カチカチカチカチカチ――――
時計の針の音だけが支配する室内。
個室の病室。広い病室の中心に据えられたベッドの上には八神はやてが居た。
リクライニングで起こされた体は微動だにしない。自由の利かない下半身を覆う布団を握り締めている。その手は白くなるほど強く力が込められ、震えている。
俯いて前髪が隠す表情は蒼白を通り越して、土気色になりかけていた。
室内には、守護騎士達も居るが、誰も動こうとも、話そうともしていない。
シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。アストラだけが外出していなかった。
粘度の高い液体の中に沈んだかのような静けさ。
クリスマス・イヴの外は、誰もが浮足立っている。
院内でも、長期入院患者や小児科の子供達のために、ツリーが飾られている。
周囲が盛り上がるほどに、室内は一層沈鬱になる。
ホワイトクリスマスになるとの天気予報の外は、厚く雲が垂れ込めた曇天。
照明のつけられていない部屋は、とにかく暗い。
「どうしてなんや………何で恭兄ぃが………。」
喘ぐように、はやては繰り言を呟く。
呟きは聞こえていても、誰も答えなかった。
昨晩のこと。
クリスマスの料理や年越し蕎麦の具を相談したばかりだった。
いつも変わらない日常。ヴォルケンズは最近家に居ることも多く、クリスマスプレゼントを楽しみにしていた。恭也の隠し事は気になっていたが、あえて忘れることにした。きっと、恭也ならいつか自分に話してくれるだろうと信じて。
夕飯の買い物に出かけて、家に戻った。荷物持ちのヴィータと、料理当番のシャマルの二人を連れて、居間に入ると、恭也は2階に上がる階段の半ばで、倒れていた。
最初は何が起きたのか解らなかった。まさか寝ているわけではないだろうと、莫迦なことを考えた。
動いたのが早かったのは、シャマルだった。素早く駆け付けると、慎重に抱き上げて脈拍や意識の確認を行った。救急車を呼ぶように言いつけられたヴィータは電話機へ走った。その間、はやては動けなかった。
ぐるぐると様々な情報が駆け巡り、その全てを一概に否定した。
救急車とは別に病院まで移動すると、できる限り一緒に居る為にはやても入院することにした。
そして、今に至る。その間、半日以上が経過している。眠ろうにも、眠れず、出されて食事も手をつけることができなかった。
「失礼するよ。」
ノックの音と共に、返事を待たず白衣を着た男性が入って来た。
ほんの数日前に会って以来の、矢沢医師だった。
救急搬送された恭也を見てすぐに有効な措置をとった彼が、はやてへ入院を勧めた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
シャマルがはやてのベッドの側に椅子を用意すると、矢沢医師はゆっくりと腰掛けた。
「待たせて申し訳なかったね。色々と手配に時間をとられてしまったよ。」
「先生………これが……これが、恭兄ぃの隠し事やったん……?」
「そうだね。こうなってしまった以上は、隠しても仕方ないだろう。」
矢沢医師は脇に抱えていたノートパソコンをサイドボードに置くと、恭也の電子カルテを開いた。
「これは、純然たる医師として行う、家族への病状説明として聞いて欲しい。君達も一緒にだ。」
守護騎士達は家族と認められても素直には喜べない。せめて、恭也の病状が自分達の知る以上に善いものであることを願うしかできない。
「まず最初に言えることは、彼の病気は5年前の大火傷とは関係がないことだ。」
「え?関係、ないん……?」
「全く関係ないのかと聞かれれば自信はないが、少なくとも医学的見地からは関係がないだろう。」
ならば何故、恭也は倒れたのかとはやては視線で問い掛ける。
一方で、病状の一端を知る守護騎士達は一様に緊張する。
結局、この日までに闇の書のページは全て埋まらなかったことが悔やまれる。勝手な蒐集は徹底した監視によって出来ずじまいであり、新たな魔力の供給を待つことしかできなかった。
「心して欲しい。落ち着いて聞いてくれ。」
「……先生、はよう、お願いします。」
「解った……。」
できる限りショックを与えないように慎重に話が進められる。
ノートパソコンは恭也の頭部CT映像に切り替わる。
「ここに見える影が判るかな?」
「なんや、ゴムボールみたいなこれのことですか?」
「そうだ……それが、彼の脳内を侵す悪性脳腫瘍だ。」
「のう……しゅよう?」
のうしゅよう。
脳腫瘍。
漢字変換され、その中身が何であるのか理解するまで時間が掛かった。
「解り易く言えば、脳にできる癌だね。それも極めて悪い。」
「癌って……う、嘘や、恭兄ぃ普段はあないに元気なんやで?」
「それは一重に彼の努力、としか言えない。普段から気を張って、病気の症状を見せないようにしていたんだろう。」
医師であるからこそ、矢沢医師にはそれがどれほどのものだったのか、しかも一ヶ月、二ヶ月のものではないことに脱帽するしかない。
頭痛、嘔吐、眩暈。痙攣発作、手足の痺れ、運動麻痺、知覚障害、聴力障害、視野障害、記憶力や判断力の低下。どの症状が、どのタイミングで出るかはランダムなのだ。
そのことに気付いて、はやても愕然とする。
「きょ、恭兄ぃは治るんよね?ちゃんと手術をして、リハビリしたら、治るんよね?」
はやては治るという言葉が返って来ることを期待して、マウスを操作する矢沢医師の腕を掴む。
彼を見るその眼には怯えしかない。縋られる矢沢医師の表情は、抑制されている。決して良い答えが聞けないだろうと思っていても、はやては期待するしかなかった。
何時になっても、医師として一番辛いのはこういう時だ。そして思い知らされる。
医者は人の命も心も救えない矮小な存在なのだと。
「……さっきも言ったが、彼の脳腫瘍は極めて悪い。WHOの基準ではグレードVに分類される。脳腫瘍は手術そのものが難しい。最低でも75%以上を手術で摘出した上で、適切な放射線治療を行えば、ある程度は生きていられる。」
脳外科医の中でもグレードVで病状がこれほど進行した状態で75%以上を摘出できる人物は片手の指程度しかいない。そして、成功する保証もない。
しかし、はやてはそこではなく、最後の言葉でついに顔色が土気色になる。
「せ、先生……うっ………。」
緊張のせいでえずくはやて。
聞かないといけないと言い聞かせて、何とか言葉にする。
「先生、今……手術が成功して、治療をすれば、ある程度生きていられるって言うたよね?それ、どういう意味なん………?」
「脳腫瘍は、現代において完治不可能な病気だ……仮に全てを摘出して、治療を受けたとしても、進行した症状が改善されるわけではないんだ。そして、常に再発の危険がある。彼と同じ症状の患者の臨床データをWHOが集計した結果………2年で44%、5年で23%の人しか生きていないんだ。」
「!!?」
望みが絶える。ギロチンが落とされるように、はやての視界は真っ暗になった。
「う、嘘や!そんなん嘘や!!恭兄ぃが死ぬやなんて、そないなことあるわけない!!そうやろ、シグナム!?」
「あ、主……。」
思わず、シグナムは目を背けてしまった。
より大人である彼女は、耐えられなかった。頭で受け容れてしまえる自分と違い、頑なに認めない主を見ていることができなかった。
「シャマル!ヴィータ!ザフィーラ!?―――誰か、何か言うてや!?」
「「「………。」」」
言えることがないのは、はやてだって解っている。
矢沢医師の悪質な冗談でもなければ、結論は変わらない。
「先生、なんとかならんの!?」
「………すまない。」
矢沢医師は、息苦しさに苛まれるように声を絞り出した。
もう少し、この間話した時に治療を受けてくれていれば、まだ打てる手はあった。
しかし、救急搬送された後のCTやMRIの造影では、急速に悪化していた。専門である遺伝子治療でも間に合わないほどだ。
「そんなぁ……そんなん、あんまりや………。」
受け容れることはできない。
けれども、“現実”ははやての想いなどお構いないしに立ち塞がる。
最愛の兄は、間もなく死ぬのだと。手術に成功しても、僅か数年で生き別れる。
「………短い時間しかない。私も全力を尽くして少しでも時間が残るようにするつもりだ。」
だから何だと言うのだ。少女が欲しがっているのは、兄が生きるという言葉だけだ。
そうどこかで思っている内心を抑え込み、矢沢医師は酷だと知りつつはやてへ覚悟を求めた。
どこからともなく薄ら聞こえてくるのは、ジングルベル。
(サンタクロースというのが本当に居て、子供の願いを叶えてくれるのなら………何を莫迦なことを。)
けれども、この少女は迷うことなく兄の生存を望むのだろう。
今更ながらこの子のために入院できなかった恭也の心情の一端を垣間見ることになった。
しっかり者に見えたもまだ9歳だ。それも、両親を早くに亡くして、心底頼れるのは兄だけしかいないこの子にとって、その兄を喪うことは死と同じだ。耐えられない、踏み止まれない。
掌一杯の抗癌剤と繰り返される放射線治療に忙殺される生活は、命を延ばすだけにしかならない。矢沢医師が研究を重ねる遺伝子治療は飛躍的に進歩こそしているが、まだ臨床試験が終わっていない段階では、恭也に施術することも叶わない。
彼には兄の死に怯える妹を支えるための時間が要る。治療に忙殺されている余裕はないのだ。
しかし、治療をしても治る見込みがない以上、彼はこの子が少なくとも生きる気力が残るようにしなければならなかった。
恭也が自分の病気の原因を十分に把握していることを知らない矢沢医師は、もどかしさを覚える。
医師となって幾度も繰り返されてきた無力感。年老いることで諦めを言い聞かせることもできるようになったそれに慣れたわけではないのだ。
苦い無力感を、呑み下す。
医師の領分を越えるかもしれない。
だが、患者を救うという大原則を達成できない今、ならば自分にできることをしようと矢沢医師は心に決めた。
「はやてちゃん……私が今更言うこともでないだろうけれど、君にとって恭也君が生きる支えであるように、彼にとってもそれは同じなんだ。」
矢沢医師は恭也が意識を取り戻した時のことを想像して、どういう反応を示すか容易に想像がついていた。
一番に案じることは、自分の体のことではなく、自分の死期を妹に悟られてしまったことだろう。
「君の両親が亡くなった交通事故……車から投げ出された彼が、炎上を始めた車から君を救いだした時点で、大火傷を負っていた。けれども、君にはほぼ火傷は無かった。君のご両親が守った以上に、自分よりも君を優先した結果だ。」
この少女は覚えていないだろう。執刀医である矢沢医師は知っている。
妹を救うために炎上する車へ飛び込んだ彼は、その状態で近くの民家まで彼女を抱いて走り、救急車を呼んだのだ。病院に運ばれた時点では明らかに恭也の方が重篤だった。麻酔で痛みを紛わせ、熱傷の応急措置だけの恭也を見た時に、助かる見込みは低いと判断した。
だが、彼は壮絶な手術に耐え切った。
「彼は、どうしても、何があっても、君のために時間を使うだろう。情けない話だが、私はその時間を少し延ばす手伝いしかできない。だが、その時間でどうか受け容れてあげて欲しい。その僅かな時間を、君のために使うことを。」
はやては両手を顔で覆いながら嫌々と頭を振った。声を押し殺して、すすり泣く少女に当然のように良心が痛む。解ってくれというには酷な話だ。
―――妹を、お願いします、あの子をお願いします
手術中、全身麻酔で意識が落ちているはずなのに、彼はそう繰り返した。
スタッフは全員耐えたが、手術が終わった後の虚脱感に包まれながら、瀕死で意識を喪っても妹の身を案ずる恭也の姿に涙した。
あの時のことがあったからこそ、矢沢医師は恭也が強制的に入院させることができなかった。
「酷い事を言っていることは解っている。君に受け容れてくれと言うのが土台無理な話であることも……解っている………。」
眼鏡を外した矢沢医師は、熱くなった目頭を摘まむ。
「さっきも言ったように、私も全力を尽くすが、どうか彼の願いを……いや、君達にとって後悔のない選択を、して欲しい。」
代われるものならば、代わってやりたいと医師になって初めて思った。
救われるべきものを救えない辛さは、いつになっても変わらないのに。
だから、どれだけ口にするのが辛くても、自分が言うのだ。少しでも、ほんの少しでもこの兄妹の結末が楽になるのならば。
大人になると物事には順序があることを知る。
原因があって結果がある。因果と言われるそれの間に介在する物事が多くなるだけで、その真理は変わらない。
そうならば、自分にとっての因果の出発点はどこにあるのか。
次元管理局本局の執務室に居座るグレアムは止め処ない思索に耽っていた。
五十年前だろうか。
十一年前だろうか。
五年前だろうか。
それとも半年前だろうか。
《お父様、目標を捕捉しました。》
《命令を。》
思索を打ち切る、半身たる使い魔達の通信。
卓上に伏せられたポートレートが視界に引っ掛かる。
胸の内に広がる苦さを鼻から吸った息と共に、深呼吸に紛わせた溜息と一緒に吐き出す。
「作戦開始………これが最後だ。」
《《了解》》
次元を隔てた遥か遠い世界。
かつてグレアムが育った地球はある。
マスターの故郷は星の裏側にあると言うけれど、残念なことに従順なる使い魔―――リーゼアリア、リーゼロッテの二人はそれを見たことがない。
二人の居る、地球の日本、海鳴市の空は茜に染まりつつある。
海岸沿いに建てられた市民病院の屋上に立つ二人は、クロノをからかう時のような愛嬌は形を潜めている。
長年に渡ってグレアムの使い魔として戦ってきた歴戦兵士。その中でも冷徹を取り出して濃縮したようだ。
ポケットから取り出したのは、掌サイズのカード。
弟子であるクロノの前でさえ使ったことのないアイテム。
そもそも、使い魔である彼女達にデバイスやアイテムは魔法の行使に当たって必要ない。
「【カムフラージュ:高町なのは】」
「【カムフラージュ:フェイト=テスタロッサ】」
同じ魔法を起動させた二人は、質量保存を無視して粒子変換するかのように姿形を変えていく。
名前が表す通り、成人女性の形をとっていた体が、9歳の少女―――高町なのはとフェイト=テスタロッサの姿となる。
使い魔は、ランク換算するとマスターよりもワンランク低い能力になる。
マスターのランクが高ければ高いほど、使い魔も強力になる仕組み。極端なことを言えば、ランクSSの魔導士が使い魔を持った場合、Sランクの使い魔が誕生することになる。これを利用して管理局が各次元世界間で締結している戦力保有協定の抜け道とされることがある。
そもそも、ランクS以上の魔導士が滅多に存在しない――なのはは周囲がそんなランクばかりなのでピンと来ないが――のだから、積極的に規制する動きも無い。また、使い魔とはそんなに簡単なものではないことも一助となっている。
使い魔の特性の一つに、使用できる魔法の制限がある。存在の維持をマスターの魔力に依存している使い魔は、それが故に“マスターが使用可能な魔法しか使用できない”のである。アルフは雷の魔力変換属性を持たないがフェイトの使い魔だから使用できる。使い魔であるリニスがフェイトに魔法の英才教育を施せたのも、マスターであるプレシアが極めて優れた魔導士だからだ。
逆説的に、一部の裏技を除けば、使い魔はマスターが使えない魔法は同じように使えない。
ギルバート=グレアムは優れた魔導士だが、レアスキルに恵まれたわけでもない正統派の魔導士。二人が使ったような姿を変えるような魔法は、使えない。
そうなれば、裏技しかない。裏技は二つあり、一つは使い魔が譲渡を受けることによって、以前のマスターと新しいマスターの両方の魔法を使用可能になる場合。但し、必ずしも使えるようになるわけではない。
もう一つが、実際に二人が行った方法。
端的に言えば、犯罪行為。管理局の保有するロストロギアの使用。
より精確に言えば、大破壊以前の遺物ではない。
大破壊直後に、魔導士の絶対数が不足した時代において、遅延魔法の応用によってアイテム内に魔法を封じ込めておく技術が多用された時期があった。その一つであり、とある企業に勤めていた技術者たちが作り上げた[トランプ]という名前のアイテムがあった。
54枚のカードにそれぞれ別の魔法を封じ込めることが可能であり、ペナルティも少ないため、経験の浅く実力が不足している魔導士でも、それなりの力を発揮できた。
「眠っているね。」
「起きているところを苦しませるのもありでしょうけれど……せめて、苦しまずに殺してあげるのが慈悲かしら。」
なのはとフェイトに姿を変えた二人が使っているものこそ、正しくその[トランプ]。
簡易的に魔法が使用可能になるそれは、非常手段であり歓迎されるべきものではない。誰もが魔法を使える状況は、本来望ましくないのだ。質量兵器の禁止に着手できた管理局は、早速取り締まりに動き、次々と廃棄処分され、設計データ諸共開発者を闇へ葬った。
それでも資料用として、管理局には遺されていた。二人が手に持つそれこそが、管理局の遺物管理課の倉庫で厳重に保管されているはずのもの。
「【雷属性】【射撃】【直射】【殺傷】。」
フェイトに姿を変えたリーゼアリアは、[トランプ]の応用により放電するスフィアを構成する。
「ロッテ。」
「解ってるって……。」
なのはの姿をとるリーゼロッテも、[トランプ]をかざす。
「【砲撃】【集束】【直射】【殺傷】。」
見かけだけは[レイジングハート]と同じデバイスの先に魔力が集束していく。
放ったところで、オリジナルに遠く及ばないかもしれないが、それは【ディバインバスター】によく似ていた。
二人は、お誂え向きに人気の少ない角部屋の病室まで飛ぶ。
面会謝絶の札が提げられ、部屋の主は昏倒しているはずだ。
疑似的な【ディバインバスター】の魔力で、近場の守護騎士達も気付いただろうが、手遅れだ。
「さよなら、八神恭也」
リーゼアリアのスフィアから、雷の槍が病室のベッドへ向けて放たれる。
常人には回避などもってのほか。重篤な病によって体を動かせない病人には尚更。
そして、彼女達は殺傷設定のまま放っていた。
八神恭也を殺すために。
雷の槍が病室の窓ガラスを破る。
その寸前に、風圧が雷の槍を巻き上げると、そのまま跳ね飛ばした。
「困るな、勝手にそういうことされると………。」
声と共に現れたのは、バリアジャケット姿のアストラ。
手には愛用の螺旋槍型デバイス[フォーマラウト]を構える。
いつもの人を喰ったような態度がより一層強く出た表情は、口元を半笑いにしている。
「ちっ……。」
「まあ、多分、こうなるだろうと思ったよ。いやさ、これまでの手順と十一年前のことを合わせると、管理局はこうするだろうって予想つけてたわけなんだけど。」
いつでも間合いに関係なく槍撃を撃てる状態ながら、アストラは小さく首を傾げる。
「君等が来るのは予想外かな。アライアンスがここに来るとは思わなかったけれど……クライド=ハラオウンと名乗っていた、あの艦長の息子、クロノっていったかな?あの子が来ると思ってたよ。」
違和感に首を傾げたまま、人を喰った態度が徐々にサディスティックな色を帯びて行く。
アストラは言葉の外側に全てを覚えているのだと含ませていた。
「まあ、どちらでも良いかな。僕はさ、守護騎士なんだ。」
だから、主に仇為す者は全て排撃する。
言わずとも伝わるそれを、アストラは槍に乗せる。
リーゼロッテは偽の【ディバインバスター】を放つ。
しかし、オリジナルでさえヴィータを仕留められなかった魔法で、アストラを止められる道理はない。
螺旋槍の鋩が回転の力で砲撃を弾くと、勢いそのままに間合いを潰す。
[フォーマラウト]をハリボテのデバイスで受けるが、あっさりと両断を許す。リーゼアリアは偽の[バルディッシュ]を投げ捨てると、疑問が氷解したアストラを置き去りに、屋上へと舞い戻る。
「なるほど……わざわざ、その子達に偽装するとは手の込んだことをする。」
「「!?」」
屋上には、アストラ以外の守護騎士。
シグナム、ヴィータ、シャマルが居た。
そして、はやてを抱えたザフィーラも。
「え?ちょっ……これ、どういうことなん!?」
はやてからすれば、守護騎士達の騎士甲冑のような姿をしたなのはとフェイトが、取り囲まれている図。
鈴鹿を介して知り合った二人とアリサも含めて、すぐに意気投合したばかりだ。その彼女達が、ここに居てどう見ても険悪な雰囲気であることに、はやての頭はついていけなかった。
「申し訳ありません、主はやて……細かな事情は後で説明しますが、アレは高町なのはとフェイト=テスタロッサの姿を魔法で似せた別人です。そして、連中の目的は、主はやてと、恭也の命です。」
「ウチと……恭兄ぃの……そんな、アホな……。」
「……申し訳ありません。」
シグナムは謝罪の言葉しか口にできなかった。彼女だけの彼女達だけの責任ではないが、ここに至らないとための戦いだったはずなのに、結果的にこうなってしまったことへの慙愧の念の表れだった。
「今更ですが、御身と恭也の命は必ずやお守りします。」
シグナムは[レヴァンティン]を抜く。
動作こそ平素から変わらず、平静だが、怒りが一周していた。
腸が煮えくりかえるというのはこういうことか。
「最早、修羅となることに、我ら躊躇いはない。」
いっそ晴れやかな気持ちだった。
事ここに至り、主にも露見したのだ。
後ろめたい気持ちは一切合財なくなった。
――あとは、思う存分斬り殺すだけだ。
「救難信号……ですか?」
《ええ、そうなの。お祝いの日に申し訳ないけれど、味方―――管理局の人間が戦闘中とのことで、増援を求めているの。》
デバイスの機能を介しての通信で、リンディは本当にすまなそうな表情になっている。
地球におけるクリスマスは、管理局の文化の影響が強い地域では同じように聖王節として祝われている。
警戒態勢とは言え、アースラのスタッフもささやかなパーティを用意していたが、おあずけになった。
「大丈夫です。」
なのはは、隣を飛ぶフェイトと視線を交わし、頷き合う。
距離にすればそれなりだが、魔法で飛べば時間は大して変わらない。
味方を見捨ててパーティを楽しめるほど無神経ではなかった。
《すぐにクロノも合流するわ。》
「解りました。」
「なのは、あれ!」
フェイトが指差したのは、昨日見舞いに訪れたはやてが入院している病院。
「まさか、はやてちゃんが!?」
「急ごう、なのは。」
二人は、今も八神はやてが守護騎士の主――闇の書のマスターであることをリンディ達に話していない。
自分達だけの力で解決できるなんて、思い上がってはいない。
けれども、信じる、信じないの前に何かが全て噛み合っているような気がして、言い出せていなかった。
それが、今回裏目に出たような気がして、二人とも焦っていた。
距離が近づく前に、魔力光の閃光が幾つも瞬く。
魔法で視力を強化する。病院の屋上へ焦点を合わせると、確かに居た。
「……って、えぇ!?私ぃっ!」
「あ?え?うぇっ!?」
思わず―――空を飛びながら―――二人はずっこけそうになった。
素っ頓狂な声は、心の底からの驚き。
病院の屋上。見慣れた感のある五人の守護騎士。それはもう驚くところではない。
何故か、はやてが連れ出されているのはかなり疑問点だが、事情があるのだろうと推理できる。
しかし、守護騎士達が戦っている相手は、どこをどう見ても高町なのはとフェイト=テスタロッサ。つまりは、自分達だった。
「パチモン臭い。」
「……僕には違いも解らないぞ。」
戸惑っている間に追いついたアルフの感想に、一緒に来たクロノは冷や汗を流す。
不機嫌そうに吐き捨てるアルフに、フェイトも自分達の姿を騙る者の悪意が感じられて気持ちが悪かった。
「何となく気持ちは解るが、救難信号はあの偽物から出されてる……。」
憎まれること覚悟のクロノに、憎しみより嫌悪の視線が向けられる。
確かにアレを仲間と思って助けろというのは無理があるのは百も承知だったが、堪えた。
四人は深呼吸を一つしてから、気を取り直す、と――――
「って、今度は仮面の男!?」
なのはとフェイトの偽物は電波障害を受けたテレビのようにノイズを走らせると、一瞬で姿を変えた。その姿は、間違いなく砂漠に現れた仮面の魔導士。
「……とりあえず、一度リセットする必要はあるよね?」
苛立ちを露わにしたなのはにみんな視線が集まる。
「ちょっ!なのは!?」
「【ディバインバスター】!!」
クロノの制止が間に合うはずもなく。
なのはが苛立ちをぶつけるように放ったディバインバスターは真っ直ぐ、苛烈は打ち合いを繰り広げる仮面の魔導士と、守護騎士の間を割った。
《フェイトちゃん。》
《な、なのはも結構強引だね……でも、これで。》
状況は一歩前進する可能性がある。同じ事を考えていたことを小さく喜ぶ。
砂漠の戦いで得られた情報は断片的なもの。その中で、仮面の魔導士は守護騎士達と接触しようとしていた。そして、今度は管理局の人間として助けを求めている。
必ず、今回の歯車がどこかおかしい戦いの真相を知っているはず。はやてと守護騎士を助けるためにも、その情報は必要だった。
情報を知っているだろう仮面の魔導士を捕まえて情報を吐かせる。これまでからすると過激なやり方だとフェイトは思うが、思い込んだら一直線のなのはは気にもしていない。
水入りになった戦闘は、仮面の魔導士が一気に離脱をかけたことで水入りになりつつある。
守護騎士相手に人数で劣勢ながら持ち堪えたのだから、かなり強いはずだが、それでもボロボロになりかけていた仮面の魔導士は、なのは達と合流しようとする。
この周辺には誰かがジャミングをかけているせいで次元転移が使えなくなっているとリンディが言っていた。所用で不在のセーラや御雫祇が居ないのは、転移できないせい。
仮面の魔導士も同じようにできない。
それが判っているなのは達がすることは決まっていた。
「たすっ―――!?」
「【バインド】!」
「【バインド】!」
「【バインド】!」
なのは、フェイト、クロノが揃って仮面の魔導士へバインドを仕掛けた。
油断をしていたわけではないが、まさか三人同時にバインドしてくるのは予想外だったらしい。
抵抗するつもりが、動揺のせいかバインドのブレイクに失敗した仮面の魔導士は容赦なく拘束される。
「クロノ君……。」
「……考えることは、同じか。」
「これは、何のつもりだ!?」
仮面の魔導士は、バインドをブレイクしようとしてもAAAランクが三人掛かりで魔力をランダムで変調させることで防いでいるため、ブレイクできずにいた。
「管理局の救難信号と識別信号を使っているから、即味方と判断するほど、僕らには余裕はないんだよ。何故、どうして、と聞きたいことは山ほどあるが……それは後回しにして、じっくり聞き出させてもらう。」
率直に信用ならないと言い切るクロノの瞳には明確な苛立ちがあった。
管理局が一枚岩になろうとせず、誰もが自己の利益を最大化しようと勝手な行動をとる。
秩序も団結もない。こんなものは管理局ではないとストレスばかりが溜まっていた。
「僕は、お前達のような私利私欲のために管理局の名前を利用し、騙ろうとする者が一番嫌いなんだ。」
「……それは、違う。私達の行動こそ、管理局のためだ。」
「ふざるけなっ!そんな言い分が通じるもの―――」
クロノの怒声の途中、
「何時まで、舌回してるつもりなのさ?」
「うざってぇーんだよ。」
注意を散らす格好になっていた三人の間を縫い、アストラとヴィータは一撃で仮面の魔導士達へ直撃させる。攻撃を利用してバインドを破壊させようとした仮面の魔導士達の浅知恵を見通していた二人は、それぞれ下腹部への刺突と側頭部への殴打という最適な一撃を選んでいた。
アストラは刺し貫いたまま、邪魔だと言うように引っかかったままの穂先から振り落とす。ヴィータの一撃はインパクトの精確さと破壊力によって横回転で吹き飛ばす。
「なっ!?」
クロノは眼を見開いて驚愕するが、
「余所見している場合か?」
「か、はっ!!」
[S2U]を懐まで入られていたザフィーラに掴まれると、岩石のような拳で鳩尾へ容赦なく拳撃を打ち込まれた。衝撃を拡散せず集中させた拳撃は、その部分と裏に当たる背中側のバリアジャケットを粉砕した。
クロノは血の混じった反吐を口から撒き散らし、ミシリと衝撃で肋骨の折れる音をはっきりと聞いた。
「くっ!?」
「ほぅ、こちらは反応したか。」
同時に間合いへ侵入していたシグナムは、フェイトがアルフとの連携プレイとは言え、奇襲の一撃を確実に止めたことに感嘆の声を漏らす。
なのはがフォローのためにスフィアから新魔法の【アクセルシューター】を放つより先に、斬撃が走る。
「待って下さい!私達は―――!」
「話し合いと言うのであれば、笑止!」
シグナムは感情のままに言葉を出そうとするなのはへのスフィアをあっさりと両断する。
圧縮された魔力が放射状に炸裂し、シグナムを含めて四人共に距離を離す。
「これで、はやてちゃんは満足するの!?」
「満足はしてもらえないだろう……だが、事ここに至っては、我々は我々の本分を尽くすだけだ。」
なのはは、シグナムの言葉に悔しさが募る。誰に向けてなのか分からない悔しさだった。
「管理局は管理局の理屈でしか動くまい。そして、さっきの二人がその答えだ。連中にとって、我々八神家は邪魔であり、排除するしかない存在だ。」
「そんなことは………。」
「ないとは言えまい。それが現実であり、幾ら貴様らが腕を磨こうが覆せない大人達の世界だ。」
バインドの解除するできなくなった仮面の魔導士達。殺傷設定のデバイスにより重傷ながら死なない程度に手加減されているが、もう戦闘はできないだろう。
さっきと同じように波障害を受けたテレビのようにノイズを走らせると、再び姿を変えた。
その姿に、フェイトも、なのはも、アルフも―――誰よりも、ザフィーラの一撃で仮面の魔導士達の近くで這い蹲っているクロノを、驚愕させた。
「アリ…ア………ロッテ……?」
「ははっ………バレ、ちゃった……。」
「くっ……クロ…ノ………。」
クロノが見間違うはずがない。リンディを除けば、最も身近にいた師匠であり、姉である使い魔達。ロッテは頭部から血を流し、アリアは貫かれた下腹部を朱に染めている。
「そんな……う、嘘だ!!」
クロノがそう叫んでしまうことを誰にも咎めることはできない。
「また幻覚で姿を変えて僕を騙すつもりなのか!?」
受け容れられるはずがなかった。この二人が関わっているということは、それはすなわちクロノが亡き父の代わりとして尊敬し、目標とするギルバート=グレアムの関与と同じことだから。
リーゼロッテとリーゼアリアは何も言わず、諦めたように苦笑を浮かべているだけだった。
「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなぁぁぁっ!!?」
折れた肋骨が痛むのも無視して、クロノは否定を叫び続ける。
まるでそれは子供の駄々。年相応というには幼い衝動に駆られ、止め処なく続く。
それを見下ろすシグナムは、やれやれというように頭を振る。
「もう一度言う。お前達では無理だ。あれが現実で、悲劇に一直線であっても、我々にできる限りのことを続ける。それだけだ。」
「………。」
言えることなどあるのだろうか。なのはは自問する。
そして、馬鹿げていた、現実味がなくて、ただの自分の意地でしかない、クロノと同じ子供の駄々を認める。
「私も何度だって言います。話を聞かせて下さい。私は管理局とか、魔導士とかそんなこと全部関係ないと思ってます。私は、高町なのはが全身全霊で、貴女達を助けたいと願ってます。」
「無駄だ……お前達の言葉にどれほど誠意があっても、全て手遅れだ。いや、我々には元よりこうするしかないのだ。主はやてと、あいつを助けるためには。」
冷徹な騎士の表情に僅かながら感情の細波がたった。
解り合えないし、解り合おうとも思っていない。
ちっぽけな意地や、プログラムされた命令とはかけ離れた、それしか方法がないという絶望感に突き動かされていた。闇の書の完成により、はやてと恭也を救うしか道はないのだと。
睨み合う。言葉は平行線を辿る。
いつだって決着は腕づくで、それならば恨みっこなしと割り切れるほど物解りは良くないが、従わせることはできる。
そこまで至れば状況はごく単純で、やることは一つ。
クロノは沈み、アルフはサポート役。
実質的になのはとフェイトだけで、四人の守護騎士を止めなくてはならない。
笑いたくなるほどの不利だった。
だからと言って、負けてやる義理はない。できることを全力でぶつかるしかないのだ。
戦意が高まり、空気が緊張を孕む。余計な動きは即開戦の号砲となる。
例えば、それが第三者からの声であっても―――
「今日は、千客万来とでも言うべきか?」
それがこの場の全員を瞬きの間に皆殺しにできるほどの力の差がある相手でもない限りは。
誰もその気配を感じ取ることができなかった。援軍や乱入を警戒して、探知結界をはやての側で張り巡らせていたシャマルでさえ、その声を間近で聞くまでは。
振り仰げば、その姿は、はやての隣に立っていた。
「ガルムさん……。」
黒衣の魔導士―――ガルム。
頭部を覆い隠すクローズドヘルム。
黒に黒を重ねたバリアジャケット。
この場の誰にとっても見間違えるはずのない姿。
戦闘に関わる者として強制的に理解させられる。動くことは許されない。
存在だけで戦闘行為を停止させる力は間違いなく、上位の存在であり、ガルムの証だった。
「ギルバート=グレアムか………実に悪趣味だ。自分の復讐を正義で飾るとは。」
「あ?え?」
グレアムの名前に、はやてが首を傾げる。
さっきからあり得ない情報の数々に頭がパンク寸前で回転していなかった。
「この件はこちらで全部片づける。管理局がこれ以上戦うつもりであれば、容赦なく潰させてもらう。」
ガルムはフェイトと接していた時と同一人物とは思えないほど冷淡な声で、一方的に告げる。
フェイトとなのはは肩をビクリと震わせる。潰される恐怖よりも、大切な人の放つ恐怖に当てられていた。クロノはのろのろと起き上がると、ふらつきながら浮き上がるとガルムを睨みつけていた。
「クロノ=ハラオウンか……貴様へ言うのは酷だろうが、私へ啖呵を切るつもりならば、もっと周りを見てから言うべきだな。そちらの動きはもう詰んでいる。手遅れだ。」
「なに…を……。」
ガルムから向けられた憐憫に、クロノは歯軋りする。
またしてもこの男にしてやられるのか。死んだはずのあの男とは別人と理解していながら、どうしても我慢できない部分があった。
しかし、ガルムは些事であるとして、それ以上クロノを取り合わなかった。
「シャマル。」
「は、はい……。」
「これで最後だ。」
ガルムの手から軽く投げ渡されたものを受け取り、シャマルはハッとなる。
闇の書を最後の666ページまで満たすだけの魔力の塊。
八神家に残された最後の希望。はやての病気と、恭也の死病を癒す術が手元に届く。
「シャマル、まさかそれ………。」
「ごめんなさい、はやてちゃん。言い付けを、約束を破った罰は受けます。けれども、私達は………。」
家族と呼んでくれた貴女と恭也さんを失いたくないだけなんです。
最後まで言えず、シャマルは闇の書へ魔力を込めていく。
聡いはやては事態の半分を飲み込んだ。悪化を始めていた自分と、死病に憑かれた兄を救うために、約束を破り、手を汚していたことを。
何時もならば叱るはずの喉は、口は、動かなかった。自分だけならば叱った。しかし、その行為は死を約束された最愛の兄を救う手段でもあるのならば、自分も縋ってしまう。
ガルム―――八神恭也は朦朧とする意識を強靭な精神力だけで繋ぎとめていた。
事態の悪化は予想していた。今回の一件は誰にとっても、闇の書が完成するまで決定打を出せない状況だった。十一年前のことがあり、管理局も迂闊に手を出さない。グラーバクも本来の目的から言えば、やはり手を出せない。単純な復讐以外に別の意図を持っていることが薄々分かっているディアルムドでさえ、同じだった。
闇の書が完成するまで、牽制し合うしかない。それは先に仕込みに入れた恭也にとって、断然有利な状況だったはずだ。ただ、恭也にとっての最大の誤算が、絡む勢力が多すぎて誰もがじっと我慢することができてしまったことだった。
幻月最大の欠点である、長期間に渡って別人格を別の人生として稼働した場合におけるエラーによる自壊。
はやてが生まれる前から合わせれば十年に渡って、八神恭也であったことは自壊には十分過ぎた。
残された時間は僅かしかない。
高町恭也と別人格である八神恭也は今の一体しか存在しない。
常に保存されるバックアップは全てが高町恭也であり、単純なデータとして八神恭也を保存することはできても、人格までも再構築することはできないのだ。
だからこそ、急いだ。
守護騎士よりも早く蒐集するために、予定を繰り上げて仲間を集めて魔力を確保した。
闇の書を完成させ、それを狙う勢力を排撃する。それだけで良くなるまでの場を整えるまで時間が掛かり過ぎてしまった。そこに闇の書があると解っていても、手を出せなくなる状況がどうしても必要だった。
そのための十年だった。自壊に至る焦燥は筆舌に尽くし難い日々だった。
それも全て、生まれてくるはやての事情を全て知った上で愛した実の両親との約束。そして、ディアルムドとクロエの約束。
「はやて、後は、全て、私へ任せろ。」
「え?アンタ、もしかして――――。」
その言葉は、聞いたことのある声。
追いかけてきた憧れの人の声。
まさかと思いつつ、ヴォルケンリッター達のことを考えればただの冗談と笑い飛ばせない推測。
もしも、この時、ガルムが声を掛けなければ未来は変わったかもしれない。
ほんの僅かかもしれないが、気が逸れた。逸れた注意は、この場の誰も付け込めるようなものではなかったはずだ。
“ソレ”が届いた時、恭也は抜刀していた。
脳が考えるよりも、体が反応した。
一発目を弾き、二発目も弾き、三発目が胸で爆ぜた。
パッ、と目の前で一枚の白い羽が散る光景を幻視する。
―――超長距離狙撃によって胸郭を吹き飛ばされたと、脳が知覚したのは撃たれてからだった。
あとがき
バッドエンドが幕を開けました(挨拶)
まだ言うほどバッドエンドでもないというのが作者の印象ですが。
そして、辞書データが吹っ飛んで涙目。
ちょうどこのあとがき書いている頃に、並行してラスト付近の戦闘シーンを書いてます。
気分転換にフォールアウトニューベガスのプレイ動画を見ていてアールズの登場人物の気持がシンクロしてしまい、不覚にもボロ泣きでした。
予告ですが、私は今、このアールズと並行しながら「コードギアス」と「Fate/stay night」の二次創作を書いています。「恋姫無双」「インフィニットストラトス」や「スパロボ」と書き散らかしていますが、牽制の意味で投稿させてもらっています。
まあ、あれです。「僕の考えた格好いいガンダム」を後だしで言っても負けですよね。設定によってはパクリとか言われて要らない批判に晒されるぐらいなら、先にある程度まで書きあげたのを投稿させてもらっておくことで、パクリと呼ばれるのを回避するためです。
特に「Fate」については、私の妄想をこれでもかと詰め込んでいるので、どこかで似たような設定の作品がありそうですが。
最終的に何が言いたいかと言うと、近々投稿させてもらうので、そちらも宜しくということですかね。しかし、「Fate」は原稿用紙換算で500枚超えてるのに、まだ原作3日目ってどういうことよ。
それでは、ヨートゥン戦争解明編である次回で、またお会いしましょう。
いよいよ物語りも大詰めだな。
美姫 「恭也の病気の詳細までもはやてにはばれてしまったし」
闇の書の蒐集をしていた事も含めてな。
美姫 「ガルムが影で動いていた成果がって所で」
いきなりの狙撃か。一体、何が起こっているのか。
美姫 「他にも色々と疑問に思う所があるけれど」
非常に続きが気になります。
後書きで言われている他の作品も気になるし。
美姫 「そちらや次回も楽しみにしてますね」
待ってます。