『An unexpected excuse』

  〜レミリア・スカーレット編〜



「俺が好きなのは…………」

 恭也は少し空を見上げ考える。
 それは一時の邂逅。敵同士だった。完膚なきまでに負けた
 相手は自分を子供以下だと言うほどに。大人と子供、いや、それ以上の差だ
 今でも、鍛錬は続けてるが、負けない、と
 御神の剣士として、負けたくは無い。だが、あれは実際に違う生き物である
 本人もそう漏らしていた。だが、完璧な敗北
 さらには屈辱。だからこそ、相手を恨みもし、どこか放っておけない

「……とりあえずは居ない」

 恭也の言葉に皆がほっとしたのもつかの間

「じゃあ、私が奪うわ」

 恭也や忍の探知に引っかかることなく、恭也の背後に立っている女性
 紫の髪の毛と白と赤の服装。そして、一際目を引くのが、その女性の目
 赤く、紅い目

「くっ!」

 恭也はすぐさま、距離を取る。その行動に驚いたのはFCたちもだが美由希たちもだ
 何故、恭也が此処まで驚き距離を取るのか

「体が竦む?」

 本当に楽しげに言う女性
 恭也は、相手を睨みつける

「レミリア、何の用だ?」
「何の用とは失礼ね。貴方を忘れられないから来たのよ」

 その言葉に全員が恭也を見るが、恭也は顔に出さずとも焦っていた
 知っているがゆえに。以前負けたことのある相手
 とある任務の帰り、血の匂いがしてきたらいた
 血溜りの中で佇む女性。一瞬、その美しさにほうけはした
 だが、それからすぐに抜刀し、答えるように即した。その結果が恭也の大怪我だ
 いや、実際には大怪我にならなかった。幻想郷に連れて行かれた
 そこで治療されて戻されたのだ

「貴方は美味しかったから」

 恭也はすぐさま考える。このままでは皆を巻き込む、と
 すぐさま駆け出す。FCたちを巻き込まないために。

「懸命な判断ね。さすがというところかしら」

 レミリアは楽しそうに言うと、歩いていく
 どこに恭也がいるか分かっているかのように

「あ、あの」
「何かしら?」
「高町先輩との関係は?」
「私にとって、あれが必要で、あれは私を恐れてる
 それだけかしらね?」
「知り合い?」
「そうとも言うわ」

 FCたちは紅い目に驚きつつも答える
 ただ、忍は検討が着いていた。自分と同属

「恭也は渡せないわ」
「ごめんなさい、目をつけたのは私が最初だし、誰かに渡すつもりも無いわ
 ふふっ、二度目はどうないてくれるかしら」

 凄く楽しげに恭也を歩いて追いかけ始める
 誰も追いかけられなかった。狂気の笑み。それを浮かべて歩いていく様子に
 美由希や忍は固まっていた。一つに眼光を見て、そして最後に、その恐怖を見て
 あれには勝てない、と
 本能の警笛。だからこそ、動かなかったのだ
 晶やレンにしても、自分たちの領域を超えたものになるからこそ




 恭也は誰も居ない廃ビルの中に居た
 此処ならば、一番自分の闘える場所だということだ。密閉空間
 それでも、罠という罠を全てしかけ、自らの武装を確認する
 一度部屋に戻り、すぐさま、そこから離れた
 そして、今度は此処に来たのだ

「匂いを追ってたから時間がかかったわ」

 楽しそうに言うレミリア。誰かが彼女を討伐しなければいけないのは分かってる
 恭也はすっと小太刀を構える。罠の炸裂する音が聞こえる

「この程度ではどうにもならないの分かってるでしょうに」

 声だけが響く。効果が無いかもしれない。それくらい想定内
 いや、当たり前だという考えが浮かぶ

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

 言葉を紡がれてドアが壊れる。曲がった扉はすぐさま細切れになり落ちる
 その動きは一瞬で、数百と突いた結果
 その腕前は人を超えた動きとも言える

「お久しぶりね、恭也。挨拶抜きでこんなことするなんて、ね
 あんなに元気だったじゃない?」
「ふざけるな! レミリア、俺は」
「うふふ、返事なんて要らないわ。教えてあげるから、今度は心にも、体にも
 貴方にとって誰が必要かを」

 恐ろしいまでに美しく、女性としての顔と狂気としての顔が入り交ざる
 複雑な言葉に、恭也は腰を落とす。これから戦いを挑む
 心は決めてる。負けられない、と
 槍と小太刀二刀。その戦いの幕開けは槍の一撃から始まった





 廃ビルの内部での戦いは誰も知られることなく、1時間、2時間と続く
 恭也は満身創痍。全身致命傷は無いものの傷だらけだ
 そして、レミリアは、驚きで恭也を見ていた

「まさか、此処までとは」
「俺は同じ相手に二度も負けるつもりは無い!」

 恭也は小太刀を向ける。レミリアは神槍が無いことは分かっていた
 昼間から戦いはじめてかれこれ2時間。お互いギリギリの戦い
 レミリアにとっては、玩具を壊さないように
 恭也にとっては必死に追い払うために
 レミリアの衣服はだいぶ破け、血も流れている
 特に右腕と左腕は酷く、左腕は折れて出血。右腕は肩近くが斬られている

「まさか、こんなに強くなるなんてね」

 ただ、レミリアの体は少しずつ回復している。吸血鬼として

「ずっと同じままだと思うな」
「でもね、貴方は負ける」

 ニヤリ。その口元がゆがむ。レミリアの姿がこうもりへと変わった
 そして、恭也はすぐさま周囲を警戒する

「くっ!!」

 恭也へと噛み付いてるレミリア。恭也は背後への警戒を怠ったつもりは無い
 ただ、吸血鬼と人の差。素早さの差

「ふふっ、美味しい」

 一度口を離し、また首筋へと口をつける
 極上のワインを楽しむかのように、少しずつ少しずつ飲む
 大事な食事が死なないように

「くあああっ!!」

 恭也は肘を繰り出す。それを折れていた手で受け止める
 左腕は治っていた。振り回そうにも引き剥がせない

「暴れないの。気持ちよくしてあげるから」

 つつっと、恭也の体を撫でていく。その手は優しくも荒々しい
 恭也の唇へと指先を撫でる

「くぅぅ」
「ふふっ、可愛いわ」

 レミリアにとって数年ぶりの邂逅。そして、またとない自分の食事
 だからこそ、無理を通してでも此処に来る。誰かは恋愛みたいだと言った
 誰かは狂気だとも言った。そうだ、これが愛なら、これは狂っているかもしれない
 ただ、レミリアにとって、この男だけが唯一、自らの喉をもっとも潤すのだ
 運動の後に、食事にもありつける

「ね、恭也、そんな意地張らないでい・い・の
 気持ちよくなってたら良いのだから」

 恭也の力が抜けていく。
 それを確認しながらレミリアは嬉しそうに恭也を横倒しにする
 そして、ふわりと恭也にまたがる

「くあっ!!」

 レミリアから苦悶の声が漏れた

「だましあいは、おれの、かちだ」

 恭也からつたないながらも言葉が漏れる

「うふふふ、意志が強いのね。やっぱり良いわ、あなたは、恭也は」

 刺さったままの飛針を気にすることなく、恭也に覆いかぶさる
 恭也は驚いていた。だが、忘れてはいけない、相手は人で無いのだから

「一緒に気持ちよくなりましょうね」

 恭也の意識はここで闇に沈む。






 その後、恭也は怪我も無く、戻る
 ただ、意識が無いことまでも、レミリアから伝わっていた
 暖かでありながら冷たくもあり、そして、自らを蹂躙する手を、体を

「ね、恭ちゃん、あの人なんだったの?」

 恭也にとっては、考えたくない相手

「強敵だ」

 恭也はそう言って、鍛錬に戻る。普段より自らを厳しくする恭也
 今度こそと考える。ただ、気づいて居ない
 恭也が確実にレミリアへと執着していってることに
 その感情がいつか妄愛と変わらないようになってしまうことを

「くっ」

 恭也の目には確かな背中があった。その背中でも倒せるかどうかわからない敵
 だけど、恭也は挑み続ける。レミリアが恭也の血を欲する限り……






 レミリアは、小さく微笑む
 恭也が自分に致命傷を与えないようにしているという加減を。いや、自分の速度についてきていることに
 そして、自分に大量の血を流させる策略と豪胆、繊細さを持ち合わせていることに

「本当に、驚かされたわ。それに、可愛いわ」

 その目はとても楽しそうで嬉しそう。何年も何百年も生きてきた中であれだけ楽しめる人は
 十六夜以外では初めてかもしれないとも思う
 そして、いつか恭也を手に入れ、フランドールと遊ぶのも良いかもしれない
 運動不足の解消にはなりそうだ。その後極上の血を少し飲む
 加減をし、本当に少しずつ

「お嬢様、あまり戯れは」
「でも、可愛いんだもの。それに、十六夜は見て無いから分からないかもしれないけど
 結構良いわよ。強い美男が、苦悶の声を上げるのは
 それに、美味しいもの」
「はぁ〜」

 一人メイドがため息をついた。幻想郷から出て行ったと思ったら
 お肌つやつやでそれはもう元気一杯で帰ってきた。そして何をしてきたか分かった
 ああ、この人は自らの食事を求めた。それも、極上の食事を
 自らの食事に不満があるわけじゃないだろう。もっと根本の問題
 人と吸血鬼という大きな隔たりである、と





 おわり






 あとがき
 レミリアの大暴れを書いてみたかったのです
 シオン「フランでも良かったのに?」
 何となくだけど、レミリアがとっても大好きな玩具というか食料
 ゆうひ「で、十六夜たちを振りきり自ら食べに行くと」
 まぁ、いろんな意味で恭也が食べられてます
 シオン「本当にね」
 吸血鬼の一面を出してみた。普段、そんな風に見えないから
 ゆうひ「何となく納得するわ」
 えっへん
 シオン「でも、夜闇に紛れてじゃないのね」
 だね
 ゆうひ「でわ、これで」
 ほなね〜ノシ



ちょっと変わったパターン。
美姫 「本当よね」
でも、こういうのもかなり面白いな。
美姫 「このまま二人は時折邂逅しては戦うのかしらね」
色々と想像できて楽しいな。
美姫 「投稿ありがとうね〜、ゆうひちゃんにシオンちゃん〜」
それではこの辺で。
美姫 「まったね〜」



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