『月は笑顔を浮かべる』





 私が妊娠して、大学が一個上がり、美由希さんも大学生になった
 そして一学年上がり、それぞれがそれぞれの出発を迎える頃、私はまだのんびりと過ごしていた
 まぁ、そのつわりとかで苛立ったり(そのおかげで、士郎と恭也の2人がズタボロになった)
 精神的に落ち込んだり(知佳さんに自慢したら何となく気分すっきりした)
 周りから羨まれたり(放置した)、嫉妬の視線があったり(無視した)
 多々あって、前期が終った……
 なのはちゃんは、中学一年生に上がり、私はなのはちゃんに時計をプレゼントした
 他の皆もそれぞれに何か渡していたけど

「夏だな〜」

 とりあえず、のんびりと空を見上げる
 前期試験……余裕♪
 恭也は、私にノート見せてやら何やら頼ってきていて、士郎が頭を叩いてたけど
 なんせ、試験前になって焦った顔して来たと思ったら
 ノートを見せてくれだしな
 ま、同じ部屋に居るのは、周りの子たちに悪影響だから、辞めてって言っておいた
 やはり夫婦となったものでも、それはそれで遠慮願いたい
 提出したわけじゃないので、まだ恭也は夫というわけじゃない
 まだ、恋人同士って所だ……そのために、恭也はいまや大学で告白を三桁まで伸ばしてる
 私も、三桁超えた……いやはや、もてる女は辛いっす

「あれ? なのはちゃん……と、誰?」

 不思議な男の子……前の恭也があんな感じじゃないだろうか?
 写真を見せてもらったが、間違いないだろう

「なのはちゃん」
「あ、蛍お姉ちゃん!!」

 私のところまで仲良く手を繋いで走ってくる
 中学校も今は夏休み……私は男の子を見つめて、なのはちゃんを見る
 ふむ、なるほどね

「あの、なんで、蛍お姉ちゃんはハリセンを上段で構えてるの」
「ま、私からの罰だよ……甘んじて受けてね」
「え?」

 男の子の声がもれるが、私はそのまま左手でハリセンを落とし、男の子の頭に当てた
 スパーーンって音が立つ

「え、あ」
「なのはちゃんを泣かした罰……連絡手段なかったの?」
「いえ、その、えっと、制限されてて」

 目が泳いでる

「嘘ね……手紙でも、一声でもかけたら良いのに」
「あ、や、その」
「蛍お姉ちゃん、いいの……来てくれたし
 その、私は別に」
「駄目よ、なのはちゃん、男に甘い顔してると、ぽいって捨てられるから」
「捨てません!! なのはは僕にとって大切な女性ですし、愛してる人です
 子供だからって確かに甘いかもしれません
 でも、僕は絶対になのはの傍に居ます……これからはずっと」

 聞きたい言葉だね……なのはちゃんは呆然として、私を見て、男の子を見る
 グッジョブ、少年というか青年

「クロノ・ハーヴェイくんだよね」
「クロノで良いです……えっと、もしかして」

 顔を真っ赤にしている

「うん、男の子はそれくらい覇気が無いと駄目だよ
 というか、私がなのはちゃんの彼氏として認めない……恭也の方は私が抑えるし
 妹激ラブなお兄さんは置いておいて大丈夫だよ」
「お兄ちゃんが、怒るとは思えないけど」
「あれで、意外となのはちゃんには甘いからね〜」

 ま、見たまんまだけど……本人は気づかないものなんだよ

「何ていうか、なのはちゃんの父親代わりもしてたからね……そらぁもう、娘はやらんっていう父親みたいにね」
「……殺されるかな?」
「それはないだろうけど……ま、抑えるのは私がするよ
 それに、さっきの言葉は嬉しかったでしょ、なのはちゃん」
「は、はい」

 なのはちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべる
 少し頬が赤いけど、本当に再会できて良かった……

「帰る?」
「うん……お兄ちゃんとか、士郎お兄さんとか、皆に紹介しないと
 それに、リンディさんは?」
「母さんなら、先にマンションとかのって言ってた
 駅近くだって……中学は一緒のところ無理だったけど、海中だから」
「分かったよ」

 2人の世界を製作してる
 私は、のんびりと上を見上げる
 青い空と海の風……気持ちいい
 2人の世界だね〜

「あ、あの、蛍お姉ちゃん、帰ろう」
「そうだね」
「あの、えっと、よろしくお願いします」
「そうだね……よろしくね、クロノくん」
「はい」

 そして、私は歩いて戻る……散歩は日課だ
 あまり動かないのは、母体に良くないと書いてあったし、皆言ってたから

「あの、失礼ですけど、お腹何かあったのですか?」
「ん、ああ、妊娠してるんだよ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ、なのは……うわ〜、僕何も持ってきてないのに」
「別に気にしなくても良いのに」
「気にしますよ」

 そう言って、少し考えてるみたいだ

「ま、良いから良いから……太ってるのですかなんて聞いた日には
 明日の夜中までは気を失ってもらうか、痛みを伴う罰を受けてもらうつもりだったけどね」
「あはははは……」
「ねっ」
「僕はただ、何か病気だったら大変だなぁって思って」
「ありがとね……変な心配かけちゃったね
 大丈夫だから、気にしないで」
「はい」

 歩いてると、目の前には愛する人というか、まぁ、愛人さん

「やっと見つけた……蛍、駄目だろ……遅いから心配したんだぞ
 って、あれ? なのはちゃんと……誰?」
「クロノと言います……えっと」
「なのはの彼氏♪」

 嬉しそうに言うなのはちゃん

「始めまして、士郎って言う者だよ
 士郎って気軽で良いから……蛍の愛人してるんだ」
「公認のね……」
「って、蛍さん、愛人って、本命さんは怒ってないの?」
「本人たちが言い出したことだし、私もその人と士郎以外は勘弁」
「そ、そうですか……はぁ〜、なのはの周りってやっぱり少し変わってる気がする」
「失礼だよ、そんなの……私もそれは多々思うけど言わないんだから」

 2人とも失礼だって
 ま、そんな事気にしてたら、大学生の荒波は乗り越えられませんって

「そうそう、2人とも」
「なんですか?」
「なぁに?」
「避妊はちゃんとしなさいよ」
「??」

 クロノくんは知らないみたいだ
 なのはちゃんは……

「蛍お姉ちゃん、急に何を言ってるんだよ!!」
「いや、一応、姉としてはそのあたりの心配をね」
「もう辞めてよ……恥かしいんだから」
「一応必要だと思ってね」
「思わなくて良いよ〜」

 何ていうか、なのはちゃん結構詳しく習ってるのね
 こういう場合ってどっちが主導権握るのだか……
 家に着くまで、なのはちゃんとクロノくんの初々しさを見ながら入る

「ただいま戻りました」
「ただいま〜」
「お邪魔します」
「ただいまです」

 挨拶をして、中に入るとパタパタと走ってくる晶さんとレンさん
 美由希さんと美沙斗さんはのんびりと此方まで来る
 私を心配して、動けないためにって、事で護衛だそうだ
 龍のしっぽ捕まえるのに、私の近くに居るらしい
 香港警防隊も私の重要性を認知してるからこその手だそうだ
 美沙斗さんがそう言ってよく帰ってくるようになったのだから、仕方ない処置と言える

「おやっ、クロノくんじゃないか?」

 そう言って声をかけるのは、美沙斗さんだ
 出会った事があるのだろう……私は、何も言わないつもりだ
 心を読めるからこそ見えてしまう、過去

「恭也さんも居るのですか?」
「ああ、恭也は、桃子さんのお手伝いだよ」
「お母さんの? 何時も蛍さんの傍に居るのに?」
「いや、単に士郎と恭也でじゃんけんでどちらが蛍さんを探しに行くかで決ったらしいよ
 まぁ、私もあまり気にしてないのだけど、事件に巻き込まれたとかあったら大変だからね」

 美沙斗さんはそう言ってにこっと笑う
 この笑顔で商店街のおじさんたちを落として、おまけを多々狙うのだ
 ちなみに、私もよくおまけしてもらえる……謎だ
 可愛い嬢ちゃんだからて理由が大きいのだけど、私、嬢ちゃんって程の年齢なのか?
 しかも、妊婦だし……如何なのだろうか?

「お腹目立ってきたね」
「そうですね……以前はすっきりしてたし、最近は胸も張って痛いんですよ」
「……いや、胸も張ってって」

 士郎が顔を赤くしている

「まぁ、妊婦は得てしてって……そういえば、兄さんは好きだったからね……胸」

 即答されると悩みそうな現実だな
 恭也が居なくて良かった

「お、俺はそんな事無いわ〜〜〜〜!! 美沙斗の意地悪〜〜〜〜〜!!
 翠屋行って来ます」

 だだだって走っていった……元気だな〜

「行ってらっしゃい」

 とりあえず、手を振って送り出す
 まぁ、良いか……放置しておいても

「なのは、あれって何時ものことなの?」
「まぁね……美沙斗さんが士郎お兄ちゃんをからかって、遊んでるみたいな感じ
 蛍お姉ちゃんも何も言わないし、放っておいても大丈夫じゃないかな」
「ま、働き者なだけだよ」
「そうなんだ」

 そうなんだよ……これも何時ものことって思えば割り切れるものだしね
 ま、恭也を狙う人たちはコクコクと狙ってるみたいなんだけど
 全く持って、気にならないというか、皆優しいから、どうしても決め手に欠ける

「クロノくん、それで納得するの?」
「でも、蛍さんが言うなら、それで良いんじゃないの?」

 私は、此処の世界ですか?
 いや、まぁ、士郎のことは理解してるつもりだけど

「ま、何時ものことだよ……私にとって兄さんはふざけてても仕事だけは、確りとしている人だったからね
 恭也がそれで何度殴られてたことか……本人もそんな馬鹿なって顔してるから、尚更なんだけどね
 普段が普段なだけに真面目な兄さんには驚かされるよ」

 美沙斗さんはそういって、苦笑いを浮べて

「ま、そんな所があったってだけだ
 あの、士郎くんにあるかどうかは分からないけどね」

 どうだろうか……不破士郎の遺伝子を受け継ぎし、者は3人居るわけだし
 その中で、士郎はとりわけ、えりすぐりの遺伝子を受け継いでるわけだ
 でも、士郎もその傾向はある……人をからかったりはするけど、それでもいざ仕事になれば
 確りと事をこなし、そして、余った時間で出来ることを覚えていく
 紅茶の入れ方の筋が良いっていわれて、喜んでいたっけ……

「蛍お姉ちゃん、今度、また色々お話聞かせてね」
「それは良いけど、クロノくんが居るんだし、ちゃんと約束とか話しないと大変だよ」
「だから、クロノくんも混ぜて話して欲しいの?」
「なのはちゃんの秘密とか?」
「ちっが〜〜〜う!!」

 なのはちゃん、手をグーにして、上から下に両手をしている
 中学生なのだけど、どこか幼さを残るなのはちゃん
 まぁ、お母さん童顔だもんね〜
 その傾向が見られるのがかわいそうな所だ

「何でなのはの秘密なの……違うよ!
 ほら、此処とかじゃないけど、海外の昔話……クロノくんの知らないお話もあるかもしれないし」
「あの、僕からもお願いします……聞いてみたいので」
「そう……良いよ、2人に頼まれたら断れないもの」

 やはり、2人とも素直ないい子だな

「ありがとうございます」
「やった〜」

 嬉しそうに笑顔を浮かべて言う
 何ていうか、なのはちゃんとクロノくんって……桃子さんと士郎さんに似てるんだ
 小さくしたら、あんな感じなのかもしれない
 しかし、クロノくんにお話か……

「クロノくんが帰ってきてるって、本当か?」

 恭也がただいまの一言に次の一言はそれだった
 そして、何故か小太刀を構えてる

「ちょ、恭ちゃん」

 慌てて美由希さんも前に来ようとするけど、恭也の眼光で負けていた
 私は歩いて、恭也とクロノくんの間に入る

「なのはを泣かせた罰はきっちりと受けてもらう」

 と、私が目に入ったみたいで、小太刀が少し止まる

「恭也、落ち着きなさいよ」
「蛍、退け」
「もう〜、我侭だよ」

 私はのんびりというと

「お前だって我侭だろうが」

 そうかなぁ?

「とりあえず、クロノくんにはちゃんとハリセンでたたいたし、許してあげなよ」
「むっ、だが、なのはを泣かせたという事実が俺には許せんのだが」
「お兄ちゃん」

 なのはちゃんってブラコンの毛があるから大変だな
 クロノくんが少し怖いのか私のスカートを持って、隠れる

「蛍から、離れろ〜〜〜!!!」

 恭也更に言う
 驚いて、手を離すクロノくん

「も〜、恭也もそこまで怒ること無いのに……大丈夫だって、クロノくんはなのはちゃんの彼氏だよ」
「分かってるが、やっぱりこう苛立つものがな」

 大学で何度かしつこい奴が居て、恭也が睨んだのだ
 殺気のみで編成したような視線を相手に……そのとき、相手は寒気がするといって他の場所に行った
 単なる普通の会話でそれだったので、不安だったのだろうか?

「特に蛍は無防備すぎる!」
「何よ!? 恭也だって女の人や子供には弱いくせに」
「むっ」

 私がそう言うと、恭也は大人しくなった
 自分で認めてる事だからこそだろう……

「第一、中学生の男でも、男は男だし、危険なことだって考えてるんだぞ」
「分かってるよ……でも、クロノくんは大丈夫だって
 知識無さそうだったし」
「知識? 何のですか?」

 不思議そうに聞くクロノくん
 名前の割りに黒い事は知らなさそうだ……
 玄関から声が聞えて、そのまま誰かが上げたようだ
 上がってくる女性だろう

「こんにちわ……クロノの母親してます、リンディと申します」

 そう言って挨拶してくる女性……私も挨拶をする
 お互いにニコリと笑うしかない……
 挨拶とかもして、皆でお茶を飲む

「クロノが大変お世話になりまして……なのはさんにもお世話になったりもしたので
 そのお礼を込めて、ちょっとしたものですけど、どうぞ」

 出されるクッキーとかおかし
 ま、皆でどうぞって事だろう
 他にも、おそばがあった
 引越しそばの類だろう

「リンディさん、ありがとうございます」
「いえいえ」

 美沙斗さんがお礼を言っていると、私は立ち上がる
 なんていうか、少し疲れたから……散歩で大分歩いたからかもしれない
 いや、まぁ、何ていうか、お腹重いし……擬似体験ですらしてないから

「すみません、ちょっと疲れてて」
「あらあら、良いですよ……大変なんですね」
「そうですね」

 つわりの悪影響……食べれるのだが、ちょっとだけ匂いがって事だ
 チョコレートの匂いが少しだけ吐き気を催すのだ
 ま、仕方ないだろう……そう言うときもあるって事で

「ああ、ごめんなさい」
「いいの……皆、食べてて……」

 私はそのまま、廊下に出ようとすると、恭也が背中に手を当ててくれる
 私を見て、そのまま台所まで言って、軽く背中を撫でてくれる

「大丈夫か?」
「うん、ちょっとした吐き気だから」
「そうか」

 優しい手と優しい声……なのはちゃんは最初戸惑っていた
 私と恭也と士郎の関係に、優しい声に……今まで、自分に向かっていた物があったのが
 全て私に向かってしまったから……厳しいって事は無いが、それでももの寂しさがあったのだろう
 私と一緒に居る機会を増やしたり、恭也から離れなかったりした時があった
 一時的なことだし、少しずつでも努力してるのがわかったから、私は何も言わなかった
 ただ、それが良かったか如何か分からない
 それで、多少でも分かったのなら、良しだ

「情けないわ」
「ま、仕方ないだろう……」
「そう思う事にするわ」

 好きなモノを食べれないというのは意外とつらいものなのだ
 でも、チーズケーキ好きで、結構買ってもらったりしてる
 翠屋のだけど……
 テーブルに座って、紅茶を入れてもらい、一息入れて落ち着く
 ふぅ、良かった

「蛍」
「なに?」
「すまんな、なのはの事、迷惑かけて……分かってはいたんだがな」
「良いよ……クロノくんも気にしてる風じゃなかったし」
「そうか」
「そうだよ」

 私は紅茶を飲んでると

「ごめんなさいね、まさか匂いですか?」
「ええ」
「妊婦ですよね……大変ね」
「すみません」
「いいのいいの……もしよろしければ、紅茶私も貰って良いかしら?」
「はい」

 そう言って、恭也を見ると、入れていた
 気配り上手め……

「どうぞ」
「ありがとう」

 絵になるやつめ……ま、私にはまねできないことだけど
 こう、礼儀正しいって事は出来ても難しい事は多々あるわけだ

「チョコの匂いが少し」
「つわりの残りみたいなものでしょうね……蛍さん」
「はい?」
「頑張っていいお母さんになってくださいね」
「努力はしてますけど、難しいですよね」
「そうですか? 子供大事に思ってれば、いいお母さんですよ」
「ありがとうございます」

 そう言われると助かる……気分がだ
 ま、父親たちはこっちもあっちもって大事にしてくれるだろうけど

「近くにすんでますので、もしも聞きたい事があるなら、何時でも聞いてくださいね
 自宅でホームワークしてるので」
「はい、私も大学生なので」
「分かりましたわ……」

 笑顔で言われて、私はそのまま頷く
 2人の再会、二つの再会……そして、クロノくんのお母さんか

「それと、恭也さん、蛍さん、クロノが迷惑をおかけしてすみません
 なのはちゃんの所に全く連絡もせずに、私がもう少しきつく言っていれば」
「いえ、俺こそすみません、その大事な息子さんに」
「いえ、やっぱり子供は崖から落とすくらいの気合が無いと大変ですから」
「そうですか」
「では、私は、そろそろ引越しの片付けがあるので」
「恭也」
「手伝いましょうか?」
「いえ……ほとんどの家具なんかは運んで貰ってるので
 残りは簡易なことなので」
「そうですか」

 その日、二度訪れたリンディさん
 クロノくんのお迎えだそうだけど、逆で……リンディさんが迷子で此処まで戻ってきたらしい
 で、クロノくんが、お疲れなリンディさんを連れて帰った
 ご飯も食べて……なのはちゃんとクロノくんがまた会おうって約束してるのを見て
 私と桃子さんと美沙斗さんはほっと一息だ
 ティオレさんはいまだ帰らずに居るのだけど、体が無理を重ねて入院中だ
 多分本人が居たら、もっと騒がしかっただろうなどと、勝手に捏造してるのだった










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