「なんだかなぁ〜」

「うむ、妙に納得がいかんな」

「俺は、絶対にノーコメントだ」

 

 

八神家の夕食の席。

ヴォルケンズは揃ってシャマルを見ていた。

 

 

「酷い・・・私の努力なんてゴミ箱にっぽいなんですね恭也さん!」

「何故、俺に振るのかよく解らんが取り合えず粗大ゴミに出していいか、シャマル?」

「燃えないゴミって言わないところが優しさだよねー」

「も、萌えないゴミですか!?」

 

 

激しく落ち込んで崩れ落ちるシャマル。

 

 

「おー、いちびっとるいちびっとる・・・」

 

 

主であるはやては、落ち込むシャマルを酒の肴、もといココアの肴にして楽しんでいる。

 

 

「よりによって萌えないゴミだなんて・・・今、私の存在は全否定されましたよ恭也さん!」

「言ったのは俺ではないのでな。一先ず、ミキサーにかけて流していいか?」

 

にっこりでグサリ。

 

「今度は生ゴミですか!?」

「エコロジーだね、シャマル☆」

「☆ってなんですか!☆って!!」

「ああ、それは私も気になるな」

「おおぅ、僕日本語ワカラナーイ」

「頭おかしーんじゃねぇの?」

「Oh!ジスイズアロリータ!」

「誰がロリータだ!」

「OH!NO〜〜〜!」

「ぐぉっ!」

 

 

飛びかかってくるヴィータを逆に抱き締め、Dの谷間で包み込む。

男なら気持ち良いやら、嬉しいやら、恥ずかしいやらで、色々大変な現象の起こりそうなシチュ。

 

 

「ふがふがふがぁぁ!!!(息ができねぇーー!!)」

「あん♪」

「・・・(ゴクリ)」

 

 

はやては艶めかしいアストラに、生唾を飲み込んでから自分の胸元と見比べて溜息。

9歳だから仕方ないのだろうけど、鈴鹿の実をつけ始めている体を思うと女としてションボリ。

 

 

「アホか貴様は!」

「痛ッ!」

 

 

シグナムの拳骨が後頭部に入る。

叩くよりも、殴る。確実にダメージのある痛いやり方と一目でわかる。

 

 

「・・・くそっ、おっぱい魔人どもめ・・・!」

 

 

乳的な意味でも、動き的な意味でも遅れをとったヴィータは吐き捨てる。

物凄く屈辱的だ。特に自分にはないものでのあの攻撃は、酷く傷ついた。魂的に負けた気分だ。

 

 

「でも、どうして私はカキフライが上手くできたぐらいで納得されないんでしょう・・・?」

 

 

今日の八神家は冬にぴったりの牡蠣尽くしでした。

その中でシャマルが担当したカキフライが好評だったために今回のような事態にあいになった。

 

 

「それはなぁ、シャマルやし」

「そこで微妙な失敗をやるのがシャマルクオリティ?みたいな」

 

 

ココアを飲みながら、製菓メーカーのマスコットの女の子みたいに舌を出してウインクしつつサムズアップするはやてと、殴られた後頭部を押さえながらサムズアップするアストラ。

 

 

「ドジっ子属性ですか?」

「一歩間違えるとウザい子になりそうだけどね」

「いえ、ですから何故にみんな私へのツッコミは容赦ないんですか?」

 

 

そろそろ本気で優しくしてくれませんか。

 

 

「シャマルってツッコミ待ちと違ったん?」

「そんなわけありませんよ・・・・ぐすん。私だってこんな漫才体質断固としてお断りです」

「・・・と言いつつ、一番ボケ倒してる気がするが」

「そう言うザフィーラもここ一番で酷いツッコミを入れるよな・・・」

 

 

お笑い集団でもあるまいし、とはやては思うがちゃんとボケとツッコミと毒舌役の分担が成立している。

もうしばらくしたら吉本新喜劇でもできそうな勢いだ。

 

 

「いや、俺はそういうわけでは・・・」

「ついに馬脚を現したな、ザフィーラ!」

「見損ないましたよ、ザフィーラ。貴方がそんなムッツリ陰険野獣だったなんて・・・」

「今日からは主はやての部屋で寝るのは禁止だな」

「けっ」

 

ヴィータに至っては短く罵倒してから、冷やかな視線で見上げる。

 

「待て!俺が何をした!?」

「卑怯者」

「知らない顔してエグイ」

「不意打ち上等」

「下種な仕打ちだな・・・守護騎士が情けねぇ」

「む、無実だ!」

 

 

男一人に女四人の集中砲火。

しかも、本人的にはかなり無実の混じった罵倒は受け入れられない。

 

 

「まぁ、そないなこともあるやろう」

「タイミングとは重要だな」

 

 

外野は助けてくれる気配がない。

 

 

(偶には餌食になっておけ)

(なぁっ!?)

 

 

アイコンタクトもすげなく断られた。

普段から知らぬ存ぜぬを通すと、手酷いしっぺ返しがくることを覚えておいてもらわなけれなということらしい。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

みんな笑えている。

恭也は純粋にそのことが嬉しかった。

この時間を一日でも、一時間でも、一分でも、一秒でも長く続けさせてやりたい。

 

聞いていないだろうが、トイレと言って立ち上がるとリビングを出る。

そのままトイレには向かわず、洗面台へ向かう。

ポケットからピルケースを取り出すと、手の平一杯の薬を飲み下す。

 

 

「抗癌剤治療もこんなものか・・・」

 

 

効き目は確実に弱まっている。

後二週間もないが、それまで体が保つだろうか。

 

 

「保たせるか」

 

 

“闇の書”の完成までは、自分が軛となって場を膠着させる。

そして、ゲートキーパーズの切り札であるスレイン=ウィルダーが来るまで、護り続ける。

そこまで至れば、自分は抜けるがこの家族は残すことができる。

 

他の自己同位体を呼べば戦力の増強は図れるが、それはできない。

まだガルムの正体が不破恭也であることを知られてはならない。それに、八神はやてを護るのは他の自己同位体ではなく、八神恭也である自分なのだ。そう決めたからには貫き通し、自己同位体も尊重する。

皮肉なことに、自己同位体が他の自己同位体と別の思考特性を持つことが今日の状態を招いていても、その思考を捨てることはできない。

 

自己が複数あることは、同時に思考が複数あることになる。一般的に考えれば魔導士の使う思考のマルチタスクの延長線上のようにも思えるが、実際は異なる。

思考のマルチタスクは、要するに思考するという動的なものに対して処理割り当てを複数与えるというもので、言いかえれば思考の分割。思考が複数あるというのは、思考の増殖。パソコンもOSが複数同時に起動すれば当然のごとくエラーが生じるように、人間も思考が増殖し複数あればエラーを起こす。

人間は有機的でファジーな存在であるからそのエラーも内部処理し、誤魔化せるがそれにも限度がある。

 

限度を超えれば、エラーは蓄積し最終的にソフトウェアを破壊し、ハードウェアを動作不能にする。

詰まる所は、八神恭也という人格のソフトウェアが破壊され、肉体というハードウェアを動作不能にする。

それが、脳腫瘍という最悪のダメージを具現化させている要因。外的要因や、遺伝的要因などまるで関係ない。

 

 

―――【幻月】

本来ならば絶対に有り得ない、自己同位体の任意複製魔法。

絶対に有り得ない事象を覆す代償は、エラー蓄積による自己同位体のプログラム自壊―――即ち、死。

 

 

これは八神恭也が誕生した時から定められていた、逃れようのない運命だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、最強のベルカ式魔導士は誰かと問われれば現代の人々は一人の名前を挙げるだろう。

 

 

―――スカーサハ=インテグラ

 

 

ベルカ影流の達人にして、聖王教会の教皇補佐官の地位にある女性。

 

 

聖王教会において教皇とは他の宗教とは大きく異なる。聖王教会におけるそれは、人ではない。

ミッドチルダの北部、ベルカ自治区の中央に位置する聖王教会の総本山ガムラウプサラ大聖堂に鎮座するデータベースこそが、教皇にして聖典の原典。

 

聖人として列席されたベルカ騎士達の事績を余すことなく収蔵し、最も重要な聖王陛下の事績を完全に記録したデータベース。“ユングリング”と名付けられているデータベースこそが、教皇そのもの。

教皇補佐官は、実務を取れないデータベースに代わり聖王教会を統率し、またデータベースを不心得者の手が触れないように守護する役目を負う。

 

嘘か真か、彼女は教皇補佐官として数百年の長きに渡り守護してきた。

故に、その実力はベルカ最強。戦う姿を見ることさえ極稀だが、オヴニルのハイメロートやグラーバクのベルニッツをして、勝てないと言わしめる実力は本物。

 

 

けれども、彼女もまた自分より強い存在が居たと伝える。

―――古代ベルカの聖王陛下その人

ベルカ影流の最強の遣い手。あらゆる武器を使いこなし、複数の異能を持つ真の天才。

そして、ベルカ史上初めて虹色の魔力光カイゼルファルベを発現させた傑物。

 

刀、剣、槍、斧、杖、鎚、徒手・・・多くの術を編み出し、後世に残した。

 

 

 

 

「死なないで・・・ね!!」

 

 

アストラは砂漠の砂にしっかりと両足を噛ませてから、

 

 

 

カッ!

 

 

 

両手で構えている槍に超高速の回転をかけながら刺突を放つ。

螺旋を描く槍の穂先が大気を捻じり、旋風を巻き、先端が嵐と化す。

 

 

―――【ラングアルミヒ】

 

 

一瞬にして長射程を駆け抜ける嵐の刺突によって、管理局の武装局員は弾け飛ぶ。

刺突の接触した点から螺旋状に渦巻くようにバリアジャケットが砕かれ、ビクビクと痙攣を繰り返す。

単純な突きだが、刺突の射出から打着、引き戻しまでをまともに視認できないほどの速度で行っている。ただの突きを技にまで昇華させた、ベルカ影流槍術の奥儀。

 

 

「よしよし、今日も大漁、大漁、と・・・」

 

 

昏倒させた武装局員のリンカーコアを回収しながら、アストラは本日の相方であるシグナムの方を見る。

 

 

「うーん、相変わらずの手際だよねぇ」

 

 

さも当然とばかりに蹴散らし終えているシグナム。

 

 

「この程度では話にならん」

「まぁ、ね。懲りずよくやる、とは思うけど・・・」

 

 

シグナムがどう考えているかアストラには解らないが、やはり変だ。

強さが段違いであり、武装局員程度では到底及ばないことなど百も承知のはずなのに。彼らは懲りずに波状攻撃をかけてくる。勿論、自分達も他より効率的に集められる武装局員を狙うので、わざと見つかるようには動いては居る。

組織の性質上、自分達をのさばらせておくわけにはいかないのは理解できるが、やや愚直に過ぎる。足止めなり時間稼ぎなりをした上で、先日の女の子達やアライアンス・グラーバクを呼べばいいのに。

 

 

「・・・まるで、我々に蒐集させたがっているようではあるな」

「シグナムもそう思う?」

「ああ・・・解せないな」

 

 

何か裏がある。

食い破れるだけの力はあるが、それは逆に向こうも承知している可能性が高い。

 

 

「アストラ」

「ん?どったの?」

 

 

対象は全て殲滅したのに、シグナムは[レヴァンティン]を納める様子がない。

 

 

「お前は・・・主はやての前の、主を覚えているか?」

 

 

一度言葉を止める歯切れの悪さはシグナムらしくなかったが、後半の内容にある程度納得がいった。

アストラはさくさくと砂漠の砂を踏み鳴らしながら、近づく。背を向けたままのシグナムには見えないが口元を“へ”の字にしながら。

 

 

「藪から棒に。現状と何か関係でも?」

「いや・・・特にないが。ヴィータがな、昔の記憶は覚えているのに前の主に関してはよく思い出せんと言うのでな」

 

 

言われて気付いた。シグナムもまた思い出せないことを。

いや、それよりも以前活動していたのは何年前なのか。勿論、はやての年齢を逆算すれば10年から11年ほど前というのは解るが。だが、自分の記憶でその間に活動していた記憶が無いのだ。

 

 

「と、言われてもねぇ・・・僕なんか、それ以前の主でもろくすっぽ覚えてないよ?」

 

 

覚える意味もなかったしと笑う。

 

 

「そういう意味ではない・・・本来的な意味ではプログラムであり、記憶はメモリという形で蓄積されていくはずの私達がそのメモリを喪失している理由は何か、と言っている」

 

 

やや苛立ったようにシグナムは言い放つ。

アストラの言うように、無駄な記憶として切り捨てることはできる。つまるところはメモリから消去すればいいのだ。けれども、自分もヴィータもそんなことをしたことはただの一度たりともない。

どれほど悲惨で、消してしまいたい過去でも胸の中に残しているはずだ。

知らぬ間にメモリが消えている。それがどれほど恐ろしいことなのか、アストラにも理解できるはずなのに。飄々としている態度がこの時ばかりは癇に障った。

 

 

「不安なのは解らなくもないけど・・・はやてだけじゃ駄目なの?」

「そういうわけではない・・・そういうわけではないんだ・・・だが、このまま知らないうちにメモリが消えていくことが――――」

 

 

耐えられない。

怖いと言わないのがシグナムの精一杯の強がり。

 

(そっか・・・ただ怖いだけじゃないんだね)

 

以前の記憶などある意味で、どうでもいいのだ。

大切なのは、はやてとの記憶。そして、怖いのははやてとの記憶が消えてしまうこと。

いつか唐突に掛け替えのない、宝物のような記憶も消えてしまうのではないか。

 

 

「失うものができたから、怖いんだよねシグナム」

「何か言ったか、アストラ」

「いんや、何も・・・うん、何も・・・」

 

 

自分の小さな声を誤魔化し、けれども表情を誤魔化しきれなかったので後ろを向いた。

だったら、記憶を失った妹達は知る必要がない。守護騎士が本当は、七体居たことを。

 

 

 

 

「来たな」

「うん、来たね」

 

 

雷槍が、二人に降り注ぐ。

 

 

 

―――【紫電一閃】

 

 

 

その場から動かず、焼き焦がす焦熱の炎を[レヴァンティン]に纏わせたシグナムの一閃で槍は圧し折られ、一掃される。

 

 

「下だ、シグナム!」

「っ!?」

「はぁっ!」

 

 

アストラの呼びかけに、シグナムは一閃した剣を引き戻して正中線を護る。

そこへ、高速移動で突貫してきたフェイトの一撃が叩きこまれる。速度の乗った一撃は、本来的に軽い威力を補い、咄嗟に受けたシグナムに踏鞴を踏ませる。

何時ものフェイトなら、ここで更なる追撃をかけるが今度は直角に移動し、二の太刀を控えた。

 

 

「なっ?!」

 

 

けれども、フェイトが突貫してきた方向と全く同じ方向から更に雷槍が、今度は数十本も飛来する。

 

 

―――【シュラオベアルミヒ】

 

 

アストラは体が崩れたシグナムを庇うように回り込む。

槍を腰溜めに構え、左足を前に、上半身を倒してから撥ね上げる。

捻じれ螺旋を描く刃を持つ[フォーマラウト]が螺旋の溝に沿って風を纏い、風鳴りの咆哮を放つ。

 

風獣の咆哮は螺旋の中に螺旋を描き、強力なカマイタチを巻き付けながら数十本の雷槍を蹴散らした。

 

 

(やる!)

 

 

素直に、単純に感嘆。

遅延をかけた魔法によるトラップ。

奇襲を成立させるために工夫が凝らしてある。そして、正しい。

 

 

フゥゥウン!!

 

 

ゼロサムで加速するフェイトは、雷槍を止められたことを無視してシグナムと切り結ぶ。

 

 

「強くなったな、テスタロッサ!驚異的だ!」

「――――――ッ!」

 

 

しかし、やはりシグナムには言葉を発する余裕がある。

一撃入魂であるフェイトとは比べるべくもない。

 

一合、二合、三合――――重ねるごとに劣勢になる。なるが、決定的になる前にフェイトは一瞬で離脱し、シグナムの斬撃は空を切る。

 

 

「むっ!?――――速度も上げたか」

「斬撃と斬撃の継ぎ目の僅かな時間でか・・・恐ろしい成長だね」

 

 

その速度ではなく、戦闘における判断力。

撃ち合いでは勝てぬと知り、撃ち合いになれば即座に離脱をかける。そうすることで主導権の握りあいを潰し、場をイーブンに戻す。一歩間違えればシグナムによって押し潰される。

並はずれた胆力と、選択肢に入れて選ぶほどの判断力が求められる。

 

 

「・・・・・・」

「黙して語らずか・・・それもまた判断の一つだ。それで私達を倒せると思うならば、やるが良い」

 

 

されども、奇襲は完全に失敗した。

シグナムもアストラも、驚きはしたが無傷。

シグナム一人でも手に余るのに、アストラも加われば勝ち目などあるはずがない。

 

 

「子供一人に意気がって見せるとは、大人気ないだろう?」

「新手か・・・・・・」

 

 

BBが愉悦に顔を歪めながら、降りてくる。

 

 

(強いね・・・・・・)

(ああ、私の【飛龍一閃】を止めた相手だ)

(げっ・・・パスしたいんだけど)

(良いだろう。奴は私がやる)

 

 

アイコンタクトで打ち合わせ、

 

 

「行くぞ!」

 

 

BBの声よりも先に動いたフェイトを合図に、再開。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(凄い!)

 

 

素直に、なのはは驚いていた。

共同戦線を張ることになったアライアンス・グラーバク。その強さに。

 

フリークスであるドレッドノートは、ヴィータ相手に互角。

金砕棒型のデバイスという、タイプの似たデバイスを駆使して激しく打ち合っている。

そして、残るザフィーラとシャマルもテラとなのはの二人で抑え込んでいた。

押され気味だった戦いが一気に楽になった気がする。いや、“なった気がする”ではなく、実際に楽になっている。

 

 

スフィアを八つ周囲に浮遊させながら、なのははテラの援護に回る。

 

 

「死―――っ!!」

 

 

3mの距離。一足の外の間合いを確保したテラは、グリップガンタイプの銃型デバイスのトリガーを引いてフルオート射撃の弾幕を張る。周囲に浮遊させている32のスフィアは一つも動かさない。

 

100発近いフルオートの魔力弾を、ザフィーラは避けない。

初戦でクロノへ仕掛けたように砂を固め、隆起させると壁を作る。魔力弾は容赦なく脆い砂壁を削り倒していくが――――

 

 

「噴ッ!!!」

 

 

両腕を上げ、拳を顎と同じ高さに合わせた状態からザフィーラは、拳打を放った。

 

 

「何だと―――っ!!?」

 

 

拳打は自ら構築した砂壁どころか、削りに使ったせいで減ったもののまだ70発はあろうかという魔力弾を一撃で吹き散らした。散った砂が、組成を変え砂礫となれば、その形状は弾丸のように形成される。お返しとばかりに推進する砂礫の弾丸。

 

テラは周囲に浮遊させていたスフィアからフルオート掃射をかけ、砂礫の弾丸を弾幕で払っていく。

並行して新たなスフィアの形成と、教科書通りにセミオートの3発分を残したライトグリップガンのマガジンを自動装填機で装填する。

装填が終わる前に、残弾のあるレフトグリップガンが視線を動かさずに構えていた前方から90°左へ射線が動かされる。

 

 

そこには、砂礫の弾丸を隠れ蓑に回り込んでいたザフィーラが拳を構えていた。

 

 

(踏み込まれたか―――ッ!)

(気付かれたか―――ッ!)

 

 

防御用のスフィアは間に合わない。

レフトグリップガンのトリガーが引かれるよりも先に、ザフィーラの拳が動いた。

 

 

「【ディバインバスター】!!」

「斉――――ッ!!」

 

 

体を半回転させるほどの遠心力と反発を込めた一撃が、【ディバインバスター】と激突―――するまでもなく、ザフィーラの巨体は押し負けて吹っ飛んだ。巨大な砲撃が炸裂するよりも早く。

 

(逃げられたッ!!)

 

無茶苦茶な方法だが、ザフィーラは【ディバインバスター】を殴って回避した。

炸裂の余波もかなりのものだが、ザフィーラの堅い守りを抜くことはできない。

 

 

「少し、野暮が過ぎるわよ」

「しまっ――――」

 

 

最初からそこへ居たように空間転移で出現したシャマルの掌底が、咄嗟の【プロテクション】に突き刺さる。

 

 

「あうぅ・・・!」

 

 

防いだと思ったのは早計。左肩に激痛。

 

そう、早計に過ぎる。前回の戦闘で、クロノが受けた攻撃はまるでバリアジャケットを無視したかのように直接ダメージが入っていた。何故かを考えなかった。攻撃を受けたクロノでさえ、気づいていない。精々が攻撃の精度が高いとしか思っていないだろう。

そんな都合の良い話があるはずないのだ。手品には種がある。魔法には術がある。その答えをなのはは文字通り突き立てられた。

 

 

(防御を無視・・・じゃない!?防御を――――)

 

 

「正解よ」

 

 

思考を読み取ったかのような呟きが錯覚じみた不明瞭さで聞こえ、重心の移った右半身の頭部に回し蹴りが叩きこまれた。意識が彼方まで飛び去り、戻ってくるまでに時間がかかる。

 

 

「―――私の体術はベルカ影流の秘奥が一つ」

 

 

それで終わらせるシャマルではない。

[クラールヴィント]から魔法糸で繋がった宝玉を飛ばして円環を形成する。

 

 

「其は貫き徹す技なり」

 

 

防御魔法を貫き徹す。有り得ざる術。

 

ミッドチルダ式の魔法というのは有体に言えば戦車である。

堅固な装甲によって守勢を整え、火力によって戦場を圧する。

地球において陸戦の花形として戦車が君臨するように、ミッドチルダ式も魔法戦闘において主流となった。

 

だが、戦車は果たして万能兵器であろうか?

否である。既に花形として確固たる地位を築いた第二次大戦においてすら急降下爆撃の餌食とされ、歩兵携行の対戦車兵器によっても破壊が可能となった。

成形炸薬弾というものがある。着弾と同時に化学反応によって生じた超高熱で装甲を融解させ、戦車内部を焦熱させる。

 

古代ベルカ式―――ベルカ影流はミッドチルダ式と戦闘における優位を築くために、同じ原理を編み出した。

 

魔力は個々人により特色を持つ、相互がパスを繋ぐことによって譲渡を可能とする。

パスを繋ぐと言えば抽象的だが、魔力は個々人の特色を中和して誰のものにもできるような親和性を持たせることができるということ。それは、逆説的にこうも言える。魔力は中和して相手からその制御権を奪うことができる、と。

言葉にすれば単純だが、そこに求められる技量の高さは想像を絶する。高いという言葉で足りるか怪しいほどに。

 

 

シャマルはそれを体術限定ではあるが、無制限に利用できる。

 

 

円環に魔力が満ちる。

最初の戦いでシャマルがシグナムとザフィーラを打ち出した魔法。

浅緑色の魔法陣が展開されている。

 

 

その魔法が何か解らずともヤバいものであることは思考せずとも。

【プロテクション】やバリアジャケットまで無効化されるとは思っていなかったので、意識が半分ちょっとしか戻ってきていない。それでも大丈夫。コマンドを下せる程度に意識はある。

 

 

(行けるよね、[レイジングハート])

 

 

あからじめ、デバイスを通して待機させていたコマンドが解放される。

 

 

加速射出魔法によって自身を打ちだそうとしていたシャマルの周囲で指向性を持たせた魔力が炸裂する。

先ほどまで周囲を浮遊させていたスフィア。制御を失い、霧散していくだけだったはずのそれが炸裂したのだ。

 

 

「な―――――っ!」

 

 

驚く間に、奔流に呑まれたシャマル。

桃色の閃光に、なのははシャマルの姿を見失う。

 

これで仕留められるなど、甘い考えは微塵も持っていない。クロノの隙をつき、ユーノとアルフの三人がかりでさえ容易く破ってみせたシャマルがこれしきで倒れるはずがない。

意識の大部分を取り戻したなのはは、砂漠に着地すると即座にスフィアを展開。

そして、砲撃用の魔力を一気に収束させる。

 

 

と、そこで横合いから急襲。

 

 

[グラーフアイゼン]が達磨落としよろしく、ぶっ飛んできた。

 

 

「―――させん!」

 

 

拉げた声が間に入った。本当にビルで達磨落としができそうな勢いの[グラーフアイゼン]を止める、[MK−9999]。寺の鐘をついたような、殷々と響く音は金属ではなく魔力同士がぶつかり合う重低音。

 

 

「うっぜぇーーんだよっ!!」

 

 

一気呵成。止めたはずの[グラーフアイゼン]が、[MK−9999]ごとドレットノートを粉微塵にする勢いで弾き飛ばす。抵抗など無意味。逆らうこともできず、なのはとヴィータの視界から消える。

 

 

「【ディバインバスター】!!」

 

 

本日二発目のお目見え。前回とは比べものにならないほど高速の魔法構築能力により、初弾と遜色のない一発がヴィータの鼻っ面で放たれる。

 

 

(連射できんのかよ―――っ!!)

 

 

それは割とピンチだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(凄いな、この子は・・・・・・)

 

 

カマイタチを伴う風の奔流を自在に操りながら槍撃を繰り出すアストラは素直に感心する。

カートリッジを一発消費してハーケンフォームへ変化させた[バルディッシュ]を扱うフェイト。

たった数日前まで、シグナムは言うに及ばずアストラの足元にも届かなかった少女は、その差を確実に埋めてきている。

 

シグナムが前回言ったように、良い師にも恵まれている。

 

取り回しが格段に向上した大鎌は円軌道であり、槍は直線軌道。

フェイトは点としか認識できないアストラの刺突を叩き落とす。

鎌を振るうだけではなく、振るった遠心力で自分の体を中心に一回転させて再び振るう。時には足の位置取りを変え、自分も回転する。その動きこそが大鎌の本来の戦い方。

時には長大な刃で、時には柄や石突で攻撃と防御を一体と成す。

 

彼女の師は間違いなく超一流だ。この短期間で戦闘の極意である歩法を身につけさせている。

 

 

けれども、同時にシグナムの評価が正しいことも解った。

 

 

「フェイトって、言ったかな?」

 

 

話しかけながらも攻撃の手は緩めない。

それは話しかけられたフェイトも同じ。本来の技量差を考えれば、刹那の時も気を抜けない。

 

 

「君は、僕達の戦いに何を求めて戦っているのかな?」

 

 

[フォーマラウト]から強風が吹き出し、砂を巻き上げてフェイトの視界を覆い隠す。

魔法ではなく物理的な眼潰し。すぐさま魔力探知に注力するが、魔力反応が五つに分裂し、五つの方向からの敵意が迫る。

 

 

―――【フォトンレイピア・マルチシフト】

 

 

生成された雷剣がフェイトを囲み、五つの魔力反応へそれぞれ八本ずつ飛翔する。

命中。四つの反応が消滅。残った一つに向かって[バルディッシュ]を振るうと、手応えが帰ってきた。

 

(いや、天才ってのは本当に居るもんだなぁ)

 

場違いな感心をしつつ、

 

 

「余裕なくて答えられないなら別にいいけど――――」

 

 

大鎌を受けた反動で槍を半回転させ、勢いのまま刺突を放つ。

 

 

「―――君の願いは、僕達と戦うことで叶えられるものなのかな?」

 

 

ガチンと金属音。同じ理屈で大鎌の柄が刺突を弾く。お互いに体が泳ぐが、体格で上回るアストラが先んじで制御を取り戻し、泳いだ体勢を利用して胴廻し回転蹴りでフェイトを吹っ飛ばした。

 

(この手応えは・・・)

 

これでもまだ、背面に柄を回して蹴りの勢いを半分以上殺した。

 

 

「僕らの望みは、君達管理局とは相容れることはない。君やもう一人の子が、他の管理局の連中と違う目的をもって僕らと戦っているのは分かるけれど、そこには君達なりの望みがあるんでしょ?」

 

 

槍を一振り、二振り。そしてがっちりとロケットの発射台のごとく刺突の構えをとるアストラ。

フェイトは立ち上がり、[バルディッシュ]を持ち直す。

 

 

「私は、なのはと決めたんです。貴方達の力になるって・・・そのためには、話を聞かないと解らないことが多過ぎるから」

 

 

アストラの眼がきょとんとなる。構えは寸毫も緩まないが、呆けている。

 

 

「でも、貴方達は真っ当な方法で話し合いを望んでも受け入れてくれない」

「・・・だから、戦って動きを止めたところで話し合いをできる状態にする、ってこと?」

 

 

今が戦闘状態でなければ、天を仰いで嘆いたところだ。

 

 

「僕から言わせてもらえば、“何を甘っちょろいこと言ってんだ糞ガキ”ってところなんだけど、君らは本気なんだね?」

「はい」

 

 

短く明確な回答。珍しく、アストラは内心で嘲弄し、フェイトを憐れむ。

 

 

「君達の目的は、大団円なんだろうけどそれは無理だね。世界ってのは君達が思っている異常にクソッタレで、救いが無くて、善人が善人を虐げることが当然なんだ。そんなんだから、僕はこうして戦っている。それは他の仲間達も一緒だ」

 

 

守護騎士となってからも――――守護騎士になる以前も世界はそうだった。

 

 

「それでも――――」

「違うよ、僕が聞きたいのはそういうことでもないし、答えて欲しい言葉もそんなもんじゃない」

 

 

話し合いたい、力になりたい。貴方達はただの破壊者ではないから。そう言葉を紡ごうとしたフェイトを、アストラは拒むように言葉を覆った。

 

 

「確かにそう思ってくれているのは伝わってくる。僕も騎士の端くれ。戦った相手の信念の有無ぐらい判別はつくよ・・・・・・でもね、君は少し違う。もう一人のあの子と比べてね」

 

 

フェイトには見えた。

人懐っこく、独特のリズムの軽さで居たアストラの様子が一変する。

 

 

「甘えたことばかり口にするしかない糞餓鬼に何ができる?」

 

 

ネコ科の猛獣のような身のこなしと、精緻な槍術を使ってきたとは思えないほど気配が獰猛さを漂わせる。

これまでが爪による引き裂きならば、これからは牙で噛み殺す。

ロケットの発射台のような構えが芳しい死の薫風を運ぶ。

 

フェイトは取り落としそうになった[バルディッシュ]を慌てて握り直す。

この人は拙いと本能がガンガンと警鐘を鳴らす。二度戦ったシグナムとは性質が違う。シグナムには何をやっても通じないという堅牢な恐ろしさを感じた。アストラから感じるのは何をされるか分からないという怯え。

 

 

「貴女は・・・救いを求めていないんですか?」

「救い?」

 

 

せせら笑いが怯えを加速させる。

少しだけ解った。アストラが怖いのは、無秩序に見えながら人の知られたくない部分を射抜く眼光を持つからだ。彼女の槍術が針の穴を通すかのごとく、心の奥底にある部分を衝いてくる。

 

 

「君達―――いや、君が救い?」

「何が、可笑しいんですか?」

「可笑しい?違う、違う・・・扱き下ろしてるのさ」

 

 

アストラの周囲に風が渦を巻き始める。

 

 

「誰よりも自分を救って欲しいと願っている君が、僕らを救うなんて傲慢な台詞をほざくなんて、百万年早いんだよ」

「私は――――」

「―――そして!!!!」

 

 

駄目だ。言わせてはいけない。

[バルディッシュ]にコマンドを送る。

 

 

「数多の犠牲を積み上げて悲願を成し遂げるという方法をかつて実践し、それを今も否定できない君が、どの面下げて僕らを救うなどと口にする!!!」

 

 

高速移動で間合いを詰めにかかるフェイトに浴びせかけられた冷や水のような言葉。

聞かないふりをして、耳を塞げず聞いてしまう。

 

 

 

疾ッ―――――!!!

 

 

 

かろうじてフェイトも知覚できた。反射で反応できたのは二度も続かない僥倖。

高速移動を捻じ曲げ、予定コースを大きく外れたフェイトは自分の胴体に何かが当たったと感じて、直後に弾けた。痛みより先に苦しみが伴う、苦痛。全身をばらばらにされたのではないかと思う。

 

砂漠に叩きつけられ、二度、三度と繰り返される。ボールが転々とするようだが、いかに幼かろうとフェイトの体格では考えられない。それに防御力は比較的低いとは言え、AAAの魔導士のバリアジャケットがある。

仰向けに倒れたところで、ようやくフェイトは止まった。痛みに神経が混乱してビクビクと痙攣を繰り返しているが、まだ四肢が繋がっている証拠なんだと莫迦みたいなことを考えてしまう。

 

 

 

「今のが、本当のベルカ影流槍術―――君は殺さないから、手加減はしたよ」

 

 

 

離れたところからアストラの声が歪んで聞こえる。

砂まみれで、耳にも入ったせいか、それとも受けた衝撃のせいか少し耳が莫迦になっている。

 

 

「君は、もう一人のあの子とは決定的に違う。あの子は僕らの方法を否定も肯定もせず、自分のやり方という三つ目の選択肢を強要する、とんでもないエゴイストだ。それはそれでいい。僕らもその方が気持良く戦える」

 

「言わ・・・ないで・・・」

 

 

砂混じりの言葉で遮ろうとしても、アストラの饒舌は止まらない。

肉体をボロボロにされた上で、更に精神的にも削られていく。[バルディッシュ]を杖に立ちあがるが、膝が笑って立つこともろくにままならない。

 

 

「でも、君は違う。僕らを否定できないという思いが強過ぎる。あの子のように三つ目の選択肢を強要することは否定につながるとも思っている。だからと言って、肯定はむしが良過ぎる。そこまで思ってるんでしょ?だから、今一つ性根が据わらない―――戦いを曇らせる」

 

 

がっちりと、再度ロケットの発射台が構築される。

獰猛さを隠さず見せながら、クレバーに戦いを見ている。アストラの攻撃は届き、フェイトは間合いを詰めなくてはならない距離。

 

絶望的に過ぎる。まだ、これでも追い着かない。

追い着くどころか、逆に体を叩きのめされ、心を圧し折られそうになっている。

それはアストラの言うように、戦いを曇らせているからかもしれない。

 

分かっている。分かっていないふりをしていただけだ。

 

自分だって、アストラ達と同じことを散々してきた。大切な母―――プレシアの喜ぶ顔がみたいというエゴを叶えるため、無関係な人達をたくさん傷つけてきた。その先が破滅だと薄々分かっていても、それだけしかないと信じて、いつかプレシアが振り向いてくれる日を待ち望んで。

悪いことだけど、仕方ないんだと自分に言い聞かせながら・・・それでも達成感があった。これでプレシアが振り向いてくれると喜悦を覚えたことだって一度や二度ではない。

 

 

悔し涙が零れる。

 

 

(ごめん・・・ごめんね、なのは)

 

 

誰かを犠牲にしてでも成し遂げたい気持ちが分かる故に、それでも止めることに躊躇する。

助けたい、救いたい、でも望んでいる結末は違えばどうしたらいい。

フェイトは望む結末を叶える方法を、アストラ達のやり方でしか知らない。

 

だって、フェイトは最終的になのはに敗れ、プレシアに迎え入れてもらえなかった。

結果だけを見ればそうなる。気持ちが違うにしてもだ。

 

 

 

「さて・・・長話の与太話になっちゃったけど、覚悟はいいかな?」

 

 

次弾装填。カートリッジリロードが行われ、魔力が充溢する。

 

 

「・・・・・・駄目」

「何が、かな?」

 

 

魔力の風を纏いながら、アストラの聴覚はその言葉を聞き逃さなかった。

 

 

「分かっているんです、私と貴女達が同じだって。だから、言えることもあります」

 

 

零れる涙を拭い、歯を食いしばって立つ。

何度もアストラの攻撃を凌ぐことなど到底できない。

 

 

「夢は叶わないんです!!私達のやり方は巡り巡って最初から訪れることが分かっている悲劇で幕を閉じるしかないんです!!」

 

 

プレシアは最初から狂っていた。自分の中にある、過去の娘と今の娘の板挟みに合い正気を保つことができず、心の均衡を保つために虐待を加えた。そして、虐待にまた心を痛め、かろうじて均衡は保っていても、心はどんどん磨り減り、疲弊していった。

 

歯車の狂った幸福を得ることで良いのか?

その答えは今も出ないが、自分とプレシアに訪れた悲劇は、形を変えてアストラ達にも降りかかる。

それだけは防ぎたい。この想いだけは嘘でも、偽りでもない。

 

 

 

「良くぞ吠えた、小娘。覚悟は良いか?」

 

 

「はい」

 

 

 

届かないことなど百も承知している。

やれることは一つ。なのはが自分にやったように、力で止めるしかない。

否定できなくても、気後れがあっても、あの悲劇だけは他人のものであってももう見たくない。

 

 

「[バルディッシュ]」

Yes, Sir

 

 

「そうでなくては」

 

 

アストラは獰猛さを増す。

獣臭ささえ感じられそうな顔。

高密度の風が周囲を犇めき、いつでも解き放てるように待っている。まるで猛獣の爪と牙が研がれているよう。

 

 

 

フェイトの持つ奥の手。まだ御雫祇から実戦の使用を認められていないが、今使わずして、どこで使うのか。独断で使う覚悟を決めて、カートリッジリロードのコマンドを送る。

 

 

 

ずぶり。

 

 

 

呆気ないほど簡単に、フェイトは胸部から腕を生やした。

それが何かを認識できず、それより先に何者かに背後とられたことに驚く。そして、同時に生やした腕の主へアストラの槍撃が直撃したところまで、見ることができた。

 

 

「誅滅」

 

 

今まで聞いた中で最も恐ろしい声音で、アストラはその人へ襲いかかっていた。

 

 

 

(何?―――まさか、私は・・・・)

 

 

 

リンカーコアをやられた?

仮面。道化が被るような仮面をつけた男性が、何事か喋ってアストラを懐柔しようとしていたが、アストラはそれを跳ね付け、殺さんばかりの勢いで男性を吹き飛ばした。

 

 

 

「不愉快な――――この勝負はお預けだ、小娘」

 

 

 

その言葉を聞いたフェイトは、意識を落とした。

 

 


あとがき

 

 

DTBの流星の双子が毎週楽しみで、楽しみで。

黒のやさぐれっぷりとか、蘇芳の小ネタとか、猫の常識的ツッコミとか。

 

私もそうですが、一般的に二次創作を書ける作品は世界観がしっかりした上で奥行きを持った作品なんだと改めて思う今日この頃。TYPEMOONなんかはその辺を売りにしている面があって、広がりを見せてくれているわけで。

何故こんなことを言い出すかと言うと、私が他に投稿させてもらっているアリスマティックなんか割とミニマムな世界観になっていても題材にしているクトゥルー神話の広がりと世界観が盤石だからできるんだなと思って書き始めているからでして。同じように愛姫無双もゲームはさておき、三国志という史実を前提にし、膨大な資料が存在するからできるわけですよね。

 

先日、友人から「とある魔術の禁書目録」で二次創作できないかという話を持ちかけられた。私が書く分には今でも一杯一杯なので断り、アイディアだけならということで相談に乗った。自慢ではないが、私は原作を読んだことが全くない。アニメを一部始終見ただけなので、世界観を聞きかじってルールに反しない範囲で色々と考えてみました。

そこで傍と思ったのは、読んでいない私が言ってはいけないことなのだろうけど、多分この話はまだオチに至る過程が決まっていないということ。そして、作者による作中のルールの説明不足が目立つなぁと。二次創作を作り易い作品というのは総じて世界のルールに関しての説明描写が多い。

まぁ、今回例に挙げたこの作品は割と牽強付会なところがあるらしいので、一括りにしてはいけないらしいが。うん、「効果範囲は左手の触れたもの」という設定に矛盾があり過ぎるし、一介の高校生が戦闘のプロを体術で互角にやれるとか。

 

こうやって説明描写多いということは作品を理解する上で良いことなんだし、私も基本設定中毒なので楽しんでいる。二次創作を作る上でも資料となるので良いことづくめだけれど、逆にオリジナルの作品を作っていこうには厳しいんだろうなぁとも思う。

以前のあとがきにも書きましたが、アリスマティックの靜峯麒麟や愛姫無双の緋皇乃宮朧は、元々が私のオリジナル作品の悪役サイドのキャラをスターシステム(?)的に使っているだけでして。これがもう何度挫折したか分からないほどで、既に六回目の一から書き直しに入っているぐらいです。

一から作るよりも二次創作の方が楽ということもあってついついそちらへ傾倒していくのは悪い癖だとは思っているんですが。

 

 

 

今回の話のテーマは次回にも持ち越しますが「戦うことを舐めるな」っていう、やたらと格好良いものです。原作のように微妙に緩い展開であれば良いのでしょうけれど、当方リリカルシリーズでは戦うということは非常にエグイ上に、汚いものです。何故って、戦う理由はフェイトや守護騎士みたいに「美談」ばかりではないから。

 

次回は戦場の地獄の一端が垣間見える・・・かも?




前半の八神家で思わずほのぼのとしてましたが。
美姫 「後半は一気にシリアスね」
熱いバトルが繰り広げられてます。
美姫 「結構、互角にやり合っているようにも見えたけれど、やっぱりまだ及ばないみたいね」
目が離せない展開に手汗握りつつ読んでました。
フェイトとアストラのやり取りが特に印象に残ります。
美姫 「段々と終幕へと近付いていく中、一体どうなっていくのか」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね」



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