『満月の微笑み2』
















 あの初体験から、2週後の今日……定期検査の日
 フィリス先生が卒倒し、矢沢先生が来て、卒倒した……2人の医師が卒倒したために
 大学病院は一時騒然となった……私のせい? 私のせいなの?

「に、妊娠してる」

 その一言が、周りへと浸透していくスピードは音速だ
 早いね〜、ちなみに診断結果に付き添っていたのは、何気に知佳さんだったりする
 そこで手を合わせて、嬉しそうにしてるのがむかつきを覚える

「晴れてママさんだね」
「知佳さん!! それよりも、問題は、誰が父親かって事ですよ!!!?
 こんな少女にいただけないことして」
「……」

 ただいま、翠屋でバイトしてますよ

「あはははは」

 私と知佳さんは、何も言えず、そのままだ

「それに、蛍さんは、凄腕の人ですから……可能性なんて……」

 そこで思い当たったのだろう……口をパクパクしている
 酸欠した魚みたいだ……魚って酸欠したっけ?

「恭也くんですか!? 恭也くんなんですね!!」

 がくがく揺らされてる知佳さん
 私は、のんびりと、矢沢医師に話を聞いてみることに

「それで、私は生んでも大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫だろう……それよりも、あっちは助けなくていいのかい?」
「私には、知佳さんやフィリス先生が見えませんから」
「それは、見てないというのでは?」

 私の後ろのことだから……しかし、本当に妊娠してるとは
 笑顔を浮かべるとかじゃなく、お腹を撫でる

「元気な子が生まれたら良いよ……」

 私が、恭也と士郎が護ってくれるから
 2人のお父さんと1人のお母さんになっちゃうけど……それでも、愛情は注げるはずだ
 1つ気がかりなのは、なのはちゃんだけど、やっぱり私を慕ってくれてる
 なんていうか、それはそれで嬉しいのだけど、恥かしいというか何と言うか

「でも、これで、なのはちゃんが叔母になっちゃう」
「悲しむのはそっちなのかい?」
「だって、あんなに可愛いのに、叔母ですよ……まだ小学生の叔母なんて
 そりゃあ、生まれる頃には中学生ですけど、叔母なんて……」

 私はそっちの方が申し訳なく感じているのだ
 先になのはちゃんが高校に入るまでとか計画しておくべきだったかも
 いや、あの時はもう抑えようも無かったし……
 ちなみに、知佳さんとフィリス先生は、電話をかけている
 周りにかけてるというのはわかるけど、翠屋や他さざなみ寮や、メールまで打ち始める始末

「こら、2人とも!! 此処は病院なんだぞ、携帯は電源を切りなさい」
「ううっ、でも、こんなおめでたいこと言わないと」
「おめでたいかどうか置いておいて、美由希さんたちに言わないと」

 ……そういえば、皆して、恭也を好きな人たちには言ってなかった
 晶さんやレンさんには勿論のこと……赤飯の時も、桃子さんが自ら炊いてたし

「ふふっ」
「あっ」
「ほぅっ」
「へぇ」

 3人が声をあげるので、私は周りを見る

「どうかしたのですか?」
「いや、さっきの表情はかわいかったな〜って」
「そうですね……こう、女性の慈愛に満ちた微笑というか」
「そうだな……それに近いね」
「そうですか……急に声を上げるから驚いちゃいました……」

 さてと、そろそろ大学に顔を出さないと
 といっても、本を返すだけだけど……日本史に置いての、ちょっとした資料で返却は明後日なのだが
 此処からだと大学が近いから返しにいくのだ
 知佳さんも付いていくとか言ってるし……

「さてと、じゃあ、私はそろそろ行きますね」
「ああ、お疲れ様……受付にはまわしておいたから」
「はい」
「そうそう、母子手帳なども忘れないようにね」
「えっと、それって」
「産婦人科の方にはこっちに来るように回しておこう
 何かあっては遅いしね」
「了解です」

 HGSの子は早くに死んでしまう場合が多い
 それは、力に体が耐えられないから……そのために、死ぬ確率が、普通の出産した子より上がるのだ
 それが、どれだけ幸福か不幸かなんてわからないものだけど
 そのまま廊下を歩いていって、受付で、受け取る
 あれ? そういえば、知佳さんが居ない
 まぁ、良いか……大学の図書館に行って本を返す
 自分のカードでいくつか借りたり返したりしてるので大助かりだ
 本を全て返し終えたので、外に出る

「もうすぐバレンタイン?」

 ああ、そういえば、そんな日なのか? まだ2月上旬だし、もう少し後のことだからね

「ほら、愛しの旦那さまの所に帰るよ
 折角お迎えも着てるし」

 知佳さんが私の手首を掴んで言う
 その顔は、凄く嬉しそうというか楽しそう……

「いや、迎えって……」
「大学の門のところ行こう」

 そう言って、歩いて行くと、そこには仁村真雪さんが居た
 あの時から、1度も会ってなかった……怖い
 体が自然とふるえそうだ

「前の時は悪かった……ちょっと、言い方も悪かったしな
 その、私も反省はしてるつもりなんだ」
「いえ、私こそ話せなかったことごめんなさい……でも、嫌だったんです
 その、真雪さんに冷たい目で見られるのが」
「そうか……悪い」

 謝り方は粗雑でも、心が届く
 本当に大切だからこそ、疑い、相手を見極めようとする
 多分、知佳さんが帰ってくるからってのがあったのだろう

「全く……知佳もおせっかいだな」
「そんな事無いよ……それに、お姉ちゃんだって反省してたから、謝ったんでしょう」
「うっ」

 知佳さんに丸め込まれる真雪さん
 何ていうか、姉妹逆転の図だ

「ほら、行くぞ、乗れ」

 そう言って、車を開けてもらった……といっても、知佳さんがドアを開けたのだ

「どうぞ」
「え? でも、先に乗られたら」
「母体は大事にしないとね……生まれてくる子は祝福されるべきなんだよ」

 そういって、私を中に入れて、そのまま車が発進する
 良かった……誰も居なくて
 車が発進してから、しばらくは、誰も話さなかった

「それで、母体って事はおめでただったって事か」
「ええ、まぁ」
「誰の子か聞いても良いか?」
「恭也です」
「ほぅ、青年のか……なるほど、あいつも男だったって事だな
 ノーマルだったようだし、周りも一安心だろう」
「そうですね……桃子さんやティオレさんが喜んでましたし」
「そっか……ま、知佳も喜んでるし、私も内心驚いてるけど、嬉しい限りだよ」
「その割に驚いてないように見えるよ」
「そりゃあ……知佳が妊娠してたら、相手を見つけて、木刀を血塗れになるまで殴ろうとか考えてたけど
 そんな事無いなら、全く大丈夫さ」

 ……それって、私だったら、そんな対応しないって事か

「お姉ちゃん、私、もう二十歳をすぎた大人なんだけど」
「そんな事知るか……二十歳を過ぎようが、大人になろうが、妹であることは変わらないんだからな」

 真雪さんにとっては、知佳さんは知佳さんで、愛するべき妹なのだろう
 そう言う事にしておこう……うん、そう言う事なのだろう

「それで、恭也の奴はそれ知ってるのか?」
「電話をかけたしね……翠屋では今、凄い騒ぎだろうね」
「そっか……よし、私もさざなみ寮帰ったら、皆に伝えておいてやる
 翠屋で1時間は騒がしいだろうしな」

 そういって、車のスピードを上げて、駅前で下ろしてもらう
 そのまま、さざなみ寮へと帰るらしいし……私と知佳さんとで歩いていこうとすると
 走ってくる人……

「ふぅ」

 全く呼吸を乱さず、此処まで走ってきたようだ
 恭也である

「どうしたの?」
「本当?」
「かあさんが、急に駅前に向かえに行けって……今、凄い騒ぎになってるしな」
「へ〜、でも、恭也くんが中心じゃないの?」
「それが、ティオレさんが他の人たちも呼んでしまっていて」
「どれだけ呼んだんだか」

 ティオレさんの事だから、CSSの人とか、後は、色々知り合いにも声をかけたのだろう
 しかし、私が妊娠ってだけで、そこまで騒がしくなるものなのだろうか?
 そこが一番おかしな点のようにも考えられる

「とりあえず、行くぞ……」

 そう言って私の手を取る
 知佳さんが、ニコニコ笑いながら

「本当お似合いね〜」
「どう見ても、兄妹のようにしか見えませんって」

 とりあえず、突っ込んでおいて、私はそのまま連れられて歩く
 しかし、恭也とこうやって歩くことなんて無かったし、ちょっと新鮮だ
 そのうち士郎くんとも歩いてみよう……どうせ兄妹のようにしか見られないだろうし
 新たな一面が発見できるかもしれない
 今の、恭也くんは少し頬が赤いし……可愛いんだ
 しばらく、歩いて行くと、店の前に着く
 確かに人が一杯だ……いや、野次馬が多々居るって所か

「すみませんが、通してもらえませんか? お店のもので」
「すみません」

 テレビ関係者?

「あの、此方の関係者ということは今、店に居る方も知ってるって事ですか?」
「知ってますがプライベートのことなので、お話することは無いですから」
「そうですか……」

 あ、すぐにひいた

「君、可愛いね、芸能界に興味ないかい?」
「え?」

 私? じゃないな、多分知佳さんだろう

「私?」
「いや、そっち」

 知佳さんが聞いて、私に振られる
 私は手を取られてるので、そのまま歩いたままだ

「え、あぅ」

 とりあえず、困った
 手をひかれてドアをくぐって、知佳さんも中に入る

「ふぅ」
「はぁ」

 2人ともお疲れ模様
 私は、周りを確認中……桃子さんがそれはもうニコニコと笑顔全開
 で、他の人たちも集まってる
 よくもまぁ、これだけ集まったというくらいに
 えっと、フィアッセさん、イリヤさん、晶さん、レンさん、桃子さん、松尾さん、士郎くん
 ティオレさん、忍さん、ノエルさん、ピンク髪の知らない女性、リスティさん、茶髪の知らない女性
 背が高い知らない男性、那美さん、美由希さん、美沙斗さん(!?)と多種多様だ

「えっと、美沙斗さん、お帰りなさい」
「ああ、話を聞いて、とりあえず、可及的速やかに此処まで戻ってきたよ」
「どうやって?」
「海鳴の高校の校庭にパラシュートで降りて」

 ……ごめん、その前は聞かないでおきます
 どこまで、相手をこき使ったかわからないし

「初めまして、滝川蛍です……」
「初めまして、たまたま居合わせただけなんだけどね……さざなみ女子寮の管理人をしている
 槙原耕介ってものだよ、こっちが妻の愛さん」
「初めまして」

 お辞儀をして此方も返す

「初めまして、綺堂さくらです」

 お辞儀をして返すけど、相手が誰であるかというか、それ以上の問題
 この人は、油断ならない……多分、人という枠から離れてる人だ
 忍さんもそれに当たるだろう事は予測している

「あの、外が凄いのですけど」
「そりゃあ、フィアッセが居るからね……なんのために此処まで来たのか、謎じゃない?
 ゆうひも居ないし、アイリーンも公演で居ないし」

 そういえばそうだな……なんで居るのだろう?

「あははは」
「校長をお迎えにです……丁度、此処に居るという情報をキャッチしまして
 娘を放置した母親を向かえにです」
「前々から気づいてたわけじゃないのね」
「ええ、そりゃあもう」

 ……すっごく怖い視線で言うイリヤさん
 何ていうか、この人の苦労が手に取るようにわかる

「それで、蛍さんが妊娠してたのね」
「ええ、まぁ」

 母子手帳を見せる……まぁ、何ていうか、国指定のものなので、一応先に貰う事が可能なのだ
 ティオレさんは嬉しそうに微笑みを浮かべる

「でも、この中で最も若いお母さんになるのかしら?」
「そういえば、今日平日だけど、皆授業とかは?」

 流石にそれが問題な気がする

「そんな事より、身内の方が大事ですから」
「うちも、サルの意見よりそっちの方が重要ですから」
「そうそう、誰の子ってのが問題なんだよ、父親は誰かなって?」
「まぁ、夕飯を考えて、2週間前って所でしょうね」
「そう言う事で、きりきり吐いて下さいね」

 晶さん、レンさん、美由希さん、忍さん、那美さんの順番で言う
 う〜ん、でも、私が言うと問題がおきそうな気がする
 周りの人たちは苦笑いだし、如何とも言えない現状だ
 そこまで重要なことなのだろうか?
 いや、まぁ、すでにそう言う観念が薄れてるという考えはありなのだけど

「でもさ、ほら、候補は2人だしね」

 無難に行こう、無難に

「士郎くんや恭也くんか、どっちかって聞いてるのよ、私は?」

 忍さんが、そういって私を見る
 その目は少し怖い……多分怒りを抑えてるのだろう

「そう言うのは本人に聞かないの?」
「聞いて答えてるならとっくに答えを得てるわよ
 恭也はさっさと逃げて、今戻って来たところだしね」

 そうは言ってもなぁ……私のせいじゃないし
 まぁ、良いか……困ったときはお互い様で助ければ良いだろうし

「お腹の中に居る子のお父さんは、恭也だよ、きっと」

 ギンッという音が立ちそうなほど恭也へと視線が行く
 私はのんびりと、椅子に座る……お腹の子に悪い影響が無かったら良いけどなんて
 ちょっとした女性の幸せを噛み締めてみる

「恭ちゃん、どう言う事!?」
「そうだよ、無い胸が良いんですか?」
「俺たちでも良かったんじゃあ」
「そうですよ、私だって」
「そういうことなの!? 恭也」

 詰め寄られ、声をかけられる恭也
 まぁ、後で助けよう

「お父さんが居なくても、私が確り愛情を持って育てるからね」

 とりあえず、聞えるように言う
 これで、殺される心配は無いだろう

「蛍さん、何時の間に!?」
「ん〜、2週間前にね……」
「へ〜、士郎くんもそのとき、早めに帰ったのよね〜」
「あはは〜」

 笑っておいた……松尾さんの目がうきうきと楽しいものを見る目になっている
 近くには桃子さんとさくらさんと耕介さんと愛さんが座っている

「妊娠ってそんなすぐになるものかい?」
「ストレートコースに入ってれば、必ずじゃないでしょうか
 多分90%は超えるわよ」
「なるほど」

 耕介さん、メモ片手に何してるんでしょうか?
 いや、まぁ良いですけど……

「でも、年の差、6歳か?」
「そんな所です」

 答えておいてなんだが、本当に年の差だな
 恭也たちは何やら、いまだ会話してる
 色々とあるのだろう

「恭也のエロ、ロリコン、鈍感、朴念仁」
「恭ちゃんのロリコン」

 なにやら罵詈雑言も飛んでいる……私ってロリ対象なの?

「それで、恭也くんは助けなくて良いのかな?」
「大丈夫ですよ……恭也が早々死ぬような攻撃はしないでしょうから」
「そ、そうかい」

 とりあえず、そう言っておかないとやれないことも多々あるのだ
 耕介さんは、苦笑いで答えてる

「お兄ちゃん、蛍に手を出したら、愛お姉ちゃんに言うからね」
「耕介さん、手を出すつもりなんですか?」
「いや、出さないから……って、士郎くんと恭也くんもそんな、睨まないでくれ
 俺はそんな事しないって分かってるだろう?」

 ……微妙に耕介さんが困った顔してる
 いや、まぁ、でも知佳さんが一言

「昔の私に似てるから、ロリコンジャイアントってくらいに手を出すかと」
「誰がロリコンジャイアントだ!! 知佳、兄として悲しいぞ」
「愛お姉ちゃん大丈夫?」

 耕介さんをスルーして、愛さんを見ている知佳さん
 いやはや、この人たちには、乗り突っ込みとか多々あるのだろう
 私の知らない所でしてほしいけど

「耕介さんが、ロリコン……思い当たる節々が」
「いや、愛さん、旦那を信じてよ」

 信じられないのか、如何なのかわからないけど、ジーと見て
 やはり、何か思い悩むようだ
 こちらはこちらで忙しそうだなぁ
 知佳さんも楽しそうだし、放置しておこう
 桃子さんとティオレさんと美沙斗さんとイリヤさんとさくらさんとノエルさんが集まって
 名前を考えてるようだ……紙に色々書いてある

「男なら、蛍と書いて『蛍(けい)』にしたらどうかしら?」
「それだと被りますよ」
「でも、悪い名前じゃないと思うのよ」

 今は男児編らしい
 女児編になったらどうなることやら……気が早いことで
 まぁ、見事に分かれてるというか、何と言うか
 先に恭也を助けますか
 士郎は見事に、周りを見て笑っているし

「ほら、恭也、如何したの?」
「いや、その、ほら、周りがな」
「はぁ〜」

 紙ナプキンで恭也の頬についていた汚れを落とす

「いい男が台無しだぞ」
「いや、そんな事は如何でも良いが……」

 よくは無いだろう

「何?」
「何をしにきたんだ?」
「いや〜、これでも、恭也が父親だしね……怪我されても嫌だから」
「なるほどな」
「士郎……なんだ? 先ほどまで笑って俺を見ていた男が」
「いんや、蛍が助けるっていうなら、助けてやらんこともないぞ
 後がどれだけ大変かわからないが」

 それはそうだろう
 私も、士郎も、双方とも、変な部分で抜けてるから

「恭也は私を妊娠させたのは事実だけど、まだ結婚してないのだから
 恭也は私の夫じゃないよ」

 ドーンと爆弾を投下……







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