『満月の微笑み6』










「こっちだ」

 恭也と士郎に連れてこられた場所は、士郎さんのお墓の前だった
 何をしたいのかも伝えられないのに、ついてくる私も意外と確りしてないのかもしれない
 ただ、2人がどこか緊張した面持ちで居るのが分かるから
 自然と自分の体も強張ってるところがある

「此処?」
「ああ、俺からしたら、此処でってのは悪いが、此処が一番あってるからな」
「ま、俺にとっても、此処が一番良いだろうって2人で選んだ結果なんだ」

 そして、2人は士郎のお墓に手をあわせる

「父さん、俺、好きな人、守りたい人、自分と一緒に居たい人、出来ました
 そして、これからも、自分が守りたいと思います」
「士郎、同じ遺伝子を持っている……ただ、俺は別人だ……でも、俺にも守りたい奴が居る
 一緒に居たい人が居る……だから、俺も此処で誓いたいと思ったんだ
 どんな場所より、此処なら、御神家、不破家の人たちが見ていてくれる気がしたから」

 私へと振り返る2人……
 先ほどの話をきくと、私への報告だろう

「蛍、俺と結婚してくれ」
「蛍、俺の愛人になってくれ」

 恭也と士郎はそう言ってニヤリと笑う
 私は、それを聞いて、少し思考の海へと流された……なんせいきなりだった
 それでも、2人が私のためにって考えてしてくれたこと

「うん、良いよ」

 だからこそ、私は、それに応えた
 私が一緒に居て欲しいといった……そして、2人がそれを望んだのだから
 応える準備が無くとも、応えることは出来る……
 私は、2人を愛した事が壊れてるなら、私はもとから壊れていたのだ
 似ている人を好きになり、2人も好きになった時点で
 ただ、私が年下で、相手が年上で、私よりずっと大人な意見を言えること
 私は2人の手をとって、墓前に座る
 手を合わせて、目を閉じる
 2人がそんな私を見ているのが分かる

「士郎さん、私は、恭也の子を身篭っています……それでも、士郎も恭也も同じくらいにしか愛せない
 だから、2人に不誠実だといわれ、捨てられるものだと思ってました
 ただ、私が弱いばかりに2人を傷付けて、自分が安穏と生活していました
 でも、決心しましたから……私は、2人を愛し続けることを
 もしも、これが聞えてたら、貴方はなんと言ったのか、分かりませんが……
 これからは、お義父さんになるんですよね……また、なのはちゃんとも来ますから」

 たまに、なのはちゃんが暇な時、神社だけだとつまらないだろうって事で
 色々と散歩ついでに歩き回ったのだ……そのときに墓前にも幾度か来た……
 なのはちゃんと久遠さんにとっては、嫌な場所かと思ったけど、そんなに酷いほど落ち込んだりはしてなかった
 ただ、一言の言葉に私は凄く動揺した……
 なのはちゃんは私と同じだから
 目をあけて、墓前を見詰める

「でも、1つだけ言いたい事だけがあります……なんで、死ぬ方を選んだのか?
 爆弾を放り投げて、逃げ切れたのでは無いのですか?
 それすらも無理だったのですか? あまりにも、なのはちゃんにも桃子さんにも辛い事実だったと思います
 私には、その現場へと行かなかった罪があり、あなたを護れたかもしれない……
 ごめんなさい……私が弱いばかりに、あなたを不幸にした……
 死んだときにでも、幾らでも言葉でなじってくれて構いません
 ただ、私たち3人の未来を護ってください……私たちは私たちで生きていきます」

 独白のように、私は言い続ける
 それが、自分の身を切り裂くところまで……

「士郎さん、私は恭也と士郎を不幸にしてしまうかもしれない
 それでも、2人を護り、2人と一緒に居たい……我侭ですが許して下さいね」

 立ち上がって、目に浮かんだ涙を軽く指でこすって誤魔化す

「2人とも、帰ろうか?」
「いや、これをつけておいてくれ」
「そうそう」

 指輪……シルバーリングとされる物が二つ、2人からされた
 左の薬指に……小さく輝く

「綺麗」
「蛍の指のサイズが分からなくて、最後の手段を使わせてもらったよ」
「最後の手段?」
「ほら、蛍って篭手のところに中指に通す穴があるだろ」
「うん」

 手の甲部分も少し護るためにってついてあるものだ
 ほとんど用は成さないけど、攻撃力が上がる……打撃主体じゃない私には難しいけど

「それを計って聞いた」

 何ていうか2人らしいな……ま、いいのだけど
 多分、指輪にサイズがあるとか全く気づいてなかったんだろうね
 それでも、2人から渡された指輪には思いが篭ってるし、私自身も嬉しいって思っているのがわかる
 だって、笑顔で居れるから

「ありがとうね」
「あ、いや、まぁ、気にするな」
「そうそう」

 そう言って、二人は照れたのはそっぽを向いた
 全く恥かしいなら、しなかったら良いのに……とは、言えない
 私が凄く嬉しかったから……
 2人と一緒に歩けるような私
 そして、2人を護れるほどの力を持っている私

「子供の名前は、恭也が決めてね」
「はっ? 何で?」

 恭也が不思議そうに聞く
 士郎は何となく気づいたのか、ニコリと笑う
 こんな笑いも出来るようになったのは進歩だ

「父親だからだろ……多分俺との間の子だったら、俺に決めろって言うと思うぞ」
「そう言う事……まぁ、3人、4人目になったら、私は考えさせてもらうけど」
「一緒に考えてくれないのか?」

 恭也が少し困ったように言う
 でもね……私が一緒に考える……

「駄目……やっぱり恭也が決めて……士郎も同じね
 1人目だけは、私は口を挟まないから」
「それの理由は?」

 どう言えばいいのかな……

「その、すっごく悪いのだけど、2人目3人目の時は、多分私が、こういう名前が良いなって言うと思うの
 でも、最初はやっぱり父親である2人から名前が欲しいの」
「何でという理由は分かった……蛍は、父親を知らないから」

 頷く……士郎は知っていて、恭也も知っている事
 そして、私の言動から推測してだ

「確かに、俺たち誰かに何かあったとき、父親の名前だけでも、支えになるかもしれないな」
「そうだな……蛍が考えてくれたことだ、俺たちは構わないぞ
 それに、名付け親というだけでも、俺は光栄な気がするな……愛人にならしてくれって言ったものの
 子供を生んでくれなんて言ってないのに」

 士郎はそう言って、少しだけ照れくさそうに笑う

「2人を不公平に扱わないように、最大の努力はする……
 それが、私からの約束……もしも、何かあったら言うし、二人も何かあったら言ってほしい」
「了解」
「任せろ」

 歩き始めて、2人がそっと私の近くに立ってあるいてくれる
 護るかのように……そして、私を気にして
 ま、体が身重だと判明してからは、みんなの気遣いが優しいから

「どうした?」
「え?」
「笑顔になってるぞ、蛍」
「えへへ……そうかもね
 だって、嬉しいもん……2人からの告白、そして、それを受けた私に
 2人は私を認めてくれたから」
「そっか」
「子供を産もうとか、そんな本来の女性的な幸せなんて、遠い所にあると思ってたよ
 好きな人との間に子を成して、ほんの一握りでもいい幸せをって」
「そうか……悪いな、俺たちが襲ったりして」
「良いよ、それだけ求められてたのに、私は応えなかった
 2人から逃げて、逃げ続けていた
 だから、捕まえるために行動に出たんでしょう」
「うぃ」
「まぁな」

 士郎と恭也は、小さく横を向いてる
 思い出して恥かしいか、そのことを反省してだろう

「最初から激しくて辛いと思ったけど、二人を嫌いになるとかじゃないから」
「ありがとな……こんな俺たちでも好きでいてくれて」
「俺もだ……嫌われる可能性を考えてたのにな……最後の思い出にとか」
「逃げる手段全て断ち切ってたくせに……それでも、考えるほどの余裕があったのは、助かったよ」

 歩きながら話してると、人通りのある場所に近づいてる
 だからこそ、2人ともこの話を断ち切る
 勿論、私も……

「さ、帰ったら、大学の講義が次に何とるか考えようっと」
「蛍は大丈夫なのか?」
「体?」
「ああ」
「まだね……前期終わりとか、後期初めと中が大変になるだろうし
 出来るだけ、恭也と一緒に居るようにするわ……勇吾くんにも相談しておかないとね」
「そうだな」
「ああ、俺も賛成だ……」

 赤星勇吾は、藤代さんと付き合いだした
 まぁ、それでも、私たちがからかって遊んだりもしてるけど
 相談にも乗ってくれるいい人で、色々と話していたりもした
 私はあまり相談って性質じゃないし……相談っていうより、私にどうアピールしたら良いかって
 そんな事を又聞きされた……それって、誰かもろに分かる図式で
 私は少し驚いたかな……

「ま、俺らの相談にも乗ってもらってたし、ちゃんと話すことを話さないとな」
「そうだな……ま、恭也に任せるよ
 俺だと何言うか分かったものじゃないし……ずけずけ言ってしまうしな」
「士郎らしいよ」
「ほっとけ」

 そう言いながらも、歩いて家に戻る
 マイホームというわけじゃないけど、家は家……

「ただいま〜」
「ただいま」
「ただいま帰りました」

 夕方から夜中にかけて出かけることになったので、丁度良かったと言えば丁度良かった
 なんせ、士郎と恭也が午前中から午後中まで出かけていたから
 2人して出かけるのは、珍しいことじゃないにしろ、何処に行ったか気にはなったけど
 何も言わないことにした……男同士で語り合うことも必要なのだろう
 パタパタと前から走ってくるなのはちゃん
 そして、美由希さんと那美さんが階段から降りてくる

「おかえり、恭ちゃん、士郎さん、蛍さん」
「おかえり〜」
「お邪魔してます」

 挨拶を一通りして、寒いからって事で、中に入る
 母体に響くと駄目だしって事で、なのはちゃんに引っ張られる
 多分、自分の甥もしくは姪が楽しみなのかもしれない
 なのはちゃんなら、見ててくれる気がするから、嬉しい限りだけど

「こらこら、なのは、あまり引っ張るとこけてしまうぞ」
「はぁい」

 恭也の注意に、なのはちゃんは、そのままスピードを緩めて歩いてくれる

「此処此処」

 ソファに座らせてもらって、紅茶を出される
 多分一服しろって事なのだろう……動くのもいいけど、少しは休めって事なのだろう
 掃除は結構させてもらってる……拭き掃除とかだけど
 あまり家事手伝えないし、これくらいってことでさせて貰ってる

「あれ? お姉ちゃん、指輪してる」
「ええっ!?」
「何ですって!?」

 周りが驚いて、私の薬指に注目する
 シルバーリングが煌いてる……

「綺麗だね〜」
「そうだね……たくさんの思いが詰って光ってるんだよ」
「へ〜」

 この指輪の内側には、私と恭也と士郎の名前が彫られている
 それは、3人一緒だって事
 二つの指輪に同じ名前を刻んだ恭也と士郎の思い
 それは、2人の優しさからなるものだろう

「蛍お姉ちゃん、嬉しそうだね」
「まぁね……まさか、自分が告白されてOKできる程の女性だなんて思わなかったしね」
「お姉ちゃんは相変わらずだね」
「そう?」
「うん……」

 そう言って、なのはちゃんは少しだけ暗い顔をしている
 もうすぐ中学校に上がる……まだ来るとは言ってくれない人
 会いたいのに、会えない苦しみ……それはそれで辛いのではと思う
 だからこそ、不安にも思うし、もっと何か声をかけてあげたい
 でも、それは、私たちの役目じゃない……なのはちゃんの彼氏の役目だ
 忙しいだろうが、それでも、一声かけてほしいと思う

「なんか、性格が丸くなったという部分は変わったと思うけど」
「力抜く部分が出来たんだよ……だから、此処だと安心するし、その場所を作ってくれた人を好きだなって思う」
「お兄ちゃんたちのこと?」
「なのはちゃんもだよ」
「あやや」

 この子はこの体でどれだけ辛い恋をしてるのだろうか?
 私には分からない苦しみがある恋は、積もれば、爆発した時、相手と会った時にどこまで相手に伝えられるのだろう
 なのはちゃんは優しいから、言葉にしてはっきりと言うだろうな……
 私にも、そう言って話して聞かせてくれた
 『待たされたんだもん、言うよ』と……

「でも、これって二つよね」
「ええ、まぁ」
「ということは、恭也と士郎の愛が」
「そうですね」

 詰ってるといえるもの……

「ううっ、すっごい複雑だよ」
「本当……何ていうか、分かっていた事でも寂しいものが」
「内縁の妻を裏切るなんて」
「忍さんの戯言は置いておいても、辛いですよね」

 失恋というのは、辛い……なのはちゃんの初恋は実って欲しいと思う
 恭也を止めないといけないかもしれないけど
 真雪さんから、妹のとか娘のとか聞いてそうだし
 知佳さんが苦労してるって苦笑いしてたから

「何が辛いんだ?」
「鈍感男には関係無いよ」
「恭也には関係無いから」
「そうそう……」

 皆、凄くいい人だからこそ好きな人の幸せを願える
 それは、綺麗な感情で、すばらしいことだと思う
 ちょっとは黒い感情があっても、分かっていても、振り向いてもらえないからって
 暴挙に出るほど、自分たちは低くないという人たち……気高く美しいと思う
 恭也は不思議そうにしながらも、何も言わないようあ
 士郎は少しだけ考えながらも、言わないことを選択したみたいである
 私は勿論言わない……私が声をかけても無意味なことだから

「ま、蛍が妊娠し、恭也と士郎の意思が強いということね……」

 ティオレさんは此方に残っている……フィリス先生が付いてるらしく、毎日のごとく此処に顔を出してる
 というわけで、フィリス先生も此方に居るのだ……
 恭也と士郎と美由希さんと美沙斗さんにとっては、地獄の主みたいな人だけど
 マッサージであれだけ体から音が出るのも珍しいものだ

「でも、これから蛍お姉ちゃんは体を大事にしないとね」
「そうね」

 それには頷くよ……初めての妊娠ってことになるし
 全てが初体験なのだ……だからこそ、幸せを受ける事が出来るのが嬉しい
 なのはちゃんの方がそっち方面は詳しいかもしれない
 ま、私も知ってる知ってないだと知っては居るのだけど……偏ってたりするのだ
 そして、私はその日、皆に冷やかされながらも眠りに落ちる
 疲れもあるけど、早めに休みなさいって事と、美沙斗さんやティオレさん桃子さんの言葉だからね
 初めてで不安もあるだろうし、はけ口は、近くにあるのだし、大丈夫って事だそうだ
 私もそれには納得していた……
 笑顔で、挨拶を言える事……それが、とても大切なんだという事
 それがとても重要であるという事……そして、それが幸せであるという証明
















 つづく












 あとがき
 ま、次でシリーズラストだね
 シオン「え? 次でラストなの?」
 おう
 ゆうひ「長い話ね〜」
 俺もそう思う
 シオン「長いっていうか、18禁の方は?」
 ああ、あれは、書いておくけど、どうするかな……自分が対応取れないし
 ゆうひ「納得」
 だろ
 シオン「ま、分からないでもないわよね」
 は〜、どうするかな
 ゆうひ「ま、どうにかするしか無いでしょう」
 相談して決めようっと……何時になるやら……本気で
 シオン「ま、管理が行き届かないものね」
 そう言う事なんだよな
 ゆうひ「でわ、また〜」
 この後は、そっちの18禁を書きますか……ほなね〜(^^)ノシ



蛍もかなり変わったよね。
美姫 「本当よね〜。最初の頃は俺、だったもんね」
うんうん。かなり可愛くなった。
美姫 「そう言えば、18禁の方も頂いているのよね」
おう。これは、うちのサイトではアップできないので、個人観賞用。
美姫 「や〜ら〜し〜」
うるさい! と、実際は18禁の方もアップさせてもらっているけれど。
美姫 「このサイトではないのよね」
そういう事。
美姫 「まあ、それはそっちでやってもらうとして、このシリーズも次で終わりなのね」
一体、どんな結末が待っているのか。
美姫 「楽しみ〜」
ではでは。



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