TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第九話 −PASSING DAYS TIL SHE STRIKES

 

 

 

 

 

 

 

深夜の神社裏。

いつもの鍛錬場所で、来日した美沙斗も加えて初鍛錬。

そして高速でぶつかり合う二つの影を横で唖然として見守るのは高町の二人。

恭也は二人の技量に感心し、そしてイチから盗むことに専念している。

士郎が亡くなってから恭也は常にその影を追ってきた。

それによって膝も一度壊しているし、正直に言ってこのまま美由希との鍛錬のみでその背中に追いつけたのかどうかはかなり微妙なところだった。

そんなところにイチが現れた。

彼は膝を壊していなかったら自分がいたかもしれないレベルにいる。

美由希とはどこか自分が師であることを捨てきれない所為でなにかを教えよう、試そうとしてしまう自分を抑え切れなかった。

彼との打ち合いではそれがない。

実践に近い状態で、本当の意味で高めあうことの出来る相手だった。

そして今その相手が目の前で本気で戦っている。

もともと美沙斗の戦い方は恭也の盗めるものではない。

打突を特化させた攻撃手段は女性の御神がその非力さを補うためのもので、長く士郎の戦い方から学んできた恭也にとっては同じ御神の剣でありながら次元の違うものだった。

しかしイチの戦い方は士郎の戦い方と、おそらくは一臣の戦い方が基本となっている。

恭也にとっての教材としてはイチのほうが適任だった。

 

反して美由希は美沙斗の技を食い入るように見る。

恭也の思惑通りに打突向きの体を作り上げた美由希にとって、美沙斗は母であると同時に偉大な先輩でもあるのだ。

スタイルの違う恭也では限界もあるが、ほとんど同じ戦い方をする美沙斗からなら美由希は技を盗んで更なる高みへと行くことが出来る。

そういった意味で、イチと美沙斗が互角に見の前で戦っていることが二人にとってなによりの教材となるのだ。

 

「恭チャン、今のお兄ちゃんが見せた打突技は不破じゃないよね?」

 

「ああ、あれはたぶん狼牙の技なのだろう。俺もやられたことがあるが、あれは長さの違う二本で同時に撃ってくるうえに両方で違った派生をさせられる厄介な技だ。でも美沙斗さんはさすがだな」

 

「そうだね。二本とも同じ方向に弾いて下がれば派生させても来る方向がわかるもんね」

 

「ああ、でもとっさにあれが出来るようになるにはかなり実践慣れしないとな」

 

「レベル高いね」

 

「お前も早くあのレベルに追いつけるようにならないとな」

 

「...ご指導よろしくおねがいします」

 

会話だけ見ればほのぼのしているといえなくもないが、表情は真剣そのもので目の前の試合に集中していた。

 

 

 

 

 

「なんだか二人が話しているね」

 

打ち合いから間合いを取った美沙斗がイチに話しかける。

 

「そうですね、たぶん美由希ちゃんのことですよ」

 

イチも構えは解かずにそれに律儀に応える。

 

「君から見て美由希はどうだい?」

 

ふとそんな質問を美沙斗がする。

それを一瞬きょとんとした表情でみるとすぐにいつもの笑みを浮かべて、

 

「今の美沙斗さんを未熟にした感じです。いってみれば完成されてない美沙斗さんですね」

 

と正直な感想を述べる。

イチの美由希が自分にそっくりだという台詞に美沙斗は嬉しそうに軽く微笑むと、

 

「さて、じゃあそろそろ終わりにしようか」

 

と構えなおす。

イチはそれに対して軽く頷くと、腕をだらんと下げて目を閉じた。

 

 

 

 

「あれ?お兄ちゃん、まさか...」

 

美由希があげた声に恭也も同じような反応を示すと、

 

「ああ、初日のお前との試合の再現、だな。よくみていろ」

 

恭也は美由希にそれだけ言うと目線を戻す。

美由希もまた恭也の言葉を受けて集中する。

 

(アイツ、美沙斗さん相手で美由希に教えようというのか...)

 

イチの思惑を感じ取った恭也は彼の突飛さに感心しながらさらに集中するのだった。

 

 

 

 

美沙斗は神速の領域に入ってイチに詰め寄る。

そしていまだ動きを見せないイチに容赦なく技を繰り出す。

 

−御神流奥義之参 射抜−

 

美由希よりも神速に入っている分格段に早い射抜だが、イチはやはり動かない。

そのまま喉元で寸止めする直前、イチは弾けるように動いた。

美由希にやったのと同じく、左手で美沙斗の右手を巻き込みながら体を背中合わせなでもっていこうとする。

しかしここで美沙斗は冷静に止まった常態から右手の小太刀を離すと腕を後ろに滑りながら引き抜くと同時に屈む。

喉元に突きつけそこなった刀を空振りさせたイチは、なぜかそのまま止まる。

美沙斗が一瞬だけ怪訝そうな顔をするがすぐに左手に残った小太刀で決めにかかる。

と、そこでイチが歪んで、そして消えた。

美沙斗はそれになすすべもなく空振りすると、しかしすぐに体勢を立て直す。

しかしそこで美沙斗はおかしなことに気づく。

イチの気配が全くないのだ。

何かがおかしいと思ったとき、長年の感が体を動かす。

美沙斗が脳で認識できないまま振るった一撃は自分の真後ろへ振るわれ、そしてそこに影のように立っていたイチの喉元で止まった。

そして自分の喉下に黒光りする刃が置かれていることに気づくと、息を吐いて

 

「引き分けなのかな?」

 

といって刀を下ろした。

 

 

 

 

 

「すごいですね、美沙斗さん。まさか気づかれるとは...」

 

そんな言葉を漏らしたイチを美沙斗は申し訳なさそうにみながら

 

「いや、あれは気づいたわけじゃないんだ。ただ身体がなんとなく動いてしまって」

 

「それならなお更ですよ。さすがに実践でのキャリアが違いますね」

 

恐縮しきっている美沙斗と褒めちぎるイチ。

なにやら先ほどまで戦っていたとは思えない異様な空気に恭也たちは付いていけていない。

 

「ちょっとまって、かあさんにお兄ちゃん。説明してよ」

 

置いてけぼりは嫌だといわんばかりに美由希が口を挟むと、恭也も不思議そうに

 

「ああ、たぶん最後の話だと思うのだが...俺の目にはイチが神速から抜け出して普通に後ろから近づいたようにしか見えなかった」

 

と二人を見ながらいう。

恭也のその言葉に美沙斗は感心したような表情を作ると

 

「なるほど、傍からだとそう見えるのか。私にはイチ君がどこにいるのかまったく分からなかったんだ」

 

と苦笑いを浮かべる。

その言葉に恭也と美由希は耳を疑った。

 

「え?でもかあさんちゃんと...」

 

「それは...感、かな?」

 

「じゃあ美沙斗さんはイチが消えた後、なにも分かっていなかったんですか?」

 

「ああ、気配すら感じなくてね...ちょっとあせったよ」

 

そうやって美沙斗の常態を確認すると、恭也はイチに向き直り

 

「それで?そんなのははじめてだったよな?」

 

と問いただす。

イチはそれに対していつもの調子で、

 

「狼牙の技だよ。『新月』っていって気配を限りなく無にする...術に近いかな?」

 

と簡単に言ってのける。

恭也と美由希は呆れたようにため息をつきながら

 

「「...なんてイチ(お兄ちゃん)らしい技...」」

 

と呟き、美沙斗は頷きながらイチに詳しい概要を聞いていた。

そうしてそのあと美沙斗と恭也、イチと美由希で一本打ち、最後に恭也とイチが見守る中、美沙斗と美由希で一本。

こうしてもう一人加わったことで鍛錬にバリエーションも増え、帰ってから鍛錬メニューを組んでいる恭也は嬉しそうに部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

そうして美沙斗も加えた高町家。

美沙斗はゆったりと美由希との親子の時間を楽しんでいたのだが、それとは対照的にイチは妙に回りに受け入れられて忙しく日々を送っていた。

とくに部活にも入っていないイチは、結局放課後恭也と一緒に翠屋を手伝っていたのだが、

 

「狼村く〜ん、きたよ〜♪」

 

と毎日のように亜子が女子を引き連れてやってきては仕事中のイチに英語の歌詞の訳やら遊びの誘いやらをしながら時間を過す。

そしてほかの女性客の接客をしていると引き連れた全員が殺気を飛ばしてくる。

恭也もそのたびに軽く反応してしまい、二人して精神力の磨り減る放課後を送っていた。

そしてイチにとって帰宅後も同じようなものだった。

 

 

 

 

 

 

食後、恭也とイチはリビングでお茶をすすっていた。

恭也のとなりではフィアッセが、イチのとなりにはアイリーンが座って同じくお茶を飲んでいる。

恭也は盆栽の雑誌を片手に、イチは今度は時代物の小説の読みながら座っている。

TVではなのはが最近購入したばかりの新作RPGをやっており、晶とレンは横でそれを見ている。

美由希と美沙斗はイチのレシピを元に楽しそうに親子で簡単デザート作りをしており、桃子は食卓から

 

「なんか恭也とイチ君の飲み物とか持ってるもの変えたらフィアッセとアイリーンがホステスみたいねぇ♪」

 

などという不穏当かついろいろな意味で失礼極まりないことを言いながらリビングを見ていた。

 

そんな日常となりつつある高町家のリビングで、これもまた日常となりつつあるゲーム組の助けてコールがでる。

 

「イチおにいちゃ〜ん、助けてくださ〜い」

 

なのはの声に読んでいた本から目を離して顔を上げる。

 

「なに?なのはちゃん。今度はどうしたの?」

 

そういって近づいてくるイチに、晶とレンも交えて状況説明する。

どうやらイベントを起こすための謎掛けがあったらしく、三人で頭をひねったが答えが分からなくて泣きついたらしい。

そんな三人の話を聞きながらイチが考えているのを恭也とフィアッセは微笑ましげに見ていた。

 

「なんかすっかりイチもお兄ちゃんだよね?」

 

「ああ、むしろアイツのほうが、というべきかもしれん」

 

「ふふっ、たしかにイチは結構なんでも出来るしね。ああやってゲーム手伝ってるのみても、みんなすっかり懐いてるのが分かるよ」

 

「俺は剣以外なにも満足に出来ないからな...ああいうのは少し羨ましくなる」

 

「そうだね。私やアイリーンとは歌えるし、晶とレンとは料理が出来る。なのはともゲーム出来るし美由希とは本、桃子のあのテンションにもなんでもない顔して付き合ってる...」

 

「俺も最近パソコンの使い方を教わっているぞ。アイツの部屋にあるのをみてやってみたいと話したら古くなったのを一台貸してくれた。鍛錬のメニューなどを組むのにもいちいち手書きだと何か変更するたびに書き直すのが面倒でな」

 

「...ほんと、何でもこなすって感じだね。でも彼ああなる前はたぶんかなり苦労してるんだと思うよ」

 

「...ああ、そうだな。髪の毛の色が変わってしまうほどのことがあったんだ。たぶん俺や美由希よりもつらいことがあったのだろう」

 

「そうだね...たぶん士郎や桃子、恭也たち、それに一臣って恭也のおじさんのおかげなんだろうね」

 

フィアッセに笑顔で言われた恭也は一瞬驚いた顔をするが、すぐに微笑を浮かべると

 

「そうだな...もし俺たちがアイツの助けになれているなら、俺はそうあり続けたいと思う」

 

とフィアッセに向き直る。

その恭也の表情を直視したフィアッセは顔を真っ赤にして俯いてしまうが、恭也が覗き込もうとしたときにイチが戻ってきて話は中断される。

 

「ん?どうしたの、恭也?」

 

首をかしげて問うイチに恭也は笑顔を浮かべると、

 

「いや、なのはたちが世話になっているな、と」

 

といって話をごまかす。

イチが恭也に近づいたことでアイリーンもそばによってくると、

 

「ねえねえ、何の話?」

 

と混ざってくるが、顔の赤いフィアッセを見て楽しそうに

 

「あれ?フィーどうしたの?」

 

とにやにやしながら近寄る。

フィアッセは慌ててなんでもないといった風に首を振ると

 

「そ、それにしてもイチ、なのはたちのゲームのほうはいいの?」

 

と話を変えるべくイチに話を振る。

 

「ええ、そんなに難しくなかったですし...ちょっとなのはちゃんには早すぎると思いますけどね、あのゲーム」

 

そんなフィアッセの思惑を知ってか知らずかその話題を受け入れるイチ。

 

「お前にかかったら何でも『そんなに難しくない』ですんでしまうだろ」

 

恭也のほうは明らかにフィアッセの思惑には気づいていなかったが、三対一ではどうしようもなく、アイリーンも話しに乗っかる。

 

「そうだよね。ちょっと見てたけどなんかあっという間に問題といてたよね?」

 

「うん、殆ど話し聞いてただけみたいに見えたよ...ってあれ?みんなゲームは?」

 

とフィアッセが自分たちの近くに来る三人に気づく。

すると

 

「いやー、きりのいいところだったんで今日はもう終わりです」

 

「はい〜、このまま続けるとかなり遅くなりそうなんで」

 

と晶とレンが事情を説明する。

すると恭也は感心したように頷きながら

 

「三人とも実にいい心がけだ。終わるタイミングがどうとかいいながら徹夜でつづけるどこかの誰かにも是非見習ってもらいたい」

 

と感慨深げに呟く。

それに対してその場の皆は同じ少女の顔を思い浮かべて空笑いする。

 

「イチおにいちゃん、ありがとうございました。おかげで今日は眠れそうなのです」

 

そういいながらなのははイチに近づくと、恭也とイチの間に座る。

 

「よかったね。でもあれはちょっと難しいんじゃないかな?」

 

隣に座ったなのはの頭を何気なく撫でながら聞くイチに、なのはは気持ちよさそうにしながら

 

「ちょっと難しいから今までやってなかったんですけど、イチおにいちゃんがゲーム得意だって晶ちゃんが聞いたっていってたから始めてみたのです」

 

「つまりはじめからイチを頼る気だったのか...妹がすまんな」

 

「いいよ、みんなでゲームするのは楽しいから、ね?」

 

謝罪する恭也を制しながら三人に同意を求めるイチ。

それに三人が笑顔で頷くのをみて恭也も一息つく。

そんな家族っぽい会話に疎外感を感じたのか、アイリーンがイチの袖を引きながら、

 

「それよりイチ君、君ってオーストラリアに留学してたんでしょ?」

 

と自分のほうに注意を引こうとする。

年上の女性のそんな仕草にイチは困ったような笑みを浮かべながら肯定の返事を返す。

 

「フィーはむこうでもイチ君に会ってるんでしょ?どうだった?その頃のイチ君」

 

「そうだね、今とあまり変わらないかな?優しそうな子だなぁっておもったのを覚えてるよ。それに私がママと一緒に歌ってるのを聞いてあとで真似されたときはびっくりだった」

 

アイリーンの問いかけに懐かしそうに答えていたフィアッセだったが、不意に何かを思い出したような表情をすると、

 

「ねぇイチ、本当にあの娘と付き合ってないの?」

 

と不思議そうに聞いてきた。

初日の翠屋でその話を聞いていた人間はその話にあまり過敏に反応しなかったのだが、その場に居合わせなかったアイリーンだけは、

 

「えぇ!イチ君彼女いるの!?」

 

と焦ったようにイチに詰め寄る。

イチは、またか、といったような苦笑いを浮かべると

 

「アイリーンさん、なにを慌ててるのか知らないですけど僕に彼女はいませんよ。フィアッセさんも前にいったでしょ?」

 

と疲れた口調で言う。

 

「でもあんなに仲が良かったんだもの、彼女じゃないならなんなの?」

 

その質問にイチはどう答えたものか一瞬考えるが、恭也たちに理解のある人たちならと

 

「向こうでまだ片言しか話せない頃に出来た初めて友達になってくれた娘です。僕の英語の教師であり日本語を教えた生徒、剣道の指導も少ししましたけど...そして僕の歌を気に入ってくれた娘ですね。そして...初めての依頼のときの護衛対象です」

 

と包み隠さずに話す。

それに驚いたのは以外にも恭也だった。

 

「ま、まて。お前その頃中学生だろ?」

 

「??うん。中学二年だったかな」

 

「その頃すでに仕事をしていた、と?」

 

「うん、といっても報酬は受け取ってないから仕事とは言えないかもしれないけど...やっぱり友達からお金とりたくないじゃない?」

 

一問一答のような会話を続ける恭也とイチを、なのは以外のその場のメンバーも唖然として聞いていた。

なにしろ中学二年といったら恭也が士郎の死や膝の問題と戦っていた頃、晶にとっては自分と同い年の時である。

いくら報酬がないとはいえそんな時期からガードの仕事をしていたと平然と言ってのけるイチにとにかく開いた口が塞がらなかった。

なおも仕事の内容などの詳しいことを聞こうとする恭也をとめたのは今まで話を聞いていた桃子だった。

 

「恭也、ちょっと待ちなさい。そんなに畳み掛けるように聞いちゃ駄目じゃない」

 

桃子の言葉に我に返った恭也は

 

「すまない。剣や仕事の話になると...とくにお前のだというならなお更聞いてみたくてな」

 

と素直に頭を下げる。

それを笑いながら手で制するイチに桃子が

 

「丁度いいからオーストラリアでのお話をみんなに聞かせて♪」

 

と満面の笑顔とお願いポーズで迫ってきた。

 

「い、いや...昔話って好きじゃないんですよ...」

 

と弱々しい拒否の返事をすると、リビングのありとあらゆるところからブーイングが起きる。

 

「え〜!いいじゃない、減るもんじゃないんだしぃ」

 

「そうですよ、俺も外国の話聞いてみたいです!」

 

「うちも興味あります〜♪」

 

アイリーン、晶、レンの三人の声にイチが少し表情を変えると、

 

「いいじゃない、なんだったら私がいた間の話を主観的に話して聞かせてもいいけど?」

 

とフィアッセが、背中に黒い翼でも出てきそうなほどな微笑みを浮かべる。

それをみたイチが珍しくいつもの笑みを引きつらせたように見た桃子は最後の一押しを自分の娘に命じる。

 

「イチおにいちゃん、私もイチおにいちゃんのお話聞きたいです」

 

恭也が秒単位の速さで陥落するなのはのおねだり目線を受けて、しかしイチは考え込む。

そこまでいやならと周りの皆も桃子も諦めかけたとき、イチは目の前の少女の表情を見ると決心を固めた。

もう泣きそうだったなのはを抱えあげて自分の膝に上に乗せると頭を撫でながら

 

「ごめんね、なのはちゃん。ちょっと話しても誰にも迷惑がかからないか考えてたんだけど...じゃあ少し話そうか?」

 

といってなのはの顔を後ろから覗き込むようにする。

泣きそうになってはいたものの抱えられたときあたりから頭が嬉しさと恥ずかしさで真っ白になっていたなのはは、いきなりのイチの顔のアップに今度は急速に赤面する。

そんななのはの額に心配そうに手を当てるイチを見てその場の女性全員がその場にいるもう一人の朴念仁を見てやるが本人は、なんだ?、とでも言いたげな視線を返すだけだ。

その間になのはは大丈夫だとイチに告げ、そしてどさくさでイチの胸に背中を預けて座っていた。

それを見て羨ましそうにする晶とアイリーンを微笑ましげに見ていた桃子だったが、イチの気が変わらないうちにと美由希たちに声をかける。

 

「お兄ちゃんのオーストラリアのときの話?聞きたい聞きたいっ!」

 

そういいながら出てきた美由希の後ろから美沙斗もついてくる。

 

「面白そうだね、私も聞かせてもらってもいいかな」

 

そういいながら二人はみんなの前に色とりどりのゼリーの入った器を置いていく。

 

「お兄ちゃんのレシピにフルーツゼリーがあったから昼間かあさんと作って固めておいたんだ。恭ちゃんのは甘さ控えめって書いてあったのしか入れてないから食べてみてね」

 

「ああ、お前の作るものを食べる違和感にももう慣れてたしな。これでも食べながら聞かせてもらおうか」

 

そういって恭也は自分の器の中のみかんゼリーをうまそうに口に入れる。

なのはもイチの上で嬉しそうにカラフルなゼリーをつついているし、他の皆も器を手にすっかり観客モードだった。

そんなまわりを見回すと、イチは最後の覚悟をするように息を一つ吐き出し、そして語り始めた。

 

「ええと...あれは確か向こうにいって丁度一年たったくらいのことだったんですけど...」

 

 

 

 

 

 

 

イチが高町家の皆プラスアルファに昔話をしはじめた丁度その頃、海鳴から少しはなれた空港に降り立った飛行機から一人の金髪に碧眼の少女が降り立った。

彼女はよどみなく税関審査などをうけて荷物を受け取ると、ロビーで迎えの人間に自分の荷物を預けてその女性につづく。

そして空港の外に止められていた車に迎えの人間と運転手が荷物を詰め込むのを見ながら心の中の彼に呟く。

 

It’s been two years, but here I am finally

(あれから二年たったけど、ついにここまできたです)

 

そこで一呼吸おくと、知ってか知らずか彼を譬えるときに良く使われる、空に浮かぶ月に向かってにっこりと微笑みながら言い放つ。

 

I’m not gonna let you go this time, Ichi. You’re gonna have to pay for the fact that you made me fall in love with you!

(今度は逃がさないです、イチ。あなたを愛してしまった責任、取ってもらうですヨ!)

 

 

 


あとがき

 

というわけで「彼女が来るまでの過ぎてゆく日常」でした

ブリジット「でした〜」

いやいやいや、ついにきましたぁ!

ブリジット「きたですヨ!じゃあ私出番ですから...」

うん、次は昔話と到着、だとおもうからスタンバってて

ブリジット「...だとおもうが気になるですが...」

ふ、深い意味はない。ただ次短編書くかもと思ってるだけで...

ブリジット「それは許さないです。次書いてからにするです」

...わかりました、わかりましたから荷物ほどいて木刀は出さないでくれ

ブリジット「わかればいいです。さっさと次書くですヨ!?それではお先にSEE YAです!」

...ではブリジットもスタンバったのであとがきは...

一人でいいかなぁ、それではまたつぎでお会いしましょう

ご意見ご感想あればお待ちしてます♪

でわでわぁ〜





いよいよ次回は彼女の登場〜。
美姫 「あとがきには出ていたけれど、本編でもやっとね」
本人もやきもきしていたかもしれないけれど、それ以上にアインさんはびくびくしていた事だろう。
うんうん。
美姫 「やけに実感のこもった言葉ね」
まあな。
美姫 「あんたにもそんな経験があるみたいな」
……えっと、心当たりはないのかな?
美姫 「私? 私にそんなのあるはずないじゃない」
あ、あははは。そうですか。
えっと、ともあれ、次回も楽しみにしてます。
美姫 「待っていますね〜」



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