『TRIANGLE HEART
BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第三話 −DODGED EXPECTATION−
そしてそれぞれが家に着き、そして全員が晩御飯のあとの時間をまつ。
自分が兄と呼んだ彼について恭也に聞こうとする美由希。
自分たちを助けた二人組について聞こうとする晶とレン。
そして神社の掃除を終えたあとさざなみに帰りはしたが、なのはと遊びたがった久遠についてきて結局高町家の食卓につくことになった那美と、翠屋からの帰りだった恭也たちに鉢合わせてくっついてきた忍とノエル。
結局知り合いのほとんどが一堂に会しての晩御飯と相成ったわけなのだが、食後の高町家の固定メンバーの三人の恭也に対する態度がいつもと少し違う。
それを訝しげにみる恭也だったが、自分は自分でリスティからの電話を待つ身なので人のことは言えない。
現にいつもより少し上の空な感じの恭也をみて事情を知る桃子は嬉しそうに微笑んでいるし、フィアッセも桃子から事情を聞いたのか特に何も言ってこないが気がついてはいるらしい。
那美は那美で美由希が落ち着かない理由はおそらくあのことだろうとなにもいわずになのはと久遠と遊んでいるし、忍はなにか面白そうな予感がするのかニヤニヤしながら黙っている。
ノエルも気づいてはいるようなのだが、今は忍が何かしでかすのではないかとそちらのほうが不安が大きいらしくみんなのことに関しては何も言わない。
食後のお茶をすする恭也を見ながら美由希は、
(そろそろみんな落ち着いてきたしそろそろいいかな?でも恭ちゃんおぼえてるかな?)
とタイミングを計りながら物思いにふける。
晶とレンも小声で、
「お前きいてみろよ、カメ。」
「そんなもん自分でいかんかい、おさる。」
などと小競り合いを続けている。
しばらくして二人で、ということに落ち着いたようで二人で美由希と同じくタイミングを掴もうと恭也をみる。
そして恭也が湯飲みを置いた瞬間、
(((いまだっ!!!)))
「「「あの、恭ちゃん(師匠)(おししょー)」」」
トゥルルルル...
「「「だぁーーー」」」
「む、きたか...どうした?三人とも。」
いきなりずっこけた三人を訝しげにみながら電話に向かう恭也。
どうやらなのはが先に電話に出たらしい。
「もしもし、高町です......あ、リスティさん...お兄ちゃんですか?はい、今変わります。」
そういって電話を笑顔で差し出すなのはに軽く微笑みながら
「ありがとう、なのは。」
と礼をいって頭を撫でてやる。
羨ましそうな久遠のところに戻っていくなのはをみながら恭也は電話に集中する。
「おまたせしました、リスティさん。どうでしたか?」
「おいおい、そんなにあわてないでくれよ。みんなもそこにいるだろ?とくに彼は美由希や桃子にも関係あるんだし聞かせてあげたらどうだい?」
「...わかりました。ちょっと待ってください。」
そういって受話器から耳を離すと、
「美由希、ちょっといいか?かあさん、アイツの居場所が分かったみたいだ。一緒に聞いてくれ。」
「なぁに?恭ちゃん。アイツって?」
「ほんと?さっすがリスティちゃんね。」
「いいからきてくれ。みんなもよかったら...あとなのは、電話みんなにも聞こえるようにしてくれ。」
「あ、はーい。」
なのはにつづくようにみんなが電話の周りに集まる。
なのはが電話機のスピーカーボタンを押して恭也に振り向き、準備が出来たことを知らせると、恭也が話しかける。
「リスティさん、みんな聞いてますのでお願いします。」
「わかったわかった。とりあえずこっちのメンバーにもちゃんと挨拶しなよ。」
「恭也!ひさしぶりです。げんきでしたか?」
「弓華さん、こっちは相変わらずです。そちらもお変わりないようで。美佐斗さんはお元気ですか?」
「私なら元気だよ。みんなにも良くしてもらっている。その...美由希、元気だったかい?」
「かあさん...元気だよ。恭ちゃんももうすっかり怪我も治って一緒に鍛錬してる。」
「そうか...実は来週あたりそちらに一度戻ろうと思うんだが...桃子さん...そ、その...」
「こちらにこられるならぜひとまっていてくださいね、美佐斗さん。なにせ客間だけは腐るほどありますから。」
言いよどむ美佐斗に先回りして話を進めてしまう桃子。
その心遣いを心底嬉しくおもいながら美佐斗も照れくさそうに、
「...ありがとう...」
と一言感謝する。
そのままほのぼのとした空気が流れ始めたところに忍が痺れを切らして、
「それで?リスティさん。恭也の頼みごとってなんだったんですか?」
「ああ、恭也の思い出の人を探してくれって...」
「「「「「「えーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」」」
「や、ややこしくしようとしないでくださいよ。親友です。」
「あはははは、そうだったね。いやまったく期待通りの反応をしてくれて嬉しいよ、みなさん?」
「はぁー、それはいいですから...どうでした?」
「とりあえず恭也に言わないといけないことがある。」
いまだ脱力している大半の女性陣を意にも介せずシリアスな声で話を切り出すリスティに恭也にも緊張がはしる。
「そですね、恭也本気なのかわたしもこまってしまったです。」
「本当だね。まさか香港警防にこんな依頼してくるとは...」
しかし直後の弓華と美佐斗のあきれたような声にすこし緊張をとくと、困惑して話しかける。
「え、どういうことですか?まさかどこにも存在しないとか...」
「く、くっくっくっくっく。い、いや、ちゃんといるよ。ただこの依頼恭也が本気だったのかわかんなかったんだけど...どうやら本気のようだね?」
「あたりまえですよ。冗談でリスティさんたちに依頼なんかするわけないです。」
「いや、しかしねぇ。確認するけど君が探してる人間は狼に村と書いてオオムラという苗字で『イチ』というあだ名で呼ばれそうな名前の恭也と同年代の男子。そして6年前にオーストラリアに留学している、で間違いないね?」
「はい。」
「え、恭ちゃんそれってもしかしてお兄ちゃん?」
「あ、ああ。たしかお前はそう呼んでたな。」
「よかったですね、美由希さん。居所分かりそうですよ?」
突然の出来事ながら明らかに自分の今日の夢に出てきた人物の事だというタイミングのよさに驚く美由希と探そうと思っていた人物がすんなり見つかったらしい事に喜ぶ那美。
だがこの場で本来なら声を上げるはずのない二人まで声をあげる。
「師匠、今確か『イチ』っていいましたよね?」
「うむ、たしかにいったがそれがどうかしたか、晶?」
さすがに二度目は冷静に対応する恭也だったが次のレンの言葉に絶句する。
「いえ、実はうちらほんの数時間前にイチって人にあっとるんです。たぶん同じあだ名なだけやおもいますけど。」
「な!ほ、本当か!?」
「は、はい。でもレンの言うとおり同じあだ名ってだけじゃないかと...」
「いや、それはたぶん本人だよ。」
タイミングよく爆弾を投下するリスティ。
「な!」
おもわず声を上げてしまう恭也とあまりの展開についていけない他を気にせず弓華が続ける。
「彼はたしか一臣が連れてきて狼村の家に紹介した子だったね。そのときから恭也の遊び相手として不破の屋敷に出入りしてたけど...あの事件以来の彼の経歴は弓華がしらべてくれたよ。」
「はい。えーと、恭也が探してる人の名前は狼村一太郎。現在18歳で誕生日は3月12日。12歳のときにオーストラリアに母と弟とともに留学。ああ、実際は彼は養子らしいので家族と血は繋がってませんね。ともかくそのときに学校側の不手際で一学年下に編入させられているので現在は高校三年生です。それでですね...」
「ち、ちょっとまって。」
突然弓華の言葉をさえぎって忍が声を上げる。
「なんだ忍?今大事なところなのだが?」
さえぎられて少し不満そうな声をあげる恭也だったが忍はお構いなしにつづける。
「今、狼村一太郎っていったよね?」
「ああ、いったな。それがどうかしたか?」
「...どうかしたもなにも...リスティさん、こういうことだったんですね?」
「お、さすがに忍は気づいたか。さすがに恭也とはちがうな。」
「...おい、忍。どういうことなんだ?」
「...本気みたいね。あのね恭也、落ち着いて聞いてね?」
「ああ、なんだ?」
「狼村一太郎君は私たちのクラスにいるよ?」
「...は?」
一瞬何を言われたか分からない恭也にリスティが追い討ちをかける。
「ああ、確かに恭也のクラスの生徒だ。しかもそれだけじゃない。彼は海鳴に3年前に戻ってきて風芽丘高校に入学して以来いままでずっと恭也と同じクラスにいたんだよ。」
「「「「「「「「................えぇーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」」」」」
思いもかけぬ事実にそれを知っていた忍とノエル以外の絶叫がこだまする。
「そ、それはリスティちゃんだって疑うわよねぇ。まさかクラスメートの行方をさがしてくれなんて...」
「あ、あはははは。」
「恭ちゃんが勇吾さんと忍さんと亜子さん以外のクラスメートと一緒のところなんてみたことないからなぁ。」
「...私もずっと桜の花の精でしたし...」
「「まあ、師匠(おししょー)だし...」」
「お兄ちゃん、もっとしっかりしてください。」
みんなに散々言われた挙句なのはにまで怒られてしまった恭也は言葉を発することが出来ずに黙ってしまう。
「まあそういうことだから、会いたかったら明日学校に行くことだね。それにしても向こうも恭也を知っているならなんでだまっているんだろうね?」
そう聞かれて考え込む恭也だったがすぐに夢の中での彼のセリフが蘇る。
(そうだね次に会うときはそっちから声かけてくれるまでは気づかない振りでもしておくよ。ちゃんと僕を覚えているかどうか試すためにも、ね?)
「あ...」
「なんなの、恭也。あのイチ君が何の理由もなくそんなことする分けないもの。なにしたの?」
「なに?恭ちゃんお兄ちゃんになにかしたの?」
「だからなんでそうなる。俺は何もしてない。ただ...」
「「「「「「「「「ただ?」」」」」」」」」
「うっ、ただ別れ際にイチがいっていたんだ。次に会うときはこちらから声をかけるまで気づかない振りをするって。」
「...ということは、なにかな...」
いままで電話越しに成り行きを聞いていた美佐斗が口を挟む。
「いままでイチ君は君に忘れられているものとして生活していた、と?」
「うわ!それはいくらなんでも...」
「差し出がましいようですが、残酷すぎるかと。」
いままで一度も声を発していなかったノエルにまで言われてしまいさすがに罪悪感の塊に押しつぶされそうになる恭也。
「...かあさん。たのみがあるのだが...」
「なにかな?いままで親友のことを忘れたまま2年間も同じ空間で生活していた息子?」
「......許されるとは思わないがもし許してもらえるようなら明日きちんとわびをかねてイチを夕食に招待したい。準備をお願いできるだろうか?」
「あたりまえでしょ!土下座してでもつれてきなさい!翠屋貸切ってみんな呼んでやるからね!美由希もちゃんといっしょにいってつれてくるのよ。」
「は、はいぃ!!!」
「というわけです。リスティさん、弓華さん、美佐斗さん。今回は本当にありがとうございました。あとは俺がきちんと責任をとってきます。」
「ボクはそのパーティいくからね。ちゃんと紹介してくれよ?」
「あ〜、わたしもいきたいですよ。美佐斗、仕事サボっていきましょう?」
「だめだよ。私はただでさえ1週間後から隊長の好意で長期休暇をもらっているんだ。というわけだからそっちにいったときは私にも紹介してくれよ?」
「きちんと許してもらえたら、ですが...」
「大丈夫だよ。私が覚えているとおりの子だったら許してくれるさ。それに不破ともかかわりがありそうなんだろ?それならなおさら会わないといけない。」
「え?お兄ちゃんが不破と関わってるってどういうこと?」
「いや、そのようなことをとおさんが書き残しているんだ。明日話をしてみてそのときにそのあたりのことも確認してみようと思う。」
「ふーん、わかった。」
「んじゃまあ話もまとまった様だし、時間も遅いからそろそろきるよ。みんな、また明日ね。」
「あーん、わたしも日本行きた...」
ツー、ツー、ツー...
なにやら弓華がわめいていたような気がするがとりあえず明日の行動は決まった。
「というわけだ。完全に俺が悪いのだが、みんなも協力してもらえるだろうか?」
みんなの方を振り返って真剣な顔で頼む恭也に見惚れる女性陣は、それでもなんとか全員首を縦に振る。
「くおんもおてつだいする〜。」
今までの話がまったく分かっていない久遠もそういって恭也にまとわりつく。
それを微笑みながら見下ろして頭を撫でる恭也とそれを羨ましげに見る桃子以外の全員。
細かい女性の気持ちまではわからないが、それでも恭也はいつもどおりの空気に戻ったことにただただ安堵していた。
そこに桃子が声をかける。
「それじゃあ明日学校に通ってる組は全員放課後に恭也の教室へ。勇吾君もつれてくるのよ。フィアッセは私と翠屋ね。ノエルさんとなのは、久遠ちゃんもお店のほうにお願い。」
「かしこまりました」
「了解です。」
「おてつだい〜。」
「はい、それじゃあみんなもう遅いから解散。今日は恭也たちも鍛錬はなし、わかった?」
「む、了解した。」
「わかったよ、かあさん。」
「はい、それじゃあ那美さんと忍ちゃんたちを途中まで送ってきなさい。」
「「了解。」」
そういって出て行こうとする五人と一匹だったが晶とレンの声に足を止める。
「そういえば美由希ちゃん、同じ学年でケイって呼ばれてる人、知らない?」
「そうそう、イチさんの弟やゆうてましたから苗字は狼村のはずです。」
「ああ、ケイ君のことか...どうなんだ?美由希。」
「んー...知らないなぁ。」
トゥルルルル...
「あ、なのはが出ます。」
そういって電話を取るとしばらく耳を傾けている。
やがてお礼を言って電話を切ると複雑そうな顔でみんなのもとに戻る。
「どうした、妹よ?」
「うん、それがね。リスティさんだったんだけど...」
なぜか言いよどむなのはにみんなの視線が集中する。
「あのね、イチさんの弟さんはおねえちゃんと同じクラスだって...」
「あ、あははははは...」
乾いた笑いでごまかそうとする美由希をみて恭也と美由希以外の全員がおなじことを考えていた。
((((((((この二人って...実は似たもの同士?))))))))
そして放課後。
桃子の言いつけどおり赤星に、その場に居合わせた藤代亜子も巻き込んで問題の狼村一太郎の席へ向かう。
実は赤星と亜子はそれなりに知っていたし話をしたこともあったらしい。
理由は狼村圭がじつは野球部と剣道部の掛け持ちをしていたこと。
つまり二人はケイを剣道部一本に絞らせようとして兄であるイチに接触したらしい。
ともあれ海中の二人も到着し、すでに来ていた美由希と那美も含めて総勢8人の大所帯になっている。
ケイのほうは赤星が手を回して道場のほうに呼び出しておいたらしい。
「で、どうする?」
このメンバーの中ではおそらく一番の常識人である赤星が口火を切る。
「このままこの人数でいつまでもこうしてるわけにもいかないだろ?」
「そうはいうがな...慣れ親しんでいたはずのあの気配に今まで気づいてなかった自分のおろかさを嘆く時間くらいくれ...」
「まあ、気持ちは分からんでもないが...このままだとアイツ帰っちまうぞ?」
といいながら自分の後ろを指差す赤星。
が皆の驚いたような顔を見て何事かと振り向く。
するとそこには、
「だからね、ちょっと紹介したい人がいるんだけどきてくれないかな?」
などといいながら恭也の気も知らずに話しかける藤代亜子女史の姿があった。
「あの娘たまにほんとにすごいとおもうわ...」
忍のセリフに全員がうなずく。
そしてもう一度亜子たちの方向をみると...
「や!」
狼村一太郎は何の気配もなく恭也の後ろにたっていた。
突然のことに驚きながら、それでもなんとか相手を呼ぶ。
「...イチ...だよな?」
「そうだよ?」
「お兄...ちゃん...?」
「そうだね。」
「「.........」」
「さて、名前も思い出してくれたみたいだし...二人には言いたいことがある。」
まじめな顔をして一呼吸おくイチ。
今まで忘れていたことに対する罵倒の一つや二つは覚悟する二人だったがイチはかるく微笑むと、
「やあ、やっと思い出してくれたのか。2年間結構寂しい思いをしたよ、恭也、美由希ちゃん。」
事情をしっている誰もが不満の一つは言うだろうと思っていたところに出てきたこのセリフに完全に言葉をなくす一同。
しかし、恭也はその何も変わっていない雰囲気をかみ締めつつ苦笑しながら、
「すまなかった、イチ。事情はいろいろあるが...まあ、変わっていなくて嬉しい。」
「知ってるよ。士郎さんのことも、君の膝のこともね。大変だったみたいだね。美由希ちゃんも...約束守ってくれてるみたいだね。よくがんばったね。それと、ありがとう。」
「う、ひ、ひっく...お、おにいちゃ〜ん...うぇ〜...」
今まで耐えてきたものを吐き出すかのように教室の中だということも忘れて泣き出してしまう美由希。
そんな美由希に近づくと軽く頭を撫でながら、
「美由希ちゃん、泣くのはかまわないけどここは教室だよ?」
しかしそんな言葉もむなしく、美由希は近づいたイチの胸に飛び込んで泣いてしまう。
その背中をあやすように軽くたたきながら困ったような視線を恭也にむけ、
「恭也...後の祭りだけど...場所はえらんでほしかったかな。」
「...すまん。」
そんな調子で再会を喜ぶ3人を見ながら亜子が一言つぶやく。
「狼村君...女泣かせ?」
その場の雰囲気をぶち壊しにする一言にほほえましげに見守っていた皆が固まる。
しかしそんな沈黙をやぶったのは落ち着いてきた美由希を恭也に預けたイチだった。
「間違ってはいないけど、使い方が違うよ。」
意外な突っ込みに気を良くした亜子は次なるネタを振る。
「私というものがありながら...泣きついてきたそんな女を選ぶというの?」
「悪いね、やはり男は自分のために泣いてくれる女を選ぶものさ、ってだから違うって。」
「...ノリ突っ込みまで使いこなすとは...なかなかやるわね。」
「それはどうも...でも皆固まってるよ?」
亜子が周りを見回すとそこには展開の速さと意外性でついてこれなくなった忍たちがいた。
しばらくして全員が落ち着きを取り戻すとイチが全員を向いて話しかける。
「んじゃまあ、あらためまして...狼村一太郎です。イチって呼んでください。」
そういって皆を見回す。
「えーと、間違ってたらいってね?恭也と美由希ちゃん、赤星くん「勇吾でいいぞ」...勇吾と月村さん「忍ちゃんよ」...忍と藤代さん「亜子ね?」...亜子。あとは美由希ちゃんと隣が右から那美さん、晶ちゃんとレンちゃんで間違いない?」
全員うなずくとあまりにもすんなりといったことに拍子抜けしつつも安堵していた。
「で?恭也と美由希ちゃんだけじゃなく全員で押しかけてきたことには何か意味があるのかな?一応全員初対面じゃないし各自で用があるってならわかる気もするけど...」
「ん?イチ、お前那美さんとは初対面だろ?晶とレンは昨日聞いたが...」
「いや、会ってるよ。昨日だけどね。覚えてないかな?」
そういって那美のほうを向くイチ。
那美にも見覚えがあるらしく、暫く考えるようなそぶりを見せると、突然叫ぶ。
「あーーーーーー!!!昨日の映画館の前ですよね!?」
「そうそう。」
「...あーーーーー!!!あのときの人、お兄ちゃんだぁーーーーーー!!!」
那美につづいて美由希も声を張り上げる。
至近距離だった恭也は顔をしかめながら那美にむくと、
「昨日あってるんですか?」
「はい、映画館の前で二人そろって転びそうになったところを助けていただいたんです......てなんで皆黙ってるんですか?」
「「「「「「...いや、あまりにも二人らしかったから...」」」」」」
「まあそれはいいから要件は?」
「そうだった。実は詫びもかねて夕食に招待しようと思っていたのだが、かあさんが話を大きくしすぎていつの間にかパーティーになってしまったのだが...きてくれるか?」
「そうだね、かまわないよ。桃子さんにも久しぶりに会いたいし...ということはケイにはもう根回しすんでるのかな?」
「...たしかに剣道場に呼び出しておいてもらったが...なぜわかる?」
「それは晶とレンがいて勇吾もいればあいつのこと学年まで知ってる人間が少なくとも三人いることになるからね...僕だけなんて事は君たちはしそうにないし。」
「あいかわらず読まれてるような感覚を覚えるな、お前と話してると。」
「人間はそう簡単には変わらないもんだよ。」
「それはいいが...とりあえずパーティーには来てもらえるんだな?」
「ああ、ケイも一緒でいいんでしょ?なら断る理由はないよ。君に話もあるし、君も僕に話があるでしょ?」
それを聞いて今度は本当に安堵のため息を漏らす。
全員イチを連れて行けなかったときの桃子の姿を想像して内心ひやあせものだったのだ。
みんなをみて小さく首をかしげるイチに、恭也が思い出したように告げる。
「来てくれるのは本当に嬉しいが...気をつけてくれ。常識では考えられないくらいしつこく絡んできてネタを引っ張り出そうとする漫画家や警察関係者までくることになってしまった。間違いなく標的にされるだろうから...」
恭也の言葉に全員が乾いた笑みを浮かべる。
「ふーん、まあいいや。んじゃケイ拾ってさっさといこうよ。」
こうして恭也たちは再会と新しい仲間との出会いを喜ぶまもなく事態を理解しきれていないイチと、途中でケイを拾い、パーティー会場という名の地獄絵図予定ポイントへと足を向けるのだった。
つづく
あとがき
期末テストまであと2日というこの時期に調子に乗って3話を書いてしまいました、アインです。
だれかとの掛け合いはもう少し余裕があるときにしますw
相手はおそらく出番を考慮してブリジットかと思われますが、登場してしまったら使えないので...
以前絵を描いていた友人に渡すはずだった大まかなキャラ設定の中から一人出すかもしれません。
とりあえず少しでもまともなもの書くほうが先なので企画倒れの可能性も結構高いかも...
とりあえず引っ張ったわりにとんでもなくあっさり肩透かしをかました再開シーン、いかがでしたでしょう?
なにせサブタイトルを和訳すると「かわされた期待」。まるっきりそのまんまですからw
こんな裏をかくのが大好きなひねくれものなので今後も色々やらかすかと思いますが、よろしくお願いします。
二年以上も忘れられていたイチ。
美姫 「笑い話よね〜」
まあ、一度会っているのに気付かなかった美由希もいい勝負かな。
美姫 「さて、次回は…地獄絵図になるのかしら」
はてさて。それは次回のお楽しみだな。
美姫 「確かにね。それじゃあ、次回を待ってますね〜」
待ってます。