
 止めるべきは私

「ごめんなさい、言うつもりは無いんです……」
「ほ〜、それで納得しろと」
「そうだね……それだけ似てて」
「そうやね」

 ……それでも、私の口からは言えない
 言ってしまえば、私はここに居てはいけない気がするから
 あの人は、あの人の成長があり、私には私の成長がある

「言えません!! 言いません!!! 私には、言うつもりも意思も無いですから」
「そうか……それでも、聞かないと納得できないな」
「仁村さんが如何いおうとも私は言いません」
「ほ〜」

 その目には明らかに不信感があり、私だって不信感がある
 相手を信頼しても、信頼しなくても、どちらにしても言いたくないこと……仁村知佳のコピーであること
 士郎くんは思い出してもらうために言った……それでも、戦闘術のコピー
 全てを思い出しても、気にならない事
 私は、1つ1つ遺伝子研究の所を潰していった……秘密裏に
 だからこそ、龍は私を疑わなかったし

「さざなみ寮に来い……そこで話を聞いてやる
 確かに此処だと人が多いからな」
「言いませんよ」
「その口を割らせてでも言わせる」

 仁村さんはそう言って、私の手を持つ
 と、不意にその手が払われた……士郎くんが私を庇うように立っている

「近づかないで貰おうか……仁村真雪、リスティ・槙原、神咲薫」
「何故って聞いてもいいかな?」
「蛍を連れて行かすことはしない……彼女がおびえ、辛い顔をしてるのに
 何もしないなんてしたくないからだ……連れていかせはしない
 彼女が行くと言うなら、連れて行っても良いが、行かないそぶりを見せてるのに連れて行くのは誘拐と変わらない」
「そうかよ……とりあえず、私は帰る」

 仁村さんが出て行き、リスティさんが此方を見ていたけど、何も言わずに出て行った
 神咲さんは椅子に座って、紅茶とシュークリームを頼んでいる
 何気に自分の分だけは確りしてる人だ

「ま、うちは何も聞かんよ」
「そうですか……」
「良いの?」
「うちが聞いて答えるくらいなら、聞いてる
 でも、うちが聞いていいことと悪いこともあると思う
 何時か話してくれるのを待つよ」
「それが一番嬉しいです」

 話してしまえば、遺伝子に縛られてるのと一緒だ
 結局此処に居るだけでも、同じだと思うのに……

「士郎くん、ありがとう」
「当たり前だろ……蛍と俺なんだから
 もしも、お互いどちらかが傷つきそうで、助けられるなら助ける」
「そうだったね……」

 どんなときでも、2人なら切り抜けられるさって誓い
 お互いがお互いだからこそ、出来ること

「1つだけ聞いても良いかな」
「何ですか?」
「何で言わないのか?」
「私が何者かで、皆の関係が壊れるのが怖いから……」
「そう……辛いこと聞いてごめんね」
「いえ」

 神咲薫……知っているデータをもとにしたら、剣術家
 その中でもトップクラスの実力の持ち主だろう
 裏では、中ほどって所か……恭也クラスの者は極端に少なくなるし

「話せる時になれば、私から伺います……私がもっと強くなってから」
「そうかい……分かった
 蛍さんでいいかな?」
「はい」
「またね」

 全て食べ終えて、そのまま歩いていく
 その姿は大人の人だなぁ……驚いたけど
 それでも、切り抜けられた

「ほ、蛍……どしたんだ!?」

 士郎くんが驚いて私を見て、すぐに頬にナプキンを手にして当ててる
 泣いてる……

「傷つけたんだよ……私が、私自身の言葉で……
 でも、ああ言わないと、私が……」
「大丈夫だって、蛍は蛍だから、なっ」

 抱きしめて、私の顔が胸に当たる
 士郎くんから、うっすらとコロンの香りがする
 此処がお店だと分かっていても、泣き崩れた
 自分の全てが駄目な気がして……逃げたくなった

「大丈夫よ……後で言えば分かってくれると思うわ
 優しい子ね……蛍は」
「ティオレ」
「……かわいそうに」

 優しく撫でられる頭が気持ちよくて、少し嬉しい
 それでも、悲しさもある……

「でも、傷付けた……私の姿が……」
「それがいけない事じゃないのよ……あなたはあなた」

 ティオレさんは優しく子供をあやすように言ってくれる
 士郎くんは私を抱きしめたまま、受け入れてくれてる
 それがとても嬉しい……

「ひっく」

 泣いてる私は、何処までも弱い
 それを言ったのは師匠だった……お前が辛いなら護ってもらえる人を傍に居させるか
 強くなれ……己の限界を作らず、1つでも頼れるものがあるなら
 強く、強くなれ……と
 居てはいけない存在……それが全て私だとは言わないけど、それでも……
 私は居てはいけないのだろうか?

「私はここに居てもいいのですよね?」
「ええ、良いわよ」
「居たらいいじゃないの……」
「居た方が嬉しいかな」

 桃子さん、ティオレさん、忍さんの言葉……認めてもらえてる
 良かった……そう言ってもらえる嬉しさがある

「恭也も何か言ってあげなさいよ」
「ま、居たいなら居たら良いんじゃないか? 俺は反対しないぞ
 連れて来たのは俺だしな」

 そりゃあ、嬉しい言葉で……

「大丈夫だからね……何時か現実と向かい合わせになるときが来るものよ」
「すみません、取り乱して」
「悪いことじゃないわ」

 ……泣くなんて情け無い事かもしれない
 仁村真雪と仁村知佳だけには会いたくなかった……それが悲惨な結果に繋がるとかじゃなく
 私はコピーで相手はオリジナルだから……
 オリジナルより上手く出来てるコピーなんて要らない
 私はコピーなんかじゃない
 でも、否定しても、似ているから否定できない
 それがとても辛く嫌なのだ

「それにね、貴女が何に苦しむか分からないけど、それでも、分かっていて、傷つくと分かっていても逃げなかった
 あの場から走り去ろうと思えば出来たのにしなかった……違う?」
「違わないと思います」
「だから、それで良いのよ……まだ、確りと立ち向かう勇気がもてないだけよ、きっと
 これからがあるわ、きっとね」
「分かりました」

 頷いておく……分かりましたとしか言えないけど
 それでも、それは頷いて正解だった気がする……
 本当に助かると言っても過言じゃないから

「さて、士郎、お願いね」
「ティオレ……何故に離れる?」
「いや、だって、お邪魔だし」
「別にいいから……」

 士郎くんは何処か照れてる
 私はゆっくりと離れて、瞼を閉じて開ける

「ありがと」
「いや、これくらい気にしないでくれ……」
「それでも、ありがとうくらいは言わせて……士郎くんは優しすぎるよ」
「ありがと」

 士郎くんは少し照れてるのか、私から目をそむける
 頬が真っ赤だ
 恭也は少しだけボーとこちらを見ている
 どうかしたのだろうか?
 振る振ると首を振って、何か誤魔化してるかのことだ
 どうかしたのだろうか?






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