『TRIANGLE
HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第十話 −PAST, AND PRINCESS ON THE STAGE−
〜4年前 シドニー・オーストラリア〜
「Bye, James. See you on Monday」
(じゃあね、ジェームス。また月曜に)
こういって薄い茶色の髪の毛の背の低い少年に手を振ったのは、銀髪の混じる黒髪の少年、狼村一太郎。
「Bye Ichi! Take care dude!!」
(じゃあなイチ!色々気をつけろよ!!)
ジェームスと呼ばれた少年もいつものお決まりのような台詞とともに去っていく。
しばらくその後姿を見送ったイチは、やがて今来た道を戻り始める。
(正直、静かに一人になれるとこってあそこしか知らないしなぁ)
そんなことを考えながらやがてイチは自分の通う学校の目の前まで戻ってきた。
そしていまだに生徒が出てくる門を横切ると、少し脇にある小さな公園に足を踏み入れた。
するとまるで待っていたかのように猫たちがイチの周りに集まる。
それをみてイチは軽く微笑むと、
「はいはい、ちゃんとあるから行儀よく待っててよ」
と鞄から鰹節を塗したおにぎりを取り出すと、それを解して地面に置いてやる。
我先にと群がる猫たちを暫く微笑みながら見ていたが、少しはなれたところに入り込めないでいる子猫を見つけるとそれを抱き上げて膝に乗せ、鞄から自分用の残りを出してそれを差し出す。
子猫が勢いよく手からそれを食べるのを見ながらイチはもう一年たつ故郷とは空気の違う空を見上げて息を吐いた。
何事かと一瞬見上げる子猫の頭を撫でて微笑みかけると、イチは鞄から小さな単行本をとりだしてまわりにネコだらけの常態でのんびりと本を読み始めた。
〜以下暫く日本語訳〜
「ここがこれから先私が普通の学生として過すところかぁ」
もう校門から出て行く生徒ばかりのこの時間に学校内を歩き回る少女が隣に着き従う少女に声をかける。
「はい。下調べしましたところ、ここはドイツ人の子供をのびのびと育てる、という思想を持った方が創立者のようでして、ランク的にも問題ございません。この学校であればこそご両親も納得したのだと思いますが...お嬢様は今日一日通ってみていかがでしたか?」
「そのお嬢様ってのやめようよ、ケイト...うんっ!とっても楽しかったよ!...でもなぁ...」
「どうかなさいましたか、お嬢様?」
言いよどむ少女に聞き返すが、少女はむくれた顔をして睨んでいる。
その表情にケイトは即座になにが言いたいのかを理解すると、
「...わかりました。家を出てから帰るまでの外にいる間、ブリジット、と呼ばせていただくということでよろしいですか?」
と多少やりにくそうに妥協案を提示する。
それを聞いたブリジットは、外にいる間だけというのが不満ではあったが、それでも妥協してくれたことに素直に喜び笑顔を見せる。
その素直な笑顔にケイトと呼ばれた少女は少し照れるが、
「それで?でもというのはなんでしょうか?」
とそれを隠すように先ほどの話題に戻る。
「あのね、みんな私がクローウェルの娘だって知ってるの。ケイトも見たと思うけど...あんな反応されちゃ友達できないかも...」
「たしかに...学校側が言ってしまったとのことですが、さすがにあれは過剰すぎますね。注意を促しておきましょうか?」
「だめだよ、そんなことしちゃ。そしたら余計に意識されちゃう...はぁ、普通って思ったより難しそうだね」
残念そうなため息をつくブリジットをみてケイトは
「ブリジットなら大丈夫ですよ...転校生はなれるのに時間がかかるものです」
と当たり障りのない、それでいて心からの慰めを述べる。
嬉しそうにその言葉を受け取ったブリジットは
「そうだね、頑張らないと!じゃあ今日はもう帰ろうか?」
と笑顔を向ける。
ケイトはその笑顔に微笑で返すとならんで門へと歩き出した。
そして迎えの車の前まで来たとき、ブリジットはその運転手といくつか言葉を交わし、車は走り去る。
「な!?お嬢さ、ブリジット、なにをしているのですか!?」
自分たちが乗っていくはずだった車を追い返してしまったブリジットを信じられないものでも見るような目でみる。
それにブリジットは無邪気な笑顔で、
「だってぇ〜、せめて放課後だけでも普通の学生したかったんだもん。ね?いいでしょ、ケイト。少しだけ買い物いこうよ」
「...こんなことはこれきりにしてくださいよ?一応ガードは出来ますけど私はそれがメインではないんですから」
とそこまで言ったところでケイトは何かに気づいたように振り返る。
そこに突然黒塗りの車が走りこんでくると、あっという間に男が3人駆け下りてきてケイトを引き離した。
「しまっ、ぐ!!!」
とっさにブリジットのほうに駆け寄ろうとしたケイトだったが、隙だらけになってしまった首筋に黒光りするロッドを落とされて地面に崩れ落ちる。
「ブリジ...逃げ...て」
遠のく意識の中でケイトは最後の力を振り絞るが、ロッドに仕込まれた電流を流されてなすすべなく意識を手放す。
それを唖然と見ていたブリジットだったが、詰め寄ってきた四人の男をみるとなんとか助けを呼ぼうと口元を押さえられる前になんとか一言だけ叫ぶ。
「助けてーーーーーーーーーー!!!ムグッ!」
「助けてーーーーーーーーーー!!!」
のんびりと本を読んでいたところにそんな叫び声を聞いたイチは、猫たちに謝罪して声のほうに走った。
そして公園を出てすぐのところに、車にまさに今押し込まれそうになっているポニーテイルの少女を見つける。
それを見てイチは懐からくないを二本取り出し、一本をタイヤに、もう一本を少女の頭を押さえつけている男の手に投げつける。
タイヤは防弾タイヤだったらしくダメージはなかったが、男の手にはきちんと投げたくないがはえていた。
(やっぱりこれはまずいよなぁ)
イチは心の中でため息を軽く付くと、爆発的に集中力を高める。
−狼牙流裏歩術 疾風−
神速の領域とまではいかないものの短距離でならさほど速度は変わらない、今のイチが無理なく出せる最速。
一気に間合いをつめると男たちが何が起きているのかも分からないうちに全員の意識を刈り取る。
そして少女を道の脇まで連れて行ったところで車が急に動き出して道の上に倒れている少女に向かっていく。
「!!!ケイト!!!!!」
少女の叫びを聞いてイチはすぐに車の前に飛び出すと、少女を脇に抱え、鞄の底から忍者刀を引き抜いて構えると、おそらく防弾であろうガラスにすれ違いざまに突き立てた。
ガキンッ!!!
鈍い音とともにそれはなんとか刺さったが、ドライバーまで届くことはなく刀は半ばで折れてしまい、車は走り去る。
車を見送ったイチは気絶したままの少女を背中におぶると、ポニーテイルの少女へと近づいてゆく。
背中の少女をいまだ放心状態のポニーテイルの少女のとなりにおろすと、イチは気絶している男たちを鞄から取り出した銅糸を使って動けないように縛り付けてから再び二人の元へ戻る。
とそこに誰かが気づいて通報したのかパトカーのサイレンが聞こえてきた。
(まずいな...刀とか許可とってないもんな)
その場から離れるため、イチは気を失っている少女を再びおぶるとポニーテイルの少女の手を掴んで公園に向かった。
(え?なに?どうなってんの?なんでボク手を引かれてんの?)
混乱状態から回復したブリジットは早歩き気味に自分の手を引いて歩く黒と銀の混じった髪の少年を見てまた混乱しそうになる。
しかしすぐに思い直して状況把握しようとあたりを見回し始めると、小さな公園のようなところで手を離される。
「...ごめんね、手、引いちゃって」
少年は片言の英語でそう告げるとケイトをベンチに寝かせる。
ブリジットは急いでケイトの様子をみに駆け寄るが、少年は
「気を失ってる。あと、僕の、刀、いわないでくれるかな?」
といって一つ隣のベンチに座る。
するといつの間にかまわりに猫たちが集まりだし、少年は先ほどのことなどなんでもなかったかのように楽しそうに猫たちと遊びだす。
ブリジットはそれをみてさっきまでの緊張などがすべて抜けていくのを感じ、糸の切れた人形のようによろよろと少年の隣に腰掛けた。
「貴方、英語わかる?」
「...聴くだけなら...しゃべるのは苦手」
「そう、じゃあ少し聴いて...ボクはブリジット・クローウェル。クローウェル・エンタープライズの社長の娘。さっきのはたぶんそれを知った誰かなんだろうね...小さい頃から特別扱いされるのがいやで、何とか親を説得してすぐそこの学校に入ったんだけど...」
ブリジットは自分がなぜこんな話をこの少年にしているのか分からなかった。
しかし誰かに聞いてもらいたいと思うのは止められない。
「今日がはじめてだったのにみんなボクのこと知っててね、なんか避けるんだよね...折角普通に友達作りたかったのに、ケイトまでこんなことになって...やっぱりわがままだったのかな...」
そんな独白を聞いていた少年は、優しい笑みを浮かべながら
「僕はイチ、日本人。特別扱いされて、本当の親、僕を捨てた」
と自分の話しをし始める。
いきなり笑顔で言われたとんでもない過去に、ブリジットは反応すら出来ない。
「いい人に助けてもらって、いい親に会って、ここに来た」
「ちょ、捨てられたって...」
「特別な僕が怖かったんだって助けてくれた人、言ってた...たぶん君のまわりの人たち、羨ましいんだと思う。だから特別なこと、気にしないほうがいい。普通にしてれば、みんなわかってくれる」
片言の英語で自分に笑顔で話しかける黒と銀の髪の日本人。
ブリジットの中に彼の言葉がすんなりと、染み込むように入ってくる。
気が楽になった気がして感謝の意味を込めて笑顔を向けると、彼はそれに応えるように微笑む。
それをみてブリジットは素直にかっこいいと思った。
この自分よりもおそらく悲惨な過去を持っているのにもかかわらず、こんなに優しく笑えるイチという日本人に、ブリジットは惹かれてしまった。
それを意識して顔が赤くなり、慌ててそらすと丁度視界にケイトが気が付いて身体を起こそうとしてるのが目に入る。
慌てて駆け寄ると、ケイトはブリジットを確認して安堵の息を漏らし、
「よかった...無事でしたか」
と嬉しそうに微笑む。
そして暫くぼんやりとしていたが、やがて頭の中で事態の整理が付くと、
「...あのあと、どうなったんです?」
とブリジットに真剣な表情を向ける。
さっきまでの表情からあまりの変わりようにブリジットは一瞬笑ってしまうが、すぐに思い直して事態の説明をはじめる。
「すると、そちらの男性が助けて下さったのですか?」
「うん!全然見てなかったんだけど気が付いたら全員倒されてた!...あっ、そうだ!」
ブリジットは突然何かを思い出したように声をあげるとイチに近づいていく。
ケイトは何事かと首をかしげながらも恩人なら礼くらいはと後に続く。
イチは近寄ってくる二人を見て微笑むと、
「気が、付いたんだ...よかった」
とだけいうとまた視線を猫に戻す。
その微笑に二人は暫く気を取られていたが、やがてブリジットが
「ごめんなさい!私たちを助けるために刀を折ってしまって...」
と謝罪する。
それを聞いたイチは少しだけ驚いたような顔を見せたが、
「君たちが無事なら、それでいい...あれは、守るためのものだから」
といって鞄を掴み立ち上がる。
「迎え、来てもらったほうがいい。それじゃあ」
イチはそれだけ言うと猫たちに手を振ってその場から去る。
あまりの唐突さに引き止めることすら忘れて後姿を見送った二人だったが、やがて我に返ると、
「お礼、言いそびれました」
「ボクもちゃんとお詫びしてない。命を助けてもらってこんなのはないよね、ケイト?」
「はい、早急にあの方の情報をお調べいたします。おそらく同じ学校だと思われますが、はっきりしたことは今晩にでも分かるでしょう」
「うん、おねがい。彼は...イチはボクの事知っても全然気にしてなかった。友達になってくれるかも」
「ブリジットは友達以上になりたそうに見えますが?」
「えっ!!?」
思わぬケイトのツッコミに言葉もなく真っ赤になってしまうブリジット。
それを微笑ましげに見ながら迎えの車の手配と情報収集の手配を済ませるのだった。
翌日、イチは昨日の事を思い出していた。
(あの娘、たしかクローウェル・エンタープライズの社長の娘っていってたなぁ...社長令嬢ってやつかな?まあそれはいいんだけど...昨日のことばれたらどうしよう?)
「どうかしたの?アニキ」
隣を歩いていたケイが訝しげに除きこむ。
それに対して軽く微笑んでなんでもないと応えると、ケイが首をかしげながら教室に入っていくのを見届けてから自分も教室へ向かう。
すると自分の教室の前に人だかりが出来ているのを見て首をかしげる。
「あ、イチ!やっときたよ!」
近くにいたジェームスが少し興奮状態で近寄ってきた。
イチはとりあえず朝の挨拶を済ますとこの人だかりについて聞くことにする。
何よりもおかしいことは、外に集まっている生徒の殆どが本来ならクラスの中にいるべきクラスメートなのだ。
「なに?なんも身に覚えないの?」
不思議そうに首をかしげるジェームスに何のことかと聞くと、とにかく入ってみろと背中を押される。
そしてイチはすべてを理解した。
教室内、しかも自分の席のところに見覚えのあるポニーテイルの少女と、その娘に付き従うようにたたずむボブカットの少女がいた。
外のクラスメートたちがイチとその二人の関係についての憶測をお互いに交わしていると、それに気づいたのかボブカットの娘、ケイトが目をむけ、そしてイチを発見する。
それをポニーテイルの少女、ブリジットに耳打ちするや否や、ブリジットはイチのほうにいきなり走り出した。
「イチーーーーー!!!」
そして抱きつかれた。
まわりがさらにエスカレートした憶測をし始める。
イチはよけるわけにもいかなかったから結果的に受け止める形になったのだが、さすがにいつまでもこの状態では困るとケイトに目を向ける。
するとケイトはその視線を受けて一つ頷くと
「ブリジット、イチは状況を理解していませんし、何よりここは彼の教室です。そのような行動をとられては彼に迷惑がかかってしまいます」
と冷静にブリジットを諭し始める。
するとブリジットは迷惑という単語にビクッっと反応するとイチにまわしていた腕を放して上目遣いにイチを見る。
「いいから、説明してくれる?」
やわらかい笑顔でそういうイチにブリジットは嬉しそうに微笑むと
「ボクの...友達になってくださいっ!」
と日本式に頭を下げて見せた。
それがイチとブリジットの始まりだった。
「とまあこんな感じなんだけど...大して面白くもなかったでしょ?」
イチはそういって高町家の面々の顔を見渡す。
恭也と美沙斗はブリジットのことよりもイチのいう『疾風』が気になっているらしいが、そのほかの興味は間違いなくその後のブリジットとイチの関係らしい。
もちろん、話自体にイチの主観が入っているわけだからブリジットの心中などについては語っていないが、そのあたりはやはり恋する乙女らしく察しがつくのか、そのあとの話をせがむアイリーン、晶となのは。
美由希は複雑そうな顔でそれを見ており、桃子とフィアッセは逆に興味津々といった表情だ。
「そのあとって...学年が一つ下の娘たちだって分かって、普通に友達になって、買い物とか付き合って...それでいつだったか公園で何気なく歌ってたの聴かれてからは二人でたまに合わせたり、あ、彼女ピアノとヴァイオリンが上手だから...」
そこまで話して一度お茶をすするがまわりはそこで納得してくれていないのが見て分かる。
仕方ないとばかりにため息を一つつくと、
「それで家に招待されたときにご両親と会って気に入られちゃったみたいでガードを頼まれてね。それからは殆ど三人、あとジェームスもいたから四人一緒に...」
ガードを頼まれた、のくだりでなにかを感じ取った桃子が話の腰を折ると
「ごめんねイチ君、ちょっといい?ガードを頼まれたっていったわよね?そのときの言葉、ちゃんと思い出せる?」
と身を乗り出してくる。
桃子の質問にイチは首を少しかしげたが、別にたいしたことではないだろうと判断すると
「え〜とたしか...これからもうちの娘をよろしく頼む...って言われたと思います」
「...お兄ちゃん...」
「...それってもしかしなくても...」
「そういうことなんだろうね...」
今まで疾風のことばかり考えていた美沙斗までが少し呆れたように口を挟む。
皆が呆れた顔をしている理由の分からないイチは頭上にハテナを浮かべていたが、誰もなにも言ってこないので話を終わりにもっていくことにする。
「...で、そこから一年くらいそうしてたんですけど急遽日本に戻ることになって...とこんな感じです」
「ブリジットさん、今はどうしてるんですか?」
イチの膝の上からなのはは見上げるようにして質問する。
「たまにメールはしてるよ。ケイトとも連絡は取ってる。最近はばたばたしてたからしてないけど、なにかあったら必ず来てくれってご両親に約束させられちゃったしね」
そういってなのはの頭をぽんぽんと軽くたたきながら微笑むイチ。
それを直視してしまったなのはは、いまさらながら自分が座る場所を間違えたことに気が付いた。
(ここじゃ目の前一杯イチおにいちゃんだよ〜)
顔を赤くしているなのはをよそに、アイリーンと晶は必死に、桃子とフィアッセは楽しそうにイチから更なる詳しい話を聞きだそうとする。
それを少し困ったように微笑みながら受け流しているイチをみて、恭也と美沙斗は顔を見合わせると苦笑した。
「これは...狼牙の話は次の鍛錬の時のほうがよさそうだね」
「ええ、出来れば早く知りたかったんですが...俺にあそこに飛び込む勇気はありません」
「...神速の連続打ちが出来ない代わりになるかも、と考えているね」
「...ええ、十四、五で無理なく使えたのなら、もしかしたらと思ったんですが...」
「まあ...今日は諦めるしかないね。私もあれを止めてまでというのは無理があると思う」
「戦えば勝たなければいけない御神でも勝てないものはありますね」
珍しくそんな冗談を言う恭也を少し意外そうな目で見つめると、美沙斗はもう少し話を聞いてみることにするといって美由希の横に軽く笑いながら戻っていった。
恭也は美沙斗が少しでも声をだして笑ったことに堪らない喜びを感じて、
(たまにはこういったのも悪くないか)
と桃子たちの輪の中に入っていった。
翌日、恭也とイチが自分のクラスの前に着くと、そこには人だかりが出来ていた。
イチと恭也はお互いに顔を見合わせると、
「...なんか既視感が...」
「...いや、恐らく本当に見ているのだろう。俺には昨日聞いた話とよく似た状況にみえる...」
と何かが起こる予感がするのを不毛な会話でとりあえず紛らわしてみることにする。
しかしそれも長くは続かなかった。
「お、月村さん、藤代、イチが来たぞ」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれたイチがそちらを向くと、赤星勇吾殿が女生徒二人を手招きしているのが見えた。
「ねぇ恭也、なんだか分からないんだけどいやな予感がする...」
「...なんだか分からんが俺もその予感はあたっているような気がするぞ...」
「「ああっ!イチ(狼村)君来たぁーーーーー!!!」」
「...同情ぐらいはしてやる...」
「ああ...ありがとう恭也...」
発見されたイチに同情の言葉を送る恭也とそれを寂しそうな笑みで受けるイチ。
そんなことをしているうちに問題の根源であろう二人が近づいてくると、忍よりも心なしか緊張感が溢れている亜子が先に口を開く。
「ちょっとちょっとイチ君!あれっ!あれなにっ!?」
「...いやちょっと亜子、落ち着いてよ。あれって言われたって...」
「あれったらあれよっ!!ちゃんと説明してよっ!!!」
「だから亜子ってば、ちょっと落ち着いてって」
そういいながら詰め寄ってくる亜子の肩を掴んで軽く揺さぶってみる。
必然的に覗き込むような体勢になってしまうため、亜子はイチの顔を数センチの距離で見つめることになってしまい、案の定顔を真っ赤にして硬直する。
それを見ていた忍がイチが熱があるのかと額に手を持っていこうとするのを止めて事態の説明を始める。
「なんだかね、狼村君の席に見慣れない外人の女の子が二人いるのよ。それで亜子が話したら二人とも、イチに会いに来た、って言うもんだから亜子がパニック起こしちゃったのよ」
「??なんで亜子がパニック起こすのか分からないけど、その女の子達に関しては一つだけ心当たりがあるなぁ」
「...ああ、今回はなぜか俺にも想像が付く...」
「問題はなんでここにいるか、なんだけどね」
そういうとイチは教室の中に向かって歩き出す。
忍は二人の会話の意味は分からなかったがとりあえず亜子を教室内が見えないところまで引っ張っていき、恭也は赤星に頼んで出来る限りの人払いをする。
そしてイチが多少少なくなった観客を掻き分けて中に足を踏み入れると、そこには予想通りの二人がいた。
そしてあの時と同じように静々と付き従っているほうの少女がイチに気づいてポニーテイルの少女に声をかける。
それを受けて少女ははじかれたように立ち上がるとゆっくりとイチのほうに顔を向ける。
そしてイチの顔を確認するとよろよろとイチのほうに向かってくる。
「やあ、ブリジットにケイト。ひさしぶりだね」
そんなブリジットと、後ろでみているケイトにイチは昔と変わらない、いつもどおりの調子で声をかける。
ケイトは柔らかく微笑んでそれに答え、ブリジットは...彼女は目から涙を溢れさせながらイチの胸に飛び込んだ。
「イチだぁ〜!イチ〜〜〜!!...うっ、うぇ〜ん、あいたかったよぉ〜〜!!!」
そんなブリジットをイチは困ったように、しかし優しげな顔であやし、それをみていた観客の女子生徒の何割かは怒気を発し、男子生徒は殺気を発する。
そんな周りの人間と、イチとその胸にすがって泣き続ける少女をみて恭也たち三人は今朝も一波乱あるのかとため息をついた。
あとがき
というわけで十話というきりのいいところでのブリジット登場!
わたしと掛け合いしていたときからは想像も付きませんねw
まあ黒い部分がここで出ていたとでも思ってください
...一人だとあとがきつらいもんですね
ああ、そうだ。どうせなので設定裏話を一つ
実はこのオリジナルキャラたちを作るとき、声のイメージまで設定しまして
それをここで公開♪
イチ − 石田彰
ブリジット − 高野直子
ケイ − 檜山修之
ケイト − 久川綾
イメージはそれぞれ読んでくださる方の自由なんですが
私はこんなイメージで書いてますw
ブリジットはかかずゆみのイメージってのもあるんですが...
まあほんとに人それぞれですけど...
私はこんなイメージで読んでますとかあったら聞いてみたいですね
読んでくださった方々、気が向いたら聞かせてください
それでは今回はこの辺で...
遂にブリジットの登場。
美姫 「そして、同時に出会い編までも」
ふんふん。そういう事だったんだ〜。
美姫 「さてさて、ブリジットも加わり、これからどうなるのかしらね」
勿論、波乱万丈!
美姫 「それはあるわね。うーん、次回も楽しみね」
次回も楽しみにしています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」